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日本人が海外の1/10も食べない食材とは? 日本代表料理人・西芳照×石井正忠、食育の最前線

REAL SPORTS / 2020年7月24日 12時0分

サッカー日本代表の海外遠征に帯同するシェフ、通称「サムライブルーの料理人」西芳照と、鹿島アントラーズや大宮アルディージャで監督を務め、最近では給食センターで1年間の実務も経験するなど食育に造詣の深いサッカー指導者・石井正忠(現在はタイ1部のサムットプラーカーン・シティFC監督)。料理人と監督という異なる立場の二人を迎え、「サッカーと食育」について語り合った。海外の選手と日本の選手の食生活の違いについてや、実際に選手たちが取るべき食事の献立について、そしてサムライカレーが日本代表選手にも子どもたちにも愛される理由とは?

(インタビュー・構成=清水英斗、写真提供=西芳照)

サムライカレーは辛口?甘口?

――西さんは6月に「女子サッカーの町」をうたう佐賀県みやき町の子どもたちとその親御さんにカレーを振る舞ったそうですね。5月にも福島県南相馬市の医療従事者向けにカレーを提供していますが、素朴な疑問として、なぜカレーなんですか?

西:第一の理由は、提供が簡単だから(笑)。あとは日本代表の選手と同じものを食べていただくのもあるし、今回でいえば佐賀ですから、佐賀といえば玉ねぎ。秋冬には北海道の玉ねぎも出ますが、春夏に日本で出荷されているのは、ほとんど佐賀の玉ねぎです。だけど、今はコロナ(新型コロナウイルス感染症)の影響で玉ねぎが売れ残って、いや、売れ残るだけならいいですけど、価格の暴落を防ぐために廃棄するような状況です。それをどうにかできないか、という意味合いもありました。 

 400人分で玉ねぎ18キロ、あとはふるさと納税の返礼品に玉ねぎのソースやドレッシングはどうかとか、そんなことも含めて地域の活性化につながるようにしたいと。それで今回カレーにしました。もちろん、子どもたちが食べやすいのもありますし、複合的な意味合いでカレーでした。

――西さんのカレー、結構辛いのでは?

西:いやいや、それほど辛くないですよ。(辛いものが苦手な)吉田麻也ちゃんがね、食べられるくらい。お子さんたちも、4杯とか食べましたよ。

――確か以前、日本代表で提供するカレーは選手の食欲をかき立てるため、辛くしていると言っていましたよね? 栄養をしっかり摂取するには、まずちゃんと食べなければならないと。

西:そうですね。確かに前は辛くしていました。だけど、それは今じゃなくて以前の代表ですね。

――ザックジャパン(アルベルト・ザッケローニ日本代表監督時代)の頃ですか。

西:そう。その頃は辛いものが苦手という人はそんなにいなかった。今は半々くらい。辛いものが苦手な人が多いときは、辛口と甘口に分けて作ったこともありましたけど、今はそこまで暇がないので、中間を取って、という感じですね。今回作ったカレーはそんなに辛くないし、佐賀牛も入ってますから、おいしいですよ。

――おお、ぜいたく。ビーフカレーですか。

西:まあ栄養的に良いのは、ビーフではなく、ポークカレーなど他のものですが。豚肉はビタミンB1が疲労回復に良いので。ただ、今回は佐賀を元気にする意味で、佐賀牛を使いました。

――普段、代表のカレーはポークですか?

西:そうですね。ただ、イスラム圏に行くとポークがないので、ビーフだったり、チキンだったりもあります。

日本代表はプロのセオリーを脈々と受け継ぐ場所

――今日は料理人と監督のお二人を迎えて、「サッカーと食育」をテーマに語りたいと思いますが、石井さんはサッカー選手にとって食事とはどんなものだと思いますか?

石井:僕は鹿島(アントラーズ)にいた時間が長いですが、鹿島ではホームゲームの前日、試合に出るメンバーは寮に泊まります。そのときの食事はステーキ、パスタ、サラダと、ちょっとした日本料理のおかず、という感じです。栄養士さんからすれば、「もっと違う食事のほうがいい」と言われるかもしれないですが、僕としては、みんなで集まって試合前日にいろいろな話をしながら、おなじみのメニューを食べること、それがよかったなと思います。

 さっきの話にも出たように、おいしいもの、大好きなカレーをいつものように食べることで、子どもたちが精神的に安定したり、プロは試合に臨む準備ができたりとか、食事は栄養だけではなく、そういうことも大事かなと思いますね。

――試合前日のルーティーンがあるんですね。安定した力を発揮するためには大事に思えます。ちなみに西さんの場合、代表で提供している食事のメニューはどういう感じなのですか?

