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リフティングできないと試合に出さないは愚策? 元ドイツ代表指導者が明言する「出場機会の平等」の重要性

REAL SPORTS / 2020年9月28日 12時30分

サッカーの育成年代においてなにを重要視するかは国によってさまざま。ここではドイツの指導者の言葉に耳を傾けたい。現在はフォルトゥナ・デュッセルドルフU-23のアシスタントコーチを務める元ドイツ代表DFルーカス・シンキビッツ。現役時代はFCケルンやレバークーゼンといったクラブを渡り歩き、現役引退後は指導者への道を選び、育成年代の指導歴も豊富だ。そんなシンキビッツが語る「とにかく試合に出る」ことの重要性、そして「たくさんミスを経験させる」意味とは。

(コーディネート・翻訳=中野吉之伴、写真=Getty Images)

十分な試合出場時間って全体の50%くらい?

試合というのは自分たちの成果を出すところでもある。だから全員が無条件で全試合まんべんなく時間を均等に割って出場させるというわけにはいかない。チームにとって大事な戦力で、いつでもモチベーションが高く、仲間のためにプレーできるという選手だったら、85〜90%の出場時間があったほうがプラスに働くことは多いだろうし、まだまだこれからという選手だったらそれより多少は出場時間が少なくなってしまうのはしょうがない。

でもみんなサッカーが好きで、トレーニングにもちゃんと来て、一生懸命取り組んでいるのであれば、それぞれに十分な試合出場時間を確保することは指導者としての義務だ。

十分な出場時間というのは全体の50%くらいが目安かって? いやいや、最低でも50%だろう。僕だったら60〜70%を最低ラインに設定する。そして小さい年代であればあるほど、出場時間の比率は高くしてあげないといけない。

チーム内で実力差が出てしまうこともあるだろう。そんな時は、他の選手からちょっと実力的に離れているという選手のために、彼らがフル出場できるような対戦相手との練習試合とか、彼らが主力として参加できる大会の頻度を増やすべきだ。その子たちの親からすると、「うちの子が出場できるのは弱い相手とか、練習試合ばっかりじゃないか」と言われるかもしれない。でも、大事なのは立場の平等よりも、機会の平等なんだよ。「彼が自分のプレーをしっかりと発揮できるレベルがまだそこなんだ」ということを丁寧に説明することも指導者に求められる大事なことだ。

リフティングができないと試合に出さないってホント?

ところで「リフティングが既定の数できないと試合に出さない」みたいなルールを作っているチームが日本にはあるって聞いたけど本当かい?

なにを考えているんだ????
子どもたちにとってベストのトレーニングは試合なのに?????

そもそも試合に出るために条件を設けるというのは本当によくないことなんだ。すべてがこれからの子どもたちにプレッシャーをかけてどうする? 子どもたちにとって一番大切なのは、「サッカーって楽しい!」と心の底から思える瞬間をたくさん持つことだよ。そして、それは誰もが手にしなければならない権利なんだ。

子どもたちの成長スピードはみんなそれぞれ違う。3カ月くらいですごく成長が見られることだって普通にあるんだよ。1〜2年かかる子もいるかもしれない。それでもみんな必ず成長するんだ。でも、試合に出ることもできなければ、その成長をすることができないじゃないか?

サッカーは技術だけでするものじゃない。サッカーには確かな目だったり、思いもよらぬアイデアだったり、それこそフィジカル能力も必要だし、いろんなメンタル要素も、インテリジェンスも欠かせない。

見た目が良かったり、派手なプレーだけがサッカーのすべてじゃない。相手の攻撃を食い止める泥臭いプレーができる選手だって必要だし、チームにとってすごく大切じゃないか。体を張って相手の攻撃を跳ね返し続ける選手がいなかったら、ゲームになるだろうか。足が速くてスペースを突くのに長けた選手がいたら、どれだけチームの助けになるだろうか。

さまざまな関わり方ができるから、サッカーは面白いんだよ。さまざまな勝ち方があるから、ドキドキワクワクするんじゃないか。技術に優れた選手は必要だけど、みんながみんな同じようなプレーをしたからって相手を上回れるということにはならないだろう?

試合には全員が出る。そこがスタート

僕には、フリースタイルのような曲芸プレーはできない。でもブンデスリーガでデビューして、プロ選手として長くプレーしていたよ。代表選手にもなった。リフティングだって得意じゃない。そんなに多くはできないだろうね。そんな僕よりリフティングがうまくない選手が代表で10人はいたんだ。じゃあドイツ代表は世界のサッカー界でなにも勝ち取れていない?

子どもたちは、サッカーというゲームを戦う上でなにが大切かを知らなきゃいけない。それを知る場所、それを見つける場所こそが試合なんだ。

リフティングが100回できるくらいの足元の技術がないと試合に出れない? だったらサッカーはパワーもすごく必要だから、腕立て伏せ100回できないと試合に出さないのか。頭の回転も必要だから、小学校低学年でも四則計算で検定試験でも合格しなきゃいけないのか。そんな窮屈なことを子どもたちに課してなにを手にすることができるというんだ?

