【開幕特集】ベテラン頼みだった時代の終焉 J1定着に挑む横浜FCの「若手が躍動し、練者が華を添える」新たなステージ
REAL SPORTS / 2021年2月24日 12時0分
2月26日に開幕する2021シーズンの明治安田生命J1リーグ。クラブ史上初めて日本のトップリーグでの2年目を迎える横浜FCは、充実した陣容がそろい期待を胸に開幕戦を待ち望む。昨季ベテランと若手の融合、そして下平隆宏監督の目指すサッカーが浸透し始めたチームは今季どのような化学反応を見せるのか? 横浜FCがたどってきた「ベテラン頼み」の歴史と、次なるステージに突入する今季の陣容をひも解く。
(文=二本木昭、写真=Getty Images)
各ポジションに穴のない的確な補強を敢行オフに十数人の選手が入れ替わった横浜FC。退団した者の多くは、なかなか思うような結果を出せなかったFW陣とあまり出場機会のなかった選手たち。今シーズンに向けての補強は、超目玉といえるタレントの加入はなかったものの、バックアッパーを含めてすべてのポジションで穴のない的確なものとなった。
例えば昨季の右サイドバックは、レギュラーを務めるマギーニョが故障離脱すると、ボランチが本職の瀬古樹がその穴を埋めざるを得なかった。今季、その右サイドバックにはマギーニョの期限付き移籍延長が決定。加えて浦和レッズから岩武克弥を獲得した。岩武は浦和入団時は大卒ナンバーワン・サイドバックとして鳴り物入りで加わり、昨季はJ1・11試合に出場している逸材。さらに、同じポジションにJ2水戸ホーリーホックで主力として活躍し4得点をあげた前嶋洋太をレンタルバック。以上のように、すべてのポジションで2〜3人のレギュラークラスをそろえることができた。
また選手が一新されたFW陣だが、昨季は一美和成(現・ガンバ大阪)が4得点、斉藤光毅(現・ロンメルSK)、瀬沼優司(現・ツエーゲン金沢)、皆川佑介(現・ベガルタ仙台)が3得点と皆がそれなりにゴールを記録したが、絶対的なエースが不在でそれが15位にとどまる一因となった。一美と皆川には前線でのポストプレーにも期待が寄せられたが、一美は試合による好不調の波が激しく安定せず、皆川に至ってはほとんどボールが収まらない。チーム内得点王がルーキーイヤーのMF松尾佑介の7得点という状況では、FWの顔ぶれがガラリと変わるのもいたしかたないだろう。個人的には、献身的なプレーでチームを鼓舞する瀬沼には残ってほしかったが。ポストプレーが巧みでブラジル代表歴も持つクレーベ、チームのFW登録では最年少25歳のジャーメイン良ら新加入選手たちの爆発に期待したい。
「ベテランと若手の融合」の歴史今シーズンに限らず、横浜FCといえばカズ(三浦知良)、中村俊輔、伊野波雅彦といった抜群の実績とネームバリューを誇るベテランが集うチームとして知られる。一方で近年は、松尾や斉藤光毅らイキのいい若手が台頭してきている。ここからは、こうした「ベテランと若手の融合」という視点から、ここ数年の横浜FCのチーム編成について述べていきたい。
2018年以前の横浜FCは、ベテランを主力に据えるクラブだった。近年ではイバやカルフィン・ヨン・ア・ピン、さらにさかのぼれば松下年宏、髙地系治などがチームの攻守の柱となってきた。クラブ初のJ1昇格を果たした2007年前後まで振り返れば、カズや山口素弘、小村徳男といった当時すでに35歳を超えるベテランが主軸としてフル回転していた。
潮目が変わったのは、13年ぶり2度目のJ1昇格を決めた2019シーズンのJ2リーグ戦終盤からだろうか。キャリア1~3年の若手を主力として起用し、若手が育っていないポジションに助っ人のようにベテラン選手を配置する傾向が強くなってきた。その背景には、袴田裕太郎や松尾、瀬古といった有力な大卒選手が横浜FCでプレーすることを選ぶようになってきたこと、齋藤功佑や斉藤光毅、安永玲央などトップチームでも活躍できるアカデミー出身の選手が増えてきたことなどが挙げられる。主力を任せるに値する若手選手の頭数がそろってきたのだ。
