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2021年の森保ジャパンはどう評価すべきか? 客観的かつ俯瞰的に振り返る、功績と課題

REAL SPORTS / 2021年11月23日 10時2分

2021年の森保ジャパンは、苦闘の連続だった。FIFAワールドカップ・アジア最終予選で一時は4位転落とまさに崖っぷちへと立たされながら、最終的には3連勝で自力突破が可能な2位へ浮上した。最大の窮地からは脱したものの、いまだ指揮官に対する批判的な風潮はやんでいない。果たして2021年の森保ジャパンはどう評価すればいいのか。客観的かつ俯瞰(ふかん)的に振り返ってみたい。

(文=藤江直人、写真=Getty Images)

森保ジャパンの2021年を客観的かつ俯瞰的に振り返ると……

年内に組まれていたFIFAワールドカップ・アジア最終予選を全て戦い終えた直後に、キャプテンのDF吉田麻也が森保ジャパンの現状を的確に言い当てている。

「個人的には次の1月までに、このへんまで状況を盛り返したいと思っていた。次はサウジアラビア戦もあるし、その時に3位や4位にいる状況は避けたかった。苦しみながらも勝ち点3を積み上げたことで、他力ではあるが状況は好転した」

吉田が言及した「このへん」とは、カタール行きの切符を無条件で手にできるグループBの2位以内を指す。さらに「他力」とは劣勢が予想されていた中国代表が、オーストラリア代表と1-1で引き分けた11月16日(現地時間、以下同)の第6節を指していた。

同日に日本代表は敵地マスカットで、9月の初戦でまさかの苦杯をなめさせられているオマーン代表を1-0で退けた。リベンジを果たして年内の戦いを終えた直後のフラッシュインタビューで、吉田はこんな言葉も残している。

「現状で勝ち続ければ、自力でワールドカップをつかめるところまできた」

1勝2敗と出遅れた日本は、オマーンを下した時点で3連勝をマーク。4勝2敗で勝ち点を「12」まで伸ばしたところへ、一足早く終わっていたオーストラリアの結果を、ベンチから外れたメンバーたちが伝えた。

自力突破が可能な2位に結果として立てていることは最大限に評価できる

10月シリーズで日本に1-2で敗れ、開幕からの連勝を「3」で止められたオーストラリアは、11月シリーズでサウジアラビア、中国と連続ドロー。勝ち点を「11」にまでしか伸ばせず、サウジアラビアに次ぐ2位の座を日本に明け渡した。

結果が求められる戦いの渦中で、敵地ジッダでサウジアラビアに屈した10月7日の第3戦後に、吉田は「もう2位に入れればいい、というマインドでいる」と打ち明けた。

「1位で行っても2位で行ってもワールドカップはワールドカップ。上の2カ国には常に追われる立場の重圧があるし、まだまだ僕たちにも巻き返せるチャンスがある」

吉田の言葉通りにオーストラリアは勝ち点の伸びが鈍化。さらに折り返しとなる11月11日の第5節で中国と引き分けたオマーンも、重圧を感じていたのか。この時点で4位に後退した中東の伏兵は、日本に敗れた時点で事実上の終戦を迎えた。

三つどもえになったグループBで、全て1点差の辛勝ながらも4つの白星を積み重ねたここまでの軌跡は評価に値する。来年3月末までに行われる残り4試合を全て勝てば、自力でワールドカップ出場権を手にできる状況を手繰り寄せた点もしかりだ。

6試合で5点……深刻な得点力不足とセットプレーの精度

物事には必ず両面あるように、森保ジャパンが置かれた現状を「光」と捉えるならば、依然としてチームには多くの「影」も存在する。

例えば6試合でわずか「5」の総得点は、グループBトップのサウジアラビアとオーストラリアの「9」だけでなく、中国の「7」やオマーンの「6」の後塵(こうじん)をも拝している。

しかも1つはオーストラリア戦の決勝点となったオウンゴール。流れの中で奪った4ゴールのうち3点は、右ウイング伊東純也の「個の力」を抜きには語れない。群を抜く縦へのスピードを武器に、2ゴール1アシストをマークしている。

苦しい展開になるほど、重要さが高まるのがセットプレーとなる。しかし、アジア最終予選において何度コーナーキックを得ても、あるいは敵陣のいい位置でフリーキックを得ても、日本からはゴールの可能性がまったく伝わってこない。

「いくつかデザインしていた形もあったけど。改善しなければいけないとずっと思っている中で、今はどこをどうすればいいのかが見いだせていない」

日本のセットプレー時に相手ゴール前へ攻め上がる吉田が厳しい表情を浮かべれば、オーストラリア戦を境にキッカーを務める機会が増えたインサイドハーフの田中碧は「責任を感じるし、自分のクオリティーの低さだと思っている」とこう続ける。

「試行錯誤している最中なので何ともいえないですけど、セットプレーがチャンスになっていないのは事実。せっかくセットプレーを取ってもチャンスにならなければ、相手がファウルを減らさずにプレーできてしまう」