西:通常はビュッフェスタイルです。肉2種類、魚2種類、野菜はビタミン豊富な緑黄色野菜。あとは家庭料理、シュウマイとか餃子とか野菜炒めとか、そういうものを出しています。僕が帯同するのは試合の前ですから、グリコーゲンローディング(エネルギーを体内に確保する食事法)で、炭水化物をたくさん取ります。PFCバランス(タンパク質、脂質、炭水化物の比率)といいますが、日常生活では炭水化物6割、脂質2割、タンパク質2割のところを、試合日付近になれば、7.5~8割くらいが炭水化物になります。

――試合でエネルギーを使うための食事ですね。

西:そうです。トレーニング中なら筋肉をつけるためにタンパク質を増やすとか、目的によって食べ方や食べる量は変わってきますね。

 今までやってきて感じたのは、選手の皆さんもある程度の年齢になると、体が徐々に動かなくなり、息切れをしたり、疲労が残ったりします。それこそ年上の選手は、何を食べたら疲れが一番取れるのか、いつも考えながら食事をしています。若い子は右から順番に取るだけですけど、経験がある選手は、最初に後ろからメニューを一通り見て、「じゃあ今日はこれとこれを食べよう」と。そうやって計算して食べる人が日本代表では多いかなと思います。

――ビュッフェ形式だから、選手自身の自己管理になるわけですね。

西:試合前日はこういうものを食べたほうがいいとか、これを食べれば体のキレがいいとか、皆さん自分で選択していますね。体重が200グラム増えたから、唐揚げを食べたいけど鳥のむね肉にするとか。自己管理はすごく重要視していると思います。

 今いる選手だと、長友(佑都)さんなんか、「毎日青魚出してください」とリクエストがあります。若い子が来たときには、「いわしのかば焼き食べろよ」とか、「豚肉と玉ねぎを食べると疲れが取れるから」とか、食べ方をレクチャーしていますね。

――何だか想像できます(笑)。

西:まあでも、長友さんも最初に入ってきたときは、何も知らない状況で中村俊輔さんからいろいろ吸収したと思います。体幹やヨガもそうですが、食育にしても、そうやって自分が培った知識を独り占めしないで、みんなに教えていく。はたから見て、すごくいいことだなと思いますよ。

肉とチーズの差が、フィジカルの差!? 

――石井さんは監督として、選手の食育にはどうアプローチしてきましたか?

石井:私がいた鹿島の場合、ほとんど個人に任せていますね。試合前の食事は、ほとんどずっと変わっていないと思います。今季タイに来てオーナーに相談されたのは、タイの選手は食が細くて、栄養のバランスが良いものを食べていないと。だから試合前日はみんなで一緒に食事をさせて、あとは週に1回、練習が終わったあとにバーベキューをやったり、何か食べ物を提供してあげたいということで、チームでまとまって食べる機会を作るようになりました。

――石井さんが日本式というか、鹿島式を持ち込んだと。

石井:そうですね。私がそうしたいとお願いしたらオーナーも「実はそうしたかった」ということで、満足して行ってもらうことになりました。本当にタイは一般の方もそうですが、栄養価の高いものをあまり食べていなくて、特にタンパク質は少ないと思います。野菜やフルーツは安くておいしいのですが、お肉や魚がほとんど入っていない料理が多いので、アスリートにとっては少なすぎると思いましたね。「トレーニングと、食事と、しっかり休息することは大事だよ」といつも言っているので、アンケートなども行って、少しずつ意識は変わってきたかなと思います。

――この先が楽しみですね。

石井:僕、西さんに聞きたいことがあるんですよ。海外(欧米やアフリカ)の選手って体が大きいじゃないですか? 日本の選手はそれに比べると、一回りサイズが小さいかなっていつも思うんですけど、これは食べる量が違うんですか?

西:Jヴィレッジ(ナショナルトレーニングセンター/福島県)に海外の選手、特に南米のチームが来ることは多いですが、朝ご飯は10時頃にちょっと来て、クッキーを食べたりする程度ですね。昼はお肉とパスタ、サラダ。これだけです。肉を食べない人は魚です。あとは炭水化物にじゃがいも、ポテト料理ですね。お肉はよく食べます。

石井:やっぱり、お肉の量とか、タンパク質の量が違いますか?

