[鹿島アントラーズ外国籍選手ランキング]3連覇時のエース・マルキらブラジル勢に割って入るのは?
REAL SPORTS / 2021年2月15日 10時15分
ジーコ、アルシンド、レオナルド、ジョルジーニョ……1990年代の鹿島アントラーズを彩った外国籍選手のインパクトは今でも色褪せない。それでは2000年以降、鹿島で最も輝いた外国籍選手は誰だろう? そこで今回は、独自の視点から過去20年間に鹿島に在籍した外国籍選手を5つの項目によってランキング。【出場試合数】【得点数】【個人タイトル数】の3項目の客観的データと、【インパクト】【人気】の主観的な2項目を取り上げ、長年クラブを取材する田中滋氏が格付け。懐かしい選手たちを振り返りながら2000年代の鹿島の黄金期に思いをはせ、今季の躍進の中心となるだろう選手にも注目する。
(文=田中滋、写真=Getty Images)
華やかなブラジル人選手たちが躍動した90年代今年の10月にクラブ創設30周年を迎える鹿島アントラーズには、ジーコを始めとして数々の外国籍選手がその歴史を彩ってきた。これまで獲得してきた20もの主要タイトルにたどり着く道程には必ず彼らの活躍があった。総勢60名ほどの外国籍選手が在籍してきたなかで、1990年代はレオナルド、ジョルジーニョなどの現役ブラジル代表など華やかな選手たちがチームの顔として活躍した。ジョルジーニョと一緒に来日したマジーニョの前所属クラブはバイエルン。つまり、鹿島は彼らの獲得交渉をバイエルンと行ったのである。今後、鹿島からバイエルンに行く選手は出てくるかもしれないが、バイエルンから選手を獲得する機会はそうそうないだろう。Jリーグが開幕した1990年代とはそういう時代だった。そこで、今回は2000年代に入ってから活躍した選手の中から各項目&総合ベスト3を選んでいきたい。
【公式戦出場試合数(リーグ戦、リーグカップ、天皇杯の合計)】
1位:マルキーニョス:146試合
2位:フェルナンド:127試合
3位:レオ・シルバ:123試合
【公式戦得点数(リーグ戦、リーグカップ、天皇杯の合計)】
1位:マルキーニョス 69得点
2位:アレックス・ミネイロ 33得点
3位:ダヴィ 29得点
【個人タイトル数】
マルキーニョス:2008年最優秀選手賞&得点王
マルキーニョスに代わる“2億円のエース候補”
【インパクト】
1位:カルロン
鹿島サポーター以外でその名を記憶している人はごくごくわずかだろう。2010年をもって契約を満了したマルキーニョス(マルコス・ゴメス・デ・アラウージョ)に代わり2011シーズンのエース候補としてポルトガルのウニオン・デ・レイリアから獲得した長身ストライカーは、公式戦9試合に出場し、わずか1得点(こぼれ球を押し込むいわゆる“ごっつぁんゴール”)で鹿島を去っている。名前も顔も思い出せなくても驚きはない。しかし、鹿島サポーターには忘れたくとも忘れられない悪夢として記憶されているだろう。監督オズワルド・オリヴェイラの肝いりで獲得した選手だったが、獲得に費やした2億円はドブに捨てたようなものとなった。
2000年代初頭、クラブは赤字を解消するために力のあるブラジル人を獲得できない時期があった。しかし、緊縮の時代を乗り越えると2007年〜2009年にかけて3連覇を達成。なかなか獲得できなかった国内10冠を達成すると、毎年のようにその数を伸ばしていった。黄金期を経て、新たな時代に向かおうとするなかで獲得したのがカルロンだったのである。宮崎キャンプの時から嫌な予感は漂っていた。同僚のセンターバックが「こいつ、どれくらいやるんだろう」とボールを持ったところにプレッシャーをかけると一度も振り向かない。長身を生かしたポストプレーといえば聞こえはいいが、FWらしくゴールに向かう迫力が感じられなかった。新シーズンに向けた抱負を尋ねても虚ろな目つきのまま「まだ本調子じゃない」と話す。果たしてJリーグが開幕してもプレーの内容は変わらず、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)では決勝トーナメント進出を果たしたもののトーナメント初戦でFCソウルに0−3と完敗。その後、カルロンは静かにチームを去っていった。
