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なぜ青木真也はファンの心を掴むのか? “試合が怖い”と明かすのは「それこそが本来ある美しさ」

REAL SPORTS / 2021年4月23日 11時30分

独創的なアイデアや過激な発言で度々注目を集める孤高の格闘家・青木真也。周囲が認識するその姿は、いわばプロジェクターに写し出した「自分がつくり上げている自分」であるという。現在、総合格闘技「ONE Championship」で3連勝中。次戦「ONE ON TNT IV」(日本時間の4月29日開催)への出場も決まっているグラップラーには、「格闘技に興味はないけど青木真也が好き」と語るファンも多い。受け手が“自分ごと”と捉えることで自らがつくり込んだ世界観へ引き込むことにこだわる青木流のストーリーづくりとは? 

(インタビュー・構成=篠幸彦、写真提供=ONE Championship)

格闘技以上の快楽はない

――青木さんはよく「試合が怖い」ということをメディアやご自身のnote、Voicyで発信されています。こういった弱い部分はアスリートによっては見せたくないと思う人もいると思います。でも青木さんが周りの人やファンの方に向けて積極的に発信していることには、何か思いがあるんでしょうか?

青木:それは、うそをつきたくないからですね。自らリアルなものを出すことが僕は一番美しいと思っているんですよ。すごく強いのに、人間的にダメな人とかいますよね。良いところもダメなところも出す。それこそが人の本来ある形であり、美しさだと僕は思っているんです。

――そのダメな部分もさらけ出すことで、青木さんの中でメンタル的な変化はあるんですか?

青木:いや、あれは自分がつくるものの一貫ですよね。全てを出してこそ、人の感情を揺さぶれるものだと思うので。

――それが青木さんのストーリーのつくり方ということですか。

青木:そうです。僕のやり方ですね。

――試合が終わった後に「またすぐ試合がしたい」ということも発信していますよね。“怖い”と思いながらでもまた“すぐに試合がしたい”と。一見すると矛盾するような感情が、一連の流れの中に同居しているのは面白いと思いました。それはどういうことなのか、うまく想像できない人もいるかもしれないですね。

青木:すごく想像しやすく話すと、ただの“快楽”なんですよ。今サウナが流行っているじゃないですか。あれは熱いという苦しみを与えて、水風呂という解放なんですよ。ギャンブルなんかもそう。うまくいかない、どうしようというストレスからの解放です。格闘技もそれと同じなんですよね。やりたくない、怖い、どうしようというところから解放される。僕はこの快楽がほしいだけです。

――では青木さんが早く試合がしたいというのは、怖いという過程も含めてということなんですね。

青木:そういうことです。ただの快楽主義者ですね。でもこの快楽が本当に強いんですよ。だからスポーツを引退した人がギャンブルにいったり、ビジネスにいったり、政治にいったりしますよね。中にはクスリをやってしまう人もいる。全部共通しているのは快楽なんです。

――確かに現役を退いた人で、現役の頃以上の快楽を得ることが難しくて酒に溺れてしまう人とかいますよね。

青木:いますね。基本的に格闘技を引退した人は苦労したり、つらい人生を送るんですよ。だって、これ以上の快楽なんてないんだから。

常に社会から感じているストレスと握り合うこと

――青木さんはストーリーをどうつくるかを常に考えていると思うんですが、見せ方とかつくり方というところで大事にしていることは何ですか?

青木:社会と握り合うこと。

――“握り合う”というのは?

