スノーボード村瀬心椛、13歳で世界の頂点に立つも「ただの中2や!」。金メダルを狙う“原動力”
REAL SPORTS / 2022年2月5日 10時37分
北京五輪、スノーボード 女子スロープスタイルがいよいよ開催される。五輪シーズン初戦のW杯で優勝を飾るなどメダルを期待される17歳の女性ライダー・村瀬心椛は、世界最高峰のスノーボードコンテストX Gamesにおいて史上最年少となる13歳で金メダルを獲得するなど、世界が認めるトップライダーである。決してその道のりは順風満帆ではなく、数々の涙を流しながら成長を遂げてきた、彼女の原動力に迫る。
(文=野上大介)
わずか12歳で世界中を震撼させた新星のすごささかのぼること2017年。スノーボード界のトップランカーであるヘイリー・ラングランド(アメリカ)とアンナ・ガッサー(オーストリア)が回転方向は異なるものの、それぞれダブルコーク1080(※縦2回転と横3回転を同時に行う技)に成功した。ヘイリーは同年1月に行われたX Games Aspenにて、通常のスタンスとは反対向きからお腹側に回すキャブスピンで女性ライダー初となるダブルコーク1080に成功。アンナは3月のX Gamesノルウェー大会にて、通常のスタンスから背中側に回すバックサイドスピンだった。
同年3月29日、長野・白馬に位置するHakuba47 Winter Sports Parkのジャンプ台で、無名の日本人女子がさらに高難易度のバックサイド・ダブルコーク1080を完璧に操る映像が収められ、それが動画共有サイトで公開された。その映像を見たときの衝撃は、今なお忘れられない。そしてその衝撃は、瞬く間に世界中に伝播することに。技の難易度が高いことはもちろんだが、彼女がわずか12歳だったことも大きな要因である。それが村瀬心椛だ。
「(小学)5年生のときに(2016 VÖLKL)WORLD ROOKIE FINALS(※各ルーキー大会の優勝者や推薦ライダーが一堂に会する国際大会)に出て優勝したんですけど、このとき世界に飛び出したことでトップの選手たちを意識するようになったのが大きかったのかもしれません。720(横2回転)では勝てないから、3D(コークスクリュー/縦回転と横回転を組み合わせた)スピンが必要だと思いました。アンナら世界の人たちと戦いたいという気持ちが強かったので、6年生の夏にジャンプ施設でいろいろな技を練習して覚えたんです。小学校を卒業する間際にアンナがダブルコークを決めたのを知ってから、横回転しかできない状態で小学校を卒業するのがイヤで、ダブルコークの練習をするようになりました」
この言葉は、2018年5月にX Games史上最年少となる13歳6カ月でビッグエアの金メダルを獲得した翌月に聞いた言葉である。中学2年生に進級したばかりだった彼女は、小学6年生で決めた大技に半回転加えた、バックサイド・ダブルコーク1260をコンテスト史上初めて成功させて世界の頂点に立ったのだ。
たった半回転の話に聞こえるかもしれないが、バックサイド・ダブルコーク1260は進行方向が見えていない状態で着地を迎える回転技である。あれからおよそ4年が経過した今もなお、この技を成功できる選手は片手もいない。
「優勝できたから世界で一番じゃなくて、ただの中2や!」村瀬は現在17歳の高校2年生。4歳のときに家族でゲレンデに赴き、スノーボーダーである父の滑りを見て「カッコいい」と思ったのがスノーボードを始めたきっかけだ。ソチ五輪スロープスタイルに出場し、2020年に伝統の一戦「BUROTN US OPEN(THE 2020 BURTON US OPEN SNOWBOARDING CHAMPIONSHIPS)」のスロープスタイルを制した角野友基が幼き頃に出演していたDVDを観て彼の滑りに憧れ、小学1年生からスロープスタイルの大会に出場することになった。
村瀬の原動力は卓越したライディングスキルもさることながら、負けん気の強さだ。小学校低学年の頃から、すでにその片鱗をうかがわせていた。地元・岐阜にあった室内ゲレンデで毎週金曜日にストレートジャンプの大会が行われており、勝つために躍起となっていた村瀬少女。週1日程度だった練習頻度を3日以上に増やして通うようになり、ボードをつかむグラブトリックの研究に余念がなかった。
「妹の由徠も幼稚園に通っている頃から一緒に室内ゲレンデに行くようになったんですけど、ノーズ(ボードの先端)グラブがうまくて大会で負けちゃったんですよね。私が小3で由徠が小1のときだったんですけど、そのときは妹に負けることがすごく悔しくて。それでスイッチが入りました」
小学3年生の冬には草大会やJSBA(日本スノーボード協会)の地区大会に出場するようになり、少しずつ勝てるようになった。ちょうどそのタイミングで、ユーストライアウトというルールが制定。滑りの審査を通過すれば、一般クラスに出場できるというものだ。村瀬はそのトライアウトで見事合格し、東海地区大会で優勝。大人に混ざって初の全日本選手権出場の切符を勝ちとった。
小学3年でお腹側に回すフロントサイド540とバックサイド360に成功してトライアウトに合格していた村瀬は、小学6年生では先に述べたようにバックサイド・ダブルコーク1080を修得。瞬く間に急成長を遂げ、世界最高峰の大会でわずか中学2年生で世界の頂点に立った。
「X Gamesで優勝できたから世界で一番じゃなくて、ただの中2や!って思うようにしています(笑)。そう思わないと天狗になっちゃうかもしれないから、世界1位とは思わないように心がけているんです」
このように中学2年生時に語ってくれていたのだが、一気に世界中のスノーボーダーたちから追われる立場になり、ここからは順風満帆とはいかなかった。
悔しさを乗り越え、臨む北京五輪2018年8月に行われたFISフリースタイル&スノーボード ジュニア世界選手権ではスロープスタイルとビッグエアともに優勝を飾ったが、その後の国際大会では表彰台は射止めるものの、その頂点に立つことはできなかった。
2021年1月、スイス・ラークスで開催された「LAAX OPEN」のスロープスタイルでミスしてしまい7位に終わった。バックサイド1080をクリーンに成功させるも、ジブセクションで痛恨のミス。大会後、宿泊先のホテルで泣き崩れる村瀬の姿があった。SAJ(全日本スキー連盟)スロープスタイル&ビッグエアのテクニカルコーチを務める西田崇氏に「16歳で泣くの終わりにします」と書いた置き手紙を残したのだった。
表彰台に乗ったとしても必ず「悔しい」と言い続けてきた村瀬。この負けん気の強さが、彼女を世界のトップライダーにまで押し上げた原動力なのだが、若き女王にのしかかるプレッシャーも計り知れなかったのだろう。
そしてついに、その実力が確固たるものになる。
2021年10月、17歳の誕生日を目前に控えた村瀬は、五輪シーズン初戦のW杯『『FIS SNOWBOARD WORLD CUP』ビッグエアで優勝。平昌五輪ビッグエア金メダリストのアンナを2位に従えての頂点は、13歳で彗星のごとく現れたX Games以来の快挙だった。続けざまに、今年の元旦に行われたW杯スロープスタイルでも優勝を飾るなど、北京五輪に向けて確実にアジャストさせている。
涙を流す必要がなくなった17歳は、かすむことのない目で北京五輪スロープスタイル&ビッグエアの金メダルを見据えていることだろう。いよいよ決戦の火蓋が切られる。まずはスロープスタイルの頂点を虎視眈々(こしたんたん)と狙う。
<了>
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