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「うまいだけでは勝てない」岩渕真奈が語る、強豪アーセナルで痛感した日本サッカーの課題

REAL SPORTS / 2022年6月3日 12時3分

スポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。この春からはJFN33局ネットの全国放送にリニューアル。元プロ野球選手の五十嵐亮太、スポーツキャスターの秋山真凜、Webメディア「REAL SPORTS」の岩本義弘編集長の3人がパーソナリティーを務め、ゲストのリアルな声を深堀りしていく。今回は、ゲストにサッカー日本女子代表で、イングランド女子スーパーリーグ、アーセナル・ウィメンFCの岩渕真奈が登場。世界有数の強豪アーセナルで過ごした一年について、そして日本女子サッカー界の抱える課題について話を聞いた。

(構成=池田敏明、写真=Getty Images)

強豪アーセナルで過ごした1年の価値

秋山:まず、先ごろ終了した今シーズンを振り返っていただけますか。

岩渕:移籍して最初のシーズンだったんですけど、2021年はチームに貢献できましたし、充実していました。でも、年明けにAFC女子アジアカップに出場した際、そこで新型コロナウイルスに感染したこともあって、少し難しいシーズンになってしまった印象です。

岩本:イングランドでのプレーはどんな感じでしたか?

岩渕:FIFA女子ワールドカップやオリンピックで体感した以上に、世界にはすごい選手が大勢いて、女子サッカーのレベルや環境がものすごく進化しているな、と強く感じました。

五十嵐:欧州と日本ではトレーニング内容も違うんですか?

岩渕:内容自体はそこまで変わらないと思うんですけど、日本と比べてものすごく管理されていて、いい意味でも悪い意味でも数字で見られる部分がありますね。1週間のプランで「月曜日は何キロ走る」といったことがすべて計画されていて、自主トレーニングをしたいと訴えても「今日はやめておきなさい」という感じです。日本とはかなり違いますね。

五十嵐:徹底的に管理しているんですね。僕がアメリカでプレーしていた時も一緒でした。球数は制限されるし、ランニング量も「それ以上はするな」という感じでしたね。

岩本:よりプロフェッショナルな感じですね。ヨーロッパはアフターコロナ時代に入りつつありますが、女子の試合も観客の制限等はすべて撤廃されているんですか?

岩渕:はい。コロナ禍の影響は何も感じないです。お客さんが入ってくれるとやっぱり楽しいですし、イングランドは盛り上がりの度合いが強烈なので、選手として興奮するというか、一つのプレーで盛り上がってくれる環境に身を置けているので、選手としてすごく幸せだな、と感じています。

自分を出しつつ、イングランド仕様のプレーも

岩本:ファン・サポーターの方にすごく愛されているな、という印象も受けたのですが、どのようなプレーが受け入れられたと思っていますか?

岩渕:みんなと同じように速く走って、球際でガツンと当たって、というのは自分にはできないので、遊び心を持ったプレー、他の選手と違うプレーをすることで受け入れてもらったと思います。でも、今は戦う部分やスピード感に足りなさを感じているので、そこを伸ばしてより好かれる選手になりたいですね。

五十嵐:自分が今までやってきたプレースタイルをそのまま出したのか、それともイングランドに合わせて新しいスタイルをつくり出していったのでしょうか。

岩渕:そんなに器用ではないので、まずは自分を出そうという気持ちを持って毎試合、臨みましたけど、チームメートのレベルが高いと同時に相手のレベルも高いので、少し球離れを早くしなければならないというのは考えました。

岩本:新シーズンはいつから始まるんですか?

岩渕:9月頭にリーグが始まるんですけど、あと1カ月ちょっとはオフで日本にいられるので、しっかり体を休めているところです。

五十嵐:オフ期間中はどう過ごしているんですか?

岩渕:今回に関しては、ずっと痛めていた足首を手術しました。リハビリをして、シーズンには間に合うと思います。

岩本:新シーズンはどんなシーズンにしたいと考えていますか?

岩渕:昨シーズンは後半が納得できなかったので、1年を通してチームに貢献したと胸を張って言えるようなシーズンにしたいと思っています。

秋山:来シーズンのお話に関連して、先日、新しいホームユニフォーム姿をご自身のインスタグラムでアップされていました。国内外のファンの皆さんからかなり好評でしたね。

岩渕:けっこうかわいいな、と思っていて、個人的に好きなデザインです。女性の体型に合わせてシャープな形になっていて、アーセナルにはきれいな選手が多いので、女性らしさがすごく出ていいと思います。

「翼みたいなすごい選手」と高橋先生も太鼓判

岩本:なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)の話も聞きたいと思います。大きな区切りとなる東京五輪が昨年終わり、今は代表についてはどのように捉えているのでしょうか。

岩渕:サッカーをしている以上はなでしこジャパンで活躍したいという思いがあるので、来年開催される女子ワールドカップを目指して取り組んでいます。

岩本:気持ちの切り替えはできているんですね。

岩渕:そうですね。今年はコロナ感染もあってまだ100%の力を代表で出せていないので、これからコンディションを上げて、女子ワールドカップに向かっていきたいですね。監督が代わってチームもがらりと変わり、可能性も秘めていると思うので、頑張りたいですね。

五十嵐:岩本編集長から見て、岩渕さんの魅力はどこにあるんですか?

