「強竜復活へ」球団ワースト7年連続Bクラス。それでも中日に期待したいこれだけの理由
REAL SPORTS / 2020年3月11日 17時30分
開幕延期が決まった日本プロ野球。ファンにとっては今季の戦いぶりをあれこれ想像する楽しい時間が少し伸びる形となった。そんな中で、「今年のドラゴンズは強い!」との声が各所から聞こえてきている。7年連続Bクラスからの脱却を誓う、今季の中日ドラゴンズに期待できる理由を一挙に挙げる。
(文=栗田シメイ、写真=Getty Images)
今季のドラゴンズに期待できる多くの理由ここ数年竜党の間では、シーズン前のこの時期に「今年こそは!」と思いを馳せるのが通例となった。昨季セ・リーグを5位で終えて、球団史上初の7年連続Bクラス。2002年から11年連続のAクラスを記録した常勝軍団の姿はすっかり過去の栄光となりつつある。シーズン前の順位予想でも、軒並み下位に並ぶのも見慣れた光景だ。だが、昨季は高橋周平やソイロ・アルモンテら主力が離脱する中でも終盤までAクラス争いに加わるなど、確かな光明が見えたシーズンであった。強竜復活へ――。長年の低迷から抜け出す兆しを感じつつシーズンを迎えるのは久しぶりのことだ。
「今年のドラゴンズは強い!」
キャンプを視察した解説者たちは、ドラゴンズに期待する声が少なくない。上原浩治はセ・リーグの注目チームに中日を挙げ、「中日は最近Bクラスが続いているが、全体的にいい選手が揃っていて、かみ合えば上位にいける」と話せば、里崎智也も「控えの選手層も厚く、代打陣にも2桁本塁打を打っているバッターが控える。普通に考えれば強い」と評価する。
開幕前にローテ候補のエニー・ロメロが離脱し、絶対的なセットアッパーだったジョエリー・ロドリゲスがMLBへ移籍。中軸を担うアルモンテもケガで開幕が微妙な状態で、抑え候補のライデル・マルティネスらキューバ勢も東京五輪のアメリカ大陸予選が3月に行われるためコンディションが読めない。そして、FAやトレードでも目立った補強はなし。それでも、今季のドラゴンズには逆境を乗り切るだけの戦力としたたかさがあると期待したい。20年来の竜党である筆者のファンゆえの希望的観測が強いことは否定できない。ただ、それを差し引いても今季のドラゴンズに期待できる多くの理由があるのだ。
遅咲きのブレイクを果たした阿部寿樹まずは野手陣。長らくドラゴンズを悩ませたのが、センターラインの固定ができなかったことだ。谷繁元信の引退以降、正捕手は定まらずショート、セカンドも入れ替わりが激しいポジションだった。だが、ショートの京田陽太がルーキーイヤーからレギュラーを掴むと、昨季はセカンドの阿部寿樹が29歳で遅咲きのブレイク。守備評価を表すUZR(アルティメット・ゾーン・レーティング)でも菊池涼介(広島東洋カープ)、山田哲人(東京ヤクルトスワローズ)らを大きく引き離しセ・リーグトップを記録し、打撃ではリーグ10傑に入る.291を残している。
一気にリーグ最高峰のセカンドへと成り上がった阿部の存在はチームにとって大きい。
開幕前に球団で阿部の評判を聞いた。「外国人を除けば一番飛ばすのは阿部ちゃん」「スイングスピードの速さが尋常ではなく、ボールをギリギリまで引きつけて打てるのが彼の魅力」「練習に練習を重ねたことであれだけ振れるようになった努力家」と、その打力に関して特に評価が高い。レギュラーとして迎える2年目のシーズンは、オープン戦での起用を見る限り5番を任される可能性も高い。阿部が昨季を超える成績を残せば、チームの成績は自ずと上がっているだろう。
また、捕手でも期待の若手と呼べる選手が入団した。ドラフト4位で入団した郡司裕也の存在は、長年の正捕手不在という課題の回答となる可能性を秘める。郡司は捕手ながら慶應義塾大学時代には、東京六大学野球の三冠王に輝くなど打撃面が評価されての指名だった。
実戦でも高い選球眼と思い切りのよいスイングを見せており、プロのボールに慣れさえすれば待望の“打てる捕手”として、いきなりレギュラーとしての起用があってもおかしくない。昨季ブレイクした強肩の加藤匠馬、長打力を持つ木下拓哉、巻き返しを狙う桂依央利、ベテランの大野奨太らも一長一短。球団期待の19歳・石橋康太も2軍での実戦経験を積む段階であり、郡司に多くのチャンスが与えられ、一気にレギュラーとなってもおかしくないというのが捕手事情だ。特に伊東勤ヘッドコーチは若手の捕手にチャンスを与える傾向があり、郡司にも追い風だろう。とはいっても守備面やリード、スローイングには不安も残る。中村武志バッテリーコーチと伊東ヘッドコーチの名捕手2人の指導によるさらなる成長を期待したい。