西:違いますね。日本だと、おかずがいっぱいあるから、お肉が主体になることはないですが、海外だと、お肉が主体ですね。もう、それだけでお腹いっぱいにする。あとは日本人に足りないといわれるカルシウム。必ずパンと一緒にチーズを挟んだりして食べますから。

石井:ああ、チーズですか。そうですよね。

西:日本代表が海外に行くときも、こちらからオーダーしたメニューにチーズを入れているんですが、向こうで用意してくれるのは、もうチーズだけで5種類くらい。すごい量が最初に出てきて、「そんなにいらないよ」と言っても、「大丈夫、出せるから」って。でも日本人が実際に食べるのは、全員で(出してもらった5種中の1種の)カマンベールチーズを半分くらいです。量的にいえば。

石井:それって、海外の選手はたくさんチーズを食べるのが普通だから、ホテルやレストラン側もそれだけ提供するわけですよね。

西:そうなんです。日本人だと海外の選手の10分の1も食べないですよ。骨を丈夫にするために、カルシウムをチーズで取る。彼らの骨太さは、チーズの力なのかなと僕は思っています。

――なるほど。そこまでチーズの摂取量に大きな差があったとは……。

西:日本人だと、朝パンに挟んで食べる人が少しいる程度。ほとんど食べないですね。

――これは直視しなければいけない違いですね。

西:食べる楽しみという意味では、そんな単純なメニューを出したら、日本人からは「何やってんだ」と言われますからね。何種類か出さないといけない。家庭でもそうだと思いますが、いっぱいおかずがないと。

帯同シェフの一番の仕事は「衛生管理」

――日本人は食べることで得る幸福感が大きいといわれますよね。だからいろいろなものを食べたいし、チーズとお肉ばかり、とはいかないわけですね。

西:そうですね。アルゼンチンの代表とか、ブラジルとか、チリも1カ月くらいいましたけど、ずっとお肉とチーズは食べてました。あと、今は発芽玄米とか、雑穀米とか、健康ブームで血糖値をゆっくり上げるメニューが日本代表でも人気ですけど、海外の選手も同じですね。全粒粉のパンやパスタを食べるとか、そういう人が多いなと思います。

 あと、彼らはケーキとかパイも食べます。

――デザートですか。

西:一番人気は森永(製菓)のエンゼルパイ。

――お菓子でしょ、それ(笑)。

西:朝、食堂に来たらエンゼルパイを食べる。で、ポケットにも入れて部屋に戻る(笑)。まあ、甘いものは普通に食べている感じはありますね。コーヒーと一緒に。

 あとはフルーツ。海外の選手は、皮つきのりんごを1個丸ごと食べます。グレープフルーツ1個とか。日本人はカットしたフルーツじゃないと食べないです。逆に海外の選手は「何でカットするんだ」と言う。彼らは丸ごとのほうを好みますね。

石井:わかるなあ。

――確かに海外に行くと、ホテルの朝食でフルーツがそのまま置いてあったりするけど、日本人はあまり手をつけないですね。

西:丸ごとのほうが衛生的にいいし、食材ロスも出ないからいいんですけどね。

――衛生的にいいのは、なぜですか?

西:カットすると、包丁やまな板から菌がついたり、あとはこんなこと言うと叱られるかもしれないですけど、ホテルによっては残ったフルーツを夜に回すとか、そういうこともしますから。

 グレープフルーツやオレンジなどのフレッシュジュースも、朝のうちに機械で絞って作ってしまう。それが残るともったいないから使い回したり。

石井:古いジュースに新しく絞ったのを足す、とか?

西:そうそうそう。それもあるから、フレッシュジュースは目の前で絞って飲むのが一番です。

 そもそもですが、僕が(日本代表の帯同シェフとして)呼ばれた最初の理由は「衛生」ですからね。2004年にU-23日本代表がUAEで下痢をして、みんなフラフラで3、4人しか正常な選手がいなくて、何とかアテネ五輪出場を決めたからいいけど、最終予選でこんなことがあってはいけないと。

 それで僕が呼ばれたわけです。選手においしい料理とか、和食を出したりするのは当たり前ですけど、その前に、僕の一番の仕事は衛生管理をきちんとすること。ホテルを見て、調理場を見て、悪いところがあったら伝えて直してもらう。そっちが基本ですね。

――代表の海外遠征は、本当にそこが大事ですよね。

西:お金をちゃんと払っているんだから、そんなフルーツは出さないでくれと。他のお客さんに提供する習慣を止めるまではしないけど、ただ、僕らには出さないでくれと。本当に何があるかわからない、危険を排除するというか、目を光らせておかないと。朝昼晩、調理場でパスタ作ったり、お肉焼いたりしていますが、キッチンに目が届かなくなるとまずいので、日本代表の食事は僕がいるときに作ろうねと、そういうふうにしています。

