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水害で大被害、復興に際しては脱炭素を全面採用して新たな道=熊本県球磨村

Record China / 2024年11月28日 10時20分

水害で大被害、復興に際しては脱炭素を全面採用して新たな道=熊本県球磨村

日本は大きな災害の多い国だ。被災地についてはいつも、「早期復旧」が叫ばれる。しかし「元通りにするだけではだめだ」と考えた地域がある。熊本県球磨村だ(写真)。

日本は災害の多い国だ。2024年には元旦に能登半島地震が発生し、その後は各地で大雨被害なども続いている。被災地についてはいつも、「早期復旧」が叫ばれる。しかし「元通りにするだけではだめだ」と考えた地域がある。熊本県球磨村だ。球磨村は令和2年(2020年)7月豪雨と呼ばれる九州や中部地方が見舞われた災害で、とりわけ大きな被害が出た。

災害からの復興で、時代を先取りする新たな道を進む

球磨村は球磨川の両岸に広がった地域だ。とは言っても、球磨川は山を削って流れているので平地部分は極めて少ない。その関係で、村内に風光明媚(めいび)な棚田が多く存在するなど、先人が汗水流して切り開いてきた地域だ。令和2年7月豪雨の際には、上流にある東西約30キロ、南北約15キロの人吉盆地とその周囲に降った猛烈な雨の水が、一気に球磨川に流れ込んだ。そのために球磨川の水位が急激に上昇した。その直撃を受けたのが、人が多く住む、川に近い比較的平坦な地域だ。入所者14人が死亡した特別養護老人ホーム「千寿園」のある同村渡地域では、水の深さが最大で9メートルに達したと見られている。

道路も鉄道もずたずたになった。熊本と鹿児島を結ぶ肥薩線の村内部分には現在も、土地が流されたために線路が宙に浮いている個所が多くある。運転再開の見通しは立っていない。

壊滅的な被害を受けた球磨村だが、「ふるさとを復活させねばならぬ」とする動きが始まったのはもちろんだ。球磨村の場合の大きな特徴は、「単なる復旧ではなく、新たな村の創生をせねばならぬ」と考え、そして実行したことだ。その取り組みが「『脱炭素×創造的復興』による ゼロカーボンビレッジ創出事業」だ。事業の主たる担い手は球磨村の行政と株式会社球磨村森電力(以下、球磨電)、球磨村森林組合だ。

2020年7月の豪雨災害による球磨村の深刻な打撃と、その後から現在に至るまでの取り組みを説明してくれた株式会社球磨村森電力の高橋充社長付特命室長(左)と球磨村森林組合の犬童大輔参事(右)

林業は球磨村の重要な産業だ。村内に立てば、周辺の山が森林にびっしりと覆われている様子が目に入る。村全域での森林被覆率は90%という。球磨村森林組合は、組合員から委託されて森林を管理する森林所有者の共同組織だ。加工木材の販売により利益を出しているのは当然だが、植栽、下刈、除伐、枝打などといった一連の作業により森を適正に育てて村の自然資源と事業の双方を後世に受け渡していく使命を強く感じて事業を進めている。

林業では、樹木が成長する際に空気中の二酸化炭素を吸収する。材木が廃材になり処分されて炭素が最終的に大気中に放出されても、最初の吸収分と差し引きゼロだ。また、炭素は長期間にわたり材木中に閉じ込められて、大気中からは取り除かれることになる。しかし木材加工などの際には電力を使用する。その電力が化石燃料由来であれば、林業の営みも大気中に二酸化炭素を追加してしまうことになる。

「ゼロカーボンビレッジ」を目指す球磨村は、木材加工でも炭素のゼロ排出を目指すことになった。まず、木材を加工する際に出る木くずを燃やして発電する。これならば、大気中に炭素を追加したことにはならない。そして太陽光発電も利用する。

組合が運営する製材工場やパルプチップ工場に足を踏み入れると、ほぼ自動化された作業場で、機械仕掛けで木材を移動する際の大きな音が響き、足元には振動が伝わってくる。そのことでも、木材加工にはかなり大量の電力が必要と実感する。

球磨村森林組合による木材加工の工程の一部。重量のある丸太を次々に処理していることからも、ゼロカーボンの達成には「知恵ある取り組み」が必要であることを実感する

蓄電池の技術は普通に思われているよりも進化していた

球磨村の取り組みは、電力の「地産地消」と形容することもできるだろう。その場合に問題になるのは、時々刻々と変動する発電量と消費電力の均衡だ。だから、蓄電施設が絶対に欠かせないことになる。製材工場の建物裏に設置された蓄電池を見せていただいた。意外なことに、かなりコンパクトだった。球磨村の別の場所に設置された蓄電池も極めてコンパクトで、周囲の光景に完全になじんでいる。

