ダルビッシュも愛好する最新鋭コーチング集団の目線「世界的な投手になれる」プロ3年目の逸材とは?
REAL SPORTS / 2021年3月25日 21時17分
間もなく開幕を迎える2021年のプロ野球。昨季は福岡ソフトバンクホークスが圧倒的な強さを見せつけて4年連続の日本一に輝いたが、今季は果たしてどんなシーズンとなるだろうか――。
ダルビッシュ有や千賀滉大、石川柊太など日本野球界のトップ選手が学びを得ていることで注目の野球パフォーマンスオンラインサロン、NEOREBASEの運営者である内田聖人さんが、最新鋭の野球理論の観点から、現代野球におけるピッチャーのトレンドと、「世界的なピッチャーになれる逸材」とひそかに注目する投手とは?
(インタビュー・文=花田雪、撮影=高須力)
ダルビッシュも愛用する野球サロン運営者の目線で見る、2021年のプロ野球3月26日に開幕を迎えるプロ野球。
開幕延期、シーズン試合数短縮など、イレギュラーだった2020年を経て、2年越しに「球春」が戻ってくる。
近年、野球界には『データ化』の波が押し寄せ、日進月歩で新たな技術論、理論、トレンドが生まれている。
ダルビッシュ有や千賀滉大をはじめ数十人のプロ野球選手を含む450人以上の会員数を誇る野球オンラインサロン「NEOREBASE」で運営責任者を務める内田聖人さんに、そんな球界の最新事情を聞いた。
現代野球を席巻する「データ化」、進化するピッチャー像
「私の場合は投球・送球動作の指導、データ分析を専門にしているので、どうしても『ピッチャー』の話になってしまうのですが、近年はトラックマン、スタットキャスト、ラプソード(※)などの普及でピッチングのメカニズムを細かく分析できるようになってきました。トップレベルの中にもそういったトラッキングデータを自身のパフォーマンスにつなげている投手が増えてきた印象を受けます」
(※トラッキングデータを取得できるシステム。球速などの基本的なものから、ボールの回転数、回転軸、変化量などの詳細なデータまで幅広く取得できる)
近年、野球界を席巻している「データ化」。野球の試合中に起こる全てのプレーが数値化されたことで、選手の技術向上にも大きな影響を与えている。
例えば、これまでは「伸びのある直球」「切れ味鋭い変化球」といった感覚でしか語れなかったものが、球速だけでなくボールの回転数、回転軸、変化量まで数字で可視化できるようになった。
「ボールの変化は、球速、回転数、回転軸、回転効率、発射角度などのさまざまな要因で決まります。これが何を生むかというと、理想とする変化から逆算して、自分のボールに何が足りないのかが分かるようになったんです。『もう少し回転軸を傾けた方がいい』『回転数を上げれば、さらに変化は鋭くなる』といった具合です。自分の投げるボールを細部まで数値化できるようになったことで、今何をすればいいのかが、より明確になった。そこからさらに逆算すると、『回転軸をこの角度にしたければ、リリースや腕の振り、身体の使い方はこうした方がいい』というように、自身のフォーム改善やチェックにも役立てることができます」
実際にこれを実践している投手の代表例がダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)だ。
ダルビッシュ有の本当のすごさは…「ダルビッシュさんの探求心は、本当にすごいです。すでにあれだけのレベルにあるのに、今でもまだ、あらゆることを試しながら投球のクオリティーを上げようと日々考えている。ダルビッシュさんだけでなく、日本球界でいえば千賀(滉大/福岡ソフトバンクホークス)さんも、常に新しいことを吸収しながらレベルアップしている印象です」
ダルビッシュは自身でも「変化球が好き」と語るように、常に新しい球種、新しいボールを試しながら、自らの投球をブラッシュアップさせていることでも知られる。春季キャンプでは野茂英雄氏のアドバイスを参考にスプリットを改善したり、自身のTwitterではこれまでより球速が遅いチェンジアップに手応えを感じた様子を発信するなど、その「向上心」の高さはプロ野球選手の中でも屈指だ。
「ダルビッシュさんも千賀さんも、そもそも100マイル(160km)のボールを投げることができるのに、そこからさらに投球の精度を高めようと努力している。そういう投手は近年、メジャーリーグでも増えてきている印象があります。パワーピッチャーなのに、精密機械の一面も持っているような」
パワーピッチャーと精密機械の「ハイブリッド型」。その筆頭格は?