「若手の台頭」将来のエース候補、梅津晃大昨季もチーム打率は.263とリーグトップで、なおかつ守備率もトップ。数字上では上位に進出しても何ら不思議はないチームでありながら、勝負所でのあと一本が出ずに苦しんだ。特に下位打線で攻撃が分断されることが目立った。期待値も込みで打てる捕手として郡司が下位に座ることで、強竜打線の迫力と得点力は増すと予測したい。
レギュラー陣は、平田良介、大島洋平、アルモンテに福田永将ら脂の乗った外野陣に、ダヤン・ビシエド、阿部、京田、高橋周平と攻守にリーグ屈指の面子が揃うだけに、捕手が安定すれば攻守のバランス面でも、リーグトップクラスの野手陣と言っても大袈裟ではない。さらに抜群の内野すべてのポジションを守れる圧倒的な守備力を誇り、代打中心の起用ながら2桁本塁打を放った堂上直倫も控える。
もう一つ、レギュラー争いができる選手が少しずつ育ってきている点も大きい。与田剛監督・伊東ヘッドコーチ体制に移り、競争を促す意味でも井領雅貴、遠藤一星、武田健吾、溝脇隼人らにもチャンスが与えられ、経験値を積み、戦力として計算できるレベルに成長したことで選手層は増した。レギュラーと控えとの実力差から、ケガ人が出るとチーム力は目に見えて落ち後半には失速。毎年のようにケガ人が出て夏場には戦力ダウンを強いられてきたが、今季に限れば仮に主力の離脱があっても例年よりダメージが少ないと見ている。
投手陣に関しては、スターターとクローザーに不安は残るが頭数は揃っている。昨季、見事復活を果たし、最優秀防御率を獲得した大野雄大、11勝とキャリアハイを達成した柳裕也が先発陣の軸となる。それ以下のローテを争う投手たちは、若手が中心となっていくだろう。
これまでのドラゴンズと異なるのは将来有望な若手投手が続々と台頭していることだ。シーズン通しての計算が立つかはさておき、シーズン終盤にベテランや中堅が消去法的に先発に上がっていた数シーズン前に比べると、期待値も将来への見通しも明るい。
その筆頭といえるのが、将来のエース候補の梅津晃大だ。ルーキーイヤーだった昨季のドラフト2位は、150 km/h前後のストレートとスライダー、高速フォークを武器に、堂々たるピッチングを披露。ルーキーとは思えないキレのあるボールは強打者相手にも十分に通用していた。久しく現れなかった本格派右腕への期待は否が応にも高まる。ローテの中心となる活躍を期待したい。
投手王国復活を想起させる顔ぶれ小笠原慎之介も飛躍の年となると見ている。ルーキーイヤーから登板機会があるため錯覚しがちだが、元甲子園優勝投手はまだ今シーズンで5年目の若手。ケガで戦列を離れることが多かったが、昨季の復帰後はかなり“エグい”ボールを投げ込んでいた。これまでも随所に才能は見せていたが、カーブやチェンジアップのコントロールが定まり、ストレートも140km/h台後半を記録する機会も増えてきた。1球1球のばらつきが減り、緩急を使える投手になったことで、手がつけられない左腕へと変貌するイメージが湧く。梅津と小笠原は、シーズンを通して投げ切った経験はないがそのポテンシャルはリーグでも最高峰。ロメロの長期離脱は痛いが、4枚の先発に計算が立てば、投手陣の運用はグッと楽になるはずだ。
また、167cmと小柄ながら3勝をマークした強心臓の20歳・山本拓実、同級生で2勝をマークした清水達也ら、若手の注目株も揃う。昨年のドラフト2位左腕・橋本侑樹は、独特のスライダーを武器にローテを狙える逸材でもあり、同3位の岡野祐一郎は大崩れしないタイプで、開幕ローテ入りを掴みそうな勢いだ。もう一人、剛速球を武器にクローザーを務め、今季は先発での起用が予想される福谷浩司についても挙げておきたい。昨季広島戦で好投したあとにヘルニアを発症し離脱したが、この試合ではかつての福谷と違い、肩の力が抜けた伸びがあるストレートがコーナーに決まっていた。先発であのピッチングができるなら、ローテ入りも現実的となる。2軍で順調に調整ができているようで、福谷のシーズンの動向は注目したい。2年目の勝野昌慶も、社会人時代に見せていた力強いストレートが戻ってきているだけに、シーズン中に先発の機会は与えられるはずだ。本調子にはほど遠いが、昨季の開幕投手である笠原祥太郎も復活すれば、若手中心のかなり魅力的なローテーションが完成する。正直不安も大きいが、若手が勢いに乗ればかつての投手王国復活を想起させる顔ぶれが揃う。
