なぜ競馬は無観客で成立する? アーモンドアイ参戦、ヴィクトリアMの注目は「世代間闘争」
REAL SPORTS / 2020年5月12日 18時30分
現在、無観客開催ながら自宅で楽しむファンを中心に「競馬」が盛り上がりを見せている。多くのスポーツが延期や中止の決断を迫られる中、なぜ、競馬は開催を続けているのか。6冠牝馬の女王アーモンドアイ電撃参戦で注目が集まる、5月17日開催のG1ヴィクトリアマイルの見どころとともに競馬開催の意義に迫る。
(文=本島修司)
スポーツ開催自粛の中、競馬を開催する意義新型コロナウイルス禍の中、日本中の多くのスポーツが開催を延期している。そんな中、「無観客」で続けられているのが、競馬だ。
観客はいない。場外馬券売り場にも入れない。馬券の発売は電話投票とスマートフォンなどからのインターネット投票のみという状態で開催が続いている。
なぜ、競馬は続行されるのか。開催する意義とは何か。
その答えはとてもシンプルなものだ。
競馬はもともと、入場料ではなく、馬券の売り上げ(勝馬投票券収入)で成り立っているという側面がある。そしてその馬券の売り上げの多くは、近年、インターネットからの投票方式で行う人が増えた。競馬というコンテンツは、無観客でも収益が出るシステムになっているということが大きい。そして、ここからが重要なのだが、馬券代の売り上げの一部は、「国庫納付金」という形で国に納められることになっている。
例えば、100円の勝ち馬投票券のうち、75円は馬券購入者への配当金、残りの25円が控除され、この25円のうち10円が国庫に納付される。その国庫納付金は、畜産振興と社会福祉に充てられる。端的にいうと、競馬の売り上げは、国に大きく貢献しているのだ。
そもそも競馬ファンはネット投票だけで満足できるのかでは、競馬ファンの人たちは、生で競馬を観戦せずに、インターネットで投票をしてテレビで観戦するだけで満足できるものなのか。多くの人がこんな疑問にぶつかる。満足度は人それぞれによって違うものだが、多くの場合は、在宅でも通常のように楽しんでいるのではないかという結論になる。
こんな数字がある。初の無観客G1として行われた、3月の高松宮記念のことだ。このレースの馬券の売り上げは、127億134万8200円だった。この数字は、前年比で100・4%に相当する。もちろんこれは、競馬場の観客席に人がおらず、場外馬券売り場も閉鎖している中での数字となる。スマートフォンと電話による投票に頼る中で、売り上げの落ち方はいったいどのくらいになるのだろうということが焦点になる中で、落ちるのではなく、増えたのだ。
もちろん、すべての大レースの売り上げが増えているわけではない。だが、多くの重賞レースが前年比で70~80%くらいの売り上げを出せている。今、誰もが家にこもる時間が増えている中で、従来のコアなファンのみならず、多くスポーツファンにとって、「在宅競馬」が数少ない楽しみの一つとなっている。
そんな春のG1シリーズも、中盤にさしかかってきた。優駿牝馬(オークス)と東京優駿(日本ダービー)で最高潮の盛り上がりを向かえるG1戦線。しかし、その前に、5月17日の日曜日に東京競馬場で行われるヴィクトリアマイルにも大きな注目が集まる。6冠牝馬のアーモンドアイが、電撃参戦を決めたのだ。
ヴィクトリアマイルというレースの、本来の位置づけとはヴィクトリアマイルは、2006年に創設された古馬(4歳以上)の牝馬限定のG1だ。春の女王決定戦となる。秋にはエリザベス女王杯というレースがある一方で、古馬の牝馬たちにとっては、それまで、春に目指すべき大舞台がなかった。
1600mくらいの短距離が合う牝馬は安田記念へ、2200mくらいの中距離が合う牝馬は宝塚記念へという流れができてはいたが、この2つは牡馬混合G1であり、牡馬と戦わなければいけなかった。
競馬というのは不思議なもので、牝馬の中にはどうしても「牝馬同士でなければ力を発揮できないタイプ」と「むしろ牡馬と戦うことで闘志が出てくるタイプ」がいる。
前者のタイプは、最近ではアパパネ、古くはメジロドーベルなど。後者のタイプは、最近ではウオッカ、古くはエアグルーヴなどの名馬がいる。海外へ遠征していた大物牝馬の国内復帰戦にもなり、「今から初めてのG1制覇を狙おう」とする牝馬たちの目標にもなる。このヴィクトリアマイルが創設されたことで、多くの馬にとって、春の明確な目標ができたというわけだ。
創設以降、ヴィクトリアマイルは毎年大きな盛り上がりを見せてきた。ただ、今年はいつも以上に話題の一戦となりそうだ。
やはり、アーモンドアイが電撃参戦を決めた影響は大きい。