 不衛生なホテルもありますから、これちょっとサラダが危険、というか出さないほうがベターだなと思うこともあって、そういうときは選手やスタッフの皆さんに「サラダは食べないでください」とお願いしたりもします。ホテルに「このサラダを出すな」と言うと、これまた厨房がギクシャクするので、そこは状況を見ながらです。 

――うーん、難しい(苦笑)。

西:その国の文化がありますからね。「俺たちは普通に食べているのに何が悪いんだ!」って、そういうことになりますから。だから効率良く仕事をするために、相手に気を配ることも大事です。

練習後30分以内に、おにぎりやバナナなどの糖質を取る

――西さんは日本代表以外にも、いわきFC(JFL/実質4部所属)でアカデミーの食事を作っているんですよね。

西:そうですね。本当はアカデミーで練習が終わったあと、すぐに食事を出すという話だったけど、コロナの影響で中止しているので、今は下宿している高校生18人に夕食だけ出しています。まあ、食べますね。ご飯どんぶり大盛り。600グラムぐらい食べます。

――何を出すとか、決まりはあるんですか?

西:栄養バランスの取れた食事というのが、決まりです。トップチームに出す食事と同じですが、ビュッフェではなく、お膳のセットですね。今日はこれを食べれば体ができて、疲れも取れると、栄養を考えた献立になっています。


 例えば、豆腐と鳥のむね肉のハンバーグ。正直にいうと予算は限りがあるので、コストのバランスを見ながら、いかに味の満足感、栄養の満足感、ボリュームの満足感を出すか。ネタを明かせば、豆腐は安価でタンパク質がありますよね。お肉も安価で体に良い鳥のむね肉を使う。疲労回復には豚肉のビタミンB1と玉ねぎを一緒に取れば一番良いといわれてきましたが、最近は鳥のむね肉が良いともいわれています。渡り鳥が長時間飛び続けるための抗疲労成分が、むね肉に含まれているということで。


――なるほど。しかし、豆腐と鳥むね肉のハンバーグの理由が「コスト」とは、いきなりぶっちゃけますね。

西:でもカロリーも計算しているんですよ。その意味でも、豆腐と鳥のむね肉は優れた食材ですから。

――総合的に優れたレシピですね。家庭でも参考になりそうです。

西:もう一つ大事なのは、練習が終わってシャワーを浴びれば、すぐにご飯を食べられる。鹿島もそうだと思いますが、これが一番です。

石井:そうですよね。僕がユースでコーチをしていた頃(1999〜2001年)は、練習後にバナナやおにぎり、牛乳だけ提供していました。それをすぐに食べて、帰ったあとにまた夕食をしっかり食べると。今は選手寮があるからいいですが、当時はユースの選手がいろいろな地域から集まり、通っている時代だったので、そういう形にしていましたね。

――それは先ほど西さんが言っていたグリコーゲンローディングですよね。

石井:そうですね。

西:練習後30分以内に、おにぎりやバナナなどの糖質を取り、それから1時間以内に夕食を取ると、疲れを翌日に残さず、筋肉の損傷を一番抑えられるといわれています。

――いわきFCといえば、一般的にはフィジカルにすごくこだわったクラブというイメージがありますが、そのあたりの哲学が西さんの仕事に影響を与える部分はありますか?

西:いや、僕のほうにはないです。僕も「プロテインをどう考えて摂取するんですか?」と聞きましたけど、成長期の中学生までは摂取しない、と。ある程度成長した高校生については、自分の判断で取りたければ取ってもいい。そういうふうにしているそうです。

――意外ですね(笑)。

西:何よりバランスの取れた食事を心がけています。ただ、トップチームの選手の場合、プロテインは必ず取らなければいけません。プロ選手は毎月血液検査をして、血液のタイプを3つに分けて、摂取するプロテインの中身を変えています。

――鹿島はそこまでやっているんですか?

石井:僕らの頃は個人でした。だから僕は毎月血液検査をして、寮の食事の献立を栄養士さんに提出してもらい、栄養的に足りない部分をサプリメントとして処方してもらっていました。ただ、そこまでやっている選手は当時少なかったかなと思います。

――今の選手は、もうそれが普通ですか?

石井:普通だと思います。インターネットでいろいろ情報も得られますから、よりやりやすくなったと思います。

――そのあたりについて、鹿島は今も基本的に個人任せですか?

石井:そうだと思います。この2~3年はわからないですが、私がいた2017年まではそうでした。

サッカーと食育。そこから、できること。

――子どもたちの食育に話を戻すと、石井さんは2019年に給食センターで実務も経験されていますが、子どもの食育について何か考えることがあったんですか?