試合には全員が出る。そこがスタートなんだ。負けることもあるよ。勝てそうだった試合で勝てなかったらそりゃあ悔しい。でもみんなが試合に出ることが大事だということをみんながわからないといけない。彼らはチームとはなにかをわかり合うことが必要なんだ。そしてそのためにこそ、指導者がいるじゃないのか? うまくいかないときに僕ら指導者がなにをするかが大事なんだよ。

みんなそれぞれに特徴があって長所がある。そこが出発点だ。自分の武器を生かすためにどうすればいいかにチャレンジしていく。そのベストの場が試合なんだ。だから試合環境の整理は欠かせない大事な基盤なんだよ。

野心的な親は、子どもはすべてをできると思っていることが多い。できないことがあるとまるですべてがだめであるかのような反応を見せる。でもそれは間違いなんだ。子ども自身が自分の性格、特徴を知り、自分の良さの出し方を学び、それをチームの中で生かし方を探していく。そのことが一番大切なんじゃないだろうか。

もっともっと自分でミスをさせる重要性

ブンデスリーガでプレーする日本人選手を見ていていつも思うんだが、みんな本当にしっかりと育成されてきた選手ばかりだ。こちらが予想できるA、B、Cといったプレーをしっかりとやり遂げる。育成年代から時間をかけて繰り返しトレーニングを積んできたんだなと感じるよ。でも「良い選手」の領域を超える選手は? サッカーというゲームの中でやるべきことはもちろんちゃんとやれるようになるべきだけど、自分の特徴をどのように最大限発揮するのかが抜けていないだろうか? そう考えたら、選手を条件に当てはめて選んだり、指示を重ねて子どもたちの可能性を閉ざす行為は避けたほうがいい。

大事なのは育成の間にもっともっと自分でミスをさせること。そしてミスから改善点を探させることなんだ。指導者がプレーを決めるんじゃない。ヒントは与える。状況整理の手伝いはする。でも決断はいつでも選手ができるようにしないといけないんだ。

ミスの仕方を分析する。どんなプレーにチャレンジしたのかを考察する。それが大事なんだ。試合は絶対に出なくてはならない大事な場所だ。

「あの子はうまくないから、いずれサッカーをやらなくなるから別に関係ない」なんて目で見るなんて悲しすぎないか。自分が愛するスポーツをしてくれている子どもたちが、同じようにそのスポーツを愛してくれて、いつまでも関わっていきたいと思ってもらえるように伝えていくのは当たり前のことじゃないのか。途中でほかのことをしたり、サッカーから離れていくことはあるだろう。でも、その要因を自分たちが作るのは愚かなことだと思う。

それぞれの年代における指針はある。でも8歳までにここまでできなきゃいけないという条件を作るのは間違っている。同じように12歳までには、15歳までには18歳までにはなんて線引きが、彼らの成長を妨げてしまうのであれば、考え方のほうを変えなきゃいけない。

やらせすぎは間違いなくよくない

僕は特にものごとを認知するところがスタートだと思っている。いまどんな状態なのか、なにを見たのか、そこでなにをすべきなのか。小さいときからすぐに答えを与えてしまったら、なにかうまくいかないことがあるだけですぐに指導者からの答えを求めてしまう。でも答えを与え続けてしまったら、自分で答えを見つけることがいつまでたってもできないんだ。それでいいのだろうか? 

そうではないはずだ。自立して生きることの大切さはみんなちゃんとわかっているんじゃないだろうか。だったら、子どもたちのためにどんな関わり方をすべきか、大人が真剣に考えなきゃだめだ。

あともう1つ大事なのは子どもたちの毎日のスケジュールのあり方に気を配ることだ。子どもたちは毎日とても忙しい生活を送っている。ドイツでもブンデスリーガの育成アカデミーに入ったら、U-12、U-13年代で週に6回もトレーニングをやることだってある。みんなはこのことをどう思っているんだろう? これでも少ないという人もいるけど、どうしてそういう考えになるんだろう。

例えばプロ選手は週に7〜8回トレーニングをする。そうすることでシーズンを通してトップレベルのパフォーマンスを出すために必要だからだ。でも彼らが取り組むことはサッカーだけだ。サッカーでパフォーマンスを発揮するためにどうすればいいかを考えるのが、彼らの仕事でもある。

でも子どもたちはどうだろう?

サッカーだけをやっていればいいのか? そんなことはない。学校があるだろう? 学ぶことは人生をしっかりと歩んでいくためにとても大切だ。個々のパーソナリティの成長は? どうすれば成長する機会を持つことができる? 友人との時間とか、家族との時間とか。一人でゆっくりする時間も大切だ。そうやって身体も、心も成長することができる。やらせすぎは間違いなくよくないんだ。練習頻度や量は少ないほうがいいこともあるというのを絶対に忘れてはいけない。

<了>






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