岩本:『キャプテン翼』の大空翼の女性版みたいな感じで、プレーしていてすごく楽しそうなんですよね。大人になってからは責任感なども芽生え、カッコいい雰囲気も出てきたんですけど、根本はサッカーが楽しそうというのが一番の魅力ですね。

秋山:岩渕選手、ちょっと恥ずかしそうですけど。

岩渕:翼くんと言われてしまうと、ちょっと申し訳ないですよね(苦笑)。翼くんみたいなプレーはできないですよ。

岩本:先日、高橋陽一先生とも対談していただいたのですが、高橋先生も岩渕選手のことを「翼的なすごい選手だ」と言っていました。

秋山:10代の頃から世界の舞台で活躍されていますが、そもそもなぜサッカーに興味を持つようになったのですか?

岩渕:2つ上に兄(藤枝MYFCの岩渕良太選手)がいるんですけど、7歳の頃に兄の練習にお母さんと一緒について行って、真似をしてボールを蹴っていたのが始まりです。それをきっかけに少年団に誘われて、同世代の男の子たちと一緒にプレーしていました。女の子は私だけでしたね。

五十嵐:男の子と実力差は感じるものなんですか?

岩渕:小学生の頃は身体的な差が大きくないのでそんなに差は感じず、むしろ自分が一番うまいと思っていました。

五十嵐:どの部分でそれを感じていたんですか?

岩渕:小学生の頃は、たぶん誰よりも負けず嫌いだったので、それがあの時期に成長できた要因だと思っています。ドリブルは好きで得意でしたが、それ以上に負けず嫌いだったことが大きかったですね。

五十嵐:お兄さんと2人でも練習していたんですか?

岩渕:やっていましたし、兄と練習時間が別だったので、自分の練習が終わって兄を待つ間に、手が空いているコーチと一緒にリフティングしてもらうなど、時間があればボールを蹴っていました。

五十嵐:完全に翼くんですね。やっていて楽しいと思うのはどのあたりなんですか?

岩渕:やっぱり点を取るのが楽しいですし、ドリブルで相手を抜く時も楽しいし。できなかったことができるようになるとか、相手に勝つこと自体が好きなので、とにかく楽しいです。

楽しくなかった10代前半。徐々に責任感が芽生え…

秋山:何歳の頃から「サッカー選手になりたい」という夢を抱くようになったんですか?

岩渕:なりたいと思ったのは12歳ですね。中学校に上がるタイミングでセレクションを受けて、日テレ・ベレーザ(現日テレ・東京ヴェルディベレーザ)というチームの下部組織(日テレ・メニーナ、現日テレ・東京ヴェルディメニーナ)に入ったんですけど、隣のグラウンドで澤穂希さんたちが練習していて、「ああなりたい」と強く思うようになりました。

岩本:トップチームのベレーザに昇格したのも早かったですよね。

岩渕:初めて試合に出たのが14歳です。実力的には全然足りていなかったんですけど、タイミングと指導者に恵まれました。

五十嵐:10代前半だと、周囲の選手との実力差はけっこう感じたんじゃないですか?

岩渕:全く何もできなかったです。当時は何もできない自分が嫌すぎて、練習や試合に参加することにストレスがありました。正直、楽しくなかったです。ボールを受けたくない、みたいな状態でした。

五十嵐:そこで学んだこと、感じたことは?

岩渕:できないながらも、レベルの高い人と一緒にプレーすることって大事だと思います。下のチームで慢心しながらやるよりは、上に行って壁にぶつかり、乗り越えるほうが絶対に成長できますし、当時から積み重ねていたものがあったからこそ、代表に入った時に澤さんたちと一緒に楽しくサッカーができたので。その時代は自分にとって大きかったと思います。

岩本:そんな中、16歳の時に『週刊サッカーマガジン』という週刊誌で表紙を飾ったんですよ。制服姿の岩渕選手が。これがけっこう衝撃的でした。

五十嵐:その時の心境はいかがでしたか?

