濃厚接触で辞退勧告、代替試合に遺憾表明…高校選抜ラグビー「決勝中止」は本当に妥当だったか?
REAL SPORTS / 2022年4月11日 12時2分
3月31日に開催される予定だった第23回全国高校選抜ラグビー決勝は中止となった。東福岡が対戦したチームに新型コロナウイルス陽性者が出たことを受け、大会実行委員会は同校に辞退勧告。東福岡がこれを受け入れたことで決勝中止、不戦敗が決まった。だが同じ31日、埼玉パナソニックワイルドナイツの協力で急きょ、両校による非公式の代替試合が開催。日本ラグビー協会は遺憾を表した。一連の出来事は多くの異論を招くことになったが、果たして決勝中止の判断は本当に妥当だったといえるのだろうか――?
(文=向風見也)
決勝中止の判断は妥当? 多くの異論を招いた一連の結論この報道量を広告費に換算したらいかほどか。
ラグビーの全国高校選抜大会の決勝が感染症の影響で前日夜に中止となった中、決勝戦に挑むはずだった両校が予定日の予定された時間に練習試合を遂行。例年の同大会決勝よりも多くのテレビ、新聞、インターネット媒体がその模様を報じた。中止の判断が妥当だったかは、議論の的となった。
事の顛末(てんまつ)を整理する。
東福岡と報徳学園による決勝戦の中止が決まったのは、試合前日の30日深夜。3月29日の準決勝を制した東福岡が辞退したからだ。東福岡が1回戦でぶつかったチームから新型コロナウイルスの陽性者が出たため、大会実行委員会からの辞退勧告を受け入れたのだ。結果は両校優勝ではなく、対する報徳学園の不戦勝による優勝。閉会式も行われなくなった。
注目度が高まったのは、それで話が終わらなかったからだ。練習試合があったのは、埼玉のさくらオーバルフォート。選抜大会の会場である熊谷ラグビー場に隣接するグラウンドで、普段はリーグワンの埼玉パナソニックワイルドナイツが練習している。
東福岡は、ワイルドナイツから紹介された業者によるPCR検査で全員の陰性を確認。大会規定に伴う不戦敗は受け入れた上で、かねて定期戦の実施で親交の深い報徳学園との「幻の決勝」に臨んだ。
大会とは無関係の練習試合であることから、レフェリーはワイルドナイツに所属する貞廣泰彰が担当。ワイルドナイツのYouTubeチャンネルで動画配信がなされた。
ワイルドナイツ側は、後日に行った本稿向けの問い合わせには「高校両校さまの練習試合です」と多くを語らない。試合は東福岡が37―10で制した。
今度の出来事は、選手を思う大人たちが動いた美談として共有される一方、日本ラグビーフットボール協会(日本協会)の関係者が練習試合の開催に「遺憾」と語っていたとも報じられた。いずれにせよ、議論の的となる「中止という判断が妥当だったのか」をひも解くには、大会そのものの構造を理解しなければなるまい。
大会主催の日本ラグビー協会は、本件をどう捉えているのか?そもそも全国選抜大会は、競技の振興を支える日本協会がさまざまな高校生のスポーツに携わる全国高等学校体育連盟と共に主催する。開催にあたってはコロナ禍にまつわる規定も設置。日本協会によると、出場チームに感染者が出た場合にそのチームの対戦相手も濃厚接触者疑いとなる旨は、開幕前までに出場校に伝わっているという。文書による回答はこうだ。
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本大会の新型コロナウイルス感染症拡大防止ガイドラインは、出場チームを対象に2月中旬に発行しています。当該項目は、ラグビー競技における感染拡大リスクの状況を踏まえた対応とするために、「発熱があった場合の対応」および「試合後に感染者が判明した場合の対応」として、3月8日に追記しチームに通達しています。
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決勝戦の中止そのものに疑義を唱えるタイミングは、決勝戦が行われるよりも前にあったということとなる。
異論を招いた点も、かねて決まっていた指針に沿ってのものだった。
東福岡の辞退が主催者による判断ではなく大会側からの勧告を学校側が受け入れた形であったことには、ファンは「大会側が辞退させた形の方がすっきりしたのでは」と反応した。
ファイナリストがやむを得ぬ形で辞退したのを「不戦勝」「不戦敗」と結論づけたことには、ラグビーのノーサイド精神にのっとってか「両校優勝にすべきだ」という意見が多かった。
ただしこの2点について、日本協会側はかように弁明しているのだ。
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本大会の参加チームは、学校教育法に定める高等学校に所属するチームであり、学校の部活動・教育活動の一環として出場しているため、原則として学校長の判断において出場可否を判断するものとしています。その判断に際しては、必要に応じて大会側から勧告を行う場合があります。今回は、大会側から辞退勧告を行い、学校側がそれを受け入れた結果、辞退が決定し試合中止となりました。
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本大会では、トーナメント戦全てにおいて、感染症に関する理由で試合が中止となった場合は辞退していない側の不戦勝とするレギュレーションとしています。
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一般論として、ひとたび大会のレギュレーションが決まれば、それが閉幕までの間に変更されることはない。何かあるたびにルールを書き換えていたら、安定的な大会運営は難しいからだ。この原理原則に沿っていえば、大会中止、さらにはそれに伴ういくつかの結論は「妥当」だったと伝えるほかないのかもしれない。
もっとも、その件は今度の両校とて了承済みだろう。大会前から感染に伴う辞退が相次ぐ中、勝ち進んでいた東福岡のスタッフはずっと「大会を開催してもらえること自体に感謝している」と強調していた。今度の練習試合の実施とて、苦渋の決断だったことがうかがえる。
また今度の件が話題になったことで、このほど「妥当」だったのかもしれぬ決勝戦の中止が、この先も妥当だと扱われるとは限らなくなった。感染状況または感染対策への社会の受け止めに応じ、レギュレーションが見直される必要はある。
本稿執筆のための質問状を通し、日本協会は一部報道での「遺憾」との発言についても言及。その折、大会の仕組みそのものにメスを入れる必要性も示唆している。
「選手の安全・安心の確保の観点から、31日の決勝戦が中止となった理由をあらためて両校へ伝え中止を促しました」としながら、こう記すのだ。
「結果として31日に練習試合が実施されたことは遺憾であります一方、コロナ禍で安全・安心に大会を開催することの難しさ・課題は、あらためて認識しています」
ファンに違和感を与えた不戦勝および不戦敗の扱いについても、「開催状況に応じて多様なケースを想定した検討が必要となりますので、見直しは都度図られます」と言及。競技の価値が貴ばれるためのアップデートは、常に求められよう。
<了>
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