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坂本花織、21歳の今しか表現できない「女性の強さ」で北京に挑む。“4年の寄り道”で芽生えた揺るぎない意志

REAL SPORTS / 2022年1月17日 18時0分

シニアデビューイヤーで、いきなり大舞台に立った。天真爛漫(らんまん)で初々しさの残る17歳は、堂々とした演技で6位入賞に輝いた。順風満帆なスタートを切ったかのように見えたが、やがて袋小路に迷い込んでしまう。だが苦しんだ日々の中で、たどり着いた自分らしさと芽生えた揺るぎない意志。21歳の坂本花織にしか表現できない「女性の強さ」で、2度目のオリンピックに挑む――。

(文=沢田聡子、写真=KyodoNews)

シニアデビューでいきなり五輪6位。順風満帆なスタートも迷い込んだ日々

世界トップクラスのスケーターで、2018年平昌五輪、2022年北京五輪に連続して出場する女子シングルの選手は数少ない。坂本花織は貴重な存在として北京に登場し、その成長を世界に印象づけるだろう。

4年前、平昌五輪のフリーで坂本が滑った『アメリ』は、新進気鋭の振付師ブノワ・リショーがまだ幼さもあった坂本に合わせて作ったように見えるプログラムだった。大きなジャンプとスピード感あふれるスケーティングという武器を既に持っていた坂本は、パントマイム風の振り付けを懸命に演じていた。まだ17歳だった坂本の初々しさが記憶に残る。

平昌五輪シーズンにシニアデビューした坂本は、オリンピック代表候補の一人という立ち位置からスタートして一気に勢いに乗り、平昌への切符をつかんでいる。世界選手権の出場経験もないままいきなりオリンピックというひのき舞台に立った坂本だが、緊張に負けず自分の力を発揮、6位入賞と結果を残した。

しかし、2019-20シーズンの坂本は苦しんだ。このシーズン、4回転やトリプルアクセルを跳ぶロシアの選手たちがシニアデビューし、女子のレベルは一気に上がった。坂本も高難度ジャンプに取り組んだもののなかなか試合では定着せず、迷いから抜け出せないまま臨んだ全日本選手権で6位に終わる。

平昌五輪シーズンから坂本と共に歩んできたリショーは、このシーズンのフリー『マトリックス』も振り付けているが、調子が上がらない坂本はプログラムを生かし切れなかった。不本意な出来で終わった全日本・フリー後のミックスゾーンで、坂本は涙を見せている。世界トップの得点が急速に上がったことが不調に関係あるかと問われた坂本は「若干あるけど」と認め、悔いを口にした。

「『自分に集中すればよかったな』ってすごく思いました」

復活を果たした2020年。自分らしい戦い方にたどり着くが…

しかし、2020-21シーズンの坂本は、コロナ禍という難しい状況下で復活を果たす。高難度ジャンプを組み込むことはなかったが、加点と演技構成点を伸ばすことで高得点を挙げ、強さを見せた。国内選手中心の開催となった2020年NHK杯では、ショート・フリー共にほぼ完璧に滑り切り、230点台に迫る229.51という得点を出して優勝している。

そして2020年全日本選手権のフリーは、圧巻だった。前シーズンから継続する『マトリックス』の疾走するような旋律に乗り、スピード感あふれる滑りで圧倒する。1年前の涙を無駄にしなかったことを示す、リベンジの演技だった。

それでも、やはり坂本は高難度ジャンプに対する意識をのぞかせている。この全日本のフリーで坂本の直後に滑った紀平梨花は、この試合で初めて4回転サルコウを成功させて優勝した。紀平が4回転サルコウを決めた瞬間をモニターで確認した坂本は、思わず「降りた!」と漏らしている。

この試合での紀平の合計点は234.24で、NHK杯での坂本の合計点は229.51とさほど離れていないことを指摘された坂本は、しかし次のように答えている。

「でもやっぱり今回自分がマックス、最高の演技をして(得点を)出せたとしても、4回転を跳んだ梨花ちゃんの方がやっぱり(点数は)高かったのかなって思う。大会によって点数の出す基準とかもどんどん変わってきちゃうので……今回は、と考えると、4回転もトリプルアクセルも跳んだ梨花ちゃんが上だなと思いました」
「今シーズン、NHK杯でショートもフリーもほぼノーミスでできてあの点数、となって、それ以上を狙うとやっぱり4回転とか必要になってくると思うので……。4回転だけを考えてしまうと、自分を見失ったまま気持ちだけが先走ってしまう去年みたいな状態になるので、現状を保ちつつ、プラスアルファで4回転とかの練習もできたらいいかなと思います」

