里崎智也、“日本野球界の危機”に疑問。「メディアが過剰に危機感を煽るのはどうなのかな」
REAL SPORTS / 2021年10月10日 11時32分
近年「日本野球界の危機」が声高に叫ばれている。特に多くのメディアや有識者が報じているのが、ジュニア層の競技人口の大幅な減少、“野球離れ”の進行だ。
だが現役時代に千葉ロッテマリーンズで2度の日本一に貢献した里崎智也氏は、こうした報道に疑問を抱く。「過剰に危機感をあおるのは、どうなのかなと思いますね」。日本野球界の現在地と未来に向けて、持論を明かした――。
(インタビュー・文=花田雪、写真提供=スカイA)
里崎智也氏は、ちまたで叫ばれる“野球界の危機”に疑問を抱く競技人口の減少、野球人気の低迷……。
昨今、何かとネガティブな話題の多い野球界。その“危機感”は、NPB(日本プロ野球)球団はもちろんメディアも抱えており、事あるごとに「野球界の危機」が叫ばれている。
しかし、現役時代は千葉ロッテマリーンズでプレーし、現役引退後の現在は野球評論家、YouTuberとしても活躍する里崎智也氏は、ほうぼうで叫ばれている「野球界の危機」を「嘘っぱち」と一刀両断する。
「メディアも含めていろいろなところで野球界のネガティブな話が出ますけど、私自身は『それ、ホントに?』と感じています。もちろん、競技人口が減っているのは数字を見ても明らかです。でも、それが“危機”とイコールなのかというと、決してそうではない。大前提として、日本の人口自体が減少しています。いわゆるジュニア世代の人口減少はさらに顕著です。分母が減っているのだから、競技人口が減るのは当たり前のこと。総人口の減少ペースを競技人口の減少ペースが上回っているという話も聞きますが、今はスポーツを含めて“多様化”の時代です。娯楽はあふれているし、野球以外のスポーツもどんどん盛んになっている。そんな状況で“競技人口の減少”だけをフィーチャーして過剰に危機感をあおるのは、どうなのかなと思いますね」
競技人口の減少は、競技レベルの低下につながる?「それもちょっと違う」競技人口の減少は、当たり前の流れ――。
確かに、そうかもしれない。一昔前と違い、「子どもが野球をやるのが当然」という時代はとうに過ぎ去った。
向き合うべきは、競技人口という単純な数字ではない。
「選手目線でいえば、むしろ競技人口の減少はチャンスですよ。だって、プロ野球選手になれる確率は上がるわけですから。NPBは球団の数も変わっていないし、『プロ野球選手になれる人数』は不変です。むしろ育成選手制度の導入で以前よりも人数自体は増えている」
確率論でいえば、確かにそうだ。ただ、競技人口の減少はそのまま「競技レベルの低下」につながるという意見もある。
「それも、ちょっと違うと思うんですよね。少年野球など、今はチームの数が少なくなって、選手もなかなか集まらないという話を聞きます。ただそれは、『選手が試合に出られる機会が増える』ことでもあるんです。もちろん9人に満たないと試合はできませんが、これまで30人、40人もいたチームの人数が10人程度に減ったら、全選手に試合出場のチャンスが生まれるわけです。試合に出られるということは、技術向上にとって最も効果的ですし、何より野球が楽しくなる。これまでの野球の競技人口がそもそも“多過ぎ”たと考えれば、出場機会をつかめる可能性が高まることは、決してマイナス要因だけではないんです」
選手の視点で考えれば、危機と叫ばれる競技人口の減少は、むしろチャンス。
まさに、逆転の発想だ。
とはいえ、里崎氏自身も野球界が「このまま」でいいと言っているわけではない。
「一番大切なことは、競技人口を増やすことではなく…」「一番大切なのは“競技”人口ではなく、“野球好き”人口を増やすこと。私自身、常にそこを意識して活動しています。野球界を支えているのは誰かと考えたとき、競技人口ももちろんですが、それ以上に“野球好き”人口を増やすことを考えなければいけない。プロ野球を例にすると分かりやすいですが、球場に来てくれて、テレビで試合を見てくれて、グッズを買ってくれる。そういう“野球好き”によって、野球界は成り立っています。もっというと、野球好き人口の増加は、そのまま競技人口の増加にもつながるはずなんです」
“競技人口”よりも“野球好き人口”――。
確かにNPBを含め、野球界はいわゆる”野球人気”の向上にも積極的に取り組んでいる。
「野球人気の低迷――。これも、メディアなどでよく聞く言葉です。ただ、これも何をもって『低迷』と断言できるのか、疑問は多い。典型的なのが地上波の視聴率です。以前とは違って地上波での野球中継がほぼなくなり、たまに中継されたとしても視聴率は数%。20~30%が当たり前だったころと比較すると、『野球人気が低迷した』と感じるかもしれません。ただ、ここにも数字のマジックがあります。そもそも、本当の“野球好き”は今、地上波で中継を見ますか? スカイAのようなCSチャンネルやDAZNに代表される配信サイトなど、今では地上波以外でプロ野球の試合を見られる環境が整っている。全国どこにいても12球団の試合が視聴できるんです。多くのファンはそれら有料放送に加入して、“非地上波”でプロ野球の試合を見ています」
では、そんな時代に地上波でプロ野球の試合を見るのはどんな層だろうか?