青木:どれだけ社会との共通の悩みとか問題を提議できるか、あるいは解決できるかっていうことですね。力道山の時代からプロレスや格闘技ってずっと日本の社会と握り合ってきたんですよ。前回(1月に行われた「ONE:UNBREAKABLE」ジェームズ・ナカシマ戦)の「幸せな時間が来る」というテーマはまさにそういうこと。もうずっと頑張ってきてこれ以上頑張れと言われても「もう頑張れないよ」と。だから次は幸せな時間が来るんだというメッセージをテーマにしたわけです。

――今回の試合で掲げている「仕切り直して好きなことをして生きていく」というテーマも社会と握り合ってのものだったんですね。

青木:そうやって常に社会から感じているストレスと握り合うことが僕は大切だと思っていますね。ただ、それだけじゃなくて世の中への風刺もあります。「みんな好きなことしてるっていうけど、実際は好きなことしてないじゃん」みたいな。そんな簡単に言うんじゃないよっていう風刺も含んだテーマですね。やっぱり芸事というのは、社会と握り合うことだったり、社会との接点の風刺も含めていないと面白いものにならないですよね。

自分のカードをどう組み合わせて物語をつくるかが腕の見せどころ

――少し前にRIZINに初出場した山本聖悟選手について発信されていました。山本選手は韓国でも「キム・ソンオ」という名前で活動している選手で、青木さんはキム・ソンオとしてやったほうが良いキャリアが築けるんじゃないかと言っていました。

青木:彼は本当に面白いんですよ。僕は平気で触れてしまうんですけど、日本と韓国の両方の名前を持つというなかなか触れづらいカルチャーの中にいて、「それをお前はどうやって出していくんだ」ということが大事だなと思うんです。

――どう自分のストーリーを見せるかということですよね。

青木:国籍を変えるといろいろと大変だし、日本国籍のままだとビザの関係で韓国には長く滞在ができない。そういうことも含めて、あえて韓国の団体でやっていたほうが良いストーリーを見せることができるんじゃないかと思ったんですよ。僕は組み合わせというんですけど、限られた自分のカードをどう組み合わせて物語をつくっていくかというのは、その人の腕の見せどころですよね。

――今自分にどんなカードがあるのかちゃんと把握しているかも大事だと思うんですけど、手元にあるのにそのカードに気付けていない人っていうのもいますよね?

青木:多いと思いますね。それはやっぱりプロレスを知らないからだと思います。プロレスは持っているものをいかに使おうかっていうカルチャーじゃないですか。韓国にルーツがあるんだったらそれを出して集客につなげようとか、スポンサーを連れてこようとか。自分のカードをうまく利用してやるのが生き方だと思うんですよね。

――青木さんは自分が今どんなカードを持っているか整理することってありますか?

青木:僕はよくあります。どうやったらオリジナルになるかとか。どうやったら人にできない立ち位置になれるかとか、そういうことは常に考えています。

――そういうことを整理するコツみたいなものはありますか?

青木:コツは、なんだろうな。単純にメリット、デメリットを考えることですかね。こうしたら嫌だろうし、面倒なことがあるなと。でもそうすることでオリジナルになれるだろうなと考える。とにかく自分で考えることが大事ですよね。一番ダメなのは流されることなので。

――日本人は客観的に自分のことを整理するのが苦手なところがあると思うんです。例えば自分の長所と短所を聞かれて、短所はどんどん出てくるけど、長所はなかなか出てこなかったりします。

青木:それはあるかもしれない。「僕はここが弱みだけど、この弱みがあるからここが強みになっている」みたいな視点を持てるか。結局、すべてのものは裏と表なんですよ。それでバランスが取れているという理屈の元で僕はやっているんですよね。

――他人に自分の印象を聞いてみるというのは、方法の一つとしてあると思います。

青木:方法としてはあるけど、僕らの仕事の場合は他人をだましてナンボなので。だから他人に「僕のことどう見えていますか?」と聞いて、そこで言われたことに対して「あ、そうやって見えているのね。じゃあどうつくろう」っていう思考になっちゃいますよね。だから「自分がつくり上げている自分」みたいな虚像というか、プロジェクターに写し出したものに過ぎないと見ておくのがいいと思います。

他の選手と違うのは、自分がファンだった時代があるかどうか

――青木さんはよくファンを“自分ごと”に引き込むことが大事だと言っていますが、引き込むために必要なことは何だと思いますか?