石井:僕が給食センターで働くようになったのは、給食をちゃんと食べてほしいという思いと、あとは子どもたちに間接的に関われるかなと思ったからですね。それこそ給食って「味が薄い」とか、いろいろ言われるじゃないですか。でも、今日話に出たカレーって、やっぱり大人気ですよ。給食だと提供したあとに、残飯が戻ってきますよね。それがカレーの日はすごく少ないんですよ。子どもたちが好きでおいしいものを提供すれば、いっぱい食べてくれるんだなと思いました。

 でも西さんもそうですけど、作る側は大変だと思いますね。栄養バランスを考えたり、食べてもらう工夫をしたりと、すごく大変です。食事を毎日提供するご家庭でも、すごく大変なんじゃないかと思うんですよね。

西:そうですよね。僕も野球をしている子どもたちにご飯を作って、「どう?」って聞いたら、「大丈夫です」ってね。ちょっとショックですけど。

――いやいや、「大丈夫」って何だよって。危険なもの食ってるわけじゃないぞ、みたいな(笑)。

西:NGワードです(笑)。家庭でも一緒じゃないですかね。奥さんたちも一生懸命作っても、おいしいともまずいとも何にも言わないで、ただ食べててもね。「何だよ」って気持ちになりますし、少しくらい反応しろよって(笑)。

石井:僕も一時期、給食センターで作る側にいたので、バランスを考えて提供する側が本当に苦労されてるんだなと思いましたね。給食は残飯を見れば、反応がある程度わかるので、今日は魚が多く返ってきたなーとか。

 気持ち的にはおいしく食べてもらえるように、大きな鍋に材料を入れるときも、野菜は機械で切ったりするので、大きい切れ端も入っちゃうんですけど、それがなるべく入らないようにチェックして取って、できるだけおいしく食べてもらえるように、僕もそういう工夫はしましたけど、でもね、やっぱり戻ってきちゃうと残念だなと思いましたね。

――そういう心遣いが、もっと伝わればいいんですけど。

石井:私はやっぱり給食の時間が短いと思ってます。30分とかそのくらいだったら、低学年の子とか、全然間に合わないと思うんですよ。準備や片づけもあるので。そう考えると、圧倒的に食べる時間が少ないんじゃないかって。みんなかき込んで食べるだけでは話もできないし。

 あとは今日、西さんの話を聞いていて、やっぱり小さい頃からの食生活、食習慣が重要だと思いました。それこそ学校給食って、栄養士さんがよく考えて、バランスが良かったり、量もコントロールされているので、そういうことを学ぶ食育の時間があってもいいんじゃないかと思うんですよね。食べ物は大事なんだということを、小さい頃から知ってほしいなと思います。

鹿島も今、学校に行って食育をすることがありますし、私も県内の小学校を回って、一緒に給食を食べたりもしました。そうやって子どもたちが食べることに興味を持ってもらえたらいいと思うし、それについては、サッカー選手も一役買うことができるんじゃないかと僕は思っています。

<了>






PROFILE
西芳照(にし・よしてる)
1962年1月23日生まれ、福島県出身。高校卒業後に上京し、京懐石などの料理店で和食の修業を積む。1997年、福島県楢葉町に開設したナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」のレストランに勤務。1999年、総料理長に就任。2004年3月、シンガポールで行われたFIFAワールドカップ・ドイツ大会のアジア地区予選にサッカー日本代表の専属シェフとして初めて帯同。以来、2006年のドイツ大会から2018年のロシア大会まで、4大会連続で帯同。現在はJFL・いわきFCの練習施設内に「NISHI's KITCHEN」を構える。

PROFILE
石井正忠(いしい・まさただ)
1967年2月1日生まれ、千葉県出身。サムットプラーカーン・シティFC監督。順天堂大学を経て1989年にNTT関東へ入団。1991年に住友金属へ移籍し、その後チーム名が変わった鹿島アントラーズの創設メンバーとしてJリーグ発足後も主力MFとして活躍。1998年にアビスパ福岡に移籍し、シーズン終了後に引退。鹿島アントラーズのユースチームコーチ、トップチームのフィジカルコーチ、総合コーチを経て、2015年シーズン途中に監督に就任。2016年J1優勝、クラブワールドカップ決勝へとクラブを導いた。2017年11月、大宮アルディージャ監督に就任。2019年、鹿嶋市の学校給食センターに調理員として勤務したのち、2019年12月よりタイリーグのサムットプラーカーン・シティFCの監督に就任。

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