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ヌートバーが切り拓いた“新たな可能性”。侍ジャパンで「日本にルーツを持つ外国籍選手」の持つ意味

REAL SPORTS / 2023年3月29日 12時9分

14年ぶりの世界一に輝いた侍ジャパンの中で、一際大きな存在感を示した男、ラーズ・ヌートバー。侍ジャパン初の日系人メジャーリーガーとしてチームに貢献する姿は、多くの日本人を魅了した。そこで本稿では、今月刊行されたムック『WBC2023日本代表激闘録』の抜粋を通してヌートバーの功績を改めて振り返る。彼が日本野球界の未来にもたらしたものとは――。

(文=花田雪、写真=Getty Images)

選出時の評価を覆し、日本中から愛される選手に

ラーズ・ヌートバー。

この名前を昨季時点で知っている日本人がいたとすれば、相当な“メジャーリーグ通”だろう。

侍ジャパン・栗山英樹監督が日系人メジャーリーガーとして初めてヌートバーの招集を発表した際、その選出に疑問を呈する人間は決して少なくなかった。

2022年はセントルイス・カージナルスでプレーしたメジャーデビュー2年目、25歳の若手外野手――。

出塁率が高く、選球眼に優れたプレースタイルはメジャーでこそ評価されていたが、確かにシーズン通して108試合、打率.228、14本塁打、40打点という数字は“凡庸”と取られてもおかしくなかった。

「日本球界に、もっと良い外野手がいる」
「打率が低すぎてトップバッターを任せるのは不安では?」

そんな声が挙がったのも事実だ。しかし、WBCが閉幕した今はどうだろう。彼の選出に異を唱える者など、一人もいないのではないだろうか。

白羽の矢が立ったアメリカ育ちのヌートバー。決め手となったのは…

昨年、栗山監督はWBCを前にNPB出身選手以外のメジャーリーガーから侍ジャパンに招集できる選手はいないか、模索を続けていた。

そんな中、白羽の矢が立ったのが父にアメリカ人、母に日本人を持つアメリカ生まれ、アメリカ育ちのヌートバーだった。

決め手となったのは、プレーのクオリティはもちろん、その人間性だ。栗山監督は招集を前に、ヌートバー本人と面談。会見では「直接話したら、100%全員が好きになる。そんな愛すべき人柄だし、魂を持った選手」と説明した。そして、その言葉が真実であることは、すぐに証明される。

3月初旬にチームに合流したヌートバーは、瞬く間にチームに溶け込む。強化試合が始まり、自身が試合に出場するころには、すっかり侍ジャパンの一員になっていた。

そして、WBC本番。栗山監督はヌートバーを開幕戦から1番センターで起用する。先発の大谷翔平が初回を三者凡退に抑え、迎えたその裏。対戦相手の中国は実力的には格下だが、国際大会特有の緊張感が東京ドームに張りつめていた。

そんな中、ヌートバーは初球を振り抜き、センター前にヒットを放つ。初選出の代表チームで、大会初戦の先頭打者として打席に立ち、その初球をスイングする――。恐るべきメンタリティだ。

今大会チーム初安打が生まれたことで、東京ドームは大歓声に包まれる。この瞬間、ヌートバーは日本の野球ファンから完全に受け入れられた。

特に1次ラウンドでの活躍と日本国内での人気ぶりはすさまじかった。大谷、村上宗隆といった大砲がそろう日本打線の中で、打席ではボールに食らいつき、時には見極め、「出塁」という1番打者の仕事を全うする姿は、誰よりも「日本らしい」スタイルだった。

守備につけば球際の強さを発揮し、ベンチでは積極的に声を出して味方を鼓舞した。

そんな姿が、視聴率40%越えのテレビを通してお茶の間に伝わった。ペッパーミル・パフォーマンスはチーム内のみならず、日本中に波及。センバツ甲子園で同パフォーマンスを披露した選手が注意を受けるという、思わぬ反響まで呼んだ。

「日本にルーツを持つ外国籍選手」の存在は必要不可欠

世界一を決めた直後、栗山監督、ダルビッシュ有、大谷に続いて、選手たちから胴上げされたのも、ヌートバーだった。日本名・達治=タツジからくる愛称は「たっちゃん」。

歓喜の輪の中で選手たちが「たっちゃん、たっちゃん」と手招きすると、戸惑いながら、おそらく人生初であろう胴上げを経験した。

日系人メジャーリーガー初の、侍ジャパン選出。そこにはおそらく、想像を絶するプレッシャーがあったはずだ。もし彼が結果を残せなかったら、次回大会以降の日系人メジャーリーガー招集に逆風が吹くことは容易に想像できる。

しかし、WBCにおいて自国籍以外の選手(該当国にルーツを持つ選手)の招集はすでに盛んに行われている。今大会で例を挙げれば、前回アメリカ代表としてMVPに輝いたマーカス・ストローマン投手が、母親の生まれたプエルトリコ代表として出場している。また、イタリア代表はそのほとんどがイタリアにルーツを持つアメリカ出身者で構成されている。

この潮流に乗り遅れてしまうようでは、いかに大会最多3度の優勝を誇る日本でも、将来的に苦戦を強いられる可能性は否めない。

なにより、「侍ジャパン」というチームの門戸をさらに広げるためにも、ヌートバーのような「日本にルーツを持つ外国籍選手」の存在は必要不可欠だ。

その意味でも、今大会で彼が果たした役割は日本の野球界、今後の侍ジャパンにとって非常に大きなものになったのは間違いない。

大会終了後、ヌートバーは3年後の次回大会への出場意欲を示した。まだ、25歳。2026年には、メジャーリーグを代表するスーパースターになっているかもしれない。

多くのファンを魅了し、侍ジャパンの一員として世界一奪還に貢献したラーズ・ヌートバー。

「あなたがいてくれて、よかった」

すべての野球ファンが、彼に感謝しているはずだ。

<了>







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