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稲垣啓太が語る「世界一」へのロードマップ。「その面子でやるしかない。できると思っている」

REAL SPORTS / 2023年8月23日 12時15分

9月8日に迫った開幕まで3週間を切ったラグビーワールドカップ。8月19日にイタリア遠征に旅立った日本代表メンバーは、口々に大会の目標は「優勝」だと話す。なかでも、かつては「軽々しく優勝という言葉を出してはいけないと思っていた」と語っていた稲垣啓太は、なぜいま「世界一」を公言するようになったのか――。

(文=向風見也、写真=松尾/アフロスポーツ)

「チームのマインドが一つ上がった。それだけ…」

ラグビー日本代表は、今年9月のワールドカップ・フランス大会で初優勝を目指す。目標を聞かれれば、どの選手も決まって「優勝」と口にする。

稲垣啓太もその一人だ。

「まず、勝負事で一番上を目指さない人の気持ちがよくわからないです」

初出場した2015年のイングランド大会では、優勝2度の南アフリカ代表などから歴史的3勝。2019年の日本大会では初の決勝トーナメント進出を果たし、自らも娯楽番組における振る舞いもあってか「笑わない男」として時の人となった。

攻守両面でのインパクト、運動量、さらに、内省的かつ理論的な説明ができる力をアスリートとしての価値とし、今度の大会でも最前列の左プロップとして期待される。

「優勝したいとずっと思っていましたけど、軽々しく優勝という言葉を出してはいけないと思っていました。発言したら、その言葉が外に出ていきますから」

以前はこんな心境だったというが、いまは、頂点を狙いたいと公言できる。

「チームのマインドが一つ上がった。それだけの決意と覚悟があるからこそ、皆も口に出せる」

具体的に可視化を図る「世界一」までのロードマップ

8月18日。事前試合を含むイタリア遠征に立つ前日のことだ。都内ホテルの一室で記者団に囲まれ、問答に応じた。

「世界一」までのロードマップを、こう可視化する。

「大会中も、どんどん成長していかなければいけないですよね。ワールドカップ期間中にいままでのパフォーマンスをコンスタントに出せる選手はいない。プレッシャーにやられてパフォーマンスを下げる選手か、プレッシャーすらも受け入れてさらに突き進んでいける選手のどちらかに分かれる。突き進んでいけるほうの選手が増えることで、チーム力は上がる。そうなるには、しっかりワールドカップで勝ちを重ねなければいけない。大事なのは初戦。ここで勝ちを得て、どんどん上がっていけるかに尽きます」

6月中旬からのトレーニングで進歩を実感しながら、7月からの国内戦では、1勝4敗。その現実を無視しないで、かつ、世界一になると誓うのだ。

「いまのチームの雰囲気は悪くないですし、仕上がり、身体的な部分は作り上げたと思っています。ただ、自分たちのなかではいい雰囲気だったとしても、ワールドカップでそのパフォーマンスが出せるかはまた別物です。どんなに技術を磨いても、グラウンドで出せなかったら意味がない。日本での5試合では、それが出せていなかった。(今後は)最終的には、メンタル的な準備がすべてだと、僕は思っている。緊張もあるでしょうし、プレッシャーもあるでしょう。それを受け入れ、そのうえでやってきたことを信じてやるしかない。それが、最後の準備というイメージですね」

大きな課題である「ハイタックル」の問題点と解決策

技術的な検討課題には、「ハイタックル」を挙げる。

選手の安全性を保つべく、最近は首から上へぶつかるタックルへの取り締まりが厳罰化。各国のテストマッチでは、当該のプレーが一発で退場処分(レッドカード)となる割合が高まっている。

タックルする側にその気がなくても、ボール保持者が身をかがめてぶつかって来た際に物理的に頭同士が衝突。そんな場面で、タックルした側がカードをもらうケースもある。

日本代表も、今夏のシリーズで2度もその処分を受けた。

対格差で上回る相手を組織力とタフさで競り勝ちたいだけに、稲垣も「どうやって数的不利を作り出さないのか」には腐心する。取材に応じる直前にも、ジョン・ミッチェル アシスタントコーチのもとチームでタックルの確認をしたようだ。

問題点と解決策を丁寧にひも解く。

「少しでも上体が高く、受けるようなポジショニングでタックルに入ってしまうと、おそらく、(反則を)取られてしまう。ここで何が大事か。タックルに入る姿勢が低くかがんだ状態であるかどうか。それがすべてだということですね。タックルに入る姿勢を低く取れていれば、(衝突時に)相手が頭を下げてきたとしても(危険性が)軽減される要素があり、おそらくカードは出ないでしょう」

日本代表の防御は「ダブルコリジョン」を生命線とする。鋭い出足で防御網をせり上げながら、2人のタックラーが1人の走者にぶつかる。なぎ倒す。1人目が相手の足元を狙い、2人目が手元の球へ働きかける。

稲垣は、この2人目が特に注意すべきだと話す。世界的に、レッドカードは「ボール(を持っている位置)に行くシチュエーション」で、つまりは2人目の選手のタックルが高いと見られた時に生まれているからだ。

「2人目の選手も(タックル前のポジショニング時に)かがむ必要がある。その意思を示す。そのうえで、ボールに働きかければ、相手が頭を下げても軽減される」

つくづく、言葉のクリアな人だ。聞き手が競技にどれだけ精通しているのかを問わず、複雑な事象を明確に伝えられる。

サモア代表戦、フィジー代表戦が不完全燃だった理由

スクラムについても然りだ。

スクラムとは、フォワードの選手が8人対8人で組み合って作るプレーの起点。多くのファンにとって詳細がわかりづらいといわれるハードな押し合いについて、「理解度は高まったんですけど、スクラムのなかで何が起きているかという連係ができていない」と稲垣は話す。

ここでの「理解」とは、自分たちの組み方への「理解」を指す。

2016年就任の長谷川慎アシスタントコーチのもと、小さな塊を作るのが日本代表のスタイルである。

稲垣ら最前列の3人が体を寄せ合い、腰を落とし、その後ろに5人がつながる。膝の角度、互いの密着方法、芝にかませるスパイクのスタッドの本数までも厳密に定めてだ。組む前から相手との間合いを近づけ、向こうの最前列の3人に窮屈な姿勢を取らせるのもマストだ。

いまの日本代表で練習をする限り、各選手のこの仕組みへの理解度は高いと稲垣は強調する。それでも試合で首尾よく押せる場合と、そうでない場合があったとしたら、その違いは何なのか。

7月下旬以降ではトンガ代表戦がうまくいき、その前後にあったサモア代表戦、フィジー代表戦が不完全燃気味だったとして、稲垣はこう答える。

「いいスクラムのあったトンガ代表戦では前3人と後ろ5人のコネクション(つながり)が保たれ、コミュニケーションが取れていた。ただサモア代表戦、フィジー代表戦はそこが保たれてなかった。そして、試合中に早く修正することができなかったんです」

問題があったのは「足のポジショニング」

折しもこの時期の「後ろ5人」には、今年初代表のアマト・ファカタヴァ、一昨年の秋以来の復帰となったジェームス・ムーアらが並んでいた。

それぞれが正しく組んでいるつもりでも、実際には「足のポジショニング」に問題があったようだ。前列との距離感が遠すぎて、膝が伸びてしまっていた。

綱引きで腰が高いままでは引っ張られてしまうのと同じで、膝が伸びたままスクラムを組んだら前に力を伝えられない。稲垣は続ける。

「そして、前3人も後ろ5人に何が起きているのかに気づけなかった。それが、この5試合での反省点です。理解できていてもコミュニケーション一つでスクラムはここまで崩れるんだと、皆、改めて理解できたと思います。『しゃべれー、押せー』というのはただのおしゃべりなのでいりません。大事なのは、何が起きていて、何を修正しなければいけないのかを、伝えるべき相手に伝えることです」

サモア代表戦、フィジー代表戦では、前半にレッドカードが出たことでスクラムの組む人数が変わることもあった。その影響の有無を聞かれれば、世界に挑む日本代表の立ち位置を強調するように言った。

「レッドカードがスクラムに与える影響は、あまりないと思います。一つ、あるとすれば、レッドカードが出て動揺したせいで、スクラムでやるべきことがおざなりになってしまった、ということ。世界とスクラムで戦う時、他のことを考えてスクラムにフォーカスできていないと、必ず付け込まれる。スクラムは、それほど繊細で敏感なものです」

ワールドカップを経験しているロックはヘル ウヴェのみ。だが…

実はフランス大会のメンバーは、この日になってようやく出そろっていた。「後ろ5人」の中核をなすロックでケガ人が続出し、最終調整に時間がかかったためだ。結局、今夏の主力だったムーア、ファカタヴァもコンディション不良のため外れた。

今回、ロックで選ばれたのは、昨年こそ主力も最近はケガに泣いたワーナー・ディアンズら4名だ。

ワールドカップを経験しているのはヘル ウヴェのみで、ジャック・コーネルセンは別なポジションと兼任。もう一人のサウマキ アマナキは代表戦未出場と、経験値に伸びしろがある。

簡単ではない台所事象をも、稲垣は受け入れる。

「その面子でやるしかないですし、できると思っていますし、皆、スクラムの仕組みはわかっている。あとは、先ほど言ったコミュニケーションの部分です」

困難を乗り越えワールドカップを制したら、自分たちの人生はもちろん日本全土にも多大な影響を与えられるだろう。

過去2大会でこの国にブームを起こしてきた経験を振り返り、稲垣は述べる。

「15年にもラグビーに興味を持ってもらえる方は増えましたが、正直、鎮火しましたよね。19年の後は、熱が続いたイメージがあります。沢山の人に名前を覚えてもらい、ラグビー選手とはこういうものだというメッセージも伝えられた。今回の大会が終わった後も、やはり日本代表は強いんだと、憧れてもらえるような存在になっていたいです」

ここまでよどみなく語ったところで、関係者から取材の終わりを告げられる。

人が密接した場で話すこと約15分。少し酸素が薄かったのだろう。自らを囲む人の輪がほどけると、「ちょっと、頭、ぼーっとしますね」ともらして周りを笑わせた。

<了>






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