市立和歌山・小園健太、真の武器は「152キロ」ではない。高校No.1投手の計算尽くしの投球術
REAL SPORTS / 2021年1月30日 11時30分
3月19日に開幕する選抜高校野球大会の出場校が発表された。昨年の秋季近畿大会で県内最大のライバル・智辯和歌山を破りベスト4の成績を残した市立和歌山が、2年ぶり7回目の出場を決めた。その中でも特に注目を集めているのが、小園健太だ。高校ナンバーワン投手の呼び声も高い右腕には、「152キロ」という球速に注目が集まりがちだ。だが球速だけで評価をしてしまうと、その本当のすごみを見誤ることになる――。
(取材・構成・撮影=氏原英明)
選抜出場の市立和歌山、注目は今大会ナンバーワンの呼び声高い投手新型コロナウイルスがスポーツ界に与えた影響は計り知れない。
東京五輪の延期はもとより、学生スポーツの主要大会の多くが中止を余儀なくされ、2020年のスポーツシーンは寂しいものになった。
スポーツの価値があらためて問われた時間にもなったが、一方で、苦しい時を乗り越えて復活する姿を見る喜びが大きくなっているというのもまた事実である。
3月19日に開幕する第93回選抜高校野球大会の出場校が発表された。
昨年は史上初めて、春・夏の甲子園が中止になり、待ちわびたファンも多くいただろう。全国規模の公式戦がなかっただけに、雌伏の時間を超えて再開する今大会に注目が集まるのは間違いない。
そうした公式戦が見られる喜びに加えてもう一つの興味として挙げたいのが、昨年成長した姿を全国で見せられなかった新3年生たちの、ベールを脱ぐ瞬間がついに見られるという楽しみだ。
152キロの球速を持つが、本当にすごいのは…今大会ナンバーワン投手の呼び声高い、市立和歌山の小園健太投手はそのうちの一人だ。
小園は昨秋の和歌山県大会を勝ち上がり、近畿大会でもベスト4に進出して甲子園の切符を獲得した。近畿大会では2試合に先発して、18イニング1失点。当然、2試合とも完投勝利を挙げている。準決勝戦では途中登板ながらも、優勝した智弁学園を4回無失点に抑える圧巻のピッチングを見せた。
最速152キロのストレートを持つが、その球速だけで小園という投手を評価してしまうと本当の実力を見誤ることになる。何といっても、彼の武器は多彩な変化球を駆使して、打者を牛耳っていく“ピッチデザイン”にあるのだ。
ピッチデザインという言葉は、ここ数年、メジャーや日本のプロ野球でも盛んに出てくるようになったフレーズだ。
かつての投手はストレートを軸にして、緩急で抑えるピッチングをしてきたが、今はさまざまなデータを駆使して球種を組み合わせることにより打者を封じ込めるすべを習得している。“ピッチトンネル”(※)といわれる配球を見せていくのだ。
(※編集注:投手がどの球種であってもできるだけバッターに近いところまで同じ軌道で投げることで、相手打者に球種を見極められずに封じ込めることができるという理論。詳細は後述)
自らのピッチングを変える決意をさせた、1年時の苦い経験
もっとも、高校生レベルだと、データを駆使したピッチデザインというところまでたどり着くことは容易ではないが、メジャーやプロ野球における「抑え方のトレンド」を踏襲したピッチングはできる。
「記事を読んで知りました」というピッチトンネルに関する知識などピッチングIQの高い小園は、自身のハイクオリティーなピッチングに至った経緯をこう語る。
「高校1年夏の大会で、3年生がいる中でマウンドに上げてもらって、僕が決勝点を浴びて試合に負けました。その時まではストレート主体のピッチングだったんですけど、僕には決め球がない。そうなると真っすぐに頼らざるを得ないので狙われてしまう。何かを変えないといけないと思い始めて、ツーシームを覚えるようになって、そこからピッチングが変わりました」
小園のピッチングを生かしているのは、カットボールと2種類のツーシームという「対」になるボールだ。
カットボールはふくらみのないストレート系の球種で、ツーシームは右打者の懐に食い込んでいくものと左打者の外に沈むスプリット系とがある。どれもストレートと球速が似通っているため、打者は球種の判別をつけにくいのである。
計算し尽くされたピッチデザインを小園自ら解説小園は自らの目指すピッチデザインについてこう解説する。
「大体のバッターはストレートに張っています。そこでツーシームを投げるとバッターの反応が変わってくる。同じ時期くらいにカットボールも投げるようになったんですけど、小さい変化が効果的なのかな、と。バッターからすればツーシームがくると分かっても、カットボールも頭にある。対角の変化を持つことによってストレートに詰まることが増えてきました。球種を持ったことによって、自分のストレートも変わってきました」
ストレートは最速が152キロあると自己申告しているが、実際の試合ではそれほどの強いボールを投げているわけではない。球速を抑えてコントロールを重視して、球種によって球速のムラができないように、計算し尽くしているのだ。
データを駆使しているわけではないのだが、自然とピッチトンネルを構成できている。
ピッチトンネルとは、バッターを効率よく抑えるための投球術みたいなものだ。
通常、打者が球種の判別ができるのがバッターから見て9メートルほどの位置だといわれている。そこにトンネルを描いて、ピッチャーがボールを放ってから変化するまでのボールの軌道がこのトンネルを通るように投げることができれば、打者はトンネルを抜けてからしかボールを判別できないので変化に対応ができない。つまり、球種の判別を難しくさせるものだ。
一方、これが、ピッチトンネルを構成できない球種、例えば浮き上がるようなカーブだと打者に判別されるのが早くなってしまって対応されるというわけである。
選抜の目標は、日本一と全試合無失点変化球を駆使するばかりが小園のピッチングではない。ストレートの球速を上げる努力は、目前に迫る選抜大会で勝ち抜くこととは別に、小園の中でのテーマとして掲げている。
「カットボールとツーシームにばかり頼っていると、この先、上でも通用しないと思う。原点に返って、ストレートのキレを見直していかないといけないと思っています。練習試合などではストレートだけで押していくとか、テーマを持って取り組んではいます。今は最速が152キロなので、155キロまでいければなと思っています」
小園がピッチングの変革を求め始めたのが1年夏以降というから、昨年の1年間が通常通りに開催されていれば、夏ぐらいには小園の名前は全国区になっていたかもしれない。しかし、それは達成されなかった。
ただ、その分、爆発の時が半年遅れでやってきたと考えれば、見る側としてこの選抜における楽しみが増幅したともいえるだろう。
「選抜でのチームとしての目標は日本一なので、そこを目指してやっていきたい。個人的には自分の将来に関わってくると思うので、結果にこだわってやっていきたい。全試合無失点が目標です」
今大会注目度ナンバーワンのピッチャーが雌伏の時を超えてベールを脱ぐ。
<了>
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