とはいえ、2011年は東日本大震災が起きており、鹿島も被災して難しいシーズンを送っていた。心理的に大きなストレスがかかっていたことは否めず、通常のシーズンであればもう少しまともな活躍ができたかもしれない。それでも、ここまで期待を大きく裏切った例は、1990年代に加入したべベットに次ぐだろう。
無類の勝負強さも“スター性はいま一つ”のブラジル人選手
【インパクト】
2位:セルジーニョ
練習では悪くないプレーをするのに試合になると結果を残せない日本人選手は少なくない。そうした選手たちは、セルジーニョを見習うといいだろう。練習では日本人選手のなかに埋もれてしまう存在だったが試合になると一際輝いた。
2018シーズンの7月末、サガン鳥栖へ移籍した金崎夢生の穴を埋めるために来日すると、唯一無二の活躍を見せた。特に、ACLでは無類の勝負強さを発揮する。まずは準々決勝・天津権健戦1stレグでは72分に強烈なミドルシュートを突き刺し、あいさつ代わりの移籍後初ゴールを決めると、2ndレグでは右コーナーキックからヘディングシュートで先制点をもたらした。しかし、その活躍は序章に過ぎなかった。
次の準決勝・水原三星戦1stレグでもセルジーニョは大活躍。2点先取される苦しい展開のなか、鋭いクロスで相手オウンゴールを呼ぶと84分には西大伍のクロスに合わせて同点弾を押し込んだ。この試合は内田篤人の劇的な逆転弾で3−2の勝利を得るのだが、セルジーニョの活躍がなければそれもなし得なかっただろう。さらに彼の活躍は続く。2ndレグはセルジーニョのFKから先制点を奪うも一気に3失点し、鹿島は敗退の危機に追い込まれる。しかし、西大伍のゴールで2試合合計スコアを5−5の同点にすると、82分にセルジーニョの右足が火を吹き同点に。その1点がものをいい、鹿島はクラブ史上初のACL決勝進出を決めた。
さらにさらに、次の決勝・ペルセポリス戦1stレグでもゴールを決め、決勝トーナメント6戦5発の大活躍。大会MVPは鈴木優磨に譲ったが、得点面だけでいえばセルジーニョのゴールがなければ鹿島初のアジア制覇を成し遂げることはできなかっただろう。セルジーニョは翌年のACLでも10試合4得点の活躍を見せ、アジアの舞台では替えがきかない存在感だった。
ただド派手な活躍の割に、真面目な性格だったためスター性はいま一つ。ブランドロゴがデカデカと入った服を好むブラジル人選手もいるなかで、セルジーニョはGAPのパーカーを着ていることも多かった。飾らない性格を表していたが、発するコメントも「アントラーズの一員としてどの試合でも全力を尽くし、チームメートの手助けをすることを意識しています」と実直そのもの。実績面を踏まえるともっと人気があってもおかしくない選手だった。
強化担当が「いつか戻さないと」と語った“プライドの高いドリブラー”
【インパクト】
3位:カイオ
カイオ・ルーカス・フェルナンデスが鹿島にやってきた時、契約は480万円が上限となるC契約だった。千葉国際高校に留学生として来日したカイオは、まだもやしのように細く、ボールを持てばすぐにドリブルを始める。ところ構わずドリブルするものだから、当時監督だったトニーニョ・セレーゾから一番怒られていたのがカイオだった。
鹿島に加入した2014シーズン、チームメートからも「なぜこの選手を取った?」と懐疑的な視線を向けられていたが、その評価はすぐに覆る。鋭いドリブルと高い決定力で30試合に出場すると8得点の活躍。その年のベストヤングプレーヤー賞を受賞した。
