阪神・糸原健斗、離脱の影響は? 快進撃を支えたオフの決断と、冷静な“自己否定”
REAL SPORTS / 2020年7月25日 12時33分
“史上最悪”の開幕からわずか2週間で勝率5割に戻した阪神タイガース。だがその快進撃の立役者、糸原健斗は離脱してしまった。2年連続で全試合出場を続けてきた主将がチームにもたらした影響は計り知れない。「スポーツニッポン(スポニチ)」で11年阪神担当記者を務める遠藤礼氏に、この現状をどのように見ているのか伝えてもらった。
(文=遠藤礼、写真=Getty Images)
ファンから悲痛の声があがった、糸原健斗の離脱Twitterも少々、荒れ気味だった。「情報早く!」「取材行ってください」「軽症を願ってます」。筆者のアカウントに次々と直接メッセージが届く。それほど、ファンにとって“重要案件”なのは間違いなかった。7月22日の広島カープ戦の5回「糸原に代わりまして……」のアナウンスに不穏な空気が漂った。
背番号33のアクシデントを意味する悲報。取材する番記者も今はコロナ禍で取材規制がかかっているため、球団のリリースを待つしかすべはない。そして、延長10回を戦って引き分けた直後、広報から「右手有鉤(ゆうこう)骨骨折」と発表された瞬間、思わず「え……」と言葉を失った。2018年から2年連続で全試合出場を続ける男。予想していた「大事を取って」ではなく、重症だった。ファンの絶望はもちろん、チームにとって痛恨の事実。7月上旬の時点で2勝10敗と開幕ダッシュに失敗したタイガースがわずか2週間ほどで勝率を5割に戻した立役者が、他でもない糸原健斗だったのだから……。
開幕から精彩を欠くも、チーム快進撃の立役者にチーム同様にスタートは精彩を欠いた。開幕スタメンに名を連ねたものの、打率1割台と低空飛行を続け先輩の上本博紀にスタメンを譲る日もあった。転機となったのは、7月5日の広島戦(マツダ)。5回から途中出場し、第2打席に右前打を放つと、離脱するまで連続試合安打はキャリア最長の12まで伸びた。打率は1週間強で3割に乗り、リーグ上位にランクイン。19日には初回から3打席連続で四球を選んだ。強みの選球眼もさえ渡り、失投は逃さず仕留められる。“打ち取りにくい打者”として、他球団の投手にとっては、非常にやっかいな存在になっていた。
「2番」という打順もマッチした。メジャーで主流となり、セ・リーグでも坂本勇人、ネフタリ・ソト、山田哲人と2番に長打率の高い強打者を置くトレンドが浸透しつつある中で、バントも進塁打もある糸原は“旧来型”。それでも、今年は1番・近本光司の不振が続き、昨年の盗塁王を起点とした攻撃も仕掛けられない状況で、2番の果たす役割は少なくない。出塁すればジャスティン・ボーア、ジェリー・サンズら中軸の前に好機を生み出すケースが増え、得点力は格段にアップ。糸原自身も、15日からの6試合で2本塁打、計7打点とクラッチヒッターとして存在感を見せてきた。
今オフから見直したトレーニング法、決断の信念“変革”も数字に結びついている。今オフ、トレーニング法を見直しウエートとともに取り入れたのが、逆立ちや、ブリッジという地味な鍛錬。重い器具でパワーアップを図るのと並行し、体を柔軟に使えるように「今までやったことのない動き」を取り入れた。目指したのは、スイングの改造。「昨年までは打席でとにかく力みまくっていたんで。今年は余計な力を入れずに、体を柔らかく使ってみようと。根本的な部分で体の使い方を変えてみようと思っていた」と狙いを明かす。
大きな決断には“小兵”としての揺るがぬ信念がある。「野球は距離を競うスポーツじゃないんで。自分のスタイルに合うものを見つけられた」。毎打席、フェンスオーバーする打球を期待されるタイプでなく、外野の間を抜く長打、野手の間に落ちる泥臭いヒットが生きる道だ。冷静に自己分析した結果の新たな挑戦。胸骨を意識したしなやかな脱力スイングで「H」ランプをともし続けてきた。
主将としての責任感、冷静な“自己否定”昨年からチームの主将を任され、責任感はより増した。開幕戦の出陣式では「監督を胴上げすることはもう決まっている」と言い切ってグラウンドに飛び出した。2年連続で全試合出場を継続してきた裏には冷静な“自己否定”がある。
「自分はホームランを打ったり、すごい守備をしたり、一芸はない。だからシーズン出続けることで安定感を見せたい。そこだけはこだわってきた。他の人が3打数1安打なら、自分は3打数2安打。もう一本打つ……そういう積み重ねで勝負してる」
派手さを捨て、ヒット一本、一つの四球の積み重ねで生きる。球界のトレンドにも逆らう「2番・糸原」が、目覚めた猛虎をさらに高みへ押し上げるはずだった。
獅子奮迅の活躍を見せた“2番”の穴をどう埋めるのか?有鉤骨の骨折は手術を要する可能性が高く、長期離脱は避けられない状況。上昇ムードの出てきたチームの勢いを減速させないためには、救世主の登場が必要になる。矢野燿大監督から主将代行を託された北條史也は、その筆頭候補。23日の広島戦から2番を任され、24日の中日戦では7回に逆転の3点適時二塁打を放ってヒーローになった。打力でいえば、ファームで再調整中の上本の昇格も待たれる。1軍に同行している植田海、熊谷敬宥の俊足コンビも今後、出番は増えてくるはずだ。
助っ人としての実力を発揮し始めたサンズ、ボーアの前にぽっかり空いた“糸原の穴”をいかに、そして、誰が埋めるのか。2番が“難題”となれば猛虎は牙を抜かれてしまいかねない。
<了>
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