回復しつつある中国の映画産業界の「光」と「影」、業界の今後の課題とは
Record China / 2024年9月28日 6時0分
上海に拠点を置いて市場分析や総合コンサルティングを営む上海嘉世営銷諮詢有限公司(MCR)は、「2024年映画市場簡易分析リポート」を発表した。
中国ではかつて、政治上の理由で外国の映画が上映されない時期もあったが、1980年代からは改革開放政策の進行に伴い外国の作品も多く一般公開されるようになった。人々は外国映画を鑑賞することで、「われわれの社会は進歩しつある」という実感を味わいもした。外国作品が「崇拝」されるような雰囲気も出現したが、現在では逆に国産作品が勢いづき、外国作品が苦戦している状態だ。中国での映画をめぐる状況に、何が発生しているのだろうか。本稿は、上海に拠点を置いて市場分析や総合コンサルティングを営む上海嘉世営銷諮詢有限公司(MCR)による「2024年映画市場簡易分析リポート」の主要部分に、一部で日本人読者向けの情報を追加するなどで再構成したものだ。
映画産業は回復中だが楽観視できない状況も
中国における2023年の映画興行収入(サービス料を含む)は前年比83.35%増の549億元(約1兆800億円)だった。同年の新規上映作品本数は前年比56.31%増の計508本で、19年比では9.77%減だった。中国映画は21年と23年に新規上映総数と興行収入総額の過去記録を更新した。この状況は主に、新型コロナウイルス感染症で社会生活などが強く規制された期間中に「お蔵入り」になっていた作品が集中的に放出されたことによる。例えば23年の興行収入上位10本のうち3本は、21年までに製作された「積み残し作品」だった。
最近の中国の映画興行で目立つ現象の一つが、限定公開だ。公開される地域や上映館を絞り込んでの公開で、数は少なくとも熱心なファンを引き付けることを狙う。業界側にとっては、宣伝費を減らすことなどができる。また、映画館が差別化されることで、新たな市場競争が発生すると期待されている。また製作する側にとっては、特定の好みを持つ人を強く意識するので、作品の質が向上する可能性もあるとされる。
一方で中国の映画産業は、「より多くの人々を動員している」とは言えない状況だ。23年の全国の映画鑑賞者数は約5億300万人で、19年の5億3200万人より5.45%減少した。19年には1人当たり3.25回だった映画鑑賞回数は、23年には2.58回に減少し、上映館に足を運んで鑑賞した映画は1本だけだったと言う人が51%に達した。
春節(旧正月)連休や夏休み時期、秋の国慶節連休などは、映画業界にとって書き入れ時だ。そのため逆に、閑散期の状況を見れば、映画産業の「底力」を知ることができる。19年には興行が最も振るわなかった週の興行収入が4億1200万元(約81億4000万円)で、観客動員数は1217万人だった。しかし23年には3億1200万元(約61億6000万円)と755万人で、いずれも19年を大きく下回った。
特に苦戦が目立ったのは、外国作品だった。23年には中国で公開されたシリーズもののハリウッド作品の3分の2の興行成績が、前年の同時期に公開されたシリーズ前作の成績の40%に届かなかった。原因としては、ハリウッドの映画製作能力がまだ完全に回復していないこと、米中の対立がさらに深刻になったこと、輸入映画の宣伝力や配給力などが国産映画に比べて目立って弱く、上映する映画館が少なかったことなどが考えられる。
地方都市の比重が高まりつつある業界地図
中国では都市を一線都市、二線都市のように分類することが多い。分類方法が確定しているわけではないが、一線都市は「経済活動の強い影響が全国に及ぶ都市」で、通常は北京市、上海市、広東省広州市、同省深セン市と考えられている。二線都市は省全体や省境を越えて影響が及ぶ都市、三線都市は二線都市に準じる都市で、その次の四線都市は地方の中都市、五線都市は小都市と考えてよい。
多くの場合、新たな経済の動きや社会の流行はまず一線都市で出現し、次に二線都市、三線都市と広がっていく。一線都市や二線都市は人口が大きいが、それ以外の都市の方が人口の合計が大きいので、中国で発生した新たな現象は四線都市や五線都市に広がって初めて、全国規模で定着したと見なすことができる。
