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阪神・能見篤史、自らリスクに進む「41歳の覚悟」。15年ぶり優勝のキーマン「思考と哲学」②

REAL SPORTS / 2020年2月16日 13時0分

2019シーズン、阪神タイガースは見る者を魅了した。怒涛の6連勝で大逆転のクライマックスシリーズ進出を決め、横浜に乗り込んだファーストステージでは1点を争う痺れるような展開を制した。そして迎える2020シーズン。期待されるのは、15年ぶりのリーグ優勝だ。
果たしてキーマンは誰になるのか? その思考と哲学に迫る連載2人目は、能見篤史だ。5月で41歳を迎える、タテジマ一筋16年目の生え抜き左腕が胸に抱く覚悟とは――。

(文=遠藤礼、写真=Getty Images)


40歳で51試合登板も「不完全燃焼」。欲するものは一つだけ

ゆっくり胸の前でグラブを止めると、流れるようなフォームでムチのように腕をしならせる。ずっと変わらない流麗な一連の“動き”は「美しい」という言葉がふさわしい。阪神タイガースの能見篤史は、5月で41歳となる今季もタテジマのユニホームに袖を通す。聖地のマウンドに上がり続けて16年目。福留孝介に次ぐチーム2番目にして、投手陣では最年長になった。カテゴリーは「ベテラン」でも、漂わせる雰囲気には「若さ」が溢れ出ている。

「(年齢による衰えは)そこまではなかった。ある程度落ちるのは想定していたし、急激に落ちることもなかった。あまり心配してないし、気にしてない。体は元気だからね」

昨年12月、40歳シーズンを終えてそう振り返った。長いキャリアで肩、肘を痛めての大きな離脱は一度もない。年齢を言い訳にしない……いや、本人からすれば壁とも思っていないように聞こえる。その言葉を裏付けるように、プロ15年目の昨季は元・中日の岩瀬仁紀以来、球界2人目となる40代での50試合登板を達成。ほとんど穴を空けることなく1年間マウンドに上がり続けた証しともいえる。それでも、偉業には目もくれず自己評価は少々、辛めになる。「数字的には良いとは言えないから。戦力としては物足りないし、不完全燃焼の思いが強い」。

課していたハードルは高かった。自らを俯瞰し、あくまでチームの一員としてどれだけ貢献できたか。目に見える数を重ねることよりも「質」にこだわる。40歳のベテランが50試合も投げれば十分……という“フォロー”は全く意味を成さないのだろう。今、タテジマ一筋の男が求めるものは何なのか。そこに「個人」という指標や視野は見当たらない。

昨春、初めて中継ぎ専任となるシーズンを前に発した言葉に真意がにじむ。「(プロのキャリアで)個人のことはもう終わってるから。これからはチームのことを第一に考えていかないと」。言うまでもなく、今まで個人成績や数字だけを追いかけていたのかといえば、決してそうでない。心境の変化の根源にあるものは「頂点」への渇望に他ならない。

2004年に入団し、翌年の05年にチームはリーグ優勝を果たしているものの、ルーキーとして16試合の登板。中心選手として歓喜の瞬間を味わったことは一度も経験していない。「やれる年数も限られてる。ここまでやってきてもう一度、優勝したい」――。限りあるプロ人生が終盤に差し掛かっていることを感じているからこそ、もう欲するものは一つしかない。ならば、自分に何ができ、何をすべきなのか。特に中継ぎに転向した2018年からチームにおける役割を意識するような言葉を発してきた。

「使い勝手の良い方向でいい」。チームのために身を削る覚悟

2009年に初めて2桁勝利をマークし、2014年までに3度の開幕投手を務めるなど背負ってきたのは「エース」の看板。表情不変の孤高の存在だった。ずっとまっさらなマウンドに上がってきたが、2018年途中からリリーフに配置転換され、バトンを渡す側から、託される側になった。昨年まで約1年半の間には、リードした場面はもちろん、走者を置いた窮地、劣勢での登板と、さまざまな状況で投げた中で見えてきたものがあった。「1、2点差のビハインド、走者を背負ってとか、しんどいところを自分がやるべきかなとも思ってる。そういうところで勝てたら、チームとしては大きいから。自分には経験がある」。

目の前の一試合に生存をかける若手とはキャリアも、立場も違う。浮き沈みある長いシーズンの難所や要所を熟知するからこそ、あえて光の当たらないリスクしかないような場所にも自ら進んでいくつもりでいる。時間の経過で価値が増す勝利をたぐり寄せるために。「(自分の役割としては)使い勝手の良い方向でいいと思ってる。僕も、それだけの経験はしてきている。チームとしてどう動くか」。

個を捨て、駒になる。40歳の能見篤史だから備えられる覚悟だった。象徴的な言葉は他にもある。ピンチの時、マウンドへ若手野手が声をかけに来ることも「若い選手は遠慮して(マウンドに)来ない。グラウンド内で先輩後輩は関係ない。“なにしてんすか!”でいい」と歓迎。チームが一つに動くために見えない壁も壊して見せ、実際、糸原健斗や北條史也がマウンドに駆け寄る姿は増えた。

2月の沖縄・宜野座。背番号14は、誰よりも腕を振り、白球を投じている。第1クール初日から休日を除いて実に7日連続でのブルペン入り。昨年、中継ぎを想定して投げ込みを減らす調整がマッチせず、従来の球数を重ねる方法に原点回帰して臨んでいる。「(年齢を重ねると)体が楽な方にいくので、しんどいことをやらないと」。肩や肘の酷使は、多少なりとも故障のリスクを抱える。ベテラン選手にとってはキャリアの終演を告げるかもしれないリスキーな試みにも思える。それでも、「投げないといけない体なんで」と首を振る男には強い信念がある。

51試合に登板しながら「不完全燃焼」と表現した昨季からの現状維持ではなく、選んだのは挑戦だ。全ては“初めて味わう”優勝のため。数年前、長く険しい1年間のシーズンを「優勝に向かって重たい階段を一歩ずつ登っていく感じかな」と表現した。能見にとって身を削って戦うことこそが、「完全燃焼」の絶対条件なのかもしれない。

<了>







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