パワーピッチャーといえば、投げるボールの威力そのものが高いため、どちらかというと細かなコントロールや球種で工夫をする印象は薄い。極端な話、「えいやっ!」と思い切りボールを投げさえすれば、圧倒的な球威だけである程度打者を抑えることができてしまうからだ。
しかし、近年は打者技術の向上などもあり、「ボールの威力」だけに依存したピッチングでは、通用しなくなってきている現実がある。そこで生まれたのが「パワーピッチャー」と「精密機械」、相対する性能を兼備した「ハイブリッドタイプ」だ。
「160km近いボールを投げられるのに、ボールに小さな変化を加えたり、タイミングを外す緩いボールも投げたり、しっかりとコースを突いたり、そういうこともできる。おそらく日本にも、今後そういうピッチャーが生まれてくるんじゃないかなと思っています」
その筆頭格は、やはり千賀だという。
ふくらはぎのコンディション不良で出遅れはしたが、3月12日の今季初実戦ではいきなり最速159km、16球投げたストレートは全球が154kmを超えるなど、春先から異次元の投球を見せている。
「少し前に『このカーブ、どんな感じですかね?』って実際のピッチングのラプソードデータを送ってもらったんですけど、カーブ以外で普通に投げているストレートが154~155km出ていたので驚きました(笑)。ラプソードデータでそこまでの球速は、あまり見たことがなかったので」
現代ピッチャーのトレンドは…?内田さんいわく、現代のピッチャーのトレンドは「速球に加えて、左右や落ちる球など、複数方向に変化するボールを持つこと」だという。
「今はほとんどのピッチャーがそうだと思います。その中でさらにボールの強度や質が高い選手が、トップレベルに君臨している。たまに球種が少ない特殊なタイプもいますが、それは現代のトレンドがあるからこそ、逆に生きてくるのかなと」
パワーピッチャーでありながら、最新トレンドでもある複数の変化球や細かな変化を駆使して打者を打ち取る。
話だけ聞くと「鬼に金棒」のように思える「ハイブリッドタイプ」だが、他にも内田さんが今、ひそかに注目しているピッチャーがいる。
内田氏が「世界的な投手になれる逸材」と注目するプロ3年目は?
「ホークスの杉山一樹投手です。今年、自主トレで2週間くらい一緒だったんですけど、まずは『馬力』がすごい。僕自身、アメリカも含めてこれまでいろいろなピッチャーを見てきたんですけど、これまでナンバーワンだと思っていた有原航平投手(テキサス・レンジャーズ)をしのぐくらい。それでいて、身体能力、運動能力も高い。もしあの能力を投球動作にしっかりと昇華できて、バチっとハマったら、すごいピッチャーになるんじゃないかなと期待しています」
2018年ドラフト2位でホークスに入団した杉山は、プロ2年目の昨季、11試合に登板して防御率2.16、16回2/3を投げて22奪三振と、飛躍の足掛かりを作った。日本シリーズでも登板を果たすなど、将来が嘱望(しょくぼう)されている身長193cmの大型右腕だ。
「日本球界はもちろん、世界的なピッチャーになれる逸材」
内田さんは、杉山をこう評する。
「ダルビッシュさん、千賀さんのようにすでに実績のある方々がどういうパフォーマンスを見せてくれるのかは、一ファンとしても楽しみですし、そこに杉山投手のような新しい力が出てきたらうれしいですね。日本もアメリカも、野球はどんどん進化している。これからもきっと、そんなすごいピッチャーが次々と生まれてくるんじゃないかなと思っています」
ピッチングの数値化は、ピッチャーに大きな進化をもたらした。もちろん、バッターも同様だ。
進化のスピードが一気に加速した感のある現代野球。
もしかしたら今後、誰も想像できないような、驚異的なパフォーマンスを見せるピッチャーが、日本からも生まれるかもしれない。
<了>
PROFILE
内田聖人(うちだ・きよひと)
1994年生まれ、静岡県出身。早稲田実業高校、早稲田大学、JX-ENEOSを経て、米独立リーグのトライアウトの末、キャナムリーグのニュージャージー・ジャッカルズに入団。退団後もアメリカに滞在し、最先端のトレーニングメニューに触れ、TwitterのDMをきっかけにダルビッシュ有選手と現地で交流。日本帰国後の2019年11月「NEOLAB」を立ち上げ、12月にアマチュア野球資格回復研修を受講。自己最速152kmの球速を持つ、ピッチング/スローイングストラテジストとして活動を始める。翌2020年1月に野球パフォーマンスオンラインサロン「NEOREBASE」を開設。ダルビッシュ、千賀滉大、石川柊太をはじめ数十人のプロ野球選手を含め約450人の会員が加入している。
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