ロコ・ソラーレ、銀メダル最大の要因は「勝つか学ぶか」。負けるたび強くなる“成長の本質” [カーリング]
REAL SPORTS / 2022年3月5日 13時4分
北京五輪で日本カーリング史上最高となる銀メダルを獲得したロコ・ソラーレ。常に全力で挑戦し続け、全開の喜怒哀楽を見せる彼女たちの姿に笑顔をもらった人も多いだろう。だがその歩みは、決して順風満帆だったわけではない。平昌五輪からの4年間、結果を出せない時期もあった。大会前、これほどの結果を出すと予想する向きは決して多くなかった。それでもファイナリストになるまで成長を果たすことができたのは、「勝つか学ぶか」の思考にあった――。
(文=竹田聡一郎)
4年間で日本一はたったの1度だけ。それでも五輪の大舞台で結果を残せた理由「勝つと得るものがある、負けると学ぶものがある」
「勝つか学ぶかでやらせてもらってます」
吉田知那美の言葉は平昌五輪以降のロコ・ソラーレの言葉を端的に表現している。
この4年、国内最大タイトルである日本選手権は、2018年は富士急(ロコ・ソラーレは平昌五輪出場のため不参加)、2019年は中部電力、2020年はロコ・ソラーレ、2021年は北海道銀行(現フォルティウス)がそれぞれ優勝している。直近4大会をきれいに4強と呼ばれるチームが分け合ってきた格好だ。
北京五輪・銀メダリストのロコ・ソラーレといえど、この4年で1度しか日本一になっていない。もう少しいえば、チーム結成からの11シーズンで日本王者の座に就いたのは2回だけだ。
2回目に優勝した2020年の日本選手権を終えて藤澤五月にそれを指摘すると「気付いちゃいましたか」と苦笑いを見せた。それを継ぐように吉田夕梨花が「本当に日本のレベルが上がってきて日本選手権で勝つのは難しいです」と言えば、鈴木夕湖は「夕梨花とだいたい同じっす。難しい」とらしさ全開で追随する。
そんな会話から吉田知那美は「勝つか学ぶか」、冒頭のような言葉を紡いだ。
「負けたときは本当に、本当に悔しいんです。泣きながら『なんでだー、悔しいー!』って叫びたくなる。でも悔しいぶん、勝ったときよりも負けたときの方が強くなるから、強くなるチャンスを得たと思って取り組むしかない」
「目の前のシーズンを戦っているうちに4年がたっただけ」逆にいえばこの4年は、負けて負けて、そのたびに強くなる期間でもあった。
国内で結果が出なければ軽井沢、札幌、稚内と実際に乗ったアイスに赴き、合宿でとことんまで投げ込んだ。
グランドスラムでトップカーラーにもまれ続け、苦手なチームに対してはデータを活用して攻め方を変えていった。(※グランドスラム:ワールドカーリングツアーのランキング上位十数チームだけに招待状が届くグレードの高い大会)
「(グランド)スラムでは負けてばかりだったから、あそこで勝ちたいと思って目の前の1シーズンを戦っているうちに4年がたっただけ」
これは平昌から北京までの4年について鈴木の回想だが、負けるたびに浮かぶ課題をつぶし、不安を埋めているうちにまたオリンピックがやってきた。本人たちにとってはそんな感覚だったのかもしれない。
日本選手権のファイナルで2回負けた。北京五輪代表決定戦でも2回負けた。この4年で唯一の世界挑戦だったはずの世界選手権は新型コロナウイルスの影響で中止になった。折れずにそれらをポジティブに「成長する機会」と捉え、北京五輪までたどり着いた。
ラウンドロビン敗退を覚悟するも…再び得られた“強くなる機会”ただ、5勝4敗で終えた北京五輪のラウンドロビン(総当たり予選)では、さすがに折れかけた。最終戦でスイスに敗戦。準決勝進出は他カードの結果に委ねられた。
「LSDが良くないので(準決勝に)上がらないと思います」(吉田知那美)
「このチームで最後まで戦えてよかったかなと思います」(藤澤五月)
(※LSD:ラストストーンドロー。試合前に先攻・後攻を決めるために投じられるショット。ラウンドロビンの勝敗で複数チームが並び、当該チーム間の成績でも優劣がつかない場合、LSDを基にした平均値(DSC)で順位を決定する)
各選手、涙ながらに完全に敗戦の弁らしきものを口にしたが、一転、スウェーデンが韓国を下し、日本のプレーオフ進出が決定。藤澤は「正直まだよく分からないです」と泣き笑いの表情で言いつつも、ここでもまたチームは強くなる機会を得ていた。
迎えたスイスとの再戦となった準決勝は、ジェームス・ダグラス・リンド ナショナルコーチの指示でドロー戦に持ち込んでいる。(※ドロー:狙ったところにストーンを置くショット)
本来、スイスはドローに自信を持っているチームだが、変化の多い難しい北京五輪のアイスでは、難しい局面ではテイクアウトを選びセーフティーにゲームを進めていた。(※テイクアウト:ストーンをハウスの外にはじき出すショット)
それに付き合わず、ロコ・ソラーレは執拗(しつよう)にドローをハウスに送り込むゲームに持ち込んだ。その結果、スイスは得意のはずのドローでミスが出るなど、日本は多くのエンドで主導権を握り、準決勝を制す。銀メダル以上が確定した。
「私たちの最大のアドバンテージは…」。吉田知那美が言い切った言葉の意味「私たちの最大のアドバンテージはラウンドロビンで他の3チームよりもたくさんのミス、たくさんの劣勢を経験できた」
吉田知那美は決勝進出を決めた後、そうコメントしていたが、いい意味での開き直りが高い集中力を生んだのも奏功した。
そして何よりも星取表の巡り合わせに一喜一憂せずに、ほぼ完璧に見えたラウンドロビン1位通過のスイスのほころびを探した策士JDリンドコーチの慧眼(けいがん)、あえて相手の得意な土俵で戦うチームの胆力、これまで負けても負けてもはい上がってきた経験、全てが結実した銀メダルだったのだろう。
残念ながら決勝はミスの少ないイギリスの好ショットの前に終始、後手に回ってしまう。金メダルはお預けとなった。藤澤はメダルセレモニーを終え「こんなに悔しい表彰式ってあるんだな」と率直に語っていたが、11試合をこなし6勝5敗だった17日間の北京滞在が終わった。
どこまでも負けず嫌いで欲張り。北京五輪の“5敗”が彼女たちをまた強くするチームは北京から帰国後、1週間の隔離期間を終えて5カ月ぶりの故郷に戻った。つかの間のオフを挟んで、4月上旬にはカナダ・トロントで開催されるグランドスラムの一つ「Princess Auto Players' Championship」に出場すべく再びカナダへ渡航する予定だ。
以下はこの4年で4選手が発した象徴的な台詞だ。
「どんな大会でも日本選手権もグランドスラムも世界選手権も、目の前の試合は全部、勝ちたい」(吉田夕梨花)
「負けるとね、シンプルに悔しいっす。そして足りないものが明確になるんですよ」(鈴木夕湖)
「本当に強いチームというのは勝ち続けているチームではなくて、負けてからはい上がれるチーム」(吉田知那美)
「絶対に勝てない相手はいないと思っています」(藤澤五月)
上記を読み解けば分かってくるように、悔しがれる才能、負けたという経験を兼ね備えたロコ・ソラーレはどこまでも負けず嫌いで、あくまでも欲張りだ。北京での5敗ぶん、彼女たちはまた強くなる。目の離せない戦いは続く。
<了>
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