球磨村で採用された蓄電池は、中国企業の華為技術(ファーウェイ)が開発し、製造したものだ。そのLUNA2000シリーズの大きな特徴は、5キロワット時、10キロワット時、15キロワット時のモジュールを連結させて利用することが可能なことだ。このため、導入側は自らの実情に合わせて蓄電池全体の最適な容量を簡単に選択することができる。ファーウェイにはまた、容量のさらに大きな産業用の蓄電池製品もある。

これまで大容量蓄電池の深刻な問題の一つとされていたことに、直流アーク発生という現象がある。回路の一部に不具合が生じて空気中への放電が発生する現象で、感知が難しいので直流アークがそのまま続き、周囲が強熱されることによる火災が発生しやすいとされてきた。しかしファーウェイの蓄電池の場合には、直流アークを正確に検出して0.5秒以内に電流を遮断する機能が内蔵されている。万が一、直流アークが発生しても火災には至らないという仕組みだ。そのため業界では、安全性がより高い蓄電池と評価されている。また、変換効率も極めて良好で電力ロスが少ない特徴がある。

球磨村森林組合が採用した産業用蓄電池

ここで少々気になることがある。米国などがファーウェイ製品について「安全保障上の問題あり」などとしてさまざまな排除措置を適用していることだ(米国はファーウェイ製品について具体的にどのような問題があるか説明していない)。球磨村の関係者にこの問題を尋ねたところ、純粋に性能や機能と費用対効果で判断したとの説明だった。また熊本県が中国の広西チワン族自治区と友好提携をしているなど、県と中国がよい関係であることが関係したかもしれないとのことだった。

球磨村では自宅に太陽光発電装置とファーウェイの蓄電池を導入した人もいる。球磨村森林組合の犬童大輔参事もその一人だ。導入を決めた容量200キロワット時の蓄電池を初めて見た際には、まず小さいことに驚いたという。そして、「オシャレだなあ」と思った。生活の場で使う場合は特に、いくら機能が優れていても周囲と調和しない外観は好ましくないだろう。ファーウェイの蓄電池は、外観面でもユーザーを納得させる出来栄えであるようだ。

ファーウェイの蓄電池製品。必要に応じてモジュールを連結することができるので、逆にこの写真よりずっとコンパクトになる場合もある

地域ぐるみの脱炭素化の日本におけるパイオニア

太陽光発電などの導入では、初期費用はどうしてもかかってしまうが、総合的な電気代は通常ならば低下する。球磨村の場合、球磨村森電力の高橋充社長付特命室長によると、一般的な電気料金が値上げされたので具体的な「経費節約効果」は分かりにくいが、電気代は10%から20%安くなったと感じているという。

球磨村森電力の会社設立は2018年で、電力供給の開始は2019年だった。つまり、操業開始直後に地域が大災害に見舞われ、それをバネに太陽光発電事業をさらに本格的に進めることになったという経緯だ。現在では球磨川に流れ込む渓流などを利用しての小規模水力発電を行う計画もあるという。

球磨村は地域ぐるみの脱炭素化の日本におけるけん引者でもある。日本全国の自治体から、毎月1、2回の頻度で視察の依頼があるという。球磨村には災害からの復興と脱炭素化を組み合わせて進めている特徴がある。また、球磨村森電力という実行部隊が存在し、村の行政や森林組合とのしっかりとした提携が成立している強みもある。日本各地の脱炭素化の取り組みには、予算消化率が低い、すなわち予定通りに事業が進んでいない場合もある。そのため多くの地域が、球磨村の取り組みを参考にしている。

球磨村の大きな課題には、人口の減少がある。減少傾向はかなり早くから始まっていたが、2020年の水害でかなりの人が村から出て行ったことは痛手だった。その後に村に戻って来た人もいるが、例えば村の主力産業である林業では人手をしっかり確保することが必要だ。そのために、電力事業が真に収益化すれば、林業に従事するために村に移住する人に補填(ほてん)をするなどの考えがある。やはり行政と球磨村森電力、森林組合ががっちりとスクラムを組む取り組みだ。

球磨村は豊かな自然にとりわけ恵まれた地だ。林業では杉材を特に多く産出している。植樹してから50年で利用が可能になり、木肌がきれいで年輪がつまっていていて固いという特徴があるという。そして特産農業物としては例えば梨がある。寒暖差などの気象条件が幸いしてもたらされた豊かな風味が評価されている。もっとも、大都会の市場に出回ることはあまりない。というのはネット通販でほぼ完売するからだ。新たなデジタル技術が村に恩恵をもたらしていることの、もう一つの事例だ。

球磨村森林組合の製材加工場。背後の山には豊かな森が広がる

さらに観光業にも力が入れられている。村内にある球泉洞は日本を代表する鍾乳洞の一つだ。また、森林も観光資源と考え、球磨村森林組合などが森林観光関連の整備を進めている。林業道はすでに500キロメートルが開設されているが、今後はまず2キロメートルの登山コースを整備する計画だ。とにかく景色が抜群に素晴らしくて空気が「おいしい」ことでキャンプや登山を大いに楽しめる場所なので、球磨村の観光業振興には期待が持てそうだ。

常に前向き、新たな事態にもうろたえず

令和2