野球「稲葉ジャパン」挑む13年ぶりの五輪 悲願の金メダル獲得に必要な3つの条件
REAL SPORTS / 2021年7月27日 17時30分
プロ野球は前半戦が終了し、オールスター、そして東京五輪開催による約1カ月間のシーズン中断期間となる。その東京五輪は、28日にドミニカ共和国との初戦を迎える。そこで今回は、『巨人軍解体新書』(光文社新書)の著者で、プロ野球選手をはじめ巨人ファンを中心に数多くの野球ファンから支持されているゴジキ氏(@godziki_55)に、東京五輪で金メダル獲得への必要不可欠なポイントについて分析してもらった。
(文=ゴジキ、写真=Getty Images)
若手と主軸のバランスをとれるかがポイント今年開催される東京五輪は、世界的な影響を及ぼした新型コロナウイルスのため、1年延期された上で、57年ぶりの開催となる。その中でも野球に関しては、2008年の北京五輪以来13年ぶりに五輪の競技として復活する。そこで注目したいのは、実績組と若手組の融合だ。
菅野智之による辞退で、緊急招集された千賀滉大は、昨シーズン投手三冠に輝いたことはもちろんのこと、国際大会を経験した2017年WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)を見ても、ベストナインに選ばれるなど申し分ない実績である。今シーズンに限っては、けが明けという部分が不安ではあるが、投球スタイルのタイプ的に見ても必要な存在になっていくだろう。
田中将大は、今大会選出された選手の中では、唯一の北京五輪の経験者でありながら、2度のWBCと世界一も経験している。全盛期ほどの投球内容やパフォーマンスではないが、世界を知る田中は試合をまとめる力や、精神的支柱として見てもベンチにいるだけで存在感はあるだろう。
その田中と同様に坂本勇人も、野手陣では国際大会の実績は別格である。2度のWBCと2度のプレミア12を経験しており、五輪に関しては北京五輪でプレ大会を経験している。今シーズンは、けがの離脱や7月の調子を見ても選出に不安視はあったが、プレミア12のように大会中に調子を上げていくことに期待したい。
また、けがの状態が気になる柳田悠岐に関しては、ここまで2度のMVPと首位打者、4度の最高出塁率、さらにはOPSは両リーグ1位が3度と実績は申し分ない。野手陣に関しては、実績と実力、風格を見てもこの柳田と鈴木誠也は頭一つ抜けている。鈴木の場合は、2019年と比較すると昨シーズンから若干パフォーマンスが下降気味ではあるが、プレミア12の時に見せた、逆境の場面でも跳ね返していた圧倒的な実力を見ても、代表の主軸としては期待が大きい。
若手組では、今シーズンもトップクラスの成績を残している山本由伸がフル回転の活躍を見せるかがカギである。おそらく、コンディションや機転が利きやすい部分を見ても、山本を中心に回していく可能性は高い。
さらに、昨シーズン新人王に輝いた2人の投手にも期待がかかる。森下暢仁は、今シーズンもトップクラスの成績を残しており、高校時代と大学時代にも代表経験はある。U-18では準優勝に輝き、2017年ユニバーシアードでは金メダルを獲得していることから、国際大会で勝ち慣れている選手でもある。また、平良海馬もクローザーとして期待値は高い選手だ。160km/hを記録した剛腕は、五輪の舞台でも輝けるだろうか。
今年ルーキーながら選出された栗林良吏も注目である。平良と同様にクローザーの候補として挙がっている。強化試合を見た限りでは、8回は平良でクローザーは栗林の可能性は高いが、シーズンを見た限りでは、盤石な体制だろう。
若手の野手陣では、村上宗隆と吉田正尚が注目だ。村上に関しては、高卒4年目ながらも既に球界トップクラスの域に達しつつある。これまでは代表に縁がなかった選手だが、満を持して選出された、この東京五輪の躍動に期待したい。また、吉田正尚も2019年のプレミア12ではシーズンのような活躍は見られなかったため、今回の東京五輪では、これまで以上の強い思いがあるだろう。
実績組と若手組がいいバランスで調和することによって、チームが最大化していくことに期待していきたい。