豪州戦で思い切ったシステム変更も……再び固定化される選手起用

攻撃陣にタレントが不足しているわけではない。ヨーロッパでプレーする選手が増えた分だけ、日本に還元される経験値も跳ね上がった。それでもゴールが遠い現状を、東京五輪代表の堂安律の目には「単調な攻撃に終わっている」と映っている。

「ピッチ上でプレーする選手にしか分からないこともあるけど、個人の能力は相手よりも上回っているのに、コンビネーションの面でうまくかみ合っていない。いろいろな選手が次々と湧き出てくるような、迫力のある攻撃をしたい」

こう語る堂安は10月シリーズを左膝の違和感で離脱し、11月シリーズでは追加招集されながら出場機会を得られなかった。自らが置かれた状況を理解しながら、オランダの地で映像越しに見たオーストラリア戦を「かみ合っていた」と振り返る。

崖っぷちに追い込まれた状況で迎えたそのオーストラリア戦で、森保監督はシステムを従来の[4-2-3-1]から[4-3-3]へスイッチ。練習時間がわずか2日だけという、文字通りのぶっつけ本番で臨んでいる。

川崎フロンターレで培われた田中と守田英正、A代表で共演した遠藤航と守田、そして東京五輪でコンビを組んだ遠藤と田中と、それぞれのコンビネーションを生かす形で即興性をカバーさせながら、遠藤をアンカーに置いた中盤を形成させた。

果たして、サンフレッチェ広島時代から先発メンバーを固定する傾向が強かった森保監督は、新たなオプションの[4-3-3]でも同じ采配を踏襲する。ベトナム戦前に見舞われたハプニングが、指揮官の頑固な一面を図らずもあぶり出した。

飛行機トラブルでコンディション不良を訴えるも……メンバーを代えない指揮官の胸中

コロナ禍で厳重な入国制限措置を設けているベトナムへ入国するために、日本サッカー協会はチームを3つのグループに分けて移動させた。

成田発の2グループは予定通りにハノイ入りしたが、11人のヨーロッパ組を乗せたオランダ・アムステルダム発のチャーター便に遅延トラブルが発生。給油のために降り立ったロシア国内の空港で、半日近くも狭い機内に閉じ込められた。

ハノイ入りしたのはベトナム戦の前々日の深夜。移動時間が実に24時間を超えた状況で当然ながらコンディションへ与える悪影響が懸念され、時差ぼけを含めて、前日の公式練習の1度だけで解消させるにはハードルが高かった。

しかし、森保監督は遅延トラブルに巻き込まれた冨安健洋、南野拓実、守田、伊東、そして吉田をベトナム戦で先発させた。その理由をこう明かした。

「全員がすごくいい顔をしていて、疲労をほとんど感じさせなかった。機内に閉じ込められた状態でうまく気持ちを切り替えて睡眠と休養を取り、試合へ向けていいコミュニケーションを取ってくれていた。フィジカル的にもメンタル的にもリカバリーできていて、トレーニングを1度することで十分にプレーできると判断した」

先発メンバーはオーストラリア戦から、離日前に右足付け根を痛めた右サイドバックの酒井宏樹が山根視来に代わっただけ。ただ、守田はベトナム戦後にこう語っている。

「コンディションは万全ではなかった。そこは事実としてはっきりと言っておきたい。でも、アクシデントが当たり前に起こる世界。プロである以上は理由にならない」

コンディションに関しては、守田を含めた全員が森保監督へ正直に報告した。それでも酒井以外の先発メンバーを代えなかった指揮官の胸中を吉田はこうおもんぱかった。

「オーストラリア戦がよかった、というのがあるのかなと。練習時間が少なすぎた分、前回のいいイメージをいじらない方がいいという判断だったんじゃないかと」

クラブで好調を維持も、序列は覆らず……選手から聞こえ始めた現状への不安

そのベトナム戦で守田が通算2枚目のイエローカードをもらい、オマーン戦で出場停止処分を科された。左サイドに生じるスペースを埋めた上で攻撃にも関わる、キーマン的な役割を担っていた守田の代役に名乗りを挙げたのが原口元気だった。

「ポジション的に一番フィットするし、走力という特長を出せる。ボックス・トゥ・ボックスを走らせたらこのチームで一番だと思っているので」

昨シーズンのハノーファー、そして今シーズンのウニオン・ベルリンでトップ下やインサイドハーフを主戦場としてきた原口は「僕にとってチャンスだと思う」と力を込めた。しかし、指名されたのは守田に次ぐ序列の柴崎岳だった。

同じ相手に2度負けられない、を合言葉に臨んだオマーン戦の先発メンバーは守田が柴崎に代わっただけだった。森保監督は前日会見で「試合ができるまで回復している」と酒井の復帰を示唆したが、実際には山根が先発フル出場している。

実はオマーン戦前日のリモート対応で、酒井は復帰へ向けて自分自身の中で定める基準を「自分のパフォーマンスが戻るか戻らないか」と明かしている。

「強いインテンシティーを出せるか、チームにどれだけのプラスアルファをもたらせられるかが僕の判断基準であり、プロとしての責任だと思っている。試合に出たいとか、あるいは根性を出して強引にでも試合に出るといったものではない」