中国での映画の興行収入は20年以前には一線都市が三線都市や四線都市を上回っていたが、今年(24年)のメーデー連休では一線、二線、三線都市の比率が低下し、四線都市の割合が大きく上昇した。年初来5月初めまでの興行収入では、一線都市が全体の14%の28億元(約550億円)、二線都市は41%の82億元(約1600億円)、三線都市は20%の40億元(約790億円)、四線都市は24%の47億5000万元(約940億円)だった。興行収入において一、二線都市の占める割合は低下しつつあり、三、四線都市の割合は上昇しつつある。
23年の映画鑑賞チケット料金は1枚当たり42.29元(約835円)で、前年比では0.48%の微増だった。24年1-5月の平均チケット料金は一線都市が50.66元(約1000円)、二線都市が42.86元(約847円)、三線都市が43.29元(約855円)、四線都市が43.64元(約862円)だった。一線都市は前年より下落したが、それ以外では上昇した。
通年予想では、チケット料金の平均は42.7元(約843円)で、経済回復に伴う消費力の向上や供給の改善により、観客動員数は前年比5%増の13億6500万人と見込まれている、年間の市場規模は前年比で3%-5%の成長で566億元(約1兆1200億円)から600億元(約1兆1900億円)の範囲になると予想されている。
映画産業の新たな潮流と克服せねばならない課題
映画制作の注目すべき流れとしては人工知能生成コンテンツ(AIGC)の活用がある。AIGCはシナリオの創作を補助し、クリエイターのアイデアに基づいてシナリオの枠組み、段落、さらには完全なシナリオを生成し、シナリオに磨きをかけて創作の効率と質を高める。映像作成では、要求に合ったバーチャルキャラクターとシーンデザインを迅速に生成し、特殊効果の視覚効果を向上させ、レンダリングを加速するなどで制作効率を向上させる、音声に基づいて字幕を自動的に生成し、テキストなどに基づいて吹き替えを自動的に生成することが可能だ。編集作業では、自然言語のヒントに基づいて動画を切り取ったり、動画に音響効果を追加することができる。
中国の映画産業界が直面する課題としては、高まりつつある観客の「質への期待」に、プロデューサーや監督が追い付けていないことがある。きちんと取り組もうとする動きはあるが、低レベルな作品でお茶を濁す場合もある。大スターの出演や派手な特殊効果で客を引きつけようとはしているが、ストーリーは月並みで、盛り上がりに乏しい作品だ。このような作品も興行としては成功することはあるが、そのことが創作側の心理状態に悪影響を与える。また、時間と労力をかけない映画も収益を上げられるとなれば、「よい作品をしっかりと作る」という理念に資本を投下することにもためらいが出る。
公開される映画に「はずれ作品」が増えれば、映画全体への人気が影響を受ける。その結果、投資家がリターンを得られないことも発生しやすくなる。そうなれば、投資家や製作会社は、映画への大規模な投資を行う勇気を持てなくなる。現場は資金不足に陥りやすくなり、思い切った考えで斬新な作品を作るリスクを取れなくなる。そのことが「はずれ作品」をさらに増やす。悪循環だ。
このような状況にあって、作品の限定公開は業界全体をよい方向に導く可能性がある。全ての人が支持する作品ではなく、割合は少なくても、大いに好む人が確実に存在する作品を世に出す。意図してマーケティングの範囲を縮小することなどでコスト削減を実現し、投下した資本が確実に回収できるようにする。
中国では「小衆」という言葉が注目されている。工業では画一な製品を大量生産して大量販売するのではなく、さまざまな顧客の異なる好みを反映する手法だ。それぞれの顧客層は「小衆」でも、全体として大きなビジネスが成立する。たとえば服飾では画一的な既製品ではなく、個別の顧客の好みを反映した商品を提供する。IT技術の活用などで、従来型のオーダーメイド品より迅速に生産して価格を下げられもする。
映画産業でも「小衆」を徹底的に意識することで、個別の作品の興行成績では「大型話題作」に及ばなくても、業界全体に活気をもたらすことは大いに可能だ。(翻訳・編集/如月隼人)
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