NPB球団所属の外国人への対策は必須過去の事例から見た課題点をいくつか挙げていく。
まずは、NPBに所属している外国人選手への対策である。普段から対戦しているがゆえに、軽視してしまう選手ではあるが、前回の北京五輪では、韓国代表に選出されていた李承燁(当時巨人)に打たれた上で、敗戦を喫した。さらに、アテネ五輪を見ても、ジェフ・ウィリアムス(当時阪神)がマウンドに上がった際に、分が悪いとされる藤本敦に代打を送らない場面も見受けられた。
今回の東京五輪では、初戦で当たるドミニカ共和国代表で、C.C.メルセデス(巨人)やエンジェル・サンチェス(巨人)が選出された。さらに、元巨人のファン・フランシスコも選出されており、日本はメルセデスを打ち崩して、フランシスコを抑えられるかがカギである。余談だが、元メジャーリーガーのホセ・バティスタも選出されたが、この選手も、阪神が獲得するという噂が流れた選手でもある。短期決戦のカギであり、最重要といっても過言ではない初戦のドミニカ共和国戦でしっかり勝ち切れるが必須条件だろう。
2019年のプレミア12で唯一日本が敗戦を喫したアメリカ代表は、タイラー・オースティン(DeNA)やスコット・マクガフ(ヤクルト)、ニック・マルティネス(ソフトバンク)が選出されている。さらに、ブランドン・ディクソン(元オリックス)とアンソニー・カーター(日本ハム)も選出された。当たるとなれば、タイトル争いをしているオースティンはもちろんだが、マルティネスが先発すると見越して、野球の競技開催前から開催期間中に、選手はもちろんのこと、スコアラーから首脳陣は他国の中心選手をスカウティング(※相手への研究や分析の意味を要チェックすること)していくべきだろう。
さらに、韓国代表は阪神に所属していた呉昇桓が選出された。北京五輪で韓国を金メダルに導いた鉄腕が、東京五輪では韓国代表の精神的支柱として立ちはだかる。
また、過去に所属していた外国人の出場や、過去の五輪で外国人選手が活躍していたことは、日本のプロ野球のレベルが世界から見て高いことが一つの要因だろう。レベル感から見ても、アメリカのメジャーリーグとマイナーリーグの3Aの間ぐらいと見てもいいレベルである。この五輪では、対外国人選手への対戦も注目だ。
一発勝負の世界で情をコントロールできるかがポイント次の課題点は、温情采配をなくせるかである。これまでの国際大会を見ると、調子が悪い選手をうまく調整させた上で起用していくことや、外していけるかがポイントになっていくだろう。
北京五輪では、シーズンではクローザーを務めていた岩瀬仁紀を回跨ぎさせるなどの起用法で調子を落とさせたが、これは悪い意味での温情采配である。逆に、2009年WBCでは不調だったイチローを打順を替えた上で、決勝の勝ち越しタイムリーに導かせたことは、イチローという存在を理解した上で、臨機応変に起用法を変えたいい意味での温情采配だ。
おそらく、今回の東京五輪でもコンディションの良しあしは少なからず出てくるだろう。
プレミア12では大会序盤に坂本が調子を下げていた中で、源田壮亮を起用しつつ、大会終盤には坂本が調子を上げいったように、東京五輪でもこのような臨機応変さは必要である。
短期決戦では、初戦に勝利した上での勢いはもちろんだが、トーナメント方式にしっかりと逆算した戦い方ができるかもポイントである。
アテネ五輪では、準決勝にエース松坂大輔が先発して、決勝の予定日はキューバへの秘密兵器で和田毅を予定として、3位決定戦のカナダ戦に先発した。北京五輪では、準決勝に杉内俊哉、決勝の予定日は和田で3位決定戦に先発した。今大会は、ノックアウト方式で実質準々決勝から金メダル獲得へ向けて絶対に負けられない試合になる。その時に一番勢いがある投手や実績がある投手を投入した方がベターだろう。そのためには、点差がついた試合で、ある程度選手を試しながら勝ち進むことも必要になっていく。
この東京五輪では、念願の自国開催はもちろんのこと、国内のスポーツで一番人気といっても過言ではない野球で悲願の金メダル獲得を期待して見ていきたい。
<了>
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