コロナ禍のドラフトに提言! 予想される指名減少、「第二の吉田輝星」の未来と夢を守れ
REAL SPORTS / 2020年4月27日 17時0分
プロ野球の開幕はいまだそのめどが立たず、高校野球も春のセンバツが中止になり、夏の甲子園開催も危ぶまれている。大学、社会人も先行きが見えないままで、新型コロナウイルスの影響は、野球界に大きな影を落としている。11月に開催される予定のドラフト会議にはいったいどんな影響が出ると考えられるだろうか? このコロナ禍の中にあっても、未来ある若者たちの夢が潰えることのないようなルールづくりを考えたい。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
次々と中止・延期が決まり、実戦の場を失うアマチュア野球界新型コロナウイルスの影響で日本から「スポーツ」が消えて、数カ月がたった。
日本全国を対象とした緊急事態宣言は現在、5月6日までと期限が区切られているとはいえ、収束のめどがいまだに立っていないことを考えると期間の延長も十分考えられる。
もし予定通り5月6日に解除されたとしても、すぐにスポーツを再開できるわけでもない。
プロ野球でも交流戦の中止がすでに決まり、レギュラーシーズンは最大でも125試合、6月以降の開幕で無観客試合での開催も検討されている。
そんな中、大きな影響を受けているのがアマチュア野球界だ。
高校野球では春の甲子園(センバツ)に続き、各地方で行われる予定だった春季大会がすべて中止(沖縄は準々決勝まで開催)。大学野球も各連盟の春のリーグ戦は軒並み中止・延期となり、6月に予定されていた全日本大学選手権も8月に延期となった。社会人野球も7月に京セラドーム大阪、ほっともっとフィールド神戸で開催予定だった日本選手権の中止が発表されている。
延期となったリーグや大会についても、今後の動向次第で中止となる可能性は非常に高い。
アマチュア野球の選手にとって「実戦の場」が奪われるということは、チームの成績はもちろん本人たちの「進路」にも大きな影響を及ぼす。
今年の11月5日にはプロ野球ドラフト会議が行われる予定だが、現時点でほぼプレーすることができていないドラフト対象選手を各球団はどう評価するのか――。
予定通り秋にドラフトが開催されたと仮定した場合、恐らく今年の指名人数は例年に比べてかなり減少するだろう。
理由は大きく分けて2つある。
「好投手の一人」だった吉田輝星は、夏の甲子園の活躍で「ドラフト1位」に一つは前述のとおり、対象選手の実戦の場が失われていること。プロ野球のスカウトは各担当地域の学校やチームに足しげく通い、選手の実力を見極める。全国大会になれば各球団のスカウトたちが一堂に集結し、自チームに必要な素材を文字通り「スカウティング」する。
しかし、事実上昨年の秋からその「実戦の場」が失われており、春以降は練習すら自粛しているチームがほとんどだ。能力を見極める機会がない以上、選手を評価したくてもできないのが現状だ。
万が一、ドラフト会議が行われる秋まですべての公式戦が中止されたとしたら、各球団は実質、「昨年の秋」までの評価をもとに選手を獲得しなければいけない。
野球に限らず、アスリートにとって「1年間の空白」はあまりに大きい。特に高校生などは1年間でまったく別の選手へと変貌する。春先まではそこまで注目されていなかった選手が、最後の夏で「大化け」してドラフト指名を受けるといったケースは、毎年のように起こっている。その逆もしかりだ。
近年の代表例でいえば、吉田輝星(金足農/当時)がそうだろう。2018年ドラフト1位で北海道日本ハムファイターズに入団した同年の甲子園準優勝投手だが、春先までは「地方の好投手の一人」という評価だった。事実、夏前の時点では卒業後の進路は大学進学が既定路線。それが夏の甲子園での活躍で、「ドラフト1位」の評価を得るほどになった。
1年間で大きく成長する選手がいる一方で、当然ながら思うように成長しない選手もいる。各球団ともに「1年間実戦を経験していない」選手を指名することは大きなリスクを伴う。