おそらくはオマーン戦前に話し合いが持たれ、ベンチにこそ入るものの、先発回避が決まったのだろう。遅延トラブル組がベトナム戦前にコンディションを正直に報告した件を含めて、しかし、決してネガティブに捉える事態ではない。

「みこしを担ぎたいと思う監督」。吉田麻也が口にした言葉の意味

 西野朗前監督からバトンを引き継ぎ、カタール・ワールドカップへ船出した2018年9月から、森保監督は選手たちの自主性や臨機応変な対応力を求めてきた。オマーンとの再戦でも[4-3-3]の継続を明言しながらこんな要望も添えている。

「試合の流れの中で臨機応変に対応していけるように、システムを可変させながら戦っていくことを、選手たちには十分に考えてほしい」

システムを介して立ち位置とある程度の方向性を持たせた上で、選手たちの対応力に大部分を任せる。戦術がないと批判される理由となっている中で、堂安の指摘や原口の主張、守田や酒井の対応は指揮官にとってむしろ歓迎すべき反応だったはずだ。

あらためて振り返ってみれば、解任を求める批判の渦中にあった森保監督へ向けられた吉田のある言葉がよみがえってくる。ちょうどサウジアラビア戦の直前だった。

「みこしを担ぎたいな、と思う監督であることは間違いないです」

慣用句の「みこしを担ぐ」は「ある人を祭り上げる、おだて上げる」を意味し、特に政界で権力者をやゆするときに用いられる。しかし、吉田は別の意味である「高い地位についた人の面目が立つように、縁の下であれこれ努力するさま」を込めていた。

この観点で振り返れば、吉田が機を見るに敏にコメントを発してきた跡もうなずける。

今夏アーセナルへ移籍した冨安も、オマーン戦を前にして「スローインでのボールロストが多すぎる」と修正すべき点を訴えている。

「現代サッカーではスローインもセットプレーの一つとして、アーセナルでは練習している。例えばスローインから逆サイドへ持っていけば、そこからチャンスを生み出せる。スローインからのサイドチェンジもない、というところでみんなと話し合いたい」

全てが「みこしを担ぐ」ために選手たちが自主的に考え、発言や行動に移してきた。だからといって森保監督も、いつまでも担がれたままでいいわけがない。

最終予選の激闘のさなかで台頭し始めた東京五輪世代。着実に世代交代は進んでいる

共に無得点で前半を折り返したオマーン戦で、森保監督は後半開始から柴崎に代えて今シリーズで初招集した三笘薫を投入。システムが[4-2-3-1]に代わった中で、2列目の左サイドに配置された三笘はA代表の初陣で受けた指示をこう明かした。

「前への推進力を出して、どんどん仕掛けろと言われました」

ファーストプレーで相手がファウルでしか止められないドリブル突破を見舞った三笘は、左タッチライン際を主戦場にしてオマーンの守備陣を畏怖させた。伊東に人数をかけて止めにきていたオマーンの前半の戦い方をパニック状態に陥れた。

左右に翼を広げた日本の攻撃に対して、伊東を警戒すれば三笘が空く。その逆もしかり。81分に生まれた伊東の先制&決勝点は、左サイドを突破してクロスを放った三笘に、そして後方でのボール奪取と的確なパスで三笘をフォローした中山雄太によって導かれた。

東京五輪世代の台頭を森保監督もポジティブに受け止めている。冨安と田中に、「個の力」で流れを一変させた三笘が加わり、長友佑都が牙城を築く左サイドバックに途中出場ながらプレー時間を伸ばしている中山も続こうとしている。

2022年こそは指揮官の勝負師としての素顔を見せる時

「ポジション争いに関しては、ニュートラルに見ながら決めていきたい」

チームを活性化させる世代交代の息吹を感じさせながら、森保ジャパンの戦いはワールドカップイヤーへ突入する。ポジティブな雰囲気を持ち越せるのは、チームに関わる誰もが求めてやまない勝利という成功体験を得られたからに他ならない。

選手たちに「この人を担ぎたい」と思わせる優しくて実直な一面に、無為無策に映る頑固さを同居させる森保監督の采配も勝利を介して変わっていくのであれば、アジア最終予選で見せてきた「影」はオセロゲームのように「光」に換わる可能性を秘める。

「アジア最終予選を戦いながら先を見越して、ワールドカップ本大会でどのように勝ち上がるのかをイメージして、自分たちの形をつくらなければいけない。ただ、9月と10月で追い込まれたことで正直、目の前の一戦一戦に集中している感も否めない」

理想と現実の二兎を追うべきアジア最終予選の厳しさにあらためて言及した吉田は、ホームで中国、サウジアラビアと戦う次のシリーズを見据えながら油断を封印した。

「1試合で状況が変わってしまうのは、オーストラリアも僕たちも変わらないので」

崖っぷちからの脱出が最優先された今年の6試合から、来年待つ4試合では確固たる結果に、カタールの地で通用する武器も上乗せする。アジア最終予選を戦いながら、森保監督に担がれた先にあるはずの勝負師の素顔を見せる作業も求められる。

<了>







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