DeNA・石田健大に刮目せよ! 24年ぶり優勝のキーマンが備える「自分だけの強み」
REAL SPORTS / 2022年4月4日 17時11分
三浦大輔監督体制2年目を迎えた横浜DeNAベイスターズ。目指す24年ぶりの優勝、そして日本一のキーマンは誰か。開幕ローテーションの一角を射止め、先発として956日ぶりの勝利を挙げた8年目左腕、石田健大の存在を見逃してはならない――。
(文=石塚隆、写真=Getty Images)
石田がキャンプから何度も口にした言葉。過去の成功体験にとらわれるのではなく――24年ぶりのリーグ優勝・日本一を目指す今季の横浜DeNAベイスターズのキーマンは誰か?
パッと思い浮かべてみれば、昨年ルーキーとは思えないバッティングで新人特別賞に輝き開幕4番に座った牧秀悟や、トミー・ジョン手術から復活し初の開幕投手に選ばれた東克樹の名前が挙がるが、気になって仕方のない存在が8年目の左腕・石田健大である。
今季は先発として開幕ローテーションに選ばれ、初登板となった3月30日の中日ドラゴンズ戦(バンテリンドーム)では、7回4安打の好投を見せ、チームを勝利に導いている。
試合後のヒーローインタビューで石田は力強い言葉で次のように言った。
「気持ちも入っていましたし、しっかり攻めることができたのがよかったと思います」
このインタビューを聞いて、春季キャンプ前に石田が何度も口にしていた言葉を思い出す。
「戻そうとするのではなく、今の自分に何ができるのかを考える――」
石田のプロとしてのキャリアを振り返ると、それは他者と比べて稀有(けう)な道のりだったと言っていい。
2年連続開幕投手から、リリーフ転向。そしてファーム生活へ…2014年のドラフト会議で法政大学から2巡目で指名を受け入団すると、先発ローテーションの一角としてチームを支えた。2017年と2018年には栄えある開幕投手を務め、その地位は絶対的とも思えたが、チーム事情もあり2018年の夏からリリーフを経験する。その後はチーム状況が苦しくなると先発に戻るなど難しい役割をこなし気を吐くも、2020年になるとリリーフ一本での勝負を任された。勝ちパターンのセットアッパーとして50試合に登板、21試合連続自責点ゼロを記録するなど、最終的には防御率2.53で見事責任を果たしている。
当時石田はリリーフについて次のように語っている。
「失敗すると負けがつく場面はプレッシャーもかかるのですが、一方でやりがいも感じていました。当たり前ですけど、ミスをできる日なんて一日もなかった。だからすごく楽しいんですよ」
だが好事魔多し。ブルペンの柱として期待された2021シーズン、石田は開幕から打ち込まれ大型連敗の要因をつくってしまった。ボールの質は悪くはなく、きっちりとコースにもいっている。だが捉えられてしまう。原因を尋ねると石田は首をひねり「気持ちの問題でしょうか……」と言った。
石田ほどのキャリアになってくれば、言うまでもなく相手チームの分析が精緻になっていることは想像に難くない。また20代後半という年齢を考えても、何かを変えなければいけない時期に差し掛かっていたのかもしれない。
ファームで過ごした時間で新たに試みたチャレンジ7月中旬、石田はここから2カ月にも及ぶファーム生活を過ごすことになる。けが以外でこれほどファームに帯同されることは過去なかった。首脳陣から言い渡されたのは“先発調整”。ローテーションの編成で苦しんでいたチーム事情もあり配置転換は仕方のないことだが、これも先発とリリーフの両方できてしまう石田ならではの運命である。
考える時間はたっぷりあった。石田は自分自身に何が必要なのか考察した。当初は調子がいい時の自分を取り戻そうとしたが、結局、出口は見つからない。
そして同時期にファームにいた石田をよく知る捕手の戸柱恭孝と話すと、ふと腹落ちすることがあった。
悪い状態から元に戻すのではなく、何ができるのかを考え、新しい自分を構築すること――。
過去の実績や成功体験は、ある種、変化を恐れることに通じる。だが一流の選手ほど、そのスタイルを年々変化させても最後は結果を残すものだ。
石田は投球フォームをあらためて見直したり、これまで使っていなかったカットボールを習得するなど、新たなチャレンジを試み投球の幅を広げていった。
「何が正解か不正解か分からない状況、実際にやってみないと分からないことが多かった。新しい発見をすると、中身がどんどん濃くなるような感覚でしたし、難しいですけど面白いなと思いました」
そして9月23日の東京ヤクルトスワローズ戦(横浜スタジアム)で2年ぶりの先発マウンドに立った。久しぶりの誰の足跡もついていない、真っさらなマウンド。石田は4回を投げ3失点で投球を終えたが、その表情はどこか晴れやかだった。
このピッチングを足掛かりに、オフになると先発としての調整を続けた。まだ自分がどの立場で投げるかは分かっていなかったが、リリーフでの調整をして、いざ先発の準備をするよりも、先発をイメージした調整の方がリリーフへの対応が容易だということを石田は経験上、分かっていた。
そして春季キャンプ、石田は首脳陣から先発でいくことを告げられると、開幕までに練習試合、オープン戦、教育リーグ、イースタンで5試合を投げ、防御率2.04と数字を残し見事にローテーションの一角を射止めている。
「僕の強みは…」。石田が24年ぶり優勝のキーマンとなる理由リリーフに対し「やりがいがある」と語っていた石田ではあるが、一方で先発の魅力とは何だろうか。
「やっぱり先発で投げて“勝ち”がつくことは、リリーフとは違うやりがいを感じますよね。あとは同じ打者と何度も対戦するので、リリーフとは違う考え方をしなければいけないし、そういった楽しさはありますね」
先発として956日ぶりの勝利となった先の中日戦では切れのあるストレートと新たに習得したカットボールが投球の軸になった。昨年まで投球内容の4分の1ずつを占めていたチェンジアップとスライダーは要所要所で効果的に使う程度にとどめ、2巡目3巡目のバッターを惑わす投球ができていた。気持ちも十分に乗っており、確実に変化しレベルアップした石田がそこにはいた。
今季は先発としてローテーションを守っていくだろうが、冒頭で述べたように石田が24年ぶりの優勝へのキーマンになるのではないかと考えるのは、シーズンも差し迫ったいざという大事な場面、リリーフとしての石田の力が必要になると思うからだ。客観的に見れば先発オンリーでシーズンを終えるのが一番いいとは思うが、そう期待してしまうほどおととしのセットアッパーとしての石田は圧倒的であり、ゲームを支配していた。
石田がよく語る言葉がある。
「僕の強みは先発とリリーフ両方ができること。これは他の誰もやっていない貴重な経験だと思っています」
山あり谷ありのペナントレース。石田が存在感を示せば示すほどチームは頂点へ向かっていくと期待をして戦況を見つめていきたい。
<了>
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