優勝が絶望的な阪神…巨人独走のシーズンに、それでも勝利に拘って戦うべき理由
REAL SPORTS / 2020年9月25日 14時32分
2020年のセ・リーグ、その趨勢(すうせい)は決しつつある。9月24日時点で首位の読売ジャイアンツはM28、2位の阪神タイガースは11.5ゲーム差をつけられている。ファンの間では来季を見据えた戦いをするべきだという声も上がっている。だが本当にそれが正解なのだろうか?「スポーツニッポン(スポニチ)」で11年阪神担当記者を務める遠藤礼氏は、最後の最後まで戦うべき理由があるという――。
(文=遠藤礼、写真=Getty Images)
巨人相手に大きく負け越し、リーグ優勝は厳しい状況に…いつもと違う目の前の光景にちょっとした“違和感”すら覚えてしまった。9月17日の読売ジャイアンツ戦。阪神タイガースは、投打がかみ合い11対0で大勝した。
試合が終わるとベンチ裏で選手取材に走っていたこれまでの日常は、コロナ禍のシーズンでは無くなってしまった。東京ドームの場合は三塁側のスタンドに設置された記者席に座ったまま、オンライン取材や球団広報から配信されるコメントを待つ。その時間、グラウンドでは監督や選手のヒーローインタビューが行われ、締めくくりとして、おなじみの「闘魂こめて」が響き渡る。
この夜、今季初めてその一連の“勝利の儀式”を目にしなかった。前日まで東京ドームでは8戦全敗。開幕から約3カ月が経ち、9試合目にしてタイガースはようやく敵地で白星を挙げた。エース・西勇輝の自身2試合連続完封で同一カード3連敗の危機を脱してようやく一矢報いた1勝。ただ、終盤に差し掛かろうとしている2020年のセ・リーグ ペナントレースの趨勢は見えつつある。7月24日時点でジャイアンツに11.5ゲーム差つけられての2位と独走を許している状況。タイガースも勝率5割を上回り、他の4球団には五分以上の成績。決して低迷しているわけではないのに“敗北感”を色濃くしているのは、やはりジャイアンツとの直接対決で4勝12敗と大きく負け越してしまっている事実からくる。
見る者の心を揺さぶる野球を、今こそ思い起こすべきジャイアンツに点灯している優勝マジックが「0」にならない限り「逆転優勝」の可能性は残っている。矢野燿大監督も数字的には厳しい状況に追い込まれても「俺たちは目の前の試合を一試合、一試合戦っていく」と繰り返し、ファイティングポーズを崩していない。追いかける目標は決して近くないし、なかなか近づいてもこない。SNSなどでは、球団のプロスペクト(有望株)である井上広大や西純矢の昇格など来季以降を見据えた戦いを望むファンの声も見かけるが、まだまだ“ガチンコ”で貪欲に一勝をつかみにいくのは当然。今季に限ってはクライマックスシリーズの開催が無く、日本一への道はリーグ優勝でしかつながらない。
それでいて、今年は特別な一年だ。開幕は予定の3月から大幅に遅れ、6月以降もしばらくは無観客での開催が続いた。行きたくても球場に足を運べないファンも多くいたはず。時間の経過とともにイベント入場者の上限は緩和され、阪神甲子園球場も10月からは2万人程度に引き上げられる予定。シーズンが佳境を迎えるとともに“飢え”を潤すように多くのファンが聖地に詰めかけてくる。
2位でも、優勝の可能性が低くても……、そんな今こそ、チームのスローガン「It’s 勝笑 Time!オレがヤル」を体現する野球で心を揺さぶる試合をスタンドのファンに届けたい。矢野監督は就任以来「超積極的」「諦めない」「誰かを喜ばせる」と3つの信念を口にして、タクトを振ってきた。選手がベンチに向かって喜びを表現する「矢野ガッツ」もその一つ。気のせいか、シーズン中盤からは塁上で選手が力強く拳を握る光景も少なくなったようで寂しく感じた。結果が問われるプロの世界で常に笑顔でプレーするのはきれい事だと分かっていても、最後まで今のタイガースにしかできない野球を貫いてほしい。
転換期を迎えた今だからこそ、屈辱を味わったままでは終われないそして、チームは大きな転換期を迎えている。長年、クローザーを務めた藤川球児は今季限りでの引退を表明し、41歳の能見篤史は2軍で再調整中。福留孝介、糸井嘉男も休まずスタメンに名を連ねることはなくなった。今後も要所ではベテランの力は必要な一方、毎日グラウンドで体を張り、勝敗の責任を負っていく選手たちの顔ぶれが変わってきたことは間違いない。リーグ本塁打王を争う大山悠輔、リードオフマンを務める近本光司、球界屈指の捕手に成長した梅野隆太郎、次代のエース候補・髙橋遥人……。チームとはいいながら、目の前の一球、一打席に勝負を懸けるのは個々の選手たちだ。間違いなく猛虎の“コア”となっていく生え抜きの面々が、宿命ともいえる「伝統の一戦」で味わった屈辱を糧にどのように牙をむいていくのか。
数え切れないほど、その使命を背負ってマウンドに上がってきた藤川は、引退会見の場で力を込めた。「僕は阪神の先輩方から伝統を預かって、今年限りで選手としての任務を解かれるわけですけど、それも含めてつながなきゃいけない。西対東、東対西。スポーツの世界だけと違う。阪神に入った時にそういう教育があったから。(巨人に)向かっていかないといけない」。バトンは確かに託されている。10月2日からは甲子園でジャイアンツとの4連戦が控える。やり返す機会は残されている。意地と執念、そして笑顔が詰まった勝利を。タテジマの男たちが“戦う理由”はまだたくさんある。
<了>
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