リリーフ陣は藤嶋健人、福敬登、岡田俊哉に、新外国人のルイス・ゴンサレスに加え、昨季一時的にクローザーの座に座ったライデル・マルティネスが中心となる。ここに、離脱中の三ツ間卓也や木下雄介に又吉克樹、田島慎二、祖父江大輔ら実績あるベテラン勢が控える形となるだろう。
7回を任されると見られる藤嶋、クローザー筆頭の岡田共に血行障害を発症したため不安が残るが、先発陣に比べればリリーフ陣は計算できる面子が揃っている。セットアッパーを任される新外国人のゴンサレスもオープン戦を見る限りではコントロールが良く、連打されそうなタイプには見えない。ゴンサレスに目処が立ち安定感もあることで、早めに勝利の方程式を確立できそうなのは朗報だろう。あとは、160km/h近い剛速球で三振が取れるマルティネスをクローザーに置けるチーム状況が揃えば、念願のAをクラス入りも見えてくる。
“10年に1人レベルの逸材”への高まる期待優勝争いをするチームでは、思わぬ新戦力の台頭があるものだ。現状でもある程度の戦いはできそうだが、悲願のAクラス入りのためにチーム力を底上げができる存在を探した。
中日といえば、安価で良質の外国人補強をすることがお家芸。前監督の森繁和の人脈で、ドミニカ共和国からのルートを構築。だが、近年ではキューバのレジェンド、オマール・リナレス巡回コーチの影響もあり、有望な若手キューバ選手の入団も目立つ。投手では、そのキューバルートの筆頭である新外国人、ヤリエル・ロドリゲスを挙げたい。
スペイン語メディア「ESPNデポルテス」が2018年に発表した、「MLBの興味を呼ぶであろうキューバ選手トップ10」では若手で上位に入る8位に選出。紛れもない同国のトッププロスペクトなのだ。現状は育成契約であり、まずは支配下登録を目指することになり、キューバ代表との兼ね合いでシーズンインは遅くなりそうだ。ただ、シート打撃や練習試合での登板を見ると、予想より早く1軍で投げる姿が目に浮ぶ。150km/h前後のムービングボールを操り、カットボールの球速も落ちない。最大の武器であるスライダーの曲がりは大きく沈むような軌道だ。クイックや守備など、日本の野球に早めに馴染むことができれば、ロメロの穴を埋める活躍も期待できる。アルモンテの状態次第では、後半戦頃に1軍のマウンドに立つ可能性すらあるだろう。キューバの至宝が戦力になれば、大きな底上げとなる。
野手では超大物の高卒ルーキー、3球団競合のドラ1である石川昂弥をあえて挙げたい。昨季の小園海斗(広島)のように高卒で、1軍レベルで活躍できる選手は数年に、ないし10年に1人くらいのものだ。特に右の長距離打者タイプとなるとなおさらだ。だが、この石川はその10年に1人レベルの素材であると見ている。コーチ陣や球団で話を聞けば、「ちょっと見たことないレベル。飛ばす力があり、逆方向に打てる技術もあり守備もうまい。初めて見た時は本当に驚いた」と称すれば、解説者も軒並みその能力を絶賛する。打席でのドシッと構えた雰囲気はすでに大物感が漂い、坂本勇人を思わせる内角をさばく技術を持ち合わせている。当面はプロの球に慣れるために2軍生活だろうが、恵まれた体格と高卒とは思えない広角に打ち分ける技術を見ると、夏頃に2軍卒業があっても驚きはない。ナゴヤドームのテラス席導入も現実味を帯び、来季以降を見据えた上でチーム待望の右の大砲として、異例の大抜擢があっても不思議ではないだろう。
今季のセ・リーグは各球団の主力クラスが退団し、混戦模様だ。そんな中でファンにとって、ドラゴンズに期待できる理由を一挙に挙げた。今季を足がかりに再びAクラスの常連へ。毎年懲りずにそんなことを考えることができるのは、開幕前のこの時期だからこそなのか、果たして――。
<了>
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