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小林祐希が複数の会社を経営する理由とは? 現役中のビジネスは「悪影響ない」

REAL SPORTS / 2019年10月17日 17時0分

2017年9月に起業し、有機栽培米の販売、お酒のプロデュースをするほか、オランダ・アムステルダムでは美容サロンも経営。そして現在、新たに営業会社を立ち上げた小林祐希。

現役のサッカー選手がビジネスを行うことに対して日本では賛否が分かれる中、あえてその道を突き進む理由とは? サッカーへの影響は? 最終的な目標はどこにあるのか?

 “サッカー選手”と“経営者”という2つの顔を持つ彼が、その目的と夢について語る。

(インタビュー=岩本義弘[『REAL SPORTS』編集長]、構成=REAL SPORTS編集部、撮影=軍記ひろし)

人に協力していたらいつの間にかビジネスになっていた

まずは新たに営業会社を立ち上げた理由を教えてください。なぜ営業会社なのですか? 

小林:サッカー選手をやってきて、ずっとサッカーだけに集中してきたので、世間一般のことがわかっていないというか。ただ、サッカーはチームスポーツだし、選手としていろんなスポンサーやサポーターに支えられてきた中で、人との関わり方は勉強してきましたし、うまいと思うんですよ。営業会社は、対“人”じゃないですか。誰でも始められる仕事だけど、コミュニケーションを取るのがうまくないと契約を勝ち取っていけない。そういうところがアスリートは得意なんじゃないかなと思って、良さを活かすためにそういう仕事を選びました。
会社名は?

小林:「OWN X(オウン エックス)」という会社です。OWNは自分自身、Xというのは数学でいうと何にでも当てはめられるので、「自分と○○」、Xに当てはまるものを自分でつくっていこうぜという意味を込めました。

その名前は自分で考えたのですか?

小林:人と話している中で、「OWN」という言葉をよく使うんです。タトゥーにも入ってるんですけど。「自分の人生は自分で決める」とか、「自分のメソッドをつくる」とか。それでその言葉を入れたくて。でも、自分だけでなく、「自分×何か」でいろいろなものを生み出すということで、Xを入れました。

最初に立ち上げた会社の名前は?

小林:「こもれび」(こもれびホールディング会社)です。こもれびは、日本語でしか表現できない言葉なんです。それを会社名にしました。
そもそも、現役でありながらサッカー以外のビジネスをやることになったきっかけは?

小林:もともと自分でビジネスをしてお金を稼ぎたいと思ったことが一度もなかったんです。会社を初めて立ち上げた24歳の時も、小さい時から一緒にサッカーやっていた仲間が24歳の時にサッカーをやめて引退して、どうしようかなと悩んでいたので、「俺にできることがあったら一緒にやろうよ」と言って始めました。
 美容室を始めたのも、向こうで出会った美容師が、いろいろあって日本に帰らなければならないとなった時に、もうちょっとチャレンジしたかったなという話をしていて。「じゃあ俺に協力させて」と、信頼する人に対してできることをしていたらいつの間にかビジネスになっていたという感じで。もともとその美容室も、自分でずっと経営していこうと思っていなかったんです。貸したお金が戻ってきたら譲るつもりだったのですが、今後も一緒にやっていきたいと言ってもらったので、じゃあヨーロッパで日系サロンをやっていこうかと。

最初はビジネス、という感じじゃなかったんですね。

小林:そうですね。入りは、俺がお金を稼ぎたいという感じじゃなくて、この人と一緒にやったら楽しそうだなとか、この人の役に立てたらなと思ってやっていたら、ビジネスになっていたという感じですね。

目標のためにはお金がないとできないこともたくさんある

今回の営業会社は、どのような会社なのですか?

小林:「営業って何?」と言われると幅が広いので難しいですが、自分たちの業務内容は、店舗経営のサポートや、光のインターネット回線を入れたり、そういった商材を売っています。少しずつやっていってお金が貯まったら、いずれ海外でもやりたいなと思います。

すごいですね。

小林:もともと自分が立ち上げた1つ目の会社のこもれびは、ほぼボランティアで利益を考えずに動いていたんですけど、自分の夢や将来やりたいことがある中で、お金を少し稼ぎたいと思うようになって。自分たちも、買ってくれた人も楽しめる、役に立てる仕事はないか、しかもアスリートやサッカー選手の良さを活かせる仕事はないかといろんな人に相談していたら、「小林祐希だったら、情熱的だし、こういう仕事がいいんじゃないの?」ということで、営業の会社の社長を紹介してもらって。その社長にいろいろなノウハウを教えてもらいました。

今回の営業会社はどの規模で始めたのですか?

小林:最初は2人、もともと大学までサッカーをやっていて本気でプロを目指していた友人たちと一緒に始めました。彼らも大学卒業後に一般企業に勤めていたのを辞めて、人生かけてこっちに来てくれるので、自分もそれくらいの気持ちで一緒に頑張ろうと思っています。

その中で、小林選手(社長)の役割は?

