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“張本智和の妹”の重圧と期待を乗り越え快挙の4冠…張本美和、予想を上回る成長曲線の秘密

REAL SPORTS / 2021年12月21日 11時30分

今年12月に行われた世界ユース卓球選手権<12月2日~8日/ポルトガル>。19歳以下の若手の世界一を決めるこの大会で、日本は全14種目中、最多となる7種目を制覇した(ダブルスの国際ペア含む)。中でも目覚しい活躍を見せたのが、U15(15歳以下)で4冠を成し遂げた、13歳の張本美和だ。東京五輪日本代表・張本智和を兄に持ち、その背中を追いかけるように急激に力をつけている。「才能は兄以上」ともいわれるそのポテンシャルに迫った。

(文=渡辺友)

「強くなりたい!」張本兄妹に共通する強さの秘密とは

2008年6月生まれ、現在中学1年生。両親がコーチを務める仙台ジュニア(宮城県)で、2歳から卓球を始め、5つ年上の智和とともに練習に励んだ。

その才能はすぐに開花し、小学1年の時には全日本選手権バンビの部(小学2年以下)で全国初優勝。小学4年でカブの部(小学4年以下)、小学5年でホープスの部(小学6年以下)を制し、3階級制覇を果たした(6年時は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で大会が中止)。

中学からは地元・仙台を離れ、智和が所属する木下グループのジュニア育成部門にあたる木下アカデミー(神奈川県川崎市)に進み、トップクラスの練習環境に身を置いている。

「意志の強さ、意識の高さは抜群に良いです。強くなりたい、世界チャンピオンになりたいという思いは普段から感じるし、そこは兄に似ているところでもある」

張本美和の強さの秘密を探るにあたって、今回の世界ユース選手権で日本チームを率いた女子ジュニアナショナルチーム(JNT)の渡邊隆司監督に話を聞いた。渡邊監督は、小学生世代の日本代表、ホープスナショナルチーム(HNT)の女子監督も兼任しており、小学生時代から美和をよく知る人物の一人。その渡邊監督が最初に口にした美和の強みは「意志の強さ、意識の高さ」だった。

目標を高く持ち、練習に対するモチベーションも高く、「練習ではスイッチが入ると、誰も話し掛けられないような雰囲気になることもある」と渡邊監督。

智和も並外れた集中力を発揮して驚異的なスピードで成長し、小学生のころから「将来の夢はオリンピックで金メダル」と高い目標を口にしていた。「自分ならメダルが取れる。絶対に取るんだ」という強烈な意志の強さは、張本兄妹に共通する才能だ。

高校生に囲まれながらも小学4年の美和が見せた意志の強さ

 例えば、こんなエピソードもある。

高校生以下のトップ選手が集まるJNT合宿に、HNT選手で当時小学4年の美和が飛び級で参加した時のことだ。最初のミーティングの際、2年後に行われる世界選手権の話題になり、渡邊監督は選手たちにこう質問した。

「この中で、2年後の世界選手権に出たいと思っている人?」

突然の質問に高校生たちが躊躇(ちゅうちょ)する中、真っ先に手を挙げたのが美和だった。

「小学生でジュニアの合宿に参加して、年上の選手がたくさんいる中で、なかなか手は挙げにくいですよね。そういう物おじしないところは彼女の良い部分だし、すごく印象に残っている」と監督は振り返る。

もちろん、右も左も分からない小学生が勢いで手を挙げた部分もいくらかあるかもしれないが、すでに兄・智和は13歳で世界選手権に出場してベスト8入りを果たしているのだから、「自分が12歳で日本代表入りするのは不可能ではない」、美和がそう考え、本心で手を挙げていたとしても決して不思議ではないのだ。

また内面の強さだけでなく、技術的にも同世代では頭一つ抜けたポテンシャルを見せている。中でも特筆すべきはバックハンドで、「チキータを含め、バックハンド系の技術は飛び抜けている」と監督も舌を巻く。一般的に女子選手は威力よりも安定性重視のタイプが多いが、美和は一発で打ち抜くパワードライブも備え、その威力は「兄をしのぐのではと思わせるほど」と言うのだから相当だ。164cmという恵まれたフィジカルも美和のパワープレーを支えている。

プレッシャーをはねのける本当の強さを身に付けたこの1年

事あるごとに兄と比較するのも彼女にとっては少々酷ではあるが、小学生時代の2人を比べると、正直なところ美和は少し物足りない印象もあった。

全日本選手権ホープス・カブ・バンビの部で男子初となる6連覇を成し遂げた智和に対して、美和は小学1年で初優勝したものの、小2、3年時は決勝で敗退。また小学5年の時には、カデットの部(13歳以下)で決勝に進出し、決勝も優位に進めていたが逆転負け。技術的には群を抜いた存在ではあるが、あと一歩のところで勝ち切れないメンタルの脆さもあった。常に兄と比べられ、周囲からの大き過ぎる期待に、美和自身苦しんだ時期もあったに違いない。

しかし、中学に入ってからは精神的にも大きく成長したように見える。今年8月には全国中学校大会を中学1年で制すと、10月には2年前に苦杯を喫した全日本カデットでリベンジとなる初優勝。そして世界ユース選手権では、出場4種目を全勝で終え、目標の4冠を達成した。毎試合ついて回ってくる「優勝候補」というプレッシャー。それをはねのける本当の強さを身に付けつつある2021年の戦いぶりだった。

また今年はシニアのトップ選手を相手にも堂々たる活躍を見せており、Tリーグでは木下アビエル神奈川のメンバーとして出場し、元日本代表の森さくら、ドイツ代表として東京五輪にも出場したハン・インという世界屈指のカットマンからも勝利。13歳にして、すでに世界のトップクラスと渡り合える力をつけている。

次に狙うは全日本ジュニア。その先に待つパリ五輪もかなわぬ夢ではない

世界ユース選手権を制した張本美和が次に狙うのは、来年1月末に行われる全日本選手権ジュニアの部のタイトルだろう。高校2年以下のカテゴリーながら、中学1年の美和は優勝候補の一人だ。ちなみに智和は、中学2年でジュニアを制し、同時に一般の部(シニア)でもあの水谷隼を決勝で破って初優勝という歴史的快挙を成し遂げている。今回の全日本選手権でも美和がジュニアと一般の両方で旋風を巻き起こす可能性は大いにある。

その先に見据えるのは世界選手権の日本代表入り、そして3年後のパリ五輪。

中国に次ぐ層の厚さを誇る日本女子。ベテランの石川佳純、そして伊藤美誠、平野美宇、早田ひなの黄金世代トリオ、その下にも次世代のエース候補たちが名を連ねており、まだシニアでの実績が少ない美和が割って入るのは至難の業だろう。さすがに3年後は間に合わないのでは、と思う方が現実的かもしれない。

しかし、予想を上回るスピードで日本の頂点まで駆け上がり、東京五輪日本代表の座を勝ち取った張本智和という前例を考えると、美和の代表入りは決してかなわない夢ではない。それだけのポテンシャルを彼女は秘めているはずだ。

ふと頭の中で問うてみる。

「パリ五輪に出たいと思っている人?」

誰よりも早く鋭く掲げたその右手は、代表の切符、そしてメダルをもつかみ取ろうとしている。

<了>






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