IT発達国の中国、無人運転タクシーの現状を探り未来を予測する
Record China / 2024年11月20日 7時30分
IT技術とその応用が発達している中国で、無人運転タクシーの普及はどのような状況なのだろう。今後はどのように推移していくのだろう。
最近では自動車の自動運転が話題になることが多い。そして、自動運転車の技術の進歩に伴い普及が確実視されているのが運転手のいないタクシーだ。このようなタクシーは、「ロボタクシー」とも呼ばれている。上海に拠点を置いて市場分析や総合コンサルティングを営む上海嘉世営銷諮詢有限公司(MCR)はこのほど、中国におけるロボタクシーの現状を紹介し、将来を予測する「ロボタクシー業界簡易分析リポート」を発表した。本稿は、同リポートの主要部分に、日本人読者向けの若干の情報を追加するなどで再構成したものだ。
ロボタクシーは中国都市部の道路交通問題の緩和に有効
10月中旬には、テスラがロボタクシーの「サイバーカブ(Cybercab)」を発売したことが注目を集めた。サイバーカブは運転者が搭乗しないことが前提で作られており、ハンドルやアクセル、ブレーキといったペダル類も取り付けられていないことも話題になった。サイバーカブの販売価格は最大で3万ドル(約470万円)という。
中国は都市部を中心に、今や完全に「モータリゼーション」の時代だ。しかし中国には、いくつかの「よくない自動車事情」がある。まず、中国の都市人口密度は1平方キロ当たり2900人で、米国の約950人より明らかに多い。このことで、ラッシュ時などには深刻な渋滞が発生する。また、エンジン車は深刻な大気汚染を引き起こしやすく、さらに温暖化ガスを大気中に放出する。
また、中国では多くの人が自家用車の保有を望むようになったが、自家用車は通勤に使ったとしても「遊休時間帯」が長い。MCRの調査によると、使用が可能な時間帯における自家用車の平均使用率は20%-35%の範囲だ。自動車価値の減価償却を考えれば、中国の自家用車資源は浪費されていると言える。また、大都市を中心に、政府側が自動車の登録や使用を制限している。このことで、自家用車を移動の手段にしようと思っても、実現できるかどうかは不確実だ。タクシーにはカーシェアの機能があり、さらに電気自動車(EV)タクシーなどなら環境問題も含めてこれらの「よくない自動車事情」を緩和してくれると考えられる。
ロボタクシーの運営コストは割高、ただし急速に改善
ロボタクシーが普及するかどうかの大きな要因の一つがコスト問題だ。中国ではロボタクシーの営業を行う場合、車両は無人でもタクシー会社は安全員を確保して、タクシーを遠隔監視することが義務付けられている。したがって、ロボタクシーの営業では、運営ネットワーク構築への投資、減価償却、安全員の人件費などがかかる。
MCRの試算によれば、EVロボタクシー1台の営業走行1キロ当たりのコストは、現行のネット配車の有人運転タクシーよりも30%以上高くなる。仮に既存の自動車をロボタクシーに改造した場合には、50%以上も高くなる。
ただし、両者のコストは2026年までに接近する。その後は、ロボタクシーのコストが低下していく見通しだ。コストの低減は主にハードウェアのコスト削減と安全担当者の効率向上に依存する。
ハードウェア面では、スマートチップとレーザーレーダーが大きなコスト要因の一つだ。レーザーレーダーで半固体または固体レーザーレーダー技術を採用することや、ハードウェア全体の大量生産などで、ロボタクシー車両の製造コストは下落している。例えばロボタクシーをはじめとする自動運転車を開発する蘿蔔快跑の場合、第6世代の自動運転車である「頤馳06」は第5世代比べて販売価格が50%以上低下した。
安全員については、23年11月に政府が適用したガイドラインでは、ロボタクシーが運行する場合には、車両の台数の3分の1以上の遠隔安全員が必要だ。そのため、自動運転技術の向上に伴って、車両台数当たりの遠隔安全員を減らせるようになることが、期待されている。
タクシーのネット配車やロボタクシー事業を営む如祺出行によると、23年には1億元(約21億4000万円)前後だった中国国内のロボタクシーの市場規模は30年には4888億元(約10兆5000億円)に達する見込みだ。
政府はロボタクシーの商業化を後押ししている。中国全国で24年8月末までに、自動運転国家級テストモデル区は17カ所、コネクテッドカー先行導入区は7カ所、スマートシティーと自動車のスマート運転を結合させる「双智試行都市」は16カ所に達した。自動運転の試験が認められた道路は総延長3万2000キロ以上で、試験車両向けのナンバープレートが7700枚以上発行された。テスト走行距離は1億2000万キロ以上に達し、各地に設置されたスマート道路の道路側ユニット(RSU)は8700セットを超えた。このように、中国の多くの地域でクラウド制御型の道路交通関連インフラが整備されつつある。
ロボタクシー普及に立ちはだかる阻害要因とは
まず、自動運転車全体が直面する問題として、事故発生時の責任の所在がある。責任の所在が大きな社会的問題になった場合には、政府が監督や規制を強化して、業界の発展が阻害される可能性がある。そして中国内外でのこれまでの推移を振り返ると、自動運転についての規則は変更が繰り返され、国や地域によっても差異がある。さらに、自動運転が認められるまでには手間と時間がかかる手続きが必要だ。このような手続の変更や地域によっての違いは、ロボタクシーの商業化に不確実性と困難さをもたらしている。
また、ロボタクシーにはL4あるいはL5という自動運転のレベルが必要だ。L4とは、限定された地域や路線、気象状況などで人が介入しない走行ができるレベルで、L5とはあらゆる状況で自動運転ができるレベルだ。自動運転のL5を達成するには、今も技術面の課題が多くある。しかも、この技術にはそれぞれの国や地域にでの特許問題に絡む可能性もある。そのため、技術の発展と応用には不確実性が存在する。
さらに、消費者の自動運転に対する信頼度の問題もある。複雑な道路状況に対応できるかどうかを懸念する人もおり、さらに自動運転車では車両位置や走行ルート、利用者情報などの大量のデータを収集して処理する必要があるため、それらの情報の流出を懸念する人もいる。つまりロボタクシーの普及には、消費者を対象とする啓発も必要だ。
ロボタクシー関連は今後、どのように推移するか
さまざまな課題はあるものの、技術の進歩と政策の指示により、ロボタクシーが運行するエリアと車両数は増加している。例えば武漢や広州などではすでに比較的豊富な成功事例がある。ロボタクシーは今後2-3年で、全国のさらに多くの都市に急速に浸透し利用が迅速に拡大すると予想される。
また、ロボタクシーは運行中に大量の走行データと乗客情報を収集し、これらのデータはスマートシティーの交通管理システムと共有することができる。そのため、ロボタクシーは都市交通の計画と手配、管理に強力な支援を提供する。またスマートシティーの交通管理システムはロボタクシーの運行計画と管理を実現し、リアルタイムの交通状況と乗客の需要に基づき車両の分布と運行ルートを自動的に調整し、車両の使用効率と乗客の満足度を高めることができる。
さらに、自動運転技術が発展して生産プロセスが成熟することに伴い、製造や技術投入、維持補修のコストが低下していく。ロボタクシーは経済性が高まることで、従来型のタクシーとの競争でより優位に立つだろう。
政府が自動運転技術の実用化を支持し、モデル区の建設を加速していることも、ロボタクシーにとっては追い風だ。政府の方針が、ロボタクシーのサービスの拡大と商業化を促進していると言える。(翻訳・編集/如月隼人)
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