浦和L・塩越柚歩、“良い選手どまりの苦労人”日本代表選出の背景。飛躍のきっかけは…
REAL SPORTS / 2021年4月7日 17時52分
2020シーズン、6年振りのリーグ優勝を果たした三菱重工浦和レッズレディースの“強さ”を象徴する選手が塩越柚歩だ。下部組織出身の生え抜き選手が、昨季ついに唯一無二の存在へと開花。時を同じくしてなでしこジャパン入りまで上り詰めた。中盤ならどこでもこなすオールランダーとして重宝されつつも、“良い選手”の領域で長く過ごした塩越はいかにして急成長を遂げたのか? 自らの成長の背景には昨季“良いチーム”から“強いチーム”へと変貌を遂げた浦和の戦い方が深く関わっていた。
(文=佐藤亮太、写真=GettyImages)
代表に定着しつつある「中盤」のスペシャリスト「最強のチームをつくるために選んだ」
東京五輪を見据えたパラグアイ(4月8日)、パナマ(4月11日)との国際親善試合に向け、なでしこジャパン・高倉麻子監督はメンバー選考に自信をのぞかせた。
その中に三菱重工浦和レッズレディース(以下・浦和)MF塩越柚歩(しおこし・ゆずほ)の名がある。埼玉県出身。現在23歳。2016年、下部組織からトップチームに昇格した生え抜き選手だ。
その塩越は、チームきってのテクニシャン。そのことを裏打ちするように高倉監督からはサッカーの基本である「止める・蹴るがしっかりしていてミスが少ない」と高く評価されていることがわかる。
ポジションは左右サイド、ボランチと中盤はどこでもござれと汎用性が高く、背筋をピンと伸ばし、視野を確保しながら抜け出すドリブルも特徴だ。もともと司令塔タイプだったが入団当初は右サイドバックでも起用された。当時ドリブルは得意ではなかったそうだが、求められる運動量や守備力を身に着け、そのプレーの幅の広さはいまに生かされている。
なでしこジャパンに初めて招集されたのが昨年10月。代表への定着が期待される注目選手だ。
「皇后杯にぶつけよう」。塩越が輝きを放った会心の90分以前から「技術が高いオールラウンダーの選手」として将来のなでしこジャパン入りが期待される選手ではあった。実際、U-20日本女子代表に招集されてはいたが、チームでは先発と控えを繰り返してきた。
その塩越がいまやチームに欠かせない主力選手となり、なでしこジャパンに選ばれるまで至ったキッカケがある。一昨年、2019年の皇后杯だ。
この年、塩越はケガに悩まされ、ベンチ外が続き、完全に出場機会を失っていた。
記録を見るとこのシーズン、初めてベンチ入りし、ピッチに立ったのは8月31日、なでしこリーグ10節・日体大FIELDS横浜戦。66分から出場したものの、その後もベンチスタートが続いた。初めて先発フル出場できたのはリーグ最終節・ジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦(11月2日)だった。結局、日テレ・ベレーザ(現日テレ・東京ヴェルディベレーザ)に勝点3差つけられ、リーグ2位となったが、そこに主力としての塩越はいなかった。
リーグは終わってしまった。しかしシーズンは終わっていない。
「皇后杯にぶつけよう」、塩越は残りの試合に懸けた。
その甲斐あってか皇后杯2回戦・常盤木学園高校で先発して1ゴール決めると、続く3回戦・静岡産業大学磐田ボニータ(現静岡SSUアスレジーナ)、準々決勝・マイナビベガルタ仙台レディースとスタメン起用。そして迎えた準決勝(12月22日)。この年、リーグ・カップ4戦全敗のINAC神戸レオネッサ戦で塩越はその力を存分に発揮した。
塩越はトップ下から左右両サイドと3つのポジションをこなしながら、ゴール前でもスルスルっと抜け出すドリブルや正確なクロス、相手に厳しく、味方に優しいスルーパスを繰り出した。一方、守備では攻め上がった選手のスペースをしっかり埋め、バランスを保つ。またセットプレー、コーナーキックでは何度も得点の予感を抱かせるボールを放ち、77分、左コーナーキックからDF南萌華の決勝弾をアシスト。3-2の逆転勝利の立役者となった。
「チームの雰囲気が良かったのと自分自身、ボールフィーリングが良いと感じていた。それが得点につながってよかった。みんながみんな最後まで頑張ったおかげで生まれた結果」
