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なぜ米女子サッカーの試合は必ずナイターなのか? INAC神戸・安本卓史社長が語るWEリーグの集客難と秋春制

REAL SPORTS / 2023年4月24日 12時0分

日本女子プロサッカー「WEリーグ」は2シーズン目も終盤に突入したが、ウインターブレイク後の集客には苦戦している。INAC神戸レオネッサの安本卓史社長は、新しい集客へのアプローチとして4月29日にJ1ヴィッセル神戸とWEリーグの初のダブルヘッダー開催を計画。2年目の集客難の背景や、秋春制の実態、外国人選手の招聘への課題など、現場の肉声に耳を傾けてみたい。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真提供=INAC神戸レオネッサ)

2年目の集客難と秋春制

――今季、WEリーグの平均観客数は第13節終了時点で1試合あたり1429名です。昨シーズンの1560名に比べて減っていますが、経営面ではどんな影響がありますか?

安本:INACは元々、入場料収入よりもスポンサーの方々のご支援で成り立っている部分があるのでそこまで打撃を受けていませんが、本来は入場料収入とグッズとか、経営的にはサッカーに付随した収入を上げるべきです。ただ、今はなかなか集客が難しい状況です。マイナビ仙台レディースさんのように、去年に比べて集客が上がったチームもあるのは頼もしいですけれどね。

――どんなことが集客面のハードルになっているのでしょうか。

安本:中断期間の長さが影響しています。今は10月開幕で、1月に皇后杯、2月にリーグが中断して3月に再開して6月にシーズン閉幕という流れですが、12月、1月は寒いのでなかなかお客さんが見にきてくれません。その意味でも、秋春制には反対しています。1月の皇后杯は栃木会場で約800人ぐらいだったのですが、「よくそんなにたくさんのお客さんがきてくれたな」という思いでした。

――約800人で寂しいというよりも、感謝の気持ちの方が大きかったんですね。

安本:集客は前職のヴィッセル神戸時代からいろいろと模索してきたので、人を集める難しさはわかっていますから。ただ、準々決勝以降は試合がNHKのBSで放映していただいたので、一般的には見てもらえる機会が増えて、スポンサー営業の反響はリーグ戦よりもありました。

――やはりテレビ放送の影響は大きいんですね。ただ、1月末の皇后杯決勝戦は観客が2000人割れで、やはり寂しい数字でした。

安本:決勝のチケットはオンラインのみでの発売で、当日券の販売がなかったんです。それで、日本サッカー協会にお願いしてINAC神戸のグッズ販売ブースで当日券(自由席)を販売しました。数時間で110枚売れたので良かったのですが、当初から当日券を買えるようにしておけば、もっと多くのお客さんが観戦に来てくれたのではないかと思います。楽天時代にチケットの仕事をしていたので、チケットに関してはうるさいんですよ。

――チケットが購入しやすくなることも重要ですね。ただ、今年は10月に代表のオリンピックアジア予選などもあって、開幕はさらにずれ込みそうですね。

安本:そうですね。世の中の流れだと、野球の日本シリーズとJリーグが終わる秋頃に「スポーツのシーズンが終わったな」という感じですよね。WEリーグはそれを逆手にとって、「他のスポーツがやっていない時期に見にきてください」というプロモーションはできますが、寒さはどうにもならないですからね。シーズンが同じでも、ヨーロッパのスタジアムは屋根に電熱器をつけるなど工夫していますから。また、うちは11試合を消化した段階でホームゲーム7試合終わってしまっていて、終盤の重要な試合をアウェーで戦わなければならないんです。

――ホーム試合のスケジュールは、寒冷地との兼ね合いもあるのでしょうか?

安本:おそらくそうだと思います。日程はWEリーグが決めていて、クラブ側はJリーグと同じように「ホームゲームの希望日」を伝える権利はあるのですが、ノエビアスタジアムはヴィッセル神戸との兼ね合いがありますし、希望を伝える時期にJリーグのカレンダーがまだ把握できていないので、出せないんですよ。

ヴィッセル神戸とのJ1×WEリーグ初のダブルヘッダー実現へ

――4月29日のWEリーグ第15節(マイナビ仙台レディース戦)を、ヴィッセル神戸(湘南ベルマーレ戦)とダブルヘッダーで開催されますが、J1とWEリーグでは初のダブルヘッダーということで、どのような狙いがありますか?

安本:昨シーズンは国立競技場で1万人の集客に成功しましたが、うちにとっての「聖地」であるノエスタではまだ1万人入ったことがないので目指したいと思っています。この週はゴールデンウィークで、Jリーグもルヴァンカップなど日程が詰まっているのですが、ヴィッセルも土曜に試合をやりたい中でINACとのWヘッダーに快諾してくれました。

――キックオフは夜7時のナイターですね。WEリーグはデーゲームが多いので珍しいです。

安本:アメリカでプレーしている川澄奈穂美選手から話を聞くと、アメリカの試合は必ずナイターで、女の子たちが自分たちの試合をしてから見に来るそうです。日本は昼の試合が多いから、プレーヤーである女の子が試合を観にこられないのも課題です。今後はクラブとリーグとチーム所在地のサッカー協会が協力して、「この日は見にきてほしい」という試合を作るべきだと思います。

