「新B1参入も手段に過ぎない」Bリーグ・京都ハンナリーズ31歳若手社長が見据える青写真
REAL SPORTS / 2022年9月29日 17時30分
今年7月、バスケットボールBリーグ所属京都ハンナリーズの社長に31歳で就任した松島鴻太氏。東海大学附属大阪仰星高校、東海大学、トップリーグ(現 トップチャレンジリーグ)のコカ・コーラレッドスパークスでラグビーを続けた元トップアスリートだ。26年から始まる新B1リーグに参入するために奮闘する31歳の若きリーダーに、クラブ経営への思いを聞いた。
(インタビュー・構成=五勝出拳一、写真=京都ハンナリーズ)
チーム理念に掲げた「1秒」に込めた想い社長就任にあたり、まず着手したのはチームの理念作りだという。
「まず、京都ハンナリーズに関わる皆が共通認識を持てるような理念を作り直そうと思いました。どうしてもスタッフの入れ替わりが激しかったり、トップダウンで物事が決まることが多いチームだったので、既存の理念は形骸化している部分がどうしてもあった。そこで、社員全員に対してヒアリングを行い、『どこを目指すんだ』『われわれはどんなクラブで、なぜ存在しているんだ』というところを定義すべく、まず理念を作り直しました」
チームの掲げる理念は「京都ハンナリーズに1秒でもかかわる全ての人に夢と感動を! 」。その意図について松島社長はこう語った。
「あえて京都ハンナリーズというクラブ名を入れているのは帰属意識を強めたかったから。京都ハンナリーズに関わる全ての人に「ハンナリーズだからこそ」という思いを持ってほしかった。クラブに対するロイヤリティを高めたいと考え、理念の中にクラブ名を入れることにしました」
さらにこう続けた。
「経営面でも競技面でも、やっぱりサステナブルに運営し続けるためには、このクラブに愛着を持ってくれる人を増やしていかないといけない。「1秒でも関わる全ての人に対して夢と感動を!」という部分の「1秒」というところは、バスケットボールの競技特性から引用していますが、選手の皆さんだけに向けたメッセージではありません。
社員でいうと目の前の人に対してしっかり挨拶できているのか、お客様に対して感謝の気持ちもって対応できているか、目を見て話せているか、身だしなみは大丈夫か、というところ。一瞬でも関わった人に対して適切な応対ができているのか、選手は最後の1秒で諦めていないか、全力でプレーできているのかと。
オンコートでは試合中、練習中にちゃんと走り切っているか、やり切れているのかを追及できる言葉でもあります。『夢と感動』はスポーツの本質だと思うし、自分自身もラグビーを通して自分の人生を彩ることができた経験があるので、スポーツの力を誰よりも信じています。この理念を追求することによって、京都ハンナリーズが京都の街全体を盛り上げられるようなポテンシャルを秘めていると思っています」
経営体制の変更にともない、5名が退社
2022年7月、京都ハンナリーズはマツシマホールディングスとアーキエムズによる共同経営体制にシフトすることになった。
「やっぱりトップが変わるっていうことに対する不安であったり、オーナーチェンジが初めての出来事だったので、そこに対する不安を抱えているスタッフはすごく多かったです」
実際に、経営参画から開幕までの期間で社員が5人退職してしまったという。「自分のふがいなさというか、力及ばずで悔しかった」と口にしながら「今思うとすごくいい経験になった」と松島氏は前を向く。
現在もその不満や不安全てに応えられているとは思っていない。しかし、新たに掲げた理念と徹底的に向き合うことで、この難所を乗り切る構えだ。
「ネガティブな部分を一つ一つ潰していく作業も大事ですが、もっとポジティブなアプローチをチームに浸透させたかった。そういう志を持って、一緒に僕らが目指そうとしてるところに対して共感してくれた社員の皆が残ってくれたし、共同経営の両社からも出向者を迎えて、体制を強化している。理念を掲げ、確かな信念を持ち、まさに今スタートを切ったというところです。全体として、開幕直前の現在はポジティブな状況だと思っています」
2026年には新B1リーグが創設される。平均入場者数4000人以上、売上高12億円以上、アリーナの基準充足といった厳しい基準が設けられ、2年後には初回審査が控えている。松島社長は、新B1への参入すらも「手段」だと言い切る。
「これから100年先の京都(の街)を作っていくような気持ちでやりたい。とはいっても、実際この2年で新B1に参戦することが直近の目標であることには変わりありません。まずは新B1参戦を決めること、これもあくまで手段なので、ゴールではなくて通過点として、京都中の人たちに夢と感動を与えるために新B1に参戦する。そして2026年から始まる新B1に参入した暁には、チャンピオンになり続けられるような強くて魅力的なクラブを作る。
