「困難に直面」とされる中国不動産業界、果たして実情はどうなのか
Record China / 2024年11月23日 16時0分
2023年ごろから、「中国の不動産業界が良くない」とされるようになった。日本のバブル崩壊時のように経済全体の衰退を招くほど深刻なのか。それとも持ち直せそうなのか。写真は南京市内の商業施設。
日本人にとって「バブル崩壊」は、今も苦い記憶を呼び起こさせる言葉だ。1990年代前半の不動産業界の「崩壊」に端を発し、「失われた10年」「失われた20年」「失われた30年」と年数ばかりが増え、日本経済は今も低迷から立ち直ったとは言えない状態だ。ところで中国からは2023年ごろから「不動産業界が良くない」との情報が伝わってくるようになった。事実ではあるが、経済全体の衰退を招くほど深刻なのか。そのヒントの一つになるのが、上海に拠点を置いて市場分析や総合コンサルティングを営む上海嘉世営銷諮詢有限公司(MCR)による「2024年商業用不動産市場簡易報告」だ。本稿なその主要部分に、一部で日本人読者向けの情報を追加するなどで再構成したものだ。
不動産業界の問題の根源は「ストック過剰」
商業用不動産とは、商業目的で使用される不動産を指し、オフィスビル、小売店舗用ビル、工業および物流用ビル、ホテルや飲食店用ビル、娯楽施設などの物件があり、さらに住居用マンションも購入の主たる目的が投資である場合も商業用不動産ということになる。
中国経済のファンダメンタルは長期的に見れば良好で、消費市場も比較的強靭(きょうじん)だ。商業用不動産市場には依然として発展の余地が存在する。ただし、業界が事業のモデルを転換せざるをえないことも事実だ。なぜなら、不動産業界ではは「ストック過剰」が発生しているからだ。
「下押し圧力」にさらされる商業用不動産の開発業者
2024年上半期には、全国300都市の純商業用地の発売面積が4778万平方メートルで、成約面積は4177万平方メートルだった。前年とほぼ同じだが、過去10年間の中では低い水準だった。
一方で、2024年上半期に中国の消費市場は回復し続けた。飲食業とサービス業は小売業よりも好調だった。そして商業地域での店舗賃料は小幅に上昇した。ただし上昇率は2023年下半期に比べてやや縮小した。今年上半期における全国重点都市の100の商店地域の店舗を調査対象とする「百街商舗」によれば、1日1平方メートル当たりの賃料は前年同期比で0.09%上昇して、24.37元(約524円)だった。大型商業施設を対象にする「百MALL商舗」によれば、平均賃料は前年同期比で0.25%上昇して、27.17元(約584円)だった。しかし上げ幅は2023年下半期より縮小した。
商業用不動産の開発業者は販売、融資、土地取得、投資投資収益率の全てで下押し圧力に直面している。2024年第1四半期(1-3月)の全国の商業用不動産の年間販売面積は前年同期比27%減の9052万平方メートルで、2012年以来初めて1億平方メートルを割り込んだ。
都市の規模別では北京、上海、広州、深センなど規模と影響力がとりわけ大きな一線都市と、重慶市と四川省で構成される経済圏である成渝地区の商業用不動産の販売が全国に占める割合は急速に上昇している。個人消費の需要が特に強く、商業活動が盛んだからだ。一方で、地方の中小都市である三線都市、四線都市からは、大手の商業用不動産業者が急速に撤退している。中国全体としては、2024年内に商業用不動産の供給過剰を改善することは難しく、商業用不動産の開発と運営は依然として萎縮状態が続くと思われる。
商業用不動産への投資は冷え込み状態
商業用不動産への投資は縮小している。現状が続けば、通年の投資総額は前年比15%減の約1兆700億元(約3兆6500億円)と予想される。
今年上半期に商業施設用不動産とオフィスビルの大口取引市場は活発さを維持と言える状態だったが、買い手は投資に比較的慎重で、取引金額は前年同期比で減少した。1-5月の取引額は前年同期比32%減の369億元(約7930億円)だった。うち一線都市での取引額は181億元(約3890億円)で、北京では100億元(約2150億円)近くに達して、上海は70億元(約1500億円)を超えた。二線都市の取引額は計137億元(約2940億円)、三線都市と四線都市での取引額は計52億元(約1120億円)だった。
不動産企業は資金難のために、物件の値下げ販売やキャッシュフローの改善に力を入れている。開示された売り手側の取引データによると、売り手が中国資本の不動産企業である取引件数は40%を超えた。また、一部企業の差し押さえ物件が競売にかけられ、低価格で販売される例もある。
2024年第2四半期(4-6月)に全国の重点都市の主要地区のオフィスビルの平均賃料は1平方メートル当たり4.67元(約100円)で、前期比で0.29%下落し、上半期全体では0.76%減少した。一部オーナーは賃料の引き下げで入居率を上げようとしている。今年下半もオフィスビル市場は依然として底打ち状態で、短期間で賃料が安定することは難しいと考えられる。