「それこそ、“野球好き”予備軍ではないでしょうか。地上波の放送は、予備軍を増やすために必要な放送なんです。有料放送に加入して見るほどではないけど、なんとなく野球が放送されているし、見てみようかな……。そんな層が、『数%』いるというのは、実はすごいことですよね。野球界が今一番にすべきなのは、その数%の野球好き予備軍を“野球好き”まで引き上げること。そして、その成果は確実に上がっていると感じています。
コロナ禍以降は無観客試合や入場者数の上限があるため数字では表れませんが、その前まで12球団の観客動員数は右肩上がりでした。球団によっては観戦チケットが入手困難なケースもありますし、基本的にどの試合も観客席は埋まる。これはもっとポジティブに捉えてもいいと思うんです。方向性は、間違っていない。もちろん、課題を解決したり、野球界をより良いモノにするためにはネガティブな発信も必要だとは思いますが、今はそちらに偏り過ぎな気がします。良いものは、良いと認めてあげないと、むしろ衰退してしまう」
“野球好き人口”を増やすために必要なことは? 里崎氏の持論何かとネガティブな側面だけがフィーチャーされがちな野球界だが、里崎氏は「結果は出ている」と語る。では、“野球好き人口”をさらに増やしていくために、野球界はこれから何をすべきか。
「簡単です。もっともっと、選手がMLBに移籍して活躍すればいい。今年なんて、それがものすごく顕著ですよね。朝のワイドショー、ニュース番組など、“非野球好き”が見る番組で毎日のように紹介されている野球選手って誰ですか? 大谷翔平選手(エンゼルス)じゃないですか。彼がここまで取り上げられているのは、二刀流という誰もやったことがないプレースタイルで結果を残しているのはもちろんですが、やはりそれをMLBという舞台で実践しているからですよね。村上宗隆選手(ヤクルト)や山本由伸選手(オリックス)がどんなに素晴らしい記録を残しても、朝のワイドショーでは取り上げられない。いわゆるライト層に訴求していくためには、MLBで日本人選手が活躍することが、最も効果的なんです」
ただ、NPBのスター選手がMLBへと移籍することに関しては、「NPBの人気低下」を危惧する声も少なからず上がっている。
しかし、里崎氏はこれも「関係ない」と断言する。
「大谷以外にも過去に多くの日本人選手がMLBに移籍して活躍してきましたが、実際に日本の野球人気は低下したんでしょうか。それを肌で感じる人って、本当にいるんですかね? 少なくとも私はそれを感じません。日本人選手のMLBでの活躍は、そもそも野球にそこまで興味のない人、先ほどから言っている“野球好き”予備軍に大きな影響を与えるだけであって、はなから“野球好き”の人はMLBもNPBも見ますよね。であれば、野球好きの分母を増やすという意味でも、やはりもっとMLBへの移籍が活性化した方がプラスになるはずです。野球界の危機とか、人気低迷とか、何かと言いたがる人は大勢います。ただ、現状を冷静に見ればそこまで悲観することばかりではない。良い部分はしっかりと認めてあげることこそ、野球界の発展、さらなる人気向上にもつながるはずです」
10月11日(月) 17時、ドラフト会議が始まる。地上波でもCS放送でも中継される“運命の一日”は、まさに里崎氏の言う“野球好き”も“野球好き予備軍”も注目する国民的な一大イベントだ。今年はいったいどんなドラマが生まれるのだろうか。将来の日本野球界を背負うスター選手はここから誕生する。
競技人口の減少、人気の低迷……。ネガティブな話題ばかりが目立つ日本の野球界。しかし、視点を変えれば、明るい兆候も見えてくる。
里崎氏の話を聞いて、日本の野球界には明るい光が差し込んでいる――。そう、感じることができた気がする。
<了>
PROFILE
里崎智也(さとざき・ともや)
1976年5月20日生まれ、徳島県出身。鳴門工高、帝京大を卒業後、1998年プロ野球ドラフト会議で千葉ロッテマリーンズに逆指名で2位入団。2年目の2000年に1軍初出場を果たし、不動の正捕手として長く活躍した。2005年、2010年には日本一に貢献。2014年に現役引退。現在は解説者や自身のYouTubeチャンネル(Satozaki Channel)などで野球の魅力を発信。スカイA「プロ野球仮想ドラフト会議」に出演、ドラフトの見どころを徹底分析している。
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