そういったビジョンを持ってるし、しっかり経営面でも勝ち続けたい。その利益を社員や選手、環境に投資をして、永続的に会社が続いていくようなサイクルを作ることが自分のミッションだと考えています」
新B1に参入するためにも良いサイクルを新B1参戦を目指すにあたり、今年京都ハンナリーズは売上げ8億円、平均入場者数3000人突破という大きなハードルを掲げている。そのために、人員と予算を先行投資してその基準突破を目指す構えだ。松島社長本人が足を使って地道な営業活動に励みながら、目標達成を目指している。
「売上げを8億円、平均入場者数3000人の目標は今年何としてでも達成したい。8億円の内訳について、スポンサー収入を昨年の2億円弱から今年は5億円まで倍増以上にすることを目指していて。京都ハンナリーズは『これからこういうビジョンでやっていく、こういうプランを持っているから、応援お願いします』と、今はただ未来価値に賭けていただく形で応援してもらうしかないのが現状ではあります。
だからやっぱり、今応援してくださっているパートナーやブースター、地域の皆さまのためにも、本当に結果を出さないといけない。集客面、競技面でもしっかり結果を出すことによって、クラブの価値は高まります。クラブの価値が高まれば、パートナーの皆さまにも『やっぱり応援してよかったな』と思っていただけるし、応援してよかったなと思っていただければ、『来季はもっとハンナリーズを応援しよう』と思ってもらえる。このサイクルを作っていかなければいけない」
実績を作ることによって、良いサイクルを作り、さらにそれを加速させていく。心から応援してもらえるチームになることで、若者の集客やパートナー企業に付与しているチケット消化率向上も目指している。
「京都は学生の街でもありますが、昨年の観客の平均年齢は40歳でした。若い方に会場に来ていただく施策はほとんど手を打てていなかったので、学生インターンを募集して、学生を巻き込むようなプロジェクトを作りました。
さらに課題だったのはホームタウン活動ですね。今のプロスポーツビジネスでは最重要かつベースとなるべき活動ではありますが、ホームタウンとのコミュニケーションや地域課題の解決へのアプローチができていなかった。現在はホームタウン活動に人員および予算を投入して、そういった地域とのコミュニケーションは365日中300日の稼働を目指しています。
ホームタウン活動はすぐに数字に反映されるかわかりませんが、間違いなく重要度は高い。なので、これはもう絶対に徹底してやっていこうと。体制変更を行い、人員を投下してしっかり取り組めている部分は良いところだと思っています」
社長に就任してから早いもので3カ月が経過した。最後に、松島社長に現状の手応えと課題を聞いた。
「京都ハンナリーズが進むべき方向性は間違っていない。理念と組織体制を変更し、戦略を立てながら目標を達成するためにやれることを一つ一つ着実にやっていく。ただしクラブとしても個人レベルでも経験値が少ない分、意思決定と着手のスピード感がまだまだ遅い。また、今期に関しては開幕まで3カ月と準備期間が少なすぎる。2年計画で来年基準をクリアする為にも今年1年はとにかくたくさんのことにチャレンジしながら私自身も、クラブも経験を積み、自信を付けて強い組織を作る。そして新B1参入とその先に続く理念の実現に向けて、成長していきたいと思います」
<了>
PROFILE
松島鴻太(まつしま・こうた)
1991年(平3)5月1日、京都府出身。東海大学大附属大阪仰星高校、東海大学を経て、2015年にトップリーグ(現 トップチャレンジリーグ)、コカ・コーラレッドスパークスに入団。17年に退団し、引退後は家業であるマツシマホールディングスに入社し、2019年より常務取締役に就任。22年より、京都ハンナリーズの運営会社であるスポーツコミュニケーションKYOTOの代表取締役に就任。
筆者PROFILE
五勝出拳一(ごかつで・けんいち)
広義のスポーツ領域でクリエイティブとプロモーション事業を展開する株式会社SEIKADAIの代表。複数のスポーツチームや競技団体および、スポーツ近接領域の企業の情報発信・ブランディングを支援している。『アスリートと社会を紡ぐ』をミッションとしたNPO法人izm 代表理事も務める。2019年末に『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』を出版。
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