「金の卵」発掘の秘訣は? プロのスカウトが明かす「即戦力と将来性」見極め術3選
REAL SPORTS / 2020年10月26日 11時30分
いよいよ今年もプロ野球ドラフト会議が始まる。球団にとっては、いかに「金の卵」を発掘できるかが、中長期的なチーム強化を考える上で非常に大きな影響を与える。そんなチームの命運を握っているスカウトたちは、いったいどんな目線で選手を見ているのだろうか? 一言で「将来性」「即戦力」とはいうものの、具体的にはいったいどんな基準で評価しているのか、知られざるスカウトの“見極め術“を伝える――。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
コロナ禍のドラフト会議では、例年以上に「ドラフトの目利き」が試される10月26日に行われるドラフト会議。
今年も多くのアマチュア選手が各球団から指名を受け、プロの世界に飛び込むことになる。
コロナ禍に襲われた2020年は、例年に比べ実戦の場が圧倒的に少ない。当然、各球団のスカウトが選手のプレーを見る機会も制限されてきた。そのぶん、今年はいつもより「スカウトの目」が試されるドラフトになるといえるかもしれない。
プロ野球には、さまざまなタイプの選手がいる。投手でいえば剛速球がウリの本格派や制球力、駆け引きに長けた技巧派。打者でいえば長打力が武器のスラッガー、ミート力に優れた安打製造機タイプ、足の速さや守備力など、一芸に秀でた選手……。
ドラフトで指名される選手も、同様だ。
それぞれに個性があり、ウリがある。
そこで気になるのが、プロのスカウトは、いったい選手のどこを見て、「欲しい」と思うのか。
数字だけでは測ることができない選手の実力をどう分析し、「プロでも通用する」と確信するのか。
筆者は過去、プロ野球のスカウトや編成を担う人物にも取材をした経験があるが、そこで実際に聞いた「スカウティングのポイント」を一部、紹介したいと思う。また、選手のスカウティング基準は球団、スカウト個人にとって「企業秘密」になる部分もあるため、球団名、スカウト名は一部を除いて控えさせていただく。
プロのスカウトの目線①:球速以上の「キレ」「ノビ」の見極め最初は、投手の実力を見るためのポイントだ。
投手の球速向上傾向が目覚ましい近年では、アマチュアでも「最速150キロ以上」を誇る投手が珍しくなくなってきた。その一方で「投手は球速がすべてではない」という認識も広まってきている。
では、重要なのは球速ではなく、何なのか?
よく言われるのが、ボールの「キレ」や「ノビ」だ。これらはスピードガンの数字だけで測ることはできず、いまだに「キレ」「ノビ」とは何かを具体的に解明できているわけではない。現在は科学技術の進歩で、球速だけでなく、ボールの変化量や回転数まで測ることができるようになったが、それらとの相関関係も明確になっていないのが現状だ。
そこで、重要になってくるのが投手と対峙(たいじ)した際の「打者の反応」になる。
例えば、スピード自体はそこまで出ていないのに、不思議と打者が差し込まれたり、振り遅れたりする投手がいる。これは、表示される球速以上に、打者の「体感速度」が速いことを意味する。低めを見逃してストライクとなった際に、打者が首を傾げたり、「えっ?」と驚いた表情を見せたら、想定以上にボールがノビてきていることの証しだ。
この話を聞いた際に具体例として名前が挙がったのは、和田毅(ソフトバンク)と杉内俊哉(元巨人ほか)だった。2投手とも球速は130~140キロ台だが、「ストレートで空振りが奪える」本格派左腕としてプロでも実績を残している。
逆に、150キロ以上出ているのに迷わず引っ張られたり、簡単にボール球を見極められるようなケースは、「球速ほど、ボールが来ていない」ことになる。
スカウトやスコアラーは実際に打席に立つことができないため、投手のボールが打者にどう見えるのかを探るには、打者がどんな反応を見せているかを注視する必要がある。
打たれたか、打たれなかったかの「結果論」ではなく、対峙した打者が打席の中でどんな反応を見せ、どんなリアクションをしたかをチェックすることで、投手の持つ「本当の実力」が透けて見えるという。
プロのスカウトの目線②:プロ入り後に自分を崩してしまわない見極め「投手、打者ともに自分のフォーム=型が定着している選手は、プロでも通用する可能性が高い」。そう語ってくれたスカウトもいた。
野球というスポーツにおいて、「再現性を高める」ことは投打ともに重要になる。投手であれば一定のフォーム、一定のリリースポイントを常に再現できれば、制球や球速も安定する。打者の場合も同様で、常に自身が理想とするフォームを再現できるようになれば、調子の波がなくなったり、打席内でも緩急や多彩な球種に順応しやすくなる。