元来、塩越が持っているサッカーセンスがほとばしっていた、会心の90分だった。
監督にとって心強く、反面、時に使いどころに迷う存在
森栄次監督(今季から総監督)の目指すサッカー、攻守において相互補完しあうサッカーと塩越のプレーとの親和性は高い。
「森監督のサッカーがみんなに定着しつつあるのと、自分の持つサッカーと森監督のパスサッカーにフィットしていることはもちろんある。今日は特に感覚が良かった。サイドバックに落ちたり、左右に動いたが、それは自分だけじゃない。みんながみんな流動的に動く、これが今のサッカー。森監督はそのポジションに誰かがいればいい、ポジションにこだわらないサッカー。自分自身がというより、みんなで穴埋めをしている」
塩越のようにどこでもできる選手は監督にとって心強い。しかし、どこでもできることは、反面、どこもできないということ。時に使いどころに迷う場合がある。しかし、文字通り、強みである『どこでもできる』が功を奏した。
「自分自身、調子が良かったこともあるが、最後まで起用してくれたことで自信につながる。最後までピッチにいれたことは収穫だった」。クールな表情から笑顔がこぼれた。
2014年以来のリーグ優勝を果たし、“良い選手”から脱皮2019シーズン終盤でようやくつかんだ手応えが確かなものになる。
迎えた2020年、新型コロナウイルス感染拡大でイレギュラーなシーズンとなったが、塩越は皇后杯の出来そのままにリーグ18試合すべてに出場。うち16試合で先発出場し3ゴールを挙げた。チームはリーグで14勝2分2敗の結果を残し、2014年以来のリーグ優勝を果たした。塩越に限らず、代表クラスの選手がそろうチームだったが、数年、近づきながらもタイトルを手にすることはできなかった。しかしチームは昨季“良いチーム”から“強いチーム”へ変貌を遂げた。
その証拠に1点差勝利が14勝のうち10勝という勝負強さ。そこには戦術の浸透とともに奪われたら即奪い返す、そのための彼女たちだけにしかわからない絶妙な距離感とあ・うんの連係があった。その只中にいた塩越もまた主力として“良い選手”からの脱皮し、一段上の選手になったように感じられる。
その要因は何か?
優勝が決まった16節・愛媛FCレディース戦後(5-1)の塩越の言葉に一つのヒントがある。
「やりたいポジションも、森監督になり、やらせてもらい、みんなが生き生きとプレーでき、自分もサッカーを楽しいなと思えるシーズンだった。楽しむという部分が結果につながっているなと思うし優勝につながって本当に良かった」
塩越はチームとともに自身も成長した結果、ほぼ時を同じくしてなでしこジャパン入りを果たした。
長谷川から受ける刺激。「ビッグクラブからオファーが…今回、国際親善試合に招集された選手の中には、イタリア・ACミラン所属MF長谷川唯がいる。
塩越と長谷川は小学生のころ埼玉県トレセンで一緒にプレーした間柄。一つ年上の長谷川に刺激を受け、「ビッグクラブからオファーがもらえるような選手になりたいということが一番の気持ち」と憧れの気持ちが強い。テクニシャン2人の共存、共演も見どころとなりそうだ。
塩越が長く心掛けてきたことがある。それは多くボールに関わるということ。これは下部組織からの変わらぬ指導者のアドバイスだ。その意味はプレーに関わるだけでなく、普段からボールに触るということも含まれている。
昨年5月、そして今年1月にも塩越は自身のSNSでリフティングチャレンジと題した動画を投稿した。
右、左。左、右。かかと。そして足を大きく上げ、ぐるっと弧を描き、再び足の甲におさめるなど、さまざまな美技を披露。これを宿題と称してチームメートがチャレンジするというもの。
その姿はまるでボールとの会話、あるいは自身との会話にも見える。
「ボールに関わる時間が長いほうが自分の良さが出てくる。どんどん触ることでコンディションアップにもつながる」(塩越)
触って、触って、ボールに触って。そうやって技術を磨いてきた。
「見てくれる人が楽しんでくれるようなサッカー、魅せるプレーを表現したい」
これが塩越の塩越たらしめるところだ。
なでしこジャパン定着へ。塩越柚歩が見るものすべてを虜にする。
<了>
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