岩渕:子どもだったので、注目されて楽しかったです。トップチームにいるのに実力が……という部分はありましたけど、自分自身はウキウキで撮影していました。

岩本:葛藤もあったようですが、同じ16歳の頃になでしこジャパンでもデビューしました。当時はどんな心境でしたか?

岩渕:その時も責任などはあまり感じず、楽しくやっていました。周りにうまい選手が大勢いたので、助けてもらいながらやっていた感覚です。責任感が出てきたのは、リオデジャネイロ五輪の後に佐々木則夫監督から高倉麻子監督に代わった頃ですね。佐々木監督の頃はベンチスタートが多かったのですが、高倉監督になって先発出場が増え、そのタイミングで「自分がやらないとな」と思うようになりました。

五十嵐:女子ワールドカップで優勝した頃と比較して、今の代表チームに足りない部分や、以前との違いを感じる部分はありますか?

岩渕:自分自身の立場も変わっているので一概に比べることはできないんですが、優勝した選手たちは貪欲だったと思います。女子サッカーの環境を良くしていこうという強い思いとともに戦っていました。今は少しずつ女子サッカーの環境が良くなり、その貪欲さが薄れている部分もあると思います。世界全体のレベルがどんどん上がっているので、個人個人がもっと勝負にこだわっていかないといけないですよね。

岩本:帰国後にWEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)をご覧になったそうですが、どのような印象を持たれましたか?

岩渕:メディアの方からよく「日本とイングランドのサッカーってどう違いますか」と聞かれるんですけど、サッカーという同じ名前なのに中身が違うという印象です。日本人は技術力が高いとよく言われるんですが、うまいだけでは勝てないですし、日頃からスピード感のあるボールを受けている選手たちは、そのボールを普通に止めています。ゴールに向かう迫力も全然違いますね。イングランドや海外のリーグや選手がすべて上だとは思わないですけど、一人のサッカー選手として見て、環境的に羨ましいなと思う部分もあります。

公式アプリの動画は自ら編集、ファンと交流も

秋山:がらりと話題が変わるんですけど、2021年2月から公式アプリもやられているんですよね。

岩渕:ブログやムービーを配信しています。

秋山:私たちもさっき少し見たんですけど、日常生活の映像もありますよね。

五十嵐:ファンの方にとっては、同じ時間を共有している気分になりますよね。

秋山:始められたきっかけは何なんですか?

岩渕:イングランドに移籍するにあたってファンの方と関わることがほぼなくなってしまったので、マネージャーさんと相談して、やってみようかな、というのがきっかけです。

秋山:どれぐらいの頻度で更新されるんですか?

岩渕:ファンの方が質問やメッセージを送ってくれて、自分でそれに返信できるんですが、2日に1回ぐらい見て、定期的に返信するようにしています。動画に関しては、コロナ禍で1人の時間を過ごすことが多かったので、(撮影できるコンテンツがなく)なかなか更新できていません。もう少し頑張りたいなと思っているんですけど。

岩本:動画は自分で編集しているんですか?

岩渕:そうです。パソコンでやっています。自分でやりたい性格なんですよ。

五十嵐:ファンの方々からはどんなメッセージがくるんですか?

岩渕:オリンピックの時は「頑張れ!」とか「応援しています」といったメッセージをたくさんいただいて、それはうれしかったですね。

秋山:メッセージをすべて確認していることがわかったので、皆さんもっともっと送ってくれるかもしれないですね。

岩本:今後、会員の方々と会う機会をつくりたいといったことも書いていました。

岩渕:そうですね。コロナも少し落ち着きつつありますし、いろいろ計画を練っています。応援していただき、力をもらっているので、恩返しできる場を設けたいと思っています。

秋山:最後に、この先の夢や目標を教えてください。

岩渕:来年の女子ワールドカップでなでしこジャパンとしていい成績を残すことが今の一番の目標です。

秋山:われわれも、引き続き活躍を追っていきましょうね。

五十嵐:追っていきます。そしてアプリを見ます。

岩渕:ありがとうございます(笑)。

秋山:リスナーの皆さんもぜひダウンロードして登録して、メッセージを送ってみてください!

<了>






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JFN33局ネットラジオ番組「FUTURES」
(「REAL SPORTS」は毎週金曜日 AM5:30~6:00 ※地域により放送時間変更あり)
パーソナリティー:五十嵐亮太、秋山真凜、岩本義弘

Webメディア「REAL SPORTS」がJFNとタッグを組み、全国放送のラジオ番組をスタート。
Webメディアと同様にスポーツ界からのリアルな声を発信することをコンセプトとし、ラジオならではのより生身の温度を感じられる“声”によってさらなるリアルをリスナーへ届ける。
放送から1週間は、radikoにアーカイブされるため、タイムフリー機能を使ってスマホやPCからも聴取可能だ。
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