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日本人はGKの見る目なし? ブンデス育成コーチが教える「正しいキーパーの見方」

REAL SPORTS / 2020年5月18日 12時9分

日本ではいまだGKに対する「正しい見方」が浸透していないといわれている。そこでGK大国ドイツの名門シュトゥットガルトが目指す“理想のGK像”マルク=アンドレ・テア・シュテーゲンのプレーをお手本として、どういった技術や動き、戦術的判断があると望ましいのかを考察。同時に日本人GKのプレーにはどのような傾向が見られるのかも分析した。どんなプレーに拍手を送り、どんなプレーを叱咤激励すべきなのか。シュトゥットガルトのU-14、U-15チームでGKコーチを務める松岡裕三郎が解説する。

(文=中野吉之伴、写真=Getty Images)

テア・シュテーゲンがGKの理想像

GKのプレーってどのように評価したらいいんだろう?

日本の試合中継を見てみると、まだまだ攻撃側視点でのコメントが多い印象を受ける。GKがファインセーブをしていても「決定機を逃した!」とか、あるいは逆にGKのミスで得点になっても「さすが○○。得点力を存分に発揮しました!」のように表現されがち。もちろん最近はGK視点での優れたコメントや解説をする人も増えてきたが、まだまだ全体的にGKのプレーに対する正当な評価の仕方が浸透していないのではないかと思われる。

GKのプレー評価が難しいのは、そもそもどんなプレーがGKとして求められていて、どのくらいのセーブが可能なのかという基準がわからない人が多いからではないだろうか。そこで、ブンデスリーガ2部シュトゥットガルトのU-14、U-15チームでGKコーチを務める松岡裕三郎に解説をしてもらった。

欧州トップリーグでプレーするGKのレベルは一様に高い。そんな中シュトゥットガルトの育成で目指している理想のGKは、FCバルセロナでプレーするマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンだそうだ。

「1対1の止め方だったり、ダイビングの仕方だったり、とにかくテクニックの部分においてすべてレベルが高いですし、判断も素晴らしい。なおかつ足元もしっかりできるGKですよね」

フィールドプレーヤーにさまざまなテクニックが求められるように、GKにはゴールを守るためのテクニックが必要だ。普通はGKのプレーの良さを、最後のところで止められるかどうかだけで判断しがちかもしれない。しかしGKが最後のところでしっかりとセーブするためには、しっかりとした準備と、正しく速やかな判断をスムーズに実践できなければならない。

優れたGKは相手シュートに対して、正面で反応できる位置にポジショニングを取れていることが多いので、派手なセーブをしなくても、しっかりとゴールを守ることができる。松岡コーチは「7m以上距離があるところから、腕を伸ばせる範囲に放たれたシュートはしっかりとセーブしてほしい」と言うが、それを確実に実践できているかどうかはまず重要なポイントといえるだろう。


日本人GKは初動作における無駄が多い

試合では手の届く範囲だけにシュートがくるわけではない。ではボールに飛びついてセーブするダイビングについてはどうだろうか。テア・シュテーゲンのテクニックに関して松岡コーチが称賛するのはその効率の良さだという。

「動きにまったく無駄がないんですよね。例えばシュートがきた時に、余計なステップがちょっと入っただけで、タイミングが遅れてシュートが止めきれないということがあるんですけど、テア・シュテーゲンはそのあたりでの足の運びでミスがほとんどない。そこの判断と動きに無駄がないので、『このシュートにはステップを入れずに一歩で力強くダイビングして止めよう』という瞬時の判断が本当にスムーズなんです。ボールに向かってダイレクトに向かえる。加えてキャッチング能力も高い」

その点でJリーグにおける日本人GKを観察してみると、初動作における無駄がまだ多いようだ。足を踏み変えたり、小刻みにステップを踏むことでリズムをとろうとしており、そこでずれが生じてしまうという。

「そのため動き出しがほんの少し遅れてしまい、なんとかボールには触れているのにそのままゴールになってしまうというシーンを結構見ました。最初のところで効率良くステップを踏むことができれば、ボールへもダイナミックに力強くいけると思います。その効率とダイナミックさのところでは違いを感じました」

相手のシュートに対してスムーズな足の運びでダイレクトにボールへ反応できているかはGKにとって大事な要素だ。枠ぎりぎりに飛んでくるシュートに対しても、慌てることなくまっすぐダイビングをしてセーブしてしまうGKがいたら、相手選手は絶望感に襲われる。だがそれは偶然の産物ではなく、日々のトレーニングの取り組みが生み出したスーパーセーブなのだ。


テア・シュテーゲンに学ぶ正しい1対1の対応

松岡コーチが次に指摘したのが1対1における対応だ。相手選手がゴールに向かってくる時にGKはいつ、どこで、どのように飛び出すべきか、あるいはとどまるべきかを瞬時に判断できなければならない。相手との距離感とスピードで飛び出しのタイミングも変わってくる。そして寄せ切ったところでどのようなGKテクニックを使うのかも重要になる。

「テア・シュテーゲンは1対1の時もどのタイミングで寄せて、どのタイミングでどのテクニックを使うのかといった判断力が素晴らしいです。寄せた後も足をどう出すのか、どっちの足を出すのか、上半身をどういうふうにいくのかがしっかりとできています。テア・シュテーゲンは上半身もしっかりとしていて、例えば至近距離からのシュートセーブの局面でボールから顔を背けて上半身がずれるGKもいますけど、テア・シュテーゲンはそうならずに、両肩がまっすぐボールに向かっています。そうしたらボールがぶつかっても後ろにはいかない。そういうテクニックも非常にしっかりできているGKなんです」

