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中国の空調機産業には大きな「伸びしろ」、ただし好材料と悪材料が混交

Record China / 2024年8月30日 10時0分

中国の空調機産業には大きな「伸びしろ」、ただし好材料と悪材料が混交

中国でも空調機を備える家庭がかなり増えた。しかし、日本などに比べれば普及率はかなり低い。このことは逆に言えば、巨大市場の中国で空調機関連産業にはかなり大きな「伸びしろ」が残っていることを意味する。

中国でも空調機を備える家庭がかなり増えた。しかし、日本などに比べれば普及率はかなり低い。このことは逆に言えば、巨大市場の中国で空調機関連産業にはかなり大きな「伸びしろ」が残っていることを意味する。本稿は市場分析や総合コンサルティングを営む上海嘉世営銷諮詢有限公司(MCR)による「2024家庭用空調機市場簡易分析リポート」の主要部分に、一部で日本人読者向けの情報を追加するなどで再構成したものだ。

家電類の中でも空調機は売上高が最大

中国初の空調機は1954年にハルビンで製造され、石油化学工業で使用された。民生用空調機の普及が始まったのは1980年代だった。当初は消費電力の大きなぜいたく品だった空調機も徐々に、多くの人が選択する耐久消費財になり、現在では「欠かせない家電」になりつつある。

中国における家電製品の2023年の小売総額は約7820億元(約15兆8000億円)で、冷蔵庫、洗濯機、空調機などのいわゆる白物家電の小売総額はうち57%超だった。各種家電の中で空調機の小売総額は2260億元(約4兆5800億円)、冷蔵庫は1300億元(約2兆6300億円)、洗濯機は910億元(約1兆8400億円)、カラーテレビは1100億元(約2兆2300億円)、キッチン家電は1620億元(約3兆2800億円)、小型家電は540億元(約1兆900億円)だった。空調機は家電類の中で小売総額が最も大きかった。

中国の白物家電業界の「3大巨頭」とされるのが美的(Midea)、海爾(ハイアール、Haier)珠海格力電器(グリー、Gree)だ。グリーでは売上高全体の中で空調機の占める割合は約75%で、美的では43.11%、ハイアールでは17.47%だ。

クーラー

家電類や家庭用品の市場調査を手掛ける奧維雲網によると、中国の空調機業界の市場規模は2016年には1606億元(約3兆2500億円)だった。その後は市場規模が拡大していったが、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年には市場規模が縮小し、2023年になりようやく、2019年以前の水準に回復した。

しかし、感染症がマクロ経済に与えた影響で、人々の所得の伸びに対する期待が低下し、空調機を含む耐久消費財の購入意欲は弱まった。さらに政府が不動産業界への規制を強化したために不動産業界の資金調達が困難になり、放棄される不動産プロジェクトが急増し、人々の住宅購入意欲を大きく削がれた。そのことが間接的に家電需要を抑えることになった。

日本に比べれば空調機の普及率は半分程度

中国国家統計局によると、2022年における中国での100世帯当たりの空調機所有台数は全国では134台で、都市部では164台、農村部では92台だった。文化面では中国に近い日本の2022年における100世帯当たりの空調機所有台数は248台で、中国の2倍に近かった。1人当たりの国民の所得は中国が1万2850ドル(約186万円)、日本は4万2440ドル(約613万円)だったことから、両国の国民の収入差が空調機所有台数の違いが生じている主たる原因の一つと言える。

われわれが、2030年における中国の都市部と農村部の世帯数の各種予測、同年までの都市部と農村部の発展状況、日本における過去の空調機の所有台数などを参考に試算した結果によると、2023年には7億6500万台だった中国全国の空調機所有台数は2030年には9億5200万台に達する見込みだ。2023年比では24.4%の増加であり、年平均増加率は3.16%だ。

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空調機の所有台数の増加については、政府が景気の高揚を目的、産業設備の更新や消費財の買い替えを後押しする方針を強調していることにも注目する必要がある。中国の政策については、多くの場合には中央政策が方向性を打ち出し、各地方政府が地元の実情に合わせて中央政府の意向に沿った具体策を実施する特徴がある。設備の更新や消費財の買い替えについても、多くの地方政府が中央の方針を十分に理解し、家電製品などの農村部への浸透を促進したり、消費財の買い替えに関する具体策を次々と発表している。そのような政策が、空調機の買い替え需要の喚起に寄与することになる。

空調機業界に君臨する美的とグリー、変化の兆しは見えず

中国の空調機業界には、長年にわたる市場での競争を経て、美的とグリーの2大企業が安定して主導する構図が形成された。両社は長期にわたって20%以上の市場シェアを維持しており、2009年以降は両社の市場シェアの合計は55%を超える状態だ。また、これまで空調機分野で売上高を急増させる企業が出現した例は少なく、奥克斯(AUX)が2016年前後に電子商取引の急速普及の波に乗って成功し主要企業の一角に食い込んだことがある程度だ。それ以外の中小の競争者の生存空間は圧迫され続けている。

