[女子バレー]腹をくくった古賀紗理那は強い。「1セット5点」課されたエースが繰り返し口にする対照的な言葉
REAL SPORTS / 2022年9月24日 12時23分
9月23日(日本時間24日)に開幕した女子バレーボールの世界選手権。1次ラウンドD組の日本は25日、コロンビアとの初戦に臨む。眞鍋政義監督が「世界選手権でも大車輪の働きをしてほしい」と特別な期待を隠さず、主将という重責も担うエース・古賀紗理那。「1セット5点」を課されながら、「つながり」「生かし合い」という言葉を繰り返し口にする彼女の胸の内に秘めた思いに迫る。
(文=米虫紀子、写真=Getty Images)
腹をくくった古賀紗理那の這い上がる力腹をくくった古賀紗理那は強い。
今年の日本代表で、主将として、エースとして、古賀は“強さ”を示し続けている。
今年の日本代表が始動して間もない5月に行われた記者会見の際、古賀はこう決意を語った。
「東京五輪は予選ラウンド敗退という悔しい結果で終了してしまったので、その悔しさはずっと持っていますし、そこから這(は)い上がる力というのが、今の日本女子バレーには大切なのかなと思うので、その這(は)い上がる強さ、力をつけ、しっかりパリ五輪の切符を取って、パリでメダルを獲得するという強い気持ちを持って戦いたいと思います」
背筋をピンと伸ばし、チームを背負うという覚悟が見えた。一度は代表辞退を考えた選手だとは思えない姿だった。
昨年の東京五輪では、初戦のケニア戦で右足を負傷しながら、第4戦の韓国戦から試合に復帰し、万全の状態でない中、これぞエースという気迫みなぎる姿でチームを鼓舞した。だが東京五輪にかけていた分、オリンピック後は代表辞退もよぎった。しかし葛藤の末、日本代表に戻ってきた。
「東京五輪で、自分が今持っている力を出し切ったという気持ちが強かった。(パリ五輪まで)また3年、(東京五輪までと)同じ気持ちを保ったままできる自信も最初は持てなかったので、(代表は)断っていました。でも一方で、代表に行かないのは無責任なんじゃないかなというのが自分の中にあって、すごく葛藤がありました。これまでいろいろな経験をさせてもらってきたのに、『自分は出し切ったからもう代表行きません』でいいのかなって。その葛藤の時間はすごくきつかった。でも自分の中で考え抜いた結果、やっぱり代表に行って頑張る、パリ五輪に絶対行くんだ、という気持ちになりました」
「1セット5点以上、1人で取ってほしい」エースにかかる期待東京五輪後、5年ぶりに代表監督に復帰した眞鍋政義に、「キャプテンをやってほしい」と告げられた時には戸惑ったが、「チームも自分も強くなろう」と覚悟を決めた。
代表が始まると、葛藤していたことが嘘(うそ)のようなプレーとリーダーシップで、若手選手の多いチームを牽引している。5月〜7月に行われたネーションズリーグでは、勝負強い活躍でベストスコアラーランキング2位の256得点をたたき出した。特に、眞鍋監督が「世界一のスピード」と言うパイプ攻撃は日本の生命線となった。
眞鍋監督は、「古賀は本当にすごい。とにかく点数を取る。スパイクだけでなくブロックもいいし、サーブでも一番崩していた」と絶賛する。8月中旬、世界選手権に向けてチーム内で激しいポジション争いが繰り広げられていた中、指揮官が「今ポジションが決まっているのは古賀だけ」と語っていたほど、抜きん出た存在だ。今年初めて代表に選出された大学生のアウトサイド、宮部愛芽世や佐藤淑乃には、「なんで世界でもトッププレーヤーの古賀がずっと同じコートにいて、一緒に練習しているのに、話を聞きにいかないの? 真似したらいいんじゃないの?」と言って背中を押したという。
実はネーションズリーグが始まる前、眞鍋監督は古賀に「1セット5点以上、1人で取ってほしい」と課していた。古賀はこう振り返る。
「韓国代表のキム・ヨンギョン選手が1セットあたり平均5点、(東京五輪銅メダルの)セルビアの(ティヤナ・)ボシュコビッチ選手は1セットあたり7、8点取っていて、まず私は5点取れということを言われたので、大会中は常にその点数を意識して、試合後も自分の数字をチェックしていました。やっぱりサイドの選手がそれだけ点数を取れるとチームの勝率も上がると思うので」