では日本のGKには1対1においてどんな傾向がみられるのだろうか。松岡コーチが指摘したのは、ゴールから離れてボールにアタックすることが少ないのではないかという点だった。

「寄せられるところで寄せられないことが多いのかなと。寄せられる局面なのに、ゴール前で待って相手にシュートを打たせてそれを反射神経で止めようとする。ゴールにへばりついているという感じがします。1対1の時はもっと相手との距離を詰めてほしい。あとゴールから離れてボールにアタックしてほしい。飛び出したらそこから止める時に、足を前に出してしまうGKがいるんですけど、そうするとボールは横や股下を通ってしまう。昨シーズンのJリーグを見るとそういう守備をするGKのプレーが結構あったと思うんです」


GKにとって大切な3つの守備

GKの仕事は何かと問われたら、ゴールを守るのがその仕事だと多くの人が答えるだろう。でも、ゴールを守るというのは、ゴールライン上に居続けるということではない。チーム戦術や試合展開によってはDFラインが高い位置を取ることはあるだろう。そうなったらその後ろのスペースもGKがケアしなければならない。

優秀なGKはそうした高めのポジションからゴールへ戻る切り替えの早さ、あるいはそのまま飛び出してクリアするところでの判断が非常にいい。そしてゴールに戻った時のポジショニングもしっかりとしている。それはマヌエル・ノイアーを筆頭に、ブンデスリーガでプレーするGKはそのレベルが非常に高いと松岡コーチは言う。

「GKに大切な守備が3つあります。まずゴールを守る『ゴールディフェンス』。ダイビング他いろいろなテクニックが要求されます。そしてスペースを守る『スペースディフェンス』。3つ目に『1対1での対応』ですね。GKに求められるのはこの3つの局面それぞれでの判断と切り替えの早さになります。例えば、相手がスペースを狙ってきてるけど、状況的に飛び出せない。じゃあゴール前に戻ろうという切り替えの早さとそのための判断基準があるかどうか。そしてゴール前に戻った後に相手がドリブルで抜けてきたら、ここは1対1の局面だと反応して、スムーズにまた飛び出して対応できるかどうか。そしてそれぞれの局面で必要なテクニックで止める。これに関してはドイツのGKは優れているかと思います」

なるほど、試合の局面ごとにGKはどう守ろうとしているのかを考慮して見てみると、その辺りでの状況判断がうまくいっているかどうか、そもそも止めるのが難しいプレーだったのかどうかがイメージしやすいかもしれない。それぞれの状況における戦術的なポジショニングが整理できているGKは、一つひとつのプレーがぶつ切りではなくつながりあっているのだ。


「なんであのシュートは止められなかったのか?」

攻撃への関与はどうだろう。現代サッカーではGKにも足元の技術が求められているし、積極的にビルドアップに関与して、攻撃の起点を作れるGKも増えてきている。要求されるパスの質は当然監督の哲学によって変わってくる。基本的なところでバックボールをミスなくさばいて、味方に的確にパスを出せるだけのクオリティーは必要になるのだろうが、だからといって多くを求めすぎるのもまたよくない。

GKのビルドアップに関して、松岡コーチはGKにだけ責任を押しつけるべきではないと説明する。
「例えば右サイドバックに出したいと思っていても、右サイドバックのポジショニングが悪いというケースもありますよね。パスを出したけど、そこで問題があったためにボールをうまくコントロールできなくて、相手に奪われる。でもそうしたケースでも、GKのパスミスと見られることが多いんですよね。『おい、GK何やってるんだよ!』って。でも実はそうじゃなくて、GKはちゃんとしたプレーをしていたけど、受け手のほうでミスがあったんだよ、ということも結構あるんです」

こうした点も踏まえて、メディアが有名選手や監督だけではなく、もっといろんな人を取り上げて、さまざまな情報を正確に発信することも大切なのではないだろうか。欧州であれば試合後に監督・選手の他に、スポーツディレクターや代表取締役がインタビューに応じたりする。あるいは審判の判定が議論されたら、審判もインタビューで見解を述べたりする。GKも同様で、試合後すぐに「なんであのシュートは止められなかったのか?」というストレートな質問に答えなければならない。

ミスだったのか、あるいは止められない理由があったのか。そうしたことを直接聞くことができる機会が増えたら、GKのプレーに対する理解も増えてくるはずだ。欧州でよくある討論番組のように、さまざまな立場の人がいろんな角度からサッカーの話をして、ファンも本当にいろんな角度からサッカーに触れることができるようになると、もっともっとサッカーの奥深さを発見することができるのではないだろうか。

<了>






PROFILE
松岡裕三郎(まつおか・ゆうざぶろう)
1984年10月8日生まれ、鹿児島県出身。ドイツ・ブンデスリーガ2部VfBシュトゥットガルトのU-14、U-15・GKコーチ。鹿児島実業高校、同志社大学を経て、ドイツに渡り、2009年から2017年までSVフェルバッハでプレー。2011年よりSVフェルバッハのU-11〜U17のGKコーチも兼任し、以降、さまざまなチーム・カテゴリー・スクールでGKコーチを担当。2017年6月にUEFA Bゴールキーパーレベルの修了証取得。

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