グリーは設立当初、主に家庭用空調機の生産に依存していたが、現在では空調機、各種高級機器、生活関連商品、通信機器などの分野をカバーする多角化されたグループに成長し、製品は160以上の国と地域に輸出されている。

2023年の同社の各分野の売上高比率は空調機が73.76%、工業産業向け製品が4.88%、エコ農業およびグリーンエネルギー関連商品が3.47%、小型家電が1.95%だった。また、2023年における同社の中国国内市場での売上高比率は66.74%、国外向けは33.26%で、同社はは近年、国内向け販売が売上高の約3分の2の状態で推移している。

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美的の前身は1968年に設立された、プラスチックおよび金属製品を製造する広東省物残市内の小さな工場だった。その後、扇風機をきっかけに家電業界に進出し、空調機、冷蔵庫、洗濯機、小型家電などの製品と部品製造などへと事業を拡大してきた。また、家電業界で蓄積した強みを生かしてB to Bモデルの多様な業態を展開するに至った。美的はすでに世界有数の家電メーカーだ。同社の主要事業は、スマートホームと商業および産業用ソリューション二分野に分かれている。スマートホーム事業は白物家電、小型家電、キッチン家電など家電製品全般を扱う消費者向け事業で、全価格帯をカバーする商品ラインアップが構築されている。商業および産業用ソリューションは同社のB to B事業であり、工業技術事業部、ビル技術事業部、ロボットおよび自動化事業部、イノベーション事業部の4事業部が設置されている。

2023年には暖房および空調機の売上高比率が43.11%、消費者向け家電が36.04%、ロボットおよび自動化関連が8.83%、その他が12.01%で、その構成比はこのところ安定している。同年の中国国内向け売上高比率は58.41%で、国外向けは41.59%だった。中国内外の販売実績の均衡も、このところ保たれている。

設置技術者の世代交代で空調機導入のコスト増大へ

われわれが実施したアンケート調査によると、消費者は空調機について、ブランドや冷暖房効果、静音・省エネ効果に強い関心を持っている。中でもブランドは、消費者の8割以上が購入に際して優先して考慮している。消費者は一方で、スマート機能やデザイン、自動清掃機能などの「なくても使用できる機能」には関心をあまり示していない。

また空調機の購入方式については、2019年には36%だったネット通販の利用が、2023年には52%にまで上昇した。原因についてはネット通販の利便性が急速に向上したことがあり、さらに若い世代の消費者がネット通販を好むことがある。若い世代が親世代に代わり大型家電の主要な消費者層となるにつれ、ネット通販の利用比率はさらに上昇すると予測できる。

中国では空調機の設置費用は安価であり、一部は販売価格に含まれている。しかし、日本における料金体系では、設置費用は購入コストの重要な構成要素だ。この違いは、両国の人件費の違いに大きく関係している。

中国の不動産開発の特徴として、高層建築が多く、多くの場合には独立した空調室外機用のスペースが確保されていない。また、確保されていても設置が非常に難しいことが一般的だ。そのため、中国の高層建築における室外機の設置は、室外機用の支架の取り付けを含む高所作業によって行われることが多く、作業が難しく安全上のリスクもある。これまでは1980年代までに生まれた、比較的低賃金でも苦労を厭わない精神を持つ取り付け技術者が作業を行ってきたが、この世代の技術者が引退していくにつれて、空調機設置の人件費は上昇するはずだ。

空調機については、原材料価格の上昇により製造コストも上昇している。空調機の製造コスト中で、銅、鉄、アルミ、プラスチックなど原材料が占める割合は40%以上とされている。これらの価格が上昇すれば、メーカーの利幅は圧迫される。販売価格に転嫁すれば、消費者の耐久諸費財の購入意欲が低下している状況と重なって、売上台数にブレーキがかかる可能性がある。

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空調機もスマート化が必須、販売ルートには新たな傾向が

われわれのアンケート調査では、多くの消費者が空調機に「なくても使用できる機能」をさほど求めていない結果だったが、それにしても各種機能が統合されたスマートホームは家電製品全体の大きな流れであり、技術の発展と革新により、スマート家電の発展を制約する技術的やコストの壁は次々と打破されている。華為技術(ファーウェイ)や小米(シャオミ)などの大手企業もスマート家電に大いに力を入れており、各ブランドにとって今後は、スマートホームの一環としての空調機がますます重要になるだろう。

空調機は将来、単なる室温調節装置ではなく、空気清浄、換気、酸素供給、加湿、清新機、消毒機、除湿器などの機能の追加が一般的になり、消費者の多様なニーズをよりよく満たすようになるだろう。

中国の高層住宅では、不動産業者は住居の内装まで行わず、購入者が自分の考えに基づいて内装を決定することが一般的だ。内装と共に進めねばならない重要な作業が、家具や家電の選択と設置だ。入居者にとって、分野が異なる各種業者とそれぞれ連絡して相談し交渉することの負担は大きい。そのため若い世代の人々は、内装絡みの全てを一括して請け負う業者を選ぶことが多くなった。そのため、空調機メーカーが一括式の内装業者との提携を強める流れが本格化すると予測できる。(翻訳・編集/如月隼人)

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