新庄ビッグボス叩きは正当か? 日本ハムは苦戦続きも、是非を問うべき“第2段階”の時期は…
REAL SPORTS / 2022年4月6日 17時38分
このオフ、プロ野球界で最も世間の注目を集めたのは、紛れもなく新庄剛志BIGBOSSだろう。数々の“常識破り”に人々は胸を躍らせた。だが開幕10戦で1勝9敗と、北海道日本ハムファイターズは苦戦が続いている。好意的だった風向きも、日に日に批判の声が高まっている。確かに“結果”は出ているとは言い難い。それでも、今このタイミングでその是非を問うことは、果たして正当だといえるだろうか――。
(文=花田雪)
「気まぐれな采配」「あり得ない」――。BIGBOSSを批判する声の高まり1勝9敗――。
4月5日現在、開幕10戦を終えての北海道日本ハムファイターズの成績だ。
数字を見れば、お世辞にも「好調」とはいえない。
BIGBOSSこと新庄剛志が新監督に就任し、昨オフからキャンプ、オープン戦、さらには開幕後も大きな注目を集める日本ハムが、苦しんでいる。
そして、やはりというべきか。福岡ソフトバンクホークス相手に開幕3連敗を喫したあたりから、BIGBOSSを批判するような記事や評論家のコメントもチラホラ見られるようになってきた。
「気まぐれな采配で、選手が戸惑っている」
「勝利を目指さない、なんてあり得ない」
「何を考えているのか、見当がつかない」
プロ野球が数字で評価される世界だということを考えれば、「1勝9敗」という結果を受けてこういった論調が強くなってくるのは、一応理解できる。
ただ、BIGBOSS、さらにいえば日本ハムという球団が、「開幕10試合」での結果を求めていないこともまた、容易に想像できる。
BIGBOSS劇場の是非を「結果」で語ること自体は否定しないが、少なくともその時期はまだまだ先。早くても今季終盤、もっといえば来季以降にすべきだろう。
もちろん、ドラフト8位ルーキーの北山亘基を開幕戦にオープナーとして起用したり、開幕直後から毎日のように打順をコロコロと入れ替える采配は、これまでの常識からは考えにくい。
もしもこれを、読売ジャイアンツを率いる原辰徳監督やV2を目指す東京ヤクルトスワローズ・高津臣吾監督が行ったのであれば、私も「おかしい」と声を大にして叫ぶだろう。
BIGBOSSは何を目指し、選手に何を与えようとしているのか?しかし、誤解を招くことを承知で言うと、BIGBOSSは彼らとは「立ち位置」が違う。もちろんプロ野球という世界で戦う以上は「優勝」を目指すことは大前提だが、現実問題、今季の日本ハムはそもそも戦力が整っていない。
昨季のリーグ順位は5位。そのチームから、「ノンテンダー」という異例の形とはいえ西川遥輝、大田泰示、秋吉亮の3選手が抜けた。(※編集注:FA権を持つ3選手と翌季の契約を提示せず自由契約での放出となった)
投手陣はまだしも、野手陣にレギュラーとしての実績を持つ選手は近藤健介くらいしか見当たらない。
チームはいわば再建期に突入しているといっていい。
新球場オープンを控える2023年に向け、チームを生まれ変わらせる――。
そのかじ取りを任されたのが、他ならぬBIGBOSSだ。
確かに、開幕からの10試合で勝ち星は1つ。「勝敗」という結果だけを見ると、まだまだ再建は進んでいない。
しかし、この10試合だけでもBIGBOSSが何を目指し、選手に何を与えようとしているかが透けて見える。
それが、「きっかけ」だ。
「スターをつくりたい」。監督就任会見で宣言した言葉「スターをつくりたい」
昨年11月4日、監督就任会見でBIGBOSSはこう宣言した。
チームの、球界の顔になるようなスターをつくる。それが、日本ハムという球団の将来に、勝利に、優勝につながる。そのために必要なのが「きっかけ」だ。
プロ野球界に足を踏み入れる選手は、その全てが「バケモノ」級のポテンシャルを秘めている。ドラフト1位だろうが、育成選手だろうが、「きっかけ」一つでスターになる可能性を秘めている。