予想される戦力外の減少、新人選手を入団させる枠が無くなる指名選手が減少する理由のもう一つは、シーズン短縮によって起こるであろう「戦力外選手の減少」だ。プロ野球は現時点でもレギュラーシーズン125試合の確保に向けて全力を注いでいるが、現実問題、それが可能かははっきりいって疑わしい。シーズンがさらに短縮されて例えば100試合以下、もっといえば「シーズン中止」などという事態が起これば、例年行われる選手への戦力外通告にも大きな影響が出る。
当たり前のことだが、試合がなければ選手を評価することはできない。シーズンが無事に開幕され、短縮とはいえ試合が行われたとしても、春先から開幕までほとんど実戦を積むことができていない現状や、各球団の練習環境を考えると、例年通りの基準で選手のクビを切るのはさすがに無理がある。
当然ながら、オフに行われる戦力外通告は例年よりも減少することが想定される。
プロ野球には1球団70人という支配下登録枠が存在し、育成選手を除いてそれを超える人数を所属させることはできない。
ドラフトで選手を入団させるためにはそのぶん、支配下登録枠に「空き」をつくる必要がある。その作業が、例年行われている戦力外通告だ。
戦力外選手が減少し、ドラフト対象選手の評価が事実上できなくなっている現状を考えると、結果的にドラフトで指名される選手の数は少なくなるはずだ。
その一方、「育成指名」の選手は例年より増えることが予想される。70人枠に縛られない育成選手の獲得には空きをつくる必要もない。選手の実力を測りかねるのであれば、「まずは育成で指名」と考える球団が増えることは容易に想像できる。
支配下選手登録枠の拡大/撤廃を! 育成の在り方をあらためて考えるべき時しかし、である。
果たしてそれはドラフト本来の姿なのか。
有事の今、ある程度の「特例」は仕方がない。しかし、例年であれば本指名を獲得できる実力を持つ選手が「育成」で指名されかねない現状には、何らかの措置も必要になってくるのではないか。
そこで提案したいのが、支配下選手登録枠の拡大、もしくは撤廃だ。一時的な措置なのか、今後継続的にするのかは別として、来季以降のことを考えれば、まずは70人という枠は取っ払うのが最善の策だ。
枠が増えれば、ドラフトで指名できる選手を確保しながら、選手のクビを切る必要もなくなる。
もちろん、一時的に枠を拡大して再来年以降、再び70人に戻した場合は、その時点で大量の戦力外通告選手が生まれることにはなる。
ただそれでも、選手にとっては1年間の猶予が与えられる。新型コロナウイルスの影響で試合が行えるかもわからない今季、この1年を「現役最後の1年」としてしまうのは、あまりに残酷だ。
ドラフト対象選手にとってもそうだ。
本来であればプロに入れたかもしれない選手が、「枠」の都合でプロ入りできない。
もちろん、プロ野球が競争社会であることを考えれば、一定の枠は必要だし、それに漏れてしまうということは実力がなかったということでもある。
「育成選手を多めに取れば、変わらないじゃないか」という意見もあるかもしれないが、やはり支配下登録選手と育成選手の間には大きな壁がある。年俸を含めた条件面も、「3年間」という期限もそうだ。
例えば支配下登録人数を75人に増やすだけでも、数字の上では各球団は一人のクビも切ることなく、ドラフトで5人の選手を指名できることになる。
選手の年俸や施設面など、クリアすべき問題は山ほどあるが、少なくとも「金銭的負担」についていえば新人選手を多く獲得することは、そこまで大きくはない。
最高年俸が1600万円までと設定されている新人選手の獲得数を削ったところで、球団経営にはそこまで大きな影響はないはずだ。
今、アマチュア球界では実戦の場を奪われた多くの選手、チームに対する「救済措置」の是非が議論されている。
であれば、プロ野球やドラフト会議においてもなんらかの「救済措置」があってもいいはずだ。
支配下登録枠をめぐっては、そもそも育成制度の在り方も含め、まだまだ議論の余地が残されている。
11月にドラフトが無事に行われるかもまだわからないが、もし予定通り開催できるのであれば、今年起きた「未曽有の事態」を糧に、現役選手、さらにはドラフト対象選手が最大限、納得できる形をつくってほしい。
<了>
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