眞鍋監督は、「1セットに常に5点以上取るのは、世界でも5人ぐらい。(ネーションズリーグ開幕後の)8連勝の時は古賀1人で6、7点取っていました。当然、世界選手権でも、大車輪の働きをしてほしいと思っています」と期待を寄せる。
「え? 全然根に持ってないですよ」眞鍋監督への思い古賀は、眞鍋監督が前回日本代表の指揮をとっていた2013年に17歳で代表デビューし、2015年のワールドカップでは目覚ましい活躍を見せた。しかし2016年、リオデジャネイロ五輪の代表メンバーからは落選した。当時日本代表の主将でエースだった木村沙織さんと古賀が、今年テレビで対談した際、木村さんが「根に持ってたりしないの?」と聞くと、古賀が「全然してないです」とごく自然に、即答していたのが印象的だった。
後日そのことを古賀に伝えると、「え? 全然根に持ってないですよ」と少し不思議そうに言った。
「だって、監督はやっぱりチームが勝つためのメンバーを選ばないといけないわけで、たぶん監督が一番大変だと思うんですよね。当時の私って、あんまりチームに貢献できていなかったと思う。それで外されたからって、『眞鍋さん嫌い』とか、全然そういうのはないですし、むしろそういう考えになるのは、私は絶対あり得ないなと思うので。もちろん悔しいというか、ショックは受けましたけど、自分が文句を言わせないぐらい頑張ればいいだけだと思いますし。
自分がめちゃくちゃ調子が良くて、絶対に選ばれるという自信があって落とされたら『なんで?』となるかもしれないけど、そういうわけではなかった。そこで結果を残せなかったのは自分。自分が出しきれていないのに落とされても、それは監督のせいじゃない。だから監督もかわいそうだなと思います。そういう立場だから」
気持ちがいいほどまっすぐな答えだった。
繰り返し口にする「つながり」「生かし合い」ネーションズリーグでは、開幕8連勝のあと5連敗と失速したが、今年取り組んできた速いコンビやサーブが機能すれば、トップも狙えるという手応えも得た。
「対相手というよりも、私たちの中のオフェンスの精度だったり、チームの連携だったり、そういう面をさらに深めていければ、すごくいいところまで行くんじゃないかという期待はすごく膨らみました。そこへの道のりは厳しいと思うんですけど、変えられるか変えられないかは自分たち次第。いかにそれぞれが自分に厳しく、チームが勝つために考えられるかどうかだと思います」
主将は冷静に、チームの課題も見つめる。
「ネーションズリーグでは、劣勢になると、ポツンポツンと一人一人が小さく見えるというか、コートの中が広く見えた。そういう状況の時は私たちが負ける試合。一人一人のつながりを大切にして、一人で点を取るのではなく、チーム全員で点数を取るというのが私の理想なので、世界選手権もそうですけど、パリ(五輪)に向けて、そういうチームを目指して頑張っていきたい」
古賀は「つながり」「生かし合い」という言葉を繰り返し口にする。眞鍋監督が「1セット5点」を課し、古賀もそれをクリアする意気込みだが、ただ、一人が打ちまくるバレーをするつもりはない。
「各国にすごいエースがたくさんいるんですけど、日本にはいない分、それぞれが助け合いながら、生かし合いながら点を取る必要があって、それができるのが日本の良さ。私も人に生かしてもらわないと、個人の力であの海外のでかい2枚ブロックを打ち抜くのは難しい部分もあるので。それを決めるのが自分の仕事ですけど、そういう状況だけではなく、それぞれが生かし合う状況を作ることが、今日本チームにとって大切なこと。そこをさらに追求していかないと絶対にメダルは獲れないと思うので、そこはこだわってやっていきたいと思います」
全員で攻撃を仕掛けて数的優位を作り、精度の高いコンビでどこからでも点数を取ることができる、攻守ともに一体感のあるバレーが、高さで及ばない日本が世界で勝つためには必要だ。
ネーションズリーグでは勝利の瞬間、コートの中心にいる古賀が、ベンチにいる選手たちに満面の笑顔で手招きし、全員がコートに駆け込んで輪になる姿が“つながり”を象徴していた。
24日に開幕した世界選手権の日本の初戦は25日のコロンビア戦。さらに強固に結束した日本チームの中心に、古賀キャプテンが立っていることだろう。
<了>
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