本来であれば、ドバイワールドカップデーに行われる、芝1800mのG1ドバイターフを走る予定だったアーモンドアイは、いったんはドバイ入りしながらも、主催者が開催中止を発表。出走することなく、帰国した。1頭の馬の海外遠征には大変な準備と費用がかかる。アーモンドアイとその関係者もまた、このたびの新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、大変な日々を過ごしていたことだろう。
牡馬と対等に戦うことができるどころか、これまで何度も楽々と牡馬を蹴散らしてきたこの女王の次走候補としては、当初、6月7日開催の安田記念が有力視されていた。しかし、4月の後半に、ヴィクトリアマイルへ参戦するとの報道があった。これまで、やや間隔を空けて使われてきたこの馬のローテーションとしては少々驚きもあったが、もともと、「ドバイ遠征→ヴィクトリアマイル」というローテーションは、女傑ブエナビスタなども通った道。ここで復帰することは、何一つおかしなことではない。
アーモンドアイ、参戦決定。これにより、俄然、盛り上がりを見せているヴィクトリアマイルは、この春の大レースの中でも特に注目度の高いG1になった。
ズラリと揃った豪華メンバーのライバルたちアーモンドアイだけではない。今年のヴィクトリアマイルが、ファンの中で大きな盛り上がりを見せている理由は他にもある。ライバル馬たちも豪華メンバーなのだ。
まずは、ラヴズオンリーユー。充実期の4歳を迎えた昨年のオークス馬で、昨年のこの時期、つまり3歳時には「4戦無敗のオークス馬」としても注目を浴びていた存在だ。昨秋は、結果的にエリザベス女王杯の一戦しかできなかったが、そのレースも初の古馬との対戦ながら3着にまとめており、今までに崩れる姿を見せたことがない。この馬もドバイワールドカップデーに行われる予定だったドバイシーマクラシックへの出走を予定していたが、取りやめに。そしてこちらに回ってくることになった。中距離を中心に使ってきた馬であり、マイルへどのように適応するかが興味深いところだ。アーモンドアイの1つ年下の4歳世代の筆頭格が、意地を見せるシーンも十分にありそうだ。
他にも、昨年の覇者であるノームコアも参戦。この舞台が得意な馬だ。逃げ馬としてファンを魅了している、コントラチェックも出走を予定している。ライバルたちも虎視眈々と打倒アーモンドアイを狙う、豪華布陣での発走となる。
激戦必至! 勝負を分けるポイントと、見どころはどこか勝負を分けるポイントという視点での、見どころはどこになるか。近年の競馬では、有力馬の多くが同じ大牧場であるノーザンファームの出身ということもあってか、「あまり数を使わない」ことが一つのトレンドとなっている。
ラヴズオンリーユーも、今が4歳の春という時期を思えば、使っているレース数が少ない。「3歳秋・1走」だ。調子や小さなケガなど、本当に細かい理由が各馬にいろいろあるとは思うが、それでもこうした「ワンシーズン1走」という馬がすごく多いのが、近年の競馬の特徴でもある。ただ、ラヴズオンリーユーが「G1馬が充実する4歳という時節を迎えている」ということは疑いようがない。アーモンドアイの前に立ちはだかる、最大のライバルはこの馬だろう。
一方、5歳シーズンに入って初出走のアーモンドアイは、どうか。本来の彼女の実力であれば、圧勝してしまうかもしれない。ただ、3歳の春からG1を制覇してきた馬の多くは、5歳の1年間で「アスリートとしての衰え」を見せてきたという歴史もある。女傑ブエナビスタあたりでも、走るたびに、少しずつ勢いと成績を落としていった。一方、ウオッカなどは、東京コースで無類の強さを誇り、5歳時にもG1を3勝。ヴィクトリアマイル、安田記念、ジャパンカップを勝った。アーモンドアイが5歳シーズンも、3歳時と4歳時と変わらない最高のパフォーマンスを披露できるかどうか。レースとしては、こうした世代間の争いが見どころとなる。
ラヴズオンリーユーにとっては、女王アーモンドアイをあわよくば捕らえるチャンスは、自身が成長した4歳で、アーモンドアイが5歳となる今回かもしれない。期待できそうだ。
今季もまた、アーモンドアイが強いのか。1つ下の4歳世代が台頭するのか。それとも他の伏兵が大きな波乱を演出するのか。5月17日の夕方。歓声のない競馬場と、日本中のテレビの前で、ゴールの瞬間にその答えが出る。
競馬は、今、多くのスポーツファンの持て余しかねない在宅時間を「楽しさ」に変えるために、そして国庫納付金という義務を果たすために、懸命な努力で無観客開催を続けている。勝ち馬の汗と、勝利に関わった人たちの涙、テレビの前の大きな声援、そして、日本という国に貢献する大きな意義とともに、まばゆく、力強く、輝きを放っている。
<了>
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