――アメリカはシーズンが違うので、秋春制の日本はナイトゲームだとやはり寒さのハードルがあります。

安本:そうですね。ただ、4月末はゴールデンウィーク初日なので暖かいと思いますし、来季以降は、3月以降の暖かい時期にナイターを増やしてもいいと思います。

女子サッカーの観客層を広げるのは小学生

――INACの試合は他のチームに比べても女の子が多いように感じます。ホームゲームでは小学生から大学生までを無料招待しているんですよね。

安本:はい。就任して最初に、小・中学生を無料にしました。特に、小学生が見にきてくれることが女子サッカーの未来につながると思っています。

 小さい頃にボールを蹴った経験があるからこそ、サッカー観戦に興味を持つ人もいますよね。その布石を小学生のうちにいろいろなところで打っておけば、サッカーをプレーし続けなくても、試合を見にくるきっかけになると思うんです。だからこそ、選手たちは小学校訪問もしています。行ったところの学校の生徒の皆さんは高い確率で試合を見にきてくれるというデータが出ています。

――そうなんですね。「無料や招待を増やすことでチケットを買うことのハードルが上がる」という声もありますが、その点はいかがですか?

安本:ガラガラのスタンドの前で選手に試合をさせることは、プロクラブとしては一番の苦痛なんです。やはりたくさんのお客さんが入ったスタジアムで選手たちが活躍して、それを見た子どもたちが見にいきたい!自分もサッカーをしてみたい!と思ってくれたら、もっと大きな価値が生まれますよね。それに子どもたちがくれば、親御さんも一緒に来てくれて、何十人、何百人がきてくれるので、やはり子どもたちへのアプローチは重要だと思いますよ。

 一番恐れているのは「タダでも来ない」ということですが、うちはそうはなっていません。

――子どもが増えるとスタジアムの雰囲気が賑やかになるので、それもメリットですね。

安本:そうです。プロ野球のホームランバッターはベンチに帰ってきて、「どすこい」とか「わっしょい」とかパフォーマンスをするじゃないですか。お客さんはそういうのを一緒に言いたいと思うので、サッカーももっとやっていいと思うし、「相手をリスペクトしなさい」ということを子どもの頃に教えすぎてしまって、プロになったのにパフォーマンスが少ないのかなと思いますね。

「世界一のリーグ」実現に向けて

――ヨーロッパではUEFA女子チャンピオンズリーグで9万人、欧州女子選手権で6万人など、最高観客数を更新していますが、このブームについてはどのようにご覧になっていますか?

安本:チャンピオンズリーグやカップ戦だけではなく、ヨーロッパはリーグ戦もちょっとずつ増えていますよね。つい最近、長谷川唯選手(マンチェスター・シティ)や長野風花選手(リバプール)の日本人選手が対戦した試合を見ていても、純粋に試合の内容が面白いというのはあると思います。ヨーロッパはサッカーの文化が根付いているので、サッカーの内容でもお客さんの見る目が肥えていますから。

――WEリーグはまだ、外国人選手が少ないです。リーグは外国人獲得の補助金も出していますが、現場サイドから見るとどのようなことがハードルになっているのでしょうか?

安本:昨年、うちも外国人選手を獲得したのですが、日本人はどうしても語学力が高くないので、外国人を孤立させてしまう面があって、女子サッカーに限らず男子サッカー界でもヨーロッパの選手たちの間で「日本に行ったら、コミュニケーションをとるのが大変だよ」という噂が流れたこともあると聞きます。また、外国人選手の報酬が上がっていて、通訳も含めてお金がかかるので、リーグの補助金をもらったとしても、今は獲得する体力、財力がないのが現状です。

 ただ、今後の構想としては獲得したいと思っています。練習場のある六甲アイランドは外国人が多く、コミュニティがあるので苦労しないと思いますし、獲得するのであれば、同じ国籍の選手を複数人取るのも一つのアイデアだと思います。

――世界一のリーグにするためには、まだまだハードルがありそうですね。

安本:そうですね。ただ、確実に競技力は上がっているし、見にきてもらったお客さんに満足して帰ってもらうサイクルを広げていきたいです。運営面で各クラブは必死に試行錯誤しているので、クラブ同士でも協力できるところは協力して盛り上げていけたらと思っていますし、女子サッカー関係者が身を粉にして、いい環境を選手たちに準備してあげる気持ちが大事だと思います。


<了>





[PROFILE]
安本卓史(やすもと・たかし)
1973年2月13日生まれ、大阪府出身。小学生のころから野球に熱中し、近畿大学附属高校野球部で甲子園を目指す。近畿大学商経学部卒業後は広告会社を経て、楽天グループへ転職。楽天では、広告事業、ゴルフ事業、チケット事業に従事。2013年からはJ1ヴィッセル神戸で常務取締役などを務め、FWルーカス・ポドルスキの獲得にも尽力した。2018年10月にINACの社長に就任。Jリーグのビッグクラブの発展に寄与した経験を生かし、様々な集客策を発信。WEリーグ初代理事。

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