2つ年上の柴崎岳のことが好きだったことからか根っからの鹿島サポーター。ライバルクラブの一つである浦和レッズ戦を前にすると「レッズには負けたくない」と心を燃やし、サポーターの気持ちを代弁する選手だった。
ただ、力をつけていくと同時にプライドも高くなり、紅白戦でサブ組に入り次の試合で先発しないことがわかると、そのままクラブハウスから帰ってしまうこともあった。当然、クラブから呼び出されきつく叱られたことは言うまでもない。
しかし、その愛くるしい笑顔は多くの人から愛され、当時、金崎夢生や鈴木優磨、柴崎岳といった個性派揃いのメンバーに囲まれても輝くものがあった。近年まで、クラブの強化担当者から「いつかカイオを戻さないと」と言われ続けるほど、その能力は高く評価されていた。
「整った顔立ちに侍を意識したポニーテール」唯一無二のマルキ
【人気】
1位:マルキーニョス
2000年代に入ってからJリーグで最も成功をおさめた外国籍選手はマルキーニョスだろう。鹿島でも公式戦167試合に出場し82得点(リーグ戦、リーグカップ、天皇杯、スーパーカップ、ACLの合計)を記録。それまでFWのイメージがなかった鹿島の18番をエースナンバーに変えたのは、マルキーニョスの存在があったからだ。共にプレーした興梠慎三や大迫勇也だけでなく、彼のプレーを見て育った鈴木優磨に至るまで、鹿島の歴代FW陣に大きな影響を与えた。
滅多に負けることを知らなかった3連覇の時代、鹿島にはどのポジションにもJリーグを代表する選手が揃っていたが、速さと強さと決定力を備えたマルキーニョスが前線にいることで成り立っている部分も多かった。献身的に守備をこなしたかと思えば、一気にゴールまで駆け上がり、強烈なシュートでゴールを打ち抜く。チームが苦しい状況になれば体を張ってボールをキープして時間を稼ぎ、相手のファウルを誘ってプレーを切る。その貢献度は得点だけに留まらなかった。速さだけでなくフィジカルの強さがあったからこそ、Jリーグでは圧倒的な存在だった。
整った顔立ちに侍を意識したポニーテールが似合っていた。両手首にはブラジル国旗を模したリストバンドを付け、プライベートではフェラーリを駆る。「横にいられると思い出す♪」ではないが、これでもかと香水をつけ、マルキーニョスが通ったところには必ず残り香が漂っていた。
活躍の影には、指揮官だったオズワルド・オリヴェイラと馬が合ったことは欠かせない。すでに30代を迎えていたマルキーニョスは決して模範的な選手ではなかった。練習に参加しないことも多く、彼だけには自己流の調整が認められていた。試合で活躍すればいい、というスタンスは日本人監督だったら難しかったかもしれない。その分、当時のチームメートだったダニーロが試合に出られなくとも一切手を抜かず、マルキーニョスの分まで練習していた。
クォン・スンテが鹿島に植えつけた“闘争心”
【人気】
2位:クォン・スンテ
ここ数年の鹿島で最も人気を集める外国籍選手はクォン・スンテだろう。その人気を不動のものとしたのは、セルジーニョと同じように2018年のACL優勝での活躍だ。特に、準決勝・水原三星戦1stレグで見せた鬼神のような姿は、いまでも語り草となっている。
1stレグをホームで迎えた鹿島だったが、開始10分で2点を奪われる最悪のスタート。試合の雰囲気にのまれてしまう選手もいる中で、母国のチームに闘争心を剥き出しにしたのがスンテだった。ルーズボールに飛び込んできた韓国人選手に対し、怒りを露わに突っかかったことが契機となり、鹿島の選手たちが戦う姿勢を取り戻すことに成功する。
「サッカーというのは戦争と同じで必ず勝たないといけないと思っていますし、特に韓国のチームとの対戦だったので負けたくないという気持ちもありました」
そこまでの強い気持ちは、2016年にFIFAクラブワールドカップで決勝に進出し、レアル・マドリードをあと一歩まで追い詰めた鹿島の選手でも持っていなかった。クォン・スンテが植えつけた闘争心は、敵地で戦った2ndレグでも生きたといえるだろう。
