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鍵山優真、想像を遥かに超えた成長角度の理由。初の世界選手権で銀、世界に示した大器の片鱗

REAL SPORTS / 2021年4月2日 19時0分

落ち着いた雰囲気で、伸び伸びと滑り切った。17歳とは思えぬその堂々たる立ち居振る舞いは、貫禄すら感じさせるものだった。世界に示した大器の片りんは、果たしてどこまで進化を遂げるのか。初めて降り立った世界選手権の舞台で手にした銀メダルも、鍵山優真にとっては物語の始まりにすぎない――。

(文=沢田聡子、写真=Getty Images)

世界選手権で銀メダル。それでも日本に帰ったら「練習したい」

「矛盾しちゃうんですけど……ちょっと今日の演技は悔しかったので、日本に帰ったら、休みたいんですけど、練習したいです」

初出場の世界選手権で銀メダルを獲得した17歳の鍵山優真が、3連覇を果たしたネイサン・チェン、3位の羽生結弦と並んで臨んだメダリスト会見で「この大会の後、何をしたいか?」と問われて口にしたのは、練習への意欲だった。

「自分に足りない部分が今日たくさん見つかったので、そこをしっかりとまた練習したいなと思っています」

ジャンプだけでなくステップやスピンなど全ての要素において質が高く、滑らかなスケーティングで曲を表現することができ、さらに飽くなき向上心も持つ鍵山は、末恐ろしいスケーターだ。

ショートで驚異の100点超え。初の大舞台で生き生きと躍動した

鍵山はショートプログラムで100.96 というスコアを出して100点超えを果たし、転倒があったチェンを上回る2位発進と、最高のスタートを切った。ローリー・ニコル振付の『Vocussion』では、踊れるスケーターである鍵山の魅力が堪能できる。全ての要素に加点がつき、ステップ・スピンも全てレベル4だったというだけでなく、初の大舞台で生き生きと躍動する鍵山の姿が印象的だった。鍵山の鮮烈なシニアデビューは、『Vocussion』と共に記憶されるだろう。

「演技に関しては本当に練習通り一つひとつこなしていっただけなので、そこはよかったんじゃないかなと思いますし、その上で100点という点数がついてきたので、本当に言うこともないです」
「プレッシャーとかはよく分からなくて、緊張はそんなにしなかったので、本当に自分が滑りたいように、やるべきことはやった上で自由に伸び伸びと滑れたので、よかったなと思います」

バーチャルミックスゾーンでそう振り返った鍵山は、記者会見でも大舞台を楽しんでいる様子をうかがわせた。

「初めてだから緊張する部分もあれば、初めてだからこそ逆に思い切りできるっていう部分もあるので……今日のショートは正直なところ緊張よりも、早く試合がしたい、楽しみな気持ちの方がすごく大きかった。ショートでそういう演技ができ、楽しさを見せられたことがすごくよかったと思います」

確かにこの日の鍵山は、やや硬さがあった全日本選手権よりも生き生きと滑っていた。来季に迫った北京五輪の枠取りが懸かるこの大会で楽しく滑ることができたのは、度胸だけではなく周到な準備があってのことだろう。

リンクでの堂々たる滑りと、キスアンドクライで見せたあどけなさ

ショート2位で迎えたフリー、鍵山はショート3位のチェンに続く滑走順だった。4回転5本を成功させ、完璧に滑り切ったネイサン・チェンの演技が終わった時、リンクインを待つ鍵山の表情はさすがに少しこわばって見えた。普通に考えれば、シニアデビューシーズンのスケーターが楽しんで伸び伸びと滑れるような状況ではないことは確かだ。222.03というチェンの高得点がアナウンスされ、鍵山は運命に真価を問われるような出番を迎える。

映画『アバター』の曲が流れ、緑色の衣装をまとった鍵山が、最初のジャンプの軌道に入っていく。4回転サルコウの回転は速く、着氷にも流れがあった。続く4回転トウループ―3回転トウループもまったく危なげがない。3回転フリップ、単発の4回転トウループと、前半のジャンプには全て加点がついた。後半に入ってからも、トリプルアクセル―シングルオイラー―3回転サルコウをきれいに決める。難しいコンビネーションである3回転ルッツ―3回転ループ、単発のトリプルアクセルの着氷で乱れが出たものの、鍵山が重圧のかかる場面で世界にその実力を示したことは明らかだった。190.81という得点に大きく手を広げて驚いたキスアンドクライの鍵山は、2位という暫定順位を見てメダル獲得を知ると、飛び跳ねて喜んでいる。

「そもそも、この世界選手権に出ているだけですごく緊張する。さらに最終グループで練習したり試合したり、ってなると『本当に自分がここにいていいんだろうか』と最初は思ったんですけど……でも、ここに来たからにはしっかりと日本代表としてやらなくちゃいけないと思ったので、集中することができたと思います」