小林:人事や、商材を取ってきたり、中の業務というよりは、外枠をしっかり固めるというところですね。

社員がガンガン営業できるような環境を整える役割ですね。

小林:そっちが僕の仕事です。

学びながら進んでいくという感じですか?

小林:ほんとそうです。わからないことだらけなので。

今までの事業と比べて、よりビジネス的というか、お金を稼ぐところから始めるわけですからね。

小林:そうです。やっぱりお金がないとできないこともたくさんあるので、それをかなえるために。中に入っている2人ともサッカーが大好きで、目指しているところが一緒なので、いずれサッカーの事業をやりたいというのを目標に頑張ろうと。

サッカーのクラブを持ちたいとか?

小林:クラブ運営はしてみたいですね。

アスリートがコミュニケーション力が高いというのは、すごく共感しますし、目標に向かって努力をするという能力も高いと思うんですけれど、プラスアルファで、成功するためには何が必要だと思いますか?

小林:そこが難しくて。それが何なのか考えた時に、自分は自然にやっているんですけど、「年齢関係なく対等な立場になれて、しかも可愛がられること」だと思います。昔はすごく生意気でそうじゃなかったんですけど。言語化するのは難しいんですけど、自分でやりながらそういう自分の武器に気づいていってほしい。俺がどうこう言ってその人に本当に当てはまるかはわからないですし、たぶん、自分なりのやり方があると思うんですよ。だからそれを見つけていってほしいなと。あとは、会社の経営なので、数字のこととか法律のこととか、自分も含めて専門的なところを勉強していくことかなと思います。

そういう本も読むようになりましたか?

小林:けっこう本は読むようになったんですけど、やっぱり文字だけではわからないことが多すぎて。わからないところは人に聞いたりして、学ぶようにしています。

営業って営業する先の人のことも幸せにすることですし、全てのビジネスの基本だって言われているので、そこに目をつけたのは、今後いろんなことをやっていく上でもすごく良いことだと思います。

小林:お客さんも、必要だからその物を買うわけであって、こっちもどれだけ信頼してもらえるかとか、うちのものを使ってもらえるのかっていうところは、営業する人にかかっていると思うので。今って、インターネットがあって対“人”じゃなくても何でも一人で完結できる世の中になっているじゃないですか。その中で、自分は人と話すのが好きだし、人と関わるのが好きなので、人にも喜んでもらって、かつ自分たちもしっかり稼ぐというところに持っていきたいです。


日本人の細やかさは世界でも活きる

最初に起業してから丸2年経って、サッカー選手では本田圭佑選手や長友佑都選手などのようにいろいろビジネスをやっている選手がやっと出てきましたが、とはいえ全体では1割もそのような選手はいない中で、周りからの反応はどうですか?

小林:いや、実は日本人選手にはあまり聞かれないんですよ。

本田選手とは、お互いのビジネスの話をしたりしないのですか?

小林:そういう話はあまりしないですね。でも、「なんで美容室なの?」とは聞かれたことがあって。「日本の美容室ってそんなに儲かるもんじゃないよ。やるなら、金の運用には気をつけろよ」とアドバイスをもらいました。その点に関しては自分のビジネスは日系サロンなので。実際にヨーロッパでは、日系サロンはあまりないけれど、日本人の駐在員はたくさんいるので日系サロンの需要がかなり高いんです。日本ではライセンス(国家資格)がないと髪を切れないですけど、オランダではハサミを持って「明日からやるぞ」って言ったら、誰でもできるんですよ。そのため、日本のライセンスへの信頼度がすごく高いんです。実際にやっぱり儲かるので、それがヨーロッパで広がっていけば、大きなビジネスになるなと自分は思っていて。
 あともう一つ、いろんな職種、いろんなタイプの人がサロンに来るんですよ。スポーツ選手もいれば、実業家、サラリーマン、学生も。そうやって人が集まるから、いろんな情報が集まる。例えばおいしいレストランを知りたかったら、美容室のスタッフに聞けば「あそこがいいとあのお客さんが言ってました」と教えてくれるとか。いろんな情報が集まるので、その情報をもとに他のことにも活かしていけるというのが、一番大きいですね。

人と人の繋がりの部分ですね。それは確かにすごいですね。

小林:はい、すごく大きなコミュニティなので。それがヨーロッパ各国に増えていったらすごく面白いことができそうだなと。

しかも、日系サロンに来るということは、感度の高い人が来るんですよね。

小林:そうなんです。やっぱり美意識高いし、日本に旅行に行って美容室に行った時に、すごく気に入った、サービスがきめ細かかったというのを、すごくみんな言っていて。ヘッドスパが気持ち良かったとか、出てくるお菓子が美味しかったとか。やっぱり日本のおもてなし精神はすごいので、日本人の細やかさは世界でも活きるなと。

今の会社を現役中に最短で上場させたい

具体的に動かれているビジネスの話をしたら、めちゃめちゃビジネスマン的な話し方になりましたね。

小林:営業会社のほうはまだまだこれからですが、美容室を始めた時よりも、しっかり段階を踏んで中身はけっこうがっちり固まっているので。あとは自分がしっかりしゃべれるか(伝えられるか)ですね。
 ビジネスの部分での将来の目標などはどこに置いているのですか?