他球団の選手になるが、昨季本塁打王を獲得したオリックス・バファローズの杉本裕太郎などが好例だろう。昨オフと今春キャンプ中に2度ほど取材する機会があったが、杉本本人は昨季ブレイクの理由を「本塁打を狙わなくなったこと」と語る。
もちろん技術的な進化や本人の努力がその裏にあるのは間違いないが、プロ入り5年間でわずか9本塁打しか放っていなかったドラフト10位選手が、いきなり本塁打王にまでのし上がった最大の理由は「本塁打を狙わない」という意識の変革=きっかけだった。
BIGBOSS自身もドラフト5位で阪神タイガースに入団し、スターにのし上がった男だ。
だからこそ、たびたび「横一線」という言葉を使って、選手たちに可能な限り「きっかけ」をつかむ機会を与えている。キャンプからシーズンの戦い方を見て、そこだけは断言できる。
キャンプでは、武井壮氏、室伏広治氏といった「専門外」の人物を臨時コーチとして招聘(しょうへい)した。両氏とも「スポーツ分野」では卓越した理論と実績を誇るが、彼らが何十年間という時間を積み重ねて身に付けた理論・理屈を、たった一度の指導で選手に落とし込むことは難しいだろう。
ただ、その出会いが、もしくは掛けられた言葉や一つのアドバイスが、「きっかけ」にはなり得る。だからこその臨時コーチ招聘だと、私には見て取れた。
“チャンスは与える。だから、つかめ”。BIGBOSSのメッセージ開幕後の「BIGBOSS采配」もそうだ。
12球団では唯一、開幕9試合まで違う投手を先発させ、スタメンも毎試合入れ替えた。わずか10試合を終えた時点で「全試合スタメン出場」の選手は一人もおらず、実に17人をスタメンで起用している。
シーズン初勝利を挙げた3月31日の埼玉西武ライオンズ戦では、前日に4番で出場して二塁打を放った清宮幸太郎をスタメンから外した。代わって4番に入った王柏融が不発だったため、「采配的中」とは言い難いが、「開幕投手」の北山を抑えで、2戦目に先発した堀瑞輝を8回に投入して逃げ切った。
特に「スター候補筆頭」の清宮の起用法からは、「全選手にきっかけをつかむ機会を与えたい」という固い信念が透けて見える。
多くの監督であれば、清宮をスタメンに固定して「きっかけ」をつかむことを辛抱強く待つかもしれない。その育成法もまた、正解の一つだ。過去の偉大なスラッガーたちにも、「我慢して起用」された経験を持つ選手は多い。
ただ、BIGBOSSは決して清宮だけを「スター候補」と見ているわけではない。だから、打ってもスタメンから外すし、違う選手も起用する。
他の選手にも「機会」を与えるためだ。
ある意味、どんな監督よりも厳しいかもしれない。
「チャンスは与える。だから、つかめ」
これがBIGBOSS劇場の裏にある選手たちへのメッセージだ。
清宮だろうが、吉田輝星だろうが、関係ない。4番でも使うし、代打でも使うし、先発でも使うし、リリーフでも使う。
あとは選手がそれをつかみ、応えるか――。
いつまで「きっかけ」づくりを貫くか。いつ次の段階へと移るのか――もちろん、リスクはある。
一人の選手を「決め打ち」で起用してチャンスを与え続けた方が、覚醒する可能性は高くなる。だからこそ、「素質がある」と見込まれた選手は積極的に起用されるし、そうでない選手が2軍でなかなかチャンスをもらえないケースも多々ある。
私が今、注目しているのはBIGBOSSがいつまで「きっかけ」づくりを貫くかだ。
きっかけをつかんだ選手の次のステップは「結果」を残すこと。ただ、結果を残すためには試合に「出る」ことが必要になる。
当然、どこかのタイミングで誰かを「使う」決断をする必要がある。誰が「きっかけ」をつかんだのか。その見極めが「スターをつくる」ための次なるステップだ。
清宮か、吉田か、万波中正か、はたまた別のダークホースか……。BIGBOSSの「スター育成計画」の第2段階は、選手を「使い始めた」時に訪れる。
それが今季中になるのか、来季まで継続するのかはBIGBOSSの胸三寸。
BIGBOSS劇場の是非を問うのは、その時でいい。
<了>
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