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批判された「東京五輪は無観客ならやりたくない」発言の深意。土井レミイ杏利が仏で痛感した“価値”

REAL SPORTS / 2022年6月14日 11時30分

土井レミイ杏利は、実に600万人ものTikTokフォロワー数を誇る“異色”のアスリートだ。ハンドボール男子日本代表の主将として臨んだ東京五輪。まだ有観客か無観客かも決まっていないタイミングで発した「無観客ならやりたくない」という言葉には、批判の声が数多く飛んだ。

土井レミイ杏利の考え方と半生に迫る自著『“逃げられない”なら“楽しめ”ばいい! レミたんのポジティブ思考』の編集を担当したスポーツライター・編集者の花田雪氏に、あの発言の真意を明かしてもらった――。

(文=花田雪、写真=Getty Images)

コロナ禍で大きな影響を受けたスポーツ界は、ファンとどうつながればいいのか?

2020年から続く“コロナ禍”は、スポーツ界にも大きな影響を及ぼしている。

選手や関係者に感染者が出れば、開催予定だった試合の中止を余儀なくされることもある。アマチュアスポーツでは感染者が出たチームが大会出場そのものを辞退せざるを得なくなるケースが何度も起こった。

その中でも特に大きな影響を受けたのが「観客動員」だろう。

新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年以降、ほぼ全てのスポーツが「無観客」での開催を余儀なくされた。

プロスポーツの場合、「観客動員」はチーム・クラブにとって大きな収入源となる。それが絶たれたことによって受けた経済的打撃は計り知れない。

開催が1年延期された東京五輪も、結果的には全試合を「無観客」で行うことになり、当初想定された経済効果を得ることはできなかった。

また、「無観客」が与えた影響は経済面だけではない。

筆者もコロナ禍以降、多くのアスリートにインタビューを行ってきたが、「無観客」に違和感を覚えた選手は多い。

「仕方がないことだとは分かっていても、やはりファンの方がいない状況で試合をするのはモチベーションにも影響した」
「無観客を経験したことで、あらためて試合に足を運んでくれるファンの方たちの力を再認識した」

こんな声を、多く耳にした。

ハンドボール男子日本代表の主将として東京五輪に出場し、ジークスター東京でプレーする土井レミイ杏利も、その一人だ。

「無観客ならやりたくない」発言に、「じゃあ出るな」「辞退しろ」の声

TikTokクリエイター「レミたん」として600万人ものフォロワーを誇る土井は、SNSを駆使して多くのファンに向けて発信を行う“新時代アスリート”の代表格だ。

今年2月には初の自著『“逃げられない”なら“楽しめ”ばいい! レミたんのポジティブ思考』(日本文芸社)を発売し、シーズンオフに入っても各種イベント、テレビ出演をこなす。5月にはテレビ東京『みんなのスポーツ Sports for All』のマンスリーMCにも抜てきされるなど、ハンドボール選手の枠を超えた活躍を見せている。

いわゆる「オンライン上」でも多くの支持を集める土井だが、それでもやはり「実際にアリーナに来てくれるファンの存在は特別」だと話す。

東京五輪開催前、まだ大会が有観客で行われるのか、無観客で行われるのかも決まっていないタイミングで、土井はメディアに向けてこんな言葉を発信したことがある。

「無観客でやるくらいなら、やりたくない」

一部ではこの発言の真意をくみ取らず、「じゃあ、出るな」「無観客になったら出場を辞退しろ」といった心無いコメントも散見された。

ただ、土井の真意は違う。

「大前提として、オリンピック自体が少しでもリスクがあるのであれば開催すべきではないと考えていました。何よりも大切なのは命ですから、そのリスクがあるのならオリンピック自体、行うべきではない。その上で、『無観客ならやりたくない』と発言したのは、アスリートとしての正直な思いです」

「誰も見ていないところでスポーツをしても『自己満足』に近い」

国内では「マイナースポーツ」と呼ばれるハンドボールだが、土井が2012~19年までプレーしたフランスでは違う。

「一番人気はサッカーですが、ハンドボールもそれに次ぐくらいの人気があります。試合では数千人規模のアリーナが満員になるし、ファンの熱狂度も大きい。当然、そこでプレーする選手は地元では『スーパースター』です。そういう環境でプレーする中で、いかにスポーツにとって『見てもらえる』『応援してもらえる』ことに価値があるのかを実感しました」

見てもらえなければ、価値はない――。フランスでは“メジャー”、日本では“マイナー”に位置するハンドボール選手として、それを痛感したのだ。

「誰も見ていないところでスポーツをしても、それって『自己満足』に近いですよね。スポーツの価値ってなんだと考えたとき、どれだけすごいパフォーマンスをしても、それを『見たい』と思ってくれる人、何かを感じてくれる人がいないと、価値は生まれない。極端な話かもしれませんが、例えばものすごいプレーをするけど、ファンが一人もいなくてお客さんを呼べないアスリートと、プレー自体は平凡でもたくさんのファンがいて、試合会場にお客さんを呼べるアスリートがいるとすれば、選手としての『価値』は後者の方が上だと思うんです。僕にとって東京五輪は、ハンドボール選手として大きな目標でもあり、区切りでもありました。だからこそ実際に会場に足を運んでもらって、その目で自分たちのプレーを見てほしかった。それがあの発言の真意です」

東京五輪は結果的に無観客での開催が決まり、土井の願いが届くことはなかった。もちろん落胆はしたが、そこで「じゃあ、出ません」という選択肢もなかった。

「心情としては残念でしたけど、そこで出ないのは無責任です。無観客開催が決まった以上は、それをどうポジティブに捉えてやるかを考える必要があった。そこで『画面越しでも見てくれる人、応援してくれる人はたくさんいるのだから、その人たちに向けて精いっぱいプレーすればいい』と気持ちを切り替えることにしたんです」

スポーツには、“現場”で見なければ感じられない熱量や感動があることは間違いない。

ただ、それがかなわないのであれば、できる限り“現場”に近いモノを感じてもらうため、やれることをやる――。それが、土井が導き出した答えだった。

令和のスポーツ界における、“ファンとアスリートのつながり方”を示す

東京五輪終了後、ハンドボールが日本で“フィーバー”となることは残念ながらなかった。

それでも、「レミたん」としての活動も相まって、ハンドボールという競技の普及も、間違いなく進んでいる。

コロナ禍によって世間に一気に広まった“配信”という新たな応援スタイルも、マイナー競技にとっては可能性を広げる一つのファクターだ。

日本ハンドボールリーグでも、YouTubeによる試合配信を行うなど、まずは手軽な「オンライン」で試合を見てもらい、それを観客動員につなげる活動を行っている。

土井自身がTikTokを中心に行う「レミたん」としての活動も、行きつく先には「ハンドボールの普及」がある。

「『レミたん』のファンになってもらって、僕がハンドボール選手だと知ってもらえれば『じゃあ試合を見たい』と思ってくれるファンが出てくるかもしれない。実際に試合を見てもらえればハンドボールの魅力は絶対に伝わると信じているので、そうやって少しずつでもハンドボールに興味を持ってくれる人が増えればと思っています」

筆者も昨季、ジークスター東京の試合を見に行った際、明らかに「レミたん」目当てだと思われる女子中高生グループを観客席で何組も見かけた。

”オンライン”でつながり、“オフライン”に引き込む――。

令和のスポーツ界では、こんな形でアスリートとファンがつながっていくのかもしれない。


<了>

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