思い起こせば隔世の感があるのが2017年のJ2リーグ。この年は、一時は首位に立つなどJ1昇格が現実味を帯びていたのだが、36節で攻撃の核であるイバと守備の要のカルフィン・ヨン・ア・ピンの2人が同時に負傷退場し、一月ほどの戦線離脱を余儀なくされるとチームは大失速し10位でフィニッシュすることとなった。いかにこのベテラン2人にチームが依存していたかを物語る結果といえる。一方で今年J1を戦うチームは、仮にレギュラークラスのベテランが複数戦列を離れたとしても、急ブレーキがかかるとは考えにくい。今、クラブはかつてのベテラン頼みから脱却し、若手を中心にJ1を勝ち抜いていくという次のステージに突入したのである。
存在感が際立つ今季の“リーダー候補”瀬古樹期待が膨らむ若手選手の中で、存在感が際立つのが瀬古だ。昨シーズンは大卒1年目ながら主力の一人としてJ1リーグ戦でクラブ最長の出場時間を記録。加入当初は危機察知能力に優れ、相手の攻撃の芽を摘む守備的なボランチと思われたが、相手を背負った場面でのボールロストや横パスをかっさらわれるシーンがほぼ見られないなど確かな足元の技術も見せた。
安定した守備力と足元の技術のみならず、相手がパスを切る間合いで寄せてきたと見るや緩急の差で一気に抜き去り、そこへ慌ててカバーにきた2人目の選手を重心の逆をついて交わすなど、派手なフェイントはなくともドリブルでボールを持ち運ぶスキルも披露し、攻撃面でもチームに貢献。
昨季の開幕戦でヴィッセル神戸相手に決めたJ1初ゴールも、チームとして守備的な戦いを強いられる中、ボランチの位置から上がって行ってクロスのこぼれ球を抜け目なく捉え、ふかすことなく確実に押し込んだ素晴らしいゴールだった。主軸としての自覚も芽生えているようで、今季は在籍2年目にしてリーダーシップを発揮する意欲を示している点も頼もしい。
もう一人、伊野波、カルフィン・ヨン・ア・ピン、田代真一らベテランがひしめくセンターバック陣において、若手の注目選手として挙げられるのが中塩大貴だ。昨季はJ2ヴァンフォーレ甲府で大卒デビューし、22試合に出場。まだ体の線が細く対人プレーやヘディングでの迫力に欠ける面はあるが、左足からの長短のパスを織り交ぜたビルドアップの能力は、下平隆宏監督の目指すサッカーにハマるはず。ベテラン勢に替わってDFラインの顔になることが期待される。
有力な“エース候補”渡邉千真。もう一人期待するベテランは…新加入のベテラン勢の中では、有力なエース候補として渡邉千真を推したい。昨季はガンバ大阪で6得点にとどまったが、スーパーサブとしての起用が多かったことなどが主な原因。ここぞという場面での決定力は健在で、FWの主軸となり出場時間が延びればゴールの上積みも期待できるはず。今年35歳になるこの男が二桁ゴールを達成すれば、チームの目標であるトップ10も見えてくるだろう。
前線で確実にボールキープする技術にも衰えはなく、昨年の横浜FCではあまり見られなかったFWのポストプレーから2列目以下の選手が中央突破を図るといった、新たな攻撃の形をもたらすことも期待できる。
もう一人、ケガさえ完治すれば間違いなくチーム力アップに貢献するのが高橋秀人だろう。1次キャンプは故障で別メニューだったが、確かな技術と戦術眼、ボランチとセンターバックを高いレベルでこなすユーティリティ性、さらにはチームをまとめるリーダーシップも大きな魅力だ。
これから、クラブ史上初となる2年目のJ1での戦いが始まる。下平監督の続投により、攻守で主導権を握ることを志向し、かつ、ゴールキック時も自陣ペナルティエリア深くからのビルドアップにこだわるオフェンス重視のパスサッカーを標榜することだろう。ただ昨シーズンはJ2降格がないレギュレーションの中で、多少負けが込んでもリスクを負った攻撃サッカーを貫くことができた。
昨年とは打って変わって4チームがJ2に降格する今季においては、スタートダッシュがカギとなる。序盤戦で思うように勝点が得られず、選手に迷いが生じて前線に飛び出せないといった事態は回避したいもの。そのために必要な陣容は整ったはずだ。
<了>
※この記事は、2021シーズンの開幕を告げる「DAZN Jリーグ推進委員会」の連動企画としてお届けする特別企画です。
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