また、自分の型にしっかりとこだわりを持っている選手は、プロ入り後にどんな指導を受けたとしても「変えるべきところ」と「変えてはいけないところ」を理解できるという。
選手の中にはプロ入り後、別人のようにフォームが変わってしまう選手もいる。そういう選手は自分の型が定まっておらず、自信もないため、いろいろな人からされるアドバイスをすべてうのみにしてしまってフォームを崩してしまうことが多い。
そのため、スカウトの中には選手を獲得する際、球団に対して「○年間はフォームをいじらないでほしい」とお願いするケースもあるそうだ。
プロのスカウトの目線③:自分を律し、真摯に野球に取り組む見極めこれは、野球を経験したことがある人にとっては「あるある」の一つ。うまい選手は、ユニフォームの着こなしが「カッコいい」のだ。
プロ野球選手を間近で見るとわかるが、どの選手もユニフォームをビシッと着こなしている。もちろん、プロの場合はしっかりと採寸して、体形に合ったユニフォームを着用したり、一流になれば自身のこだわりをユニフォーム作成時に伝えるケースもある。
ただアマチュアでも、例えば強豪校の選手とそうではない高校の選手を見比べたとき、「着こなし」だけで「うまそう」「強そう」と感じることができる。
ただ、プロのスカウトが一見、実力とは無関係にも思える「着こなし」まで見ているとは、正直いって驚きだった。
「着こなし」に注目する理由は、主に2つ。一つは、前述の「オーラ」のようなもの。スター性とも言い換えることができるかもしれないが、はっきりいってそこに科学的なエビデンスはない。筆者がこの話を聞いたスカウト自身も「雰囲気」と答えてくれたが、スカウティングの際には第三者的な目線で見る数字や技術だけでなく、スカウト個人の直感も、重要になるという。
もう一つが、「着こなし」から透けて見える選手の性格、精神面だ。このケースは試合中よりもむしろ、練習時の方が参考になるという。試合ではないからといってだらしない着こなしをしている選手は、日常生活から自分を律することができていない。日々の練習態度や野球に取り組む姿勢が、ユニフォームの着こなしにも表れてくるという。
全国的に無名だった鈴木誠也の獲得を進言した尾形スカウトの目利きここで挙げた「スカウティングの基準」は、もちろんほんの一例にすぎない。
ネットが普及し、ドラフト候補たちのスペックは、いわゆる地方の「育成候補」ですら簡単に入手できる時代になった。だからこそ、ライバル球団に差をつけるのは現場でしか見られない「数字以外のもの」になってくる。
最後に、これらを踏まえて一つ、実例も紹介したい。広島の4番・鈴木誠也を担当した尾形佳紀スカウトのエピソードだ。
2012年ドラフト、広島は鈴木をドラフト2位で指名。甲子園身出場、全国の舞台での実績は皆無だった高校生を上位で指名した陰には、スカウトの猛プッシュがあった。
「もちろん、野球の技術は素晴らしい。練習もよくするし、体も強いので、うちの厳しい練習にも耐えられると思っていました。ただ、私が一番ほれ込んだのはその『走る姿』です」
足が速いとか、そういう次元の話ではない。ただ単に、走っているだけで感じることができる全身のバネ、野球センス。高校時代は投手だった鈴木を、「梵英心の後継者」のショートとして獲得するように進言したのも、それが理由だ。
「内野の経験はあまりなかったですけど、プロで3年くらいやればすごいショートになると思いました。結果的には外野に転向して『あれ?』とは思いましたけど……(笑)。それでも、3年間で徐々に力をつけて4年目に才能が開花。スカウトとして、選手が思ったように成長してくれる姿を見るのは本当にうれしいです」
当時の広島はドラフトで将来性のあるショートを獲得する方針で動いていたが、鈴木の指名については「下位でもいいのでは」という声があったという。
しかし尾形は「確実に取るなら2位まで」と、彼の好プレーだけを収めたDVDを編集して、スカウト会議で自らプレゼン。結果、希望通り2位で指名することができ、鈴木は無事にカープのユニフォームに袖を通すことになる。
数字だけでなくその「走る姿」にほれ込んで球団に獲得を猛プッシュした尾形スカウト。
おそらくドラフト直前の今も、各球団のスカウトは自らの「目」でほれ込んだ選手の獲得を、チームに進言しているはずだ。
10月26日、ドラフト会議。
今年はどんな選手がスカウトに見いだされ、ほれ込まれて指名を受けるのか。
球団、スカウトが指名選手の「どこ」を評価したのかを考えながら見ると、ドラフトの楽しみがまた一つ、増えるかもしれない。
<了>
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