新庄剛志の夢を拒んだ日本球界の頑迷。完全出来高払い、フリーランス選手は”漫画の世界”なのか?
REAL SPORTS / 2020年12月23日 19時47分
2006年、北海道日本ハムファイターズで現役を引退した新庄剛志の“48歳の再挑戦”が、12球団合同トライアウトを大いに盛り上げた。「宇宙人」新庄に期待を寄せる声も大きかったが、13日、新庄が自身のInstagramで「1%の可能性を信じてやってきたが、今日0%になり、ただただ悔しいし情けない」と語ったことで、前代未聞のチャレンジは「オファーなし」での幕引きとなった。トライアウトでもタイムリーを放った新庄をプロ野球の舞台でもう一度見たいという声は根強い。作家・スポーツライターの小林信也氏は、選手のあり方、契約の多様化を認めないNPBの頑迷さを指摘する。
(文=小林信也)
新庄が打席に立つ! そのワクワクを求めるファンの声に応えるべき新庄剛志は、どの球団からも声がかからなかった。
「新庄が見たい!」、多くのファンが望んだ声を、プロ野球12球団はあっさりと袖にした。
ファンの声を無視して「新庄を拒絶する理由」は何だろう?
その答えさえ、ファンには知らされていない。
「無理に決まってるじゃないか」
プロ野球関係者の声が聞こえてくるようだ。
「まともに相手はしていられないよ」、さしずめ、そんなところだろう。
一定レベルや真剣勝負の姿勢を維持するのもプロ野球の責任だから、私は今回の12球団の判断に真っ向から異議を唱えるわけではない。だが、1球団くらい、新庄にチャンスを与えよう、新庄の才能に乗ってみようと考える球団があってもよいのではないか、と残念に思った。
「力が足りなかった?」
多くの報道は、そのようなニュアンスで「挑戦成就せず」の理由を伝えたが、それは最大の要因ではないように思う。事実、トライアウトでタイムリーヒットを打った。48歳のいまも、プロ野球レベルのスピードについていける技術や反射神経があることを新庄は証明した。しかし、契約には至らなかった。
「新庄は1年間やれるか? 一線級を相手に打てるだろうか?」
プロ野球各球団の判断基準はそこにあったのかもしれない。だが、ファンは、新庄が1年間ずっとコンスタントに活躍しなくたって、エース級には打てなくたって、新庄がNPBのグラウンドで躍動してくれること、それだけでワクワクするのではないか。不可能を可能にする、ありえないことをやってくれそうなのが、新庄剛志だ。たとえ普段は、千賀滉大(福岡ソフトバンクホークス)の快速球やフォークボールに三振の連続でも、ここぞの場面で、打っちゃうかもしれない。そんなシーンがもし一度でも生まれたら爽快じゃないか。ファンはそれを期待している。
だが、プロ野球の12球団全部が「そんな夢には付き合わない」と回答したのに等しい。多くのファンがワクワクする未来を門前払いされた理由がはっきりしない。そのもやもやが残っている。
新庄がNPB球団から誘ってもらえなかった一方で、阪神を自由契約になった福留孝介外野手は古巣の中日入団が決まった。福留も来春には44歳になる。今季の成績は、出場43試合、92回打席に立って78打数12安打、打率1割5分4厘。ホームラン1本。それでも福留にはチャンスが与えられ、新庄には与えられなかった。
その理由を推察すると、プロ野球界の遅れた制度、堅苦しい縛りが浮き上がってくる。
「貴重な支配下登録の枠(70人)を、すでに48歳の新庄に使うわけにいかない」
それが最も正論的な拒否理由だが、70人もの枠があるのだ、他に育成枠もある。その気になれば、どうにでもできるだろう。
完全出来高払い、フリーランスのプロ野球選手がいてもいい私はかつて、『クラッシュ!正宗(双葉社、作画・たなか亜希夫)』という漫画の原作を書いていた(作画はたなか亜希夫氏)。『週刊漫画アクション』で連載された(1995~1997)作品の主人公・正宗は「1アウト100万円のリリーフエース」。突如現れ、ヤクルトに入団する。ちょうどその年の現実とリンクさせ、日本シリーズでオリックスのイチロー選手とも対決した。なかなかの人気漫画だった。
連載中、球界に肖像権問題が起こり、プロ野球選手会が水島新司さんにも肖像権料の支払いを要求する事態となって、『クラッシュ政宗』もヤクルト球団の協力が取り消しになり連載終了に至った。だが、「1アウト100万円のリリーフエース」のキャラクターは多くの読者に歓迎された。漫画だからという前提はあるにしろ、誰に話しても「面白い!」と喜んでもらえた。
現実に、「1アウト100万円」のセットアッパーやクローザーが登場したら面白いし、「ヒット1本、あるいは1打点100万円のピンチヒッター」がいたらプロ野球界は活気づくのではないだろうか。いずれも、現実にあってもいいだろう、と思っている。そしていままさに、新庄剛志が、フリーランスのプロ野球選手として登場する道を作りだしてほしかった。
世の中では、フリーランスが活躍している。モノづくりの現場はフリーランスであふれている。政府も働き方の多様化のため、フリーランス保護を打ち出し、2020年7月の『成長戦略実行計画』にフリーランスの環境整備を盛り込んだ。ならば、“フリーランスのプロ野球選手”がいたっていい。
プロ野球の球団と選手の契約は1年単位を前提にしている。これが1カ月、1週間、あるいは1試合でもいいじゃないかと考えるプロ野球人はなぜ現れないのだろう?
年棒制に加えて「出来高払い」が導入されて久しい。ならば、完全出来高制のプロ野球選手がいたっていいだろう、という発想で、門戸を広げる道を考えてほしいものだ。
それでは保障がなくて不安定、選手がかわいそうだとの声もあがるだろう。それは確かだ。けれどね、われわれフリーランスの物書きにはそもそも、最低保障もなければ、失業時の補償だってない。この道が好き、この道で生きたいと思うから続けている。そんな人はいま世の中にたくさんいるだろう。おかげで、チャンスもいただける。
プロ野球が、柔軟な契約を認めず、長年の慣習に縛られて改革しないことが、新庄の問題だけでなく多くの弊害を生み出している。
<了>
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