演技の完成度を高めるという自らの方向性に手応えを感じつつ、高難度ジャンプへの意識も捨てきれない状態で、坂本は2度目のオリンピックシーズンとなる今季を迎えた。

女性の力強さを表す今季フリーのプログラム。21歳の今だからこそ

今季の坂本は、リショーが振り付けた女性の力強さを表すフリー『No More Fight Left In Me /Tris』に苦しむことになる。10月に行われたジャパンオープンで、坂本はその難しさを説明している。

「このフリーはすごくメッセージ性が強くて、意味が分かっていないと、ただ振りをやっているだけ、ジャンプを跳んでいるだけになってしまう。『その曲で言っているメッセージをどう自分が伝えるか』というのが今までにないパターンだったので、そこが今すごく難しい」

しかし、坂本はこのフリーの難しさだけではなく、意味の大きさも感じていた。コロナ禍で不自由になっている世界にも存在する、ほんの少しの自由を表現する「今しかできない、今だからこそできるプログラム」だと語っている。

「本当にみんなが大変な思いをして過ごしているけど、フィギュアを見て少しでも元気になれたり、勇気が出たって言ってもらえるような滑りを今自分はするべきだと思うので、その気持ちをしっかり込めて滑りたいなと思います」

与えられた難しいプログラムにただ懸命に取り組んでいた4年前の坂本にはあまりなかったのではないかと思われる、自ら表現したいという意志が、北京五輪シーズンの本格的な開幕を前にした坂本には備わっていた。

「前のプログラム『アメリ』の時も、多分プログラムを作ってすぐ思っていることはほぼ一緒で『難しいな』って思っていた。4年前のオリンピックシーズンは、ブノワ先生も『何が何でもやれ!』っていう感じだったんですけど、だいぶ意見を通してプログラムを作り上げているという感じが今年はあるので、そこはすごく成長したかなと思います」

坂本にとり2回目のオリンピックシーズンとなる今季、スケーターとして、また一人の女性としても成長した21歳の彼女にこそふさわしいプログラムを、リショーは贈ったのだろう。そして坂本も、その気持ちに応えることを決意したのだ。

「4年間寄り道したなあ」。自分の進むべき方向が見えた北京五輪シーズン

また、坂本は高難度ジャンプへの挑戦は考えていないことも明らかにしている。

「(トリプル)アクセルは、今はあまり考えていなくて、今自分ができる(3回転)ルッツまでのジャンプをしっかりプログラムに入れて迫力を出すことが一番大事だと思うので、アクセルや4回転よりも『今』を精いっぱいやりたいなと思っています」

難しいプログラム、また高難度ジャンプへの取り組みに迷っていた坂本だが、自分の進むべき方向が少しずつ見え始めているようだった。

11月に行われたNHK杯では、坂本はショート・フリーとも大きなミスのない演技をして優勝している。平昌五輪シーズンの四大陸選手権以来の本格的な国際大会での優勝に、坂本は「4年間いろいろな寄り道をしたなあ」と喜びをかみ締めた。(※編集注:昨季NHK杯も優勝しているが、コロナ禍の影響でほぼ国内大会となっていた)

「(フリーは)正直1カ月前の状況から見て、今日みたいな出来ができるとはまったく思っていなくて。『マトリックス』でも2年かかったので、だいぶ時間かかっちゃうのかなと思っていたんですけど……でもこのシーズン、本当にどの試合も大事だし、やっぱり大技がない分、一つもミスができない状況で『クリーンにやらなければいけない』というのが自分の中であったので。ひたすら(プログラムを)通して、曲をかけて、いかに試合でできるかということを練習の時からやっていた。正直夏は迷いもあったんですけど、覚悟を決めてからは結構いい方向に進めているんじゃないかと思います」

「相手が何をしようが自分のやるべきことは変わらない」。2度目の五輪への誓い

そして、北京五輪代表の最終選考会となる全日本選手権で、坂本は圧倒的な強さと安定感を見せて優勝し、2回目のオリンピック出場を決めている。

「ロシアの選手はみんな4回転とかトリプルアクセルを跳ぶけど、自分はない分、ノーミスでいかにパーフェクトにするか、というのが本当に大事だと思っている。相手が何をしようと自分のやるべきことは変わらないので、どの試合でも自分のベストが出せるようにしたいなと思っています」
「(平昌)オリンピックに出る前に世界選手権を経験していなかったので、世界で自分がどれぐらいの位置にいるかというのがまったく分からない状態で、前回のオリンピックを経験した。今回は、その状況とはまったく違っている。もちろん前回と同じくらい緊張はすると思うのですが、やるべきことをしっかりこの4年間やってきて、自分の中で苦しい時、うれしい時、いろいろあった。その経験したことをしっかり北京五輪で発揮できるように、全てを出し切りたいなと思います」

平昌からの4年間で大人の女性に成長した坂本は、21歳の今しか表現できない「女性の強さ」を、北京から世界に伝えようとしている。

<了>






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