ヤクルト塩見&青木の1・2番コンビが、破壊的打線の根源である理由。極端に少ない“数字”とは?
REAL SPORTS / 2021年11月20日 9時5分
2021年、東京ヤクルトスワローズは12球団最多の得点をたたき出しリーグ優勝を果たした。30年ぶりの日本一へ、カギを握るのは誰だろうか? この破壊的な打線の中心はもちろん、山田哲人、村上宗隆であるのは間違いない。だがキーマンとして名前を挙げるのであれば、やはりこの1・2番コンビを外すことはできない――。
(文=花田雪、写真=Getty Images)
12球団最多の625得点。破壊的な強力打線の根源は…2年連続最下位から一転、6年ぶりのリーグ優勝、日本シリーズ進出を果たした東京ヤクルトスワローズ。
11月20日に開幕する日本シリーズでは、6年前に逃した“日本一”を懸けてオリックス・バファローズと対戦する。
チームを優勝へと導いた最大の原動力は、12球団最多のシーズン625得点をたたき出した強力打線。
その中核を担うのが、山田哲人・村上宗隆の3・4番コンビだ。史上初めて3度のトリプルスリーを達成している山田と、21歳にして球界を代表する長距離砲に成長した村上。その破壊力は、12球団屈指といって間違いない。
しかし、ヤクルト打線の本当の“怖さ”は、その得点力を2人だけに依存していない点にある。使い古された言葉だが、いわゆる「どこからでも点が奪える打線」だ。
シーズン前、高津臣吾監督は野球評論家の井端弘和氏にこんな言葉を漏らしていたという。
「ウチは5点取られても6点取れる。6点取られても7点取れる。それだけの力はある」
結果論ではあるが、この予言は見事に的中した。もちろん、清水昇、スコット・マクガフに代表されるリリーフ陣や、成長した2年目右腕・奥川恭伸ら先発陣の踏ん張りも大きかった。
それでもやはり、規定投球回に到達した投手が一人もいない中で優勝を勝ち得たのは、打線が「線」として機能し、得点を量産できたからに他ならない。
日本シリーズでも当然、ヤクルト打線の得点力が勝敗の行方を左右することになる。その上で注目なのは、山田・村上コンビの“前”を打つ2人の選手の存在だ。
特筆すべき犠打数の少なさ。塩見と青木のスタイル今季のヤクルトはリーグ優勝へ向けてスパートをかけた中盤以降、基本的に「1番・塩見泰隆、2番・青木宣親」の打順を固定して戦い抜いた。塩見はプロ4年目の今季ブレイクしたチームの元気印。シーズン21盗塁のスピードと14本塁打のパワーを併せ持つ、典型的な「核弾頭」だ。2番の青木は、39歳の大ベテランながら今季もチームの主軸として躍動。打率.258はレギュラー獲得後では自身ワーストだったが、卓越した打撃技術は健在。
この1・2番コンビの特徴を語る上で特筆すべき数字が、「犠打数」だ。今季、塩見の犠打数は2、青木に至っては2番打者としては異例のゼロだった。「超攻撃的」といってしまえば簡単な話だが、その裏にはいくつもの要因がある。
その一つが、塩見の打撃スタイルだ。前述の通り、今季は14本塁打とパワーを発揮しているが、それに加えて二塁打を21本、三塁打をリーグ最多の7本放っている。今季放った132本の安打のうち42本が長打で、長打率.441はリーグ17位、チーム内では村上、山田に次ぐ3位だ。
出塁のパターンに長打が多いと、当然ながら次打者の青木が犠打をする必要はなくなる。また、シングルヒットや四球で出塁した場合にも、塩見には“足”がある。貴重な1アウトを献上してまで二塁に走者を進める必要が、ほとんどないのだ。
もちろん、青木の持つ打撃技術も「犠打ゼロ」に大きく寄与している。青木が今季喫した三振数44は、セ・リーグ規定打席到達者の中で最少。三振や空振りのリスクが少ないと、塁上に塩見がいる場合の選択肢が増える。状況次第では進塁打を狙ったり、塩見を動かすなど臨機応変の策が可能になるのだ。当然、シンプルに1アウトを献上する犠打を行う必要性は薄くなってくる。
1・2番コンビを固定できたメリットが、打点数の多さにも表れた塩見と青木の1・2番コンビが出塁し、塁上のランナーを進めることで、後ろに控える山田、村上の破壊力も倍増する。昨季は1・2番がなかなか固定できず、せっかく強力なクリーンアップを誇りながら、それを「得点」に直結させることができなかった。今季同様に青木の2番起用を試したケースもあったが、1番にはアルシデス・エスコバー、坂口智隆、山崎晃大朗らが日替わりに近い形で起用され、打線の「線」を最後まで形成できなかった。
それが今季、塩見の台頭で1番が固定され、それに伴って青木の役割も2番で固めることができた。上位打線を動かす必要がなければ、必然的に下位打線も固定できる。「強いチームはレギュラーが決まっている」というのはプロ野球界のセオリーだが、今季のヤクルトがまさにそれだった。
レギュラーが固定されたことのメリットは、塩見と青木の「打点数」にも表れている。今季、塩見は59打点、青木は56打点と、2人だけで115打点をマークしているが、彼らがチャンスメークだけでなく「ポイントゲッター」としての役割も果たしていたことを証明している。特に青木は、打率.317、18本塁打を記録した昨季より、打率.258、9本塁打の今季の方が打点が多い。出場試合数の差を考慮しても、その差は歴然だ。
1番から4番までが固定されたことで、5番ホセ・オスナ、6番中村悠平、7番ドミンゴ・サンタナと連なる下位打線が形成され、彼らが出塁して塁上が埋まったところで1番塩見に打順が回る。
そんな好循環も、元をたどれば塩見、青木の「1・2番コンビ」固定につながってくる。
20年ぶりの日本一へと導く活躍を見せられるかまた、彼らがフレキシブルな働きをすることで、選手個々の役割に明確な「切れ目」がなくなっているのもヤクルト打線の強みの一つだ。本稿ではあくまでも塩見と青木の「1・2番」を軸にしているが、例えば「技術とスピードを併せ持ち、何でもできる1~3番」とくくることもできれば、「実績もあり、安定して力を発揮する2~4番」とカテゴライズすることもできる。
シームレスな打線が、12球団一の破壊力を生んでいるのだ。
日本シリーズでは山田、村上の豪快な本塁打はもちろん、彼らの“前”を打つ12球団最強の「1・2番コンビ」がどんな働きを見せるのか、ぜひ注目してほしい。
<了>
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