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なぜ福岡は「バスケ王国」となったのか? 48年ぶりウインターカップ同県決勝を導いた所以

REAL SPORTS / 2020年1月8日 6時30分

昨年末に行われた「SoftBank ウインターカップ2019 令和元年度 第72回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の男子決勝戦は、福岡県勢同士の戦いとなり、福岡第一高校の優勝で幕を閉じた。

福岡に受け継がれる「バスケどころ」の土壌はいかにして生まれたのか?

(文=三上太)

「真の日本一を決める大会」で実現した同県対決

12月下旬に行われる高校バスケットボールの「ウインターカップ」は「真の日本一を決める大会」と言われている。夏のインターハイは、その年の最初の全国大会であり、4月に新入生が入ることでチーム編成も変わるため「全国レベルの新人戦」と言われ、秋に行われる国民体育大会は、各都道府県が選抜チームを結成し、かつ2019年度からはU16(16歳以下)の年齢制限も設けられたため、単独チームでの実力を図る大会にカウントされにくい。各校の実力が最も明確に表れるのがウインターカップというわけである。

2019年12月29日に行われた「SoftBank ウインターカップ2019 令和元年度 第72回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の男子決勝戦は福岡第一高校(福岡)の2年連続4回目の優勝で幕を閉じた。福岡第一は夏のインターハイも制しており、「高校2冠」を達成したことになる。

しかも決勝戦の相手は福岡大学附属大濠高校(福岡)。ウインターカップの男子決勝戦で同じ都道府県のチームが対戦するのは、第1回大会(1971年)の明治大学附属中野高校vs東洋大学京北高校による「東京都対決」以来。女子を含めても史上3度目の同都道府県対決だった。

福岡県はさらに秋の国民体育大会でも優勝を果たしている。両校の16歳以下――主に1年生が中心だが、2年生でも、いわゆる早生まれの選手も出場ができる――で編成されたチームだった。つまり2019年の高校男子バスケット界は福岡県勢が席捲したといっても過言ではない。

「勝負事で負けてはいけない」という精神

そうした福岡県の高校男子の強さの源流をたどっていくと、忘れてはいけない名前がある。2018年3月に逝去された故・田中國明である。福岡大学附属大濠を半世紀に渡って率いた名将は、同校が2度目の出場となった第5回大会(1975年。当時は3月に行われていたため、「春の選抜大会」と呼ばれていた)で準優勝、第16回大会(1986年)には初優勝を果たしている。2010年に現在のコーチ(高校バスケットでは、いわゆる“監督”を“ヘッドコーチ”もしくは“コーチ”と呼ぶので、ここでは大会に倣って“コーチ”とする)である片峯聡太にその座を譲るまで、同校を全国の強豪校の一つに育て上げている。

「勝負事で負けてはいけない」という精神で選手およびチームを鍛え上げてきた田中・前コーチがいたからこそ、OBである片峯コーチがその精神を引き継ぎ、現代バスケットも取り入れていることで同校は今なお全国トップレベルに位置している。

その福岡大学附属大濠を倒そうと25年間チームを磨き上げてきたのが福岡第一の井手口孝コーチである。井手口コーチは昨年末のウインターカップが12回目の出場だが、昨年末の結果を含めて優勝が4回、準優勝が4回と、とてつもなく高い確率で「真の日本一」、もしくはそれに近い位置へチームを導いている。

優勝記者会見後に井手口コーチはこんなことを言っている。

「僕らは1年間、スタイルを決めてやっています。いや、25年間同じスタイルと言っていい。大濠はスタイルが変わります。それがいいかどうかはわかりません。高校生のバスケットなので、いろんなスタイルのバスケットができることは将来につながるかもしれません。ただ“チームを作る”という観点で言えば、ディフェンスはこう、オフェンスはこうといった芯があったほうがいいと思います。それがある限り、僕は(大濠に)負けないと思います。そこは片峯コーチにもっと頑張ってもらいたい。あえてそう言わせてもらいます。これからの日本の高校バスケット界を背負っていくのは彼らですから」

福岡第一と福岡大学附属大濠は2019年になって、1年生大会を含めて9度対戦している。お互いを知り尽くしたうえで、さらにコート上でしのぎを削り合い、本気で一つの勝利を競い合う。いや、奪い合うと言ったほうがいいかもしれない。そうやってお互いを極限まで高め合うことで、ウインターカップの決勝戦で同県同士の頂上決戦が実現したのである。

全国有数の“バスケどころ”たる所以

井手口コーチはこうも言っている。

「今日負けたら、僕は(福岡第一のコーチを)辞めるつもりでした。(2年前のウインターカップの)準決勝で大濠に負けたときもそう思っていました。それくらい大濠との対戦には強い思いがあるんです。苦しめられてきた時代がありますから。でも今は試合後に一緒に写真を撮ったり、お互いを称え合ったり、そういう美しい姿を見せられるようになりました。少なくとも福岡県はそこまで来ました。これを日本のバスケット界(のスタンダード)にしたいんです」

 “ノーサイド”の精神である。ゲームが終われば、同じ高校生として、同じバスケット選手として融和する。そうした思いも育てながら、ゲームでは田中・前コーチが言い続けてきた「勝負事では負けてはいけない」という精神を、福岡県勢は脈々と受け継いでいるのである。

それはまた高校だけに留まらず、中学バスケットにも連なっている。日本代表の比江島慎(宇都宮ブレックス)や橋本竜馬(レバンガ北海道)らを育てた鶴我隆博コーチが現在率いる西福岡中学は全国有数の強豪校として名を馳せ、福岡第一にも、福岡大学附属大濠にもその卒業生は多く進学している。同じく全国区の強豪として知られる中村学園三陽中学も、彼らを倒そうとすることで腕を磨いてきた。

つまり中学、高校ともに県内でしのぎを削り合い、お互いを高め合うことのできる環境が崩れない限り、福岡県はこれからも全国有数の“バスケどころ”として高校バスケット界をリードしていく勢力の一つであり続けるはずだ。

<了>






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