小林:まずは、今の会社(営業会社)を現役中に上場させたいです。最短で。

3年くらい?

小林:けっこうハードルは高いですけど、やればできるかなと思っています。

引退してから上場させた選手はいますけど、現役ではいないですよね。

小林:そうですね。そこはやってみたいなと思っています。資金調達とかはしていなくて、自己資金だけでやりたいと思っています。やりたいことの実現に向かって自由にやっていきたいから。
 やってみたいことも年齢を重ねていくにつれて変わってきていて、クラブを経営して、世界の誰もが知るクラブを育てていきたいという夢はあります。サッカークラブだからサッカーだけやっていればいいというのではなくて、学校や教育の場があったり、病院であったり、日本の頑張っている企業に投資したり、いろんなことができるサッカークラブをやりたいです。ケガなどでサッカー選手になる夢を断念した人も、いろんなところで雇用していけるようなクラブにしていきたいなというのはあります。

今いろんなビジネスをやっていても、最終的にサッカーに帰結すると。

小林:そうですね、サッカー好きなんで。営業の会社でもサッカーあがりの人を雇用していくので、彼らもやっぱりサッカーに携わりたいという気持ちはどこかにある。最終的にそこに集まれればと。夢ですけどね。

 起業されたことで、ピッチで相手選手や味方がどんな考え方を持っているかをよく考えるようになったという話を以前されていましたが、それはビジネスを通して、サッカーでも俯瞰的な視点で見られるようになったということですか?

小林:ビジネスを始めたからというわけではなくて、ヨーロッパに行ったから、よりチームメートや相手のことをすごく見るようになって。というのも、誰が何を考えているのか言葉でわからないから、表情や行動で読み取ろうとするじゃないですか。ミーティングなどでも、何を言っているかわからないけど、感情的になっているなとか、冷静にしゃべっているなとか。感情的になっているということは怒っているということだし、なぜ怒っているのかもよく見ていればわかるじゃないですか。そうやって、言葉以外のことで読み取ろうとしてから、人のことをよく見るようになったと思います。それはやっぱり、環境のおかげですね。

そういう意味では、海外に出たというのは大きかったですか?

小林:めちゃめちゃ大きかったと思います。

24歳の時に海外へ出たのは、自身としては早かったですか? 遅かったですか?

小林:行った時は遅いと思っていたし、今ももうちょっと早く行っていればよかったなと思うこともあるんですけど、たぶん、あれより早く行っていても若すぎたし、ちょうど良かったのかなと思います。精神年齢も落ち着いてきて、日本にいた時もちょっと周りを見れるようになってきた時期だったので。

アスリートには営業力があるということですが、その力は逆に、アスリートとして成功するためにも必要なことだと思いますか?

小林:自分を売り込む、自分をチームメートや監督、サポーターに知ってもらうというのは、どこへ行っても大事だと思います。

現役でありながらビジネスをやるということを、友人やチームメートに勧めたりしているのですか?

小林:サッカー選手には、そんなに勧めたりはしないですね。やりたかったらやればいいし、やりたくなかったらやらなければいいし。聞いてくる人は、興味がある人だと思うので、「お前がやりたいことは何なのか?」と聞くぐらいです。やりたいことがあればやればいいし。やりたいことがあってやり方がわからないんだったら、聞けばいいし。そして仲間を集めればいいし。その人の熱量次第ですね。自分も教えるほど知識ないし、聞かれたら自分の答えられる範囲で、俺はこういうふうにやっているよと。

ビジネスがプレーに悪影響を及ぼすということは全然ないんですか?

小林:ないです。むしろヨーロッパにいて、サッカーの練習が午前中だとしたら午後フリーで、自主トレしたりもしますが、ずっとサッカーのことだけ考えていると、頭も凝り固まってくるし、疲れるんですよね。自分には逆に、ビジネスが良い息抜きになっています。余計な遊びもまったくしなくなったし。サッカーのために、脳は使っているけど体は休ませられる状況ができているなと。

海外に行ったタイミングもそうですし、ビジネスをやり始めたのも含めて、すごくポジティブな2年間だったのですね。

小林:今かなり充実しています。

<了>









PROFILE
小林祐希(こばやし・ゆうき)

1992年生まれ、東京都出身。ワースラント=ベフェレン所属。ポジションはミッドフィルダー。東京ヴェルディ下部組織を経て、2011年にトップチーム昇格。1年目から中心選手として存在感を発揮し、2012年にジュビロ磐田に移籍。2016年にオランダ1部のヘーレンフェーンに移籍して欧州の地でもボランチとして確固たる地位を築き、2019年9月にベルギー1部のワースラント=ベフェレンに新天地を求めた。背番号10。

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