世界選手権で結果を残すも「北京五輪で上位を狙えるかは分からない」

初々しく手応えを語った鍵山だが、冷静に演技を振り返ってもいる。

「今日ちょっと細かいミスが出てしまったので、しっかりとジャンプの調整もしなくてはいけない。もっともっとシニアらしい滑りができたらなと思います」

北京五輪について語る言葉からも、浮ついた様子は少しもうかがえなかった。

「今回の世界選手権は、来シーズンのオリンピックに向けて自分の立ち位置を確かめるために結構大事だと思っていて、そういう気持ちで臨んだんですけど……この試合でいい結果が出せても、必ずしも次のオリンピックで上位を狙えるか、と言われたらそれは分からないので。他の選手ももっともっと練習してうまくなると思うので、自分もそれに負けないようにもっともっと練習して成長して。オリンピックはまず出場することが大事だと思うんですけど、その上で上位を狙っていきたいなって思っています」

鍵山はこの世界選手権で結果を出しただけではなく、大いに刺激を受け、意欲を高めている。

「やっぱり一番はネイサン・チェン選手なんですけど、4回転の種類も多く持ちつつ、その上で素晴らしい演技を目の前で見たので、本当に見た時点で自分はまだまだなんだなって思いましたし、本当にもっともっと努力していかないと勝てないな、ってすごく実感した」
「ネイサン・チェン選手だけではなくて、羽生選手も宇野(昌磨)選手も同じように4回転をたくさん跳んでいて、その上で演技も本当にトップクラスにうまいと思っている。下からの追い上げというのもそうですけど、まずは自分がトップに立つためにもっともっと努力して、4回転も、表現力だったりスピン・ステップの部分も、全部レベルアップさせていきたいなと思います」
「自分は世界で戦えるということをこの試合ですごく感じたのと同時に、もしみんなが完璧な演技をしていたら自分はどこに立てるかって言われたら、4回転の種類も少ないですし、まだまだだと思う。4回転の種類ももっと増やしていかないといけないし、滑りももっと追求していかないといけないな、というのをすごく感じた。ここで満足してはいけない」

4回転ジャンプへの飽くなき挑戦。ルッツは「すぐに回れると思う」

鍵山は、自らの4回転へのアプローチについては「確率があまりよくないジャンプを何本も入れるのではなくて、完璧に跳べるジャンプで質を重視して、安定性を求めた演技をすることを目標にしていました」と説明した。その上で、鍵山は今の2種類の4回転では足りないことも知っている。

「もちろん来シーズンは、自分の中では4回転をもう1~2種類増やしたいと思っていますし、早く安定させられるように頑張りたい」

まず年明けから取り組み始めたものの、世界選手権を控え2月から練習をやめていた4回転ループの練習を、帰国後に再開するという。そしてもう一つ挑戦しようとしているのは、現状試合で跳ばれている4回転では一番難しいルッツだと明かした。

「今トリプル(ジャンプ)やっている中で、一番余裕を持って跳べるのがルッツだと思っている。父も言っているんですけれど、締め方をちょこっと変えれば4回転はすぐに回れると思うので、早く練習したいなという感じです」

父・正和コーチが幼少時代から教え込んできた地道な指導

鍵山がさらっと口にした「締め方をちょこっと変えれば4回転はすぐに回れる」という言葉は、実は驚くべき自信だといえる。その言葉の裏には、父である正和コーチが幼少時から教え込んできたスケーティングの基礎と独自のジャンプ理論が隠れている。ノービス時代は全日本4位が最高成績で、ジュニアに上がった当初も決してジャンプが得意なわけではなかった鍵山に対し、正和コーチは先を見据えた指導を地道に行ってきた。2019年全日本ジュニア選手権で優勝した際、正和コーチと共に鍵山を教える佐藤操コーチが口にした「とにかく、安定した滑りをまずジュニアのうちに身に付けておこうという鍵山先生の教えがもともとあった」という言葉が思い出される。

「しっかりと考えて練習することが大事だと思うので、がむしゃらに4回転をバンバン跳ぶのではなく、一本一本しっかりと考えて、丁寧に練習していきたい」という鍵山が新しい種類の4回転を身に付けるのは、時間の問題なのかもしれない。

「父と目指してきたこの舞台に立つことができて、すごくうれしかったです。その上でショートもフリーもいい演技ができて、その結果2位といううれしい結果になったので、父もすごく喜んでいたし」と実り多い大会を振り返った鍵山は、「まだまだこれからだと思う」と付け加えている。

「まだスタート地点だと思うので、これからも頑張っていこうという話を、終わった後に(正和コーチと)しました」

幼い頃から身に付けてきた基礎に支えられた無限大の伸びしろと、大舞台で全てを出し切ることができる精神力を持つ鍵山にとり、初出場の世界選手権はスタートでしかない。

<了>








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