2024年5月時点で、中国の都市部における人口1人当たりのショッピングセンター面積は約0.6平方メートルであり、新たなショッピングセンター開発の余地は小さい。一線都市では人口1人当たりのショッピングセンターの面積は約1.0平方メートルに達しており、今後は既存施設間の競争がさらに激化する見通だ。二線都市では約0.9平方メートルと、一線都市に近い水準に達した。一部の都市では商業施設の供給過剰のリスクも存在する。三、四線都市では、人口1人当たりショッピングセンター面積が約0.4平方メートルで依然として低い水準だ。
ただし、ショッピングセンターの利用客は増えている。2023年の全国のショッピングセンターの1日当たりの平均客数は前年比35%増の2万人で、2019年比では10%増と、新型コロナウイルス感染症発生前の水準を上回った。
資金調達のための金融商品あるが、満期集中の状況も
中国にも商業不動産担保証券(CMBS)はあるが、不動産投資信託(REIT)は条件が整っていないとして、暫定的な投資商品である類REITs(REIT類似投資類)が利用されている。小売業用不動産、オフィス用不動産、ホテル、娯楽施設などについての統計では2023年における中国でのCMBSと類REITs発行数は計70件で、発行総額は計987億2300万元(約2兆1200億円)だった。うちCMBSの発行は53件で、発行総額は780億4500万元(約1兆6800億円)だった。類REITsは17件で、発行総額はは206億7800万元(約4440億円)だった。香港資本の企業も中国大陸部への投資ルートを開拓している。
2024年に満期を迎える商業用不動産関連の債券の総額は計618億7300万元(約1兆3300億円)で、未償還債券の総額の45.46%を占めている。特に第1四半期には満期が集中し、多くの商業用不動産企業が資金面での圧力を受けることになった。
物流用不動産は冷え込み、非従来型商業施設は活気
消費者の間では、購買力はあるのに貯蓄を優先する傾向が顕著だ。社会全体のマクロ経済に対する期待が低く、景気や生活の先行きへの信頼感が不足しているからだ。今後しばらくは消費者の信頼感が底打ち状態と予想され、ショッピングセンターの運営は引き続き圧力を受けることになるだろう。
しばらく前までは物流用不動産への投資が活況を呈していたが、消費の回復が力不足である上に、物流用不動産では大量の新規供給が進行中だ。投資家はより慎重になり、加えて米国の高金利が外資による投資に与える影響もあり、物流用不動産市場は冷え込んだ。一部の外資は資産売却を検討している。これまで活況だったことが、今後の運営面での圧力を強めることになりつつある。物流用不動産では、地域別や用途別、規模別などで需要が異なるが、いずれにせよ全体として供給過多のリスクに直面している。
消費の個性化の傾向が顕著になり、非従来型の商業施設が強みを発揮している。非従来型の商業施設の特徴には、斬新な外観やスペース利用、入居させるブランドの選択などがある。さらにアウトレットタウンや、インターネットネットのインフルエンサーを集めた「インフルエンサー街」もある。これらの取り組みでは、「集客力は立地で決まる」という概念を打破した事例もある。また非従来型の商業施設は精密な運営手法を取り入れるなどで、その改革と発展は「表面から内部へ」と進んでいる。非従来型の商業施設は新たな市場の人気者となり、特に若い世代に支持されることを期待できる。
商業施設では、エコロジー志向を採用して環境、消費者、サービスを組み合わせる取り込みが、不動産開発企業と運営企業の重要な方向性になっている。消費者もそのような施設に来れば、喜びを感じることができるので、集客力を強めるビジネス面の成功と消費者が納得する良好な環境の実現を両立させる取り組みと言える。
業界のトレンドは地方の小都市での事業展開
中国では省などの下に地級行政区と呼ばれる行政区画が置かれている。地級行政区の多くは「市」の扱いだが、中心都市の市街地以外に広大な領域があることが一般的だ。例えば黒竜江省ハルビン市の面積は約5万3000平方キロで、日本の都道府県で2番目に大きい岩手県の約1万5000平方キロよりはるかに大きい。地級行政区の下には県級行政区が置かれている。ハルビン市の場合は、9の県級行政区が置かれている。県級行政区の中心は県城と呼ばれ、多くの場合には都市と言える規模だ。
不動産業界には、この県城での商業用不動産関連の事業を進める動きがある。主要都市の商業用不動産はすでに供給過多の兆候を示している一方、県城は多くの場合、経済の基盤が良好で、消費の潜在力があるからだ。これからも、各地の実情とにらみ合わせながら、県城での商業用不動産関連の事業を進めることが、不動産企業が活路を見いだす手法になっていくと考えられる。(翻訳・編集/如月隼人)
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