なぜ慶応大ラグビー部は番狂わせを起こせたのか? 明治大に劇的勝利、快挙の真相
REAL SPORTS / 2021年3月18日 19時4分
2019年、慶応大ラグビー部は22年ぶりに全国大学ラグビー選手権出場を逃した。捲土重来(けんどちょうらい)を期して臨んだ2020年、関東大学対抗戦Aで前年度王者・明治大を破る番狂わせを演じてみせた。この結果は決して偶然ではない。コロナ禍の影響で恒例の合宿もできず、練習に厳しい制限が課された昨夏。部内のオンラインミーティングにその秘密があった――。
(文=向風見也)
先鋭的な取り組みを進める慶応大ラグビー部・栗原監督と三井コーチ慶應義塾蹴球部(慶応大)は1899年創部。この国で最古のラグビーチームであるが、最近では先鋭的であるのを部是としているような。
元日本代表で卒業生の栗原徹監督は、ヘッドコーチとなった2019年に早稲田大OBの三井大祐氏を首脳陣に招く。大学ラグビー界にあって、伝統的なライバル校からのコーチ招聘(しょうへい)は話題を集めた。NTTコミュニケーションズシャイニングアークスでスキルコーチだった栗原と2018年に母校を教えていた三井は、選手時代に受けた指導者研修で意気投合していた。
「早慶、伝統校というのと関係なく、本能的にチャレンジしたい。それが(就任の)一番の決め手です」
こう語るのは、誘われた側の三井である。選手、コーチ時代に在籍した。こちらも開拓者の風情を醸す。早稲田大に職を得たのは、帰国後にタイミングよく引き合いがあったためだ。
ワールドカップで活躍した日本代表選手を“講師”に招く栗原と三井が就任した初年度、慶応大は、1998年度から連続出場の大学選手権へ出られなかった。日本一への挑戦権すら絶たれた。シーズンの長いライバルよりも早くスタートできた2020年度も、相次ぐ社会情勢の変化で練習を著しく制限されてしまう。
転んでもただでは、起きなかった。恒例の合宿ができなかった夏頃、三井が担当するバックスというポジション群の定例オンラインミーティングへ、国内トップリーグの選手を1人ずつ、継続的に呼んだ。競技力、チームづくりに関する質問を次々と投げかけ、肥やしを得る。
「自粛期間中、内輪だけでミーティングをしていてどうしても刺激がなくなってきてしまいました。ここへいかに普段は得られないこと、今しかできないことをもたらせるかと考えた時、『他のチームも練習はできていない。この時期だから(教えを請う)時間がある』と栗原監督に相談しました。素晴らしい選手のアイデア、ラグビーへの考え方をぜひ、聞いてほしいと思いました」
今度の「講師陣」には、ワールドカップ日本大会で活躍した代表選手も含まれた。メンバーの共通点は、その人の思考や創意工夫がパフォーマンスに表れている点だろう。
慶応大では受験制度上、トップ選手のスポーツ推薦入学がかなわない。先天的な感覚や優れた身体能力だけに頼っていない選手の話の方が、慶応大の解決課題にマッチしそうだ。
三井は述懐する。
「最初は選手たちに、『だめもとで、いろんなつてを使ってアポを取りなさい』と伝えました。それに加えて、コーチ陣が『この選手(の話)を聞いてみたい』と興味のある人には僕たちからお願いして、選手と話してもらう形にしました。(選手によって)チームとしての考え方を教えてくれる人もいれば、ポジション上必要なことを教えてくれる人も。本当にいい機会でした」
明治大に勝利したのは偶然ではなかった。取り組みの効果取り組みが結果に表れたのは11月1日。東京・秩父宮ラグビー場で、加盟する関東大学対抗戦Aの大一番に挑む。相手は一昨季まで3年連続で全国2位以上という明治大で、前年度の同カードは才能集団の猛攻を受け40―3と落としていた。
しかしこの午後は、13―12で勝った。持ち味の鋭いタックルを面白いように決めた。
特に光ったのは三木亮弥副将だ。身長171cm、体重83kgと小柄なセンターである。くだりのオンラインミーティングでの、ある代表選手との問答を参考にした。
「どういうことを考えていたら、いいディフェンス、いいタックルができるのですか?」
「準備、予測が大事かな」
まず、試合前の「準備」として相手チームの使うサインプレー、各選手の癖を把握する。
さらにはプレーの合間、プレーが動き出した瞬間に相手司令塔の顔の向き、ライン全体の構造を観察。かくして向こうの打つ手を「予測」する。
その知見を吸収した三木は明治大戦の当日、球をもらいたての相手の懐へタイミングよくタックルに入っていた。
「それまでも自分なりに試合前の準備をしてきたつもりでしたが、まだまだと感じました。プレー中の相手の顔の向きなどの細かいところにこだわるからこそ、(相談に応じてくれた選手は)あんなにいいディフェンスができていたんだと思いました」
講師役の現役選手にとっても意義があった今回、講師役となった名手の多くは、当該の母校との関係上からか今度の感想を述べるのを遠慮する。
もっとも、国内トップリーグの登録選手は雑談の流れでこの話題に乗る。「お互い、Win-Winな形でできた」と応じた。
「自分が言語化することで、自分が何を意識してやっているのかを再確認できた。いい学びになりました。そのことについてありがとうございますと、その場でも伝えました」
勇敢なアイデアマンが選手に託した企画は、情報共有による「Win-Win」の関係をつくったのだ。チームは結局、大学選手権で8強入りと成績アップを果たした。
<了>
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