青木:それは多方面から攻めるしかない。一番手っ取り早いのはギャンブルなんですよ。お金を賭けるから自分ごとになりますよね。でも僕らの業界ではそれはできない。だったらいかにその人の抱えている問題に近づけるか。

――握り合うということですよね。

青木:もっといやらしく言うと、その人の有益になること、悩んでいることを解決すること。そうすることによって自分ごとにさせるという手法もありますよね。もう一つはアイドルがよくやっているのが課金させること。本でもいいし、Tシャツでもいい。何かを買うことで共通の記号を握り合うことによって自分ごとにさせる。今の時代はありとあらゆる手法で引き込んでいくしかないですよね。

――そうして引き込んだファンの人に「活躍を見て勇気をもらっています」など、声をかけられることもあると思います。そういったところからどれくらい自分ごとに引き込めているか感じ取ることってありますか?

青木:ありますね。僕はそういう人に「何に響いたんですか?」って直接聞きますよ。

――それで思いもしなかったところに響いていたりということも?

青木:思いもしなかった層に響いていたり、逆に格闘技っぽいところに響いていなかったり、「あ、他の選手とは違う響き方をしているんだな」と思いますね。

――他の選手と違う響き方は、何が違うんです?

青木:僕が他の選手と明確に違うのは、自分自身がファンだった時代があるかどうか。他の選手はたぶんないと思うんですよ。でも僕はずっとプロレスのファンだった。チケットを買って、物販に並んでTシャツを買って、客席で入場してくるレスラーを触ってきたんですよ。だからいかに芸事を見るかということがちょっとわかっていると思うんです。

――ファン側の心理がよくわかると。

青木:ファンも選手も両方わかる。僕は選手同士でも「写真撮ってください」って言えないんですよ。申し訳なくて。

――それはどうしてですか?

青木:その人の時間を取ってしまうから。昔のプロレスファン時代でいえば、選手と写真を撮るっていうのはグッズを買ったりとか、何かしないとできなかったわけです。だから町中で遭遇しても「撮ってください」なんて言えない。

――最近はスポーツ選手がファンと気軽にセルフィーで写真を撮ってSNSに上がっているのをよく目にします。

青木:あんなこと僕は絶対にできない。ファンイベントとかなら応えるけど、そうでなければ「応えちゃいけない場だよな」とか、考えますよね。そういう心理がわからない選手は、本気で応援するっていうファン時代を経験していないと思うんですよね。

――ファンと距離が近いというのは、それはそれで良い面もあるかもしれないけど、近すぎても価値が薄れてしまいますよね。

青木:そう、そういうこと。だから僕は選手と仲良くなりたくない。だってチケットを買って応援するっていう敷居があることによって夢が見られるわけですよね。僕はそれを手放したくないんですよ。今は選手側になったことで手放してしまったけど、手放したことでの貧しさとか、寂しさみたいなものを感じていますね。

――ディズニーランドでミッキーと写真は撮りたいけど、中の人までは見たくないということですよね。

青木:まさにそういうこと。僕は常にファンであることを大事にしていたいんですよ。

<了>






PROFILE
青木真也(あおき・しんや)
1983年5月9日生まれ、静岡県出身。小学生時代に柔道を始め、全日本ジュニア強化選手に選抜される。早稲田大学在学中に総合格闘技に転身。修斗、PRIDE、DREAM等のリングで活躍し、修斗世界ミドル級王座、DREAMライト級王座を獲得した。2012年からアジア最大の格闘技団体ONE Championshipに参戦、2度のライト級世界王座を戴冠している。2014年からは総合格闘技と並行してプロレスにも参戦。日本格闘技界屈指の寝業師で、関節・締め技により数々の強敵からタップを奪ってきた。2019年に株式会社青木ファミリーを設立し、代表取締役社長に就任。格闘家の枠を超えた活動を行っている。

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