その性格は豪放磊落(ごうほうらいらく)。試合に負ければ「鹿島ならこういう試合でも勝たなければならない」と振り返り、過密日程になれば「体力的に厳しいといわれるかもしれませんが、それはただの言い訳にしかならない」と厳しさを求めながら、試合に勝てば必ず冗談を交えて「アハハハ」と笑い飛ばす。その振る舞いは、さながら強さを求め続ける武将のようだ。
ファン、サポーターを大切にする姿勢は、韓国時代から変わらず、2018年のACLには全北現代モータース時代のサポーターも声援に駆けつけていた。昨季からポジションを失い苦しい状況に置かれているが、再びゴールマウスに立つことを望む声は大きい。
昨季のベストイレブン。鹿島愛も深いエヴェラウド
【人気】
3位:エヴェラウド
昨季、鹿島に加わったエヴェラウドは、加入直後こそ決定機を外し続け期待を裏切ったものの、7月に初ゴールを決めると終わってみれば18得点の大活躍。昨季のJリーグベストイレブンにも選ばれた。外見からもわかるとおりフィジカルが強く、特にヘディングの強さはJリーグの中でも群を抜く。181cmとそこまで大きくはないが、屈強な外国人センターバックにも競り勝つ強さを持つ。
まだ在籍2年目の選手だが、今後マルキーニョスを超える存在となる可能性を秘めている。昨季は一度も練習を休むことなく、若い選手が多い鹿島の中でも手本となる姿を見せた。人格者として名高いレオ・シルバやブラジル人選手にとって多くの教えを与えるジーコの導きもあり、誰もが尊敬する選手への階段を上り始めている。
ピッチの上でもその姿勢は顕著だ。闘志を前面に出すスタイルながら激しいコンタクトがあっても相手に怒りをぶつけることはない。「サッカーはフルコンタクトのスポーツだと考えている。激しい接触も嫌ではないし、日本では全員がフェアに接している。やられたら怒って平常心を失う選手も見ますけれど、それはナンセンス。自分で平常心を失っていたら自分のプレーができなくなる」と話す。
今オフには中国から巨額のオファーを受けたものの、昨季最終節、ACLへの出場権を目指し最後まで応援を続けたサポーターの姿に心を打たれ鹿島残留を選んだ。鹿島への愛情は深く、今季、タイトル獲得に貢献することができれば間違いなくレジェンドに列することになるだろう。
【総合順位】
1位:マルキーニョス
2位:セルジーニョ
3位:クォン・スンテ
やはりタイトル獲得に貢献したかどうかは高く評価されるべき。3連覇時代のエースと、初のアジア制覇に大きく貢献した2人を選出した。その意味ではレオ・シルバも外せない選手なのだが、同じJリーグクラブであるアルビレックス新潟のレジェンドでもあるため今回は選外とした。
【番外編】日本人よりサッカーが下手? ジウトンが蹴るボールは…
日本人よりサッカーが下手なブラジル人助っ人選手も珍しい。ジウトンが蹴るボールはとにかく回転が不規則でどこに飛んでいくかわからなかった。ただ、性格は底抜けに明るく、チームのムードメーカーでもあった。キャンプ中には筋肉自慢同士の川俣慎一郎と相撲をとってチームを盛り上げた。運転免許を持っていなかったため普段は自転車で移動し、ブラジル人の彼女と一緒に自転車をこいでいる姿が鹿嶋市内でよく目撃されていた。ブラジルへ帰国後、2013年には交際女性から熱湯を浴びせられ大火傷を負う事件が報じられたが、もしかしたらその時の彼女だったのかもしれない。
左サイドバックとして、ダイナミックな攻撃参加が魅力だった反面、守備戦術の理解力が低く、たびたびその背後を狙われた。名将と名高いオズワルド・オリヴェイラが獲得を望んだ選手の一人だったが、カルロンといいジウトンといい、名将の眼鏡はなぜかブラジル人の能力を見抜くことに関しては曇っていたようだ。
<了>
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