日本アニメ産業にはなぜ「京アニ」が必要か―中国メディア

Record China / 2019年7月24日 15時40分

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7月19日、京都市伏見区桃山町にある3階建ての建物の前は花で埋め尽くされ、道行く人が立ち止まって手を合わせたり、黙祷を捧げたりしていた。

7月19日、京都市伏見区桃山町にある3階建ての建物の前は花で埋め尽くされ、道行く人が立ち止まって手を合わせたり、黙祷を捧げたりしていた。この建物は京都アニメーションの第1スタジオで、これまで10年間にわたり、アニメファンから親しみを込めて「京アニ」のスタジオと呼ばれ、日本のテレビアニメを代表する最高水準のアニメ作品を数多く世に送り出してきた。中国文化報が伝えた。

■繁栄する業界と零落する担い手

今回の放火事件がなければ、今は日本のアニメが最も輝いている時期だと言えた。

6月21日、「新世紀エヴァンゲリオン」改訂版全26話、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版Air/まごころを、君に」、「新世紀エヴァンゲリオン劇場版DEATH」が米国のネットフリックスで配信され、日本のアニメ史で画期的な意義をもつこの作品が誕生から24年を経て世界の多くの国をカバーする動画配信プラットフォームについに進出した。業界ではこれによって日本アニメの国際的影響力が新たな頂へ押し上げられることになると期待されている。これと前後して、宮崎駿監督の名作アニメ「千と千尋の神隠し」が再びスクリーンに登場し、大勢の日本アニメファンは改めて日本アニメへの思いを熱くした。

日本アニメが世界の文化において奇跡を生み出してきたことに疑問の余地はない。1990年代には、ピカチュウが世界を席巻し、一世代の人々の生活を大きく変えた。世紀が変わり、日本アニメは世界的にブームを巻き起こし、名作アニメは一世代の人々と一緒に成長して共通の記憶になった。2002年から17年にかけて、日本アニメ産業の規模は2倍に拡大し、生産額は190億ドルを突破し、日本アニメはアニメ界の基準とモデルになり、日本の最も代表的で影響力をもった文化的シンボルにさえなった。

しかし、人気の一方で、日本アニメ産業をめぐるトラブルは間断なく続き、繁栄の背後には極めて大きな問題が潜んでいる。

日本アニメ産業は毎年190億ドルの価値を生み出して国に貢献してきたが、アニメ産業従事者の収入は低く、仕事を続けるのは至難の業だった。スクリーンの世界のような魔法はない現実の中で、多くのアニメーターは困難に直面し、破産する人もおり、仕事に疲れたり、時には自殺者が出たりするような環境の中で長らくもがき苦しんできた。非情な産業構造とアニメの芸術的理想主義とのズレにより、アニメーターは芸術的な夢の世界を紡ぎ出すためには、搾取されるようなひどい状態に耐えなければならなかった。

■「アニメの奴隷」、どんなに頑張っても食べていけない

日本では、アニメーターはまるで「アニメの奴隷」だ。ハリウッドアニメの制作手法と異なり、日本のアニメは低コスト、手書き制作を特色とし、2D作品が中心で、大勢のアニメーターがほぼ全て手書きで原画を制作する。日本では毎年、200本近いアニメシリーズが作成されるが、全行程を担当する経験のある十分な人数のアニメーターはなく、スタジオはマンガに対する情熱をもったフリーターに目をつけるようになった。

入門レベルのアニメーターはフリーターであることが多い。監督があらすじを確定し、中間のアニメーターが各シーンの重要部分の原画を描き、入門レベルのアニメーターが各シーンの残りの原画を1枚ずつ描いていく。原画1枚あたり平均1時間かかり、風景、食べ物、建物など細かい部分が多い場合は、4時間から5時間かかることもあるが、原画1枚に支払われる金額はわずか200円だ。また、フリーターは日本では労働法により保護されないため、スタジオは経費節減のため、入門レベルのアニメーターを福利厚生の対象としていない。

有名アニメ「ソードアート・オンライン」のアニメーター兼キャラクターデザイナーの安達信吾さんは、「絶えず上へ向かって這い上がり、中間のアニメーターになり、重要部分の原画を任されるようになったとしても、給与は大して増えるわけではない。『進撃の巨人』のような大きな成功を収めたアニメ作品のアニメーターでも、作品がヒットしたからといって高い収入を得られるわけではない。こうした産業構造が問題を作りだしている。夢を見られない産業だといえる」との見方を示した。

日本で働く米国人アニメーターのヘンリー・サーロウさんはメディアの取材に答える中で、「日本のアニメーターの労働条件は非常に劣悪であり、過労で仕事場のデスクで眠り込んでいる人がよくいる。病気になる人が多く、入院や治療を繰り返す人もいる」と話した。

このほど、日本のアニメスタジオ「マッドハウス」が労働基準法に違反したとして是正勧告を受けた。スタッフは毎月400時間近く働き、37日間連続で休みがなかったという。14年には男性アニメーターが自殺しており、労働状況と何らかの関係があったとみられている。調査担当者によると、このアニメーターは自殺する前にすでに600時間以上連続で働いていたという。

日本アニメーター・演出協会(JAniCA)のまとめた統計によれば、日本のアニメーターの年収は20歳時平均で約110万円、30歳時平均で約210万、40歳や50歳になると約350万円になるが、食べていけるぎりぎりのラインだ。ちなみに日本では年収220万円を貧困ラインとしている。

現実に直面して、アニメーターの中には転職せざるを得ない人も出てくる。アニメーター兼ゲームデザイナーの西位輝実さんはフリーターで、両親を養うため、ゲームデザインの世界に足を踏み入れるようになった。現在、収入のうちゲームによるものがほとんどを占める。「アニメーターの収入では、自分一人食べていくのも精一杯だ」という。

■「京アニ」はひと味違う日本のアニメスタジオ

担い手はどんどん増えるが、アニメーターの多くはアニメ生産ラインで流れ作業を担当する労働者であり、クリエーティビティーに富んだアニメ人材はますます少なくなっている。安達さんは、「人材不足は日本のアニメ産業が長らく直面する深刻な問題だ」と指摘した。

アニメ監督の原恵一さんは、「日本アニメ産業が直面する最大の問題は若いアニメーターのストックがないことかもしれない。アニメ界の巨匠・宮崎駿監督が78歳で再登場したことがその証拠の1つだと考えられる」と述べた。アニメ監督の渡辺歩さんは、「特殊視覚効果(VFX)が当たり前になり、独創性が希薄になったことから、日本アニメの未来を非常に危惧している。手書きの絵が描ける優れたアニメーターがますます少なくなっている」と述べた。

今回の放火事件は、関係者以外にはなじみの薄かった「京アニ」のスタジオに人々の視線を集めた。今の日本アニメ界で、京アニは今や別格の存在だ。テレビアニメと劇場版アニメをともに制作する京アニは、作品の中で主に若者の日常生活を描き、美しい背景描写と細かい作画を最大の特徴とし、量と商業利益を追求する業界の流れとは一線を画し、閑静な京都の地でゆっくり丁寧に制作することを創作の原則とし、これをずっと守り抜き、独立した制作モデルを一貫して維持してきた。制作の一部を外部に発注することはほとんどなく、全ての制作プロセスを自社スタッフの手で行ってきた。最低賃金を保障し、他社のように出来高制の報酬システムを採用せず、固定給を支払い、福利厚生も提供してきた。また、京アニは京都でプロ養成塾を開設し、スタッフが講師になって後に続く人材の育成を行ってきた。

7月19日、京アニの八田英明社長は事件後に初めて現場となった建物を訪れた際、目の前の全ての情景に心が痛み、震えが止まらなかったと明かし、「何もかも目を開けてみることができない」と述べた。火は京アニのスタッフたちが長年にわたり蓄積してきたあらゆる原画や資料を焼き払い、パソコンも破壊した。

京アニの大ファンという大学生の小関由貴さんは兵庫県から京都に駆けつけ、犠牲者の冥福を祈った。「しばらく時間がかかったとしても、『京アニ』が一日も早く復活し、また私たちにパワーを与えてくれることを願う」と述べた。(提供/人民網日本語版・編集/KS)

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