ヘンリー ブラッキン、“元悪ガキ”の悪戯な素顔。日本国籍取得も外国人枠→紆余曲折で掴んだラグビー日本代表の夢
REAL SPORTS / 2021年7月25日 20時7分
近年、急激な飛躍を遂げている日本ラグビー界。記憶に新しい2019年ラグビーワールドカップでは悲願の決勝トーナメント初進出を決め、5年前のリオデジャネイロ五輪ではニュージーランド代表を破って4位入賞という結果を残した。次なる東京五輪の舞台でもきっと世界に驚きを届けてくれるだろう。そのキーパーソンとなるのは、チームの中で懸け橋となるこの“元・悪ガキ” かもしれない――。
(文=向風見也)
強豪オーストラリア代表の経験もある頼れる男、ヘンリー ブラッキンの決意2021年の東京五輪に挑む7人制ラグビー男子日本代表では、個々のキャラクターが際立つ。
主将の松井千士は目鼻立ちのきれいな長身のスピードスター。リオデジャネイロ五輪4強入りを果たした副島亀里ララボウラティアナラはフィジー出身の38歳で、元シライシ舗道従業員という異色の経歴を持つ。
ゲームメーカーの加納遼大は、明治安田生命の所属で「サラリーマン戦士」として話題を集めてきた。明治大3年で高校時代からこの代表に絡んできた石田吉平は、身長167cmと小柄も強気で小刻みなフットワークを繰り出す。
単色でない赤と白のグループにあって、松井と共にリーダーを務めるのがヘンリー ブラッキンだ。来日10年目の32歳。強さとうまさを兼備したチャンスメーカーだ。
「自分が日本代表チームに入ってから感じるチームの強みは、バランスだと思います。副島など身体の大きな選手がいる一方、(石田)吉平らプレーメーカー、スピードのあるのは千士たちがいる。この、バランスが強みです」
ニュージーランドに生まれてオーストラリアで7人制代表となるなどのキャリアを重ね、2012年にNTTコミュニケーションズシャイニングアークスに加入。2021年まで稼働した15人制のトップリーグで長らく活躍してきた。
7人制日本代表での役割を、かように相対化する。
「チームでコネクションをつくる上で、自分は――日本人と外国人、選手とコーチなど――いろいろなところでのブリッジになれると思っています」
チームメートに紹介された“悪ガキ”の側面今年の直前合宿中、「ファミリータイム」という催しを行った。選手がそれぞれチーム全員の前に立ち、自らの生い立ちや哲学を述べる。
いわば格闘技兼球技のラグビーには、選手間の相互理解が求められる。感染症予防の観点から十分な親睦会が行えない中でも、「ファミリータイム」を通して勝利に必要な選手間のつながりを築きたかった。
ここでメンバーの話題をさらったのが、ほかならぬ「ブラッキン」だった。複数の選手が「ブラッキンが昔、やんちゃだったようだ」と証言。同じNTTコミュニケーションズ所属の羽野一志はこうだ。
「悪ガキがしそうなこと……ですね。よく、お父さんに叱られていたという話は聞きますけど……。あまり言っちゃうとブラッキンに怒られそうなので、やめときます」
いったいブラッキンは、どんなプレゼンテーションをしたというのか。そもそもどんな生き方をしてきたのだろう。水を向けられた当の本人は、苦笑しつつも述べる。
「オフ・ザ・フィールドでのファミリータイムは、ラグビー以外の部分でお互いをよりよく理解するベストな時間でした。お互いに笑い合える時間にしたかったのです。(自分の話で)周りも楽しんでくれているといいな、とは思いますが」
日本国籍を取得しながら外国人枠でのプレーが求められるも…グラウンド内外で同僚の支持を集めるヘンリーは、2019年に日本国籍を取得。公式会見には英語で応じながら、いたずらっぽく笑う。
「実は、ご質問の意味は大体わかっています。皆さまへのお答えをする中では不十分なところもあると思い、(通訳を介する)この形となっています。フィールドでの話題はラグビーに限られるので、日本語での会話には問題ありません。仲間とも意思疎通できると、自信を持って言えます」
オリンピックに臨む7人制ラグビーの代表に海外出身者が加わるには、その国のパスポートを持っていなければいけない。
15人制では一定の条件を満たせば他国代表入りがかないやすくなり、トップリーグでも日本国籍を持つ海外選手は既定の外国人枠と無関係にプレーできる。
しかしブラッキンは日本国籍取得後も、トップリーグでは「外国人」と見なされた。海外代表、およびそれに準ずるチームでプレーした場合、日本国籍保持者でもかような扱いを受けるのだ。この国のパスポートを有しながら外国人枠でのプレーが求められたのは、元7人制ニュージーランド代表で現同日本代表のボーク コリン雷神も同じだった。
来日10年、複雑な背景と複層的な思い、そして代表に選ばれた純粋な喜び両者は2020年、ルーリングが不服だと唱えている。元ニュージーランド代表で2017年に日本国籍取得(本人によれば2015年から本格的に準備開始)のロス アイザック(元NTTコム)とともに、日本ラグビー協会へ意見したのだ。
独自に入手した資料によると、先方からはかように返答された。
「(筆者注・当該ルール制定の)対外的な発表は2016年5月ですが、2014年3月から2015年8月までにはJRTL(ジャパンラグビートップリーグ)の16チームはこの内容を共有しております。ですので、十分な移行期間、猶予期間はあったと認識しております」
ルール解釈をめぐる一連の動きは、当時のトップリーグ側の極端なコミュニケーション不良と、一部選手とおよびその周辺の権利意識の向上とが招いたハレーションだった。いずれにせよ当事者にとって、己のアイデンティティを見つめ直す機会ではあったろう。
列島の国民が半ば無条件に熱狂しやすいオリンピックという舞台装置にあって、単純でない背景のもと日本代表となったヘンリーは、「スコッドに選ばれて、うれしい気持ちです。最初は、ここまで来られるとは思っていなかったので」。簡潔な決意は、複層的な思いの重ね塗りで成り立っているような。
仲間に「やんちゃ」な横顔を紹介した生粋のアスリートは、成熟した姿でメダルを見据える。
<了>
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