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それでもなくならない「セ・パ格差」。巨人・山口オーナー「DH制導入」提案の詭弁と腹中

REAL SPORTS / 2020年12月30日 19時0分

14日に行われたセ・リーグ理事会で、巨人が山口寿一オーナー名で「来季のDH制度の暫定導入」を提案した。理事会では、賛意を示したのは巨人を含む2球団のみで、採用は見送りとなったが、山口オーナーはその後もメディアの取材に応えて新型コロナウイルスの影響、東京オリンピックによる公式戦中断への備えとしてDH制の必要性を訴えている。作家・スポーツライターの小林信也氏は、「DH制導入は選手を守る効果は薄い」と指摘する。

(文=小林信也、写真=Getty Images)

「2021シーズンの暫定DH制導入」巨人・山口オーナーの提案

巨人が提案した来季のDH制導入は、他5球団の反対で見送られた。これに関連して取材に応じた巨人・山口寿一オーナーの見解をスポーツ新聞各紙が報じている。

各紙の報道を総合すると、山口オーナーは新型コロナウイルスの影響が続くだろう来季も、「選手たちは、今季以上に調整に苦労するのではないか」(デイリースポーツ)との見解から、「かけがえのない財産」である選手を守るため、来季限定のDH制導入を訴えている。またサンケイスポーツによれば、セ・パの実力格差が広がった一要因としてDH制の有無があるという見方に対して「その見方が正しいと私は考えています」と答えたという。

今回の山口オーナーの提案は、福岡ソフトバンクホークスに2年続けて4連敗を喫した巨人・原監督がかねて提唱している本格的なDH制の導入とは別。あくまでコロナ禍をふまえて「選手の体調を守るため」の提案だったという。

私は山口オーナーの発言に触れて、二重三重に失望を禁じえなかった。

すべての理由をDH制に求め、DH制さえ採用すれば問題はかなり改善すると言っているように聞こえる。果たしてそうだろうか? いずれにしても巨人のオーナーともあろう人が、本気で野球界の未来を考えていないこと、他人からの受け売りをそのまま信じているような安易さがうかがえた。

「選手を守るため」ならば他にやることがある

例えば、本当に「かけがえのない財産」である選手の体調を案じているなら、なぜ144試合も強行しようとするのか? この点の検討と問題提起が先ではないのか?

今年は2カ月以上開幕が遅れながら野球協約に定める最低数の120試合を強行した。メジャーリーグ(MLB)が60試合にとどめ、逆にプレーオフ進出チーム数を増やすなど、ポストシーズンの充実を図った方向性と対照的だった。

来季も過密日程が心配されるなら、選手のコンディションを考え、せめて今年と同じ120試合にするなど緩やかな日程を検討するのが筋だろう。

山口オーナーは、DH制の導入が選手の負担軽減につながると考えているようだが、DH制で負担が軽くなるのは投手とベンチ、ブルペンだけで、大半の野手たちには何の恩恵もない。細かなことを言えば、相手の打力が上がるから、守備側の負担は大きくなるだろう。

原監督の従前の提言とは別というが、時間限定的にでもセ・リーグが公式戦でDH制を採用すれば、その実績は残る。なし崩し的にDH制の採用に向かう可能性も含め、腹案がもしあるのなら、フェアとはいえない発言だろう。

DH制導入の是非、メリットとデメリットとは?

そもそも、セ・リーグがDH制を採用する是非についてはどう考えるべきだろう?

私はかねてプロ野球および野球界の大改革が急務だと提言している立場だから、DH制の採用をただ保守的な感情論で反対はしない。

実際に、プロ野球の投手たちは熱心に打撃練習をしていない。時に快打を放つこともあるが、確率は低い。9人にひとり、ワクワクしない勝負を見せられるのはお金を取って見せるエンターテイメントとしてはおかしいとの指摘もあり得るだろう。だが、それも野球の呼吸というか打順の綾、それがあっての野球の妙味とも考えられる。

だが、自分がアマチュアの投手だった経験からしても、「打席に立たず投げるだけの試合」は想像がしにくい。セ・パともにDH制を採用した際の一番の影響は、日本において「野球とはそういうもの」になることだ。投手はただ投げるだけの人という常識が固定化される。

小中学生や高校生、大半の草野球では投手も打席に立つから、プロとアマは違う競技になる。DH制とそれが当たり前の“常識”は、すでにパ・リーグでは定着し、アマチュア球界にも波及している。だが、すべての野球がDH制に移行する防波堤の役割をセ・リーグが果たしていたように感じる。その防波堤が崩れたら、小中高校野球などが、投手に打たせる根拠を失うことになりかねない。

原監督は、この点をどう考えているのだろう?

大局を見るのでなく、自分たちの勝負の都合ばかり考えているとすれば、すでに廃れつつある「球界の盟主」の名はますます遠い過去の物になる。アマチュア野球全体への影響は考えていないのか。あるいは、アマチュアも含めてDH制を推奨すべきというメッセージなのか?

今回の山口オーナーの提案はあまりにも貧困だ。もし巨人のオーナーが公募制だったら、この程度のアイデアしかない人は採用にならないだろう。責任感も危機感も感じられない。

日本シリーズ後、セ・パの実力格差が生まれた要因がDH制だとする報道やファンの意見が多く聞かれた。果たして本当にそうだろうか。もっと本質的な球団経営の姿勢や理念、チーム強化の体制にこそ決定的な開きがあると考える方が的確だし、当事者として目を向けるべき重要なポイントではないだろうか。格差を生んだ本質から目をそらし、DH制のせいにするなら今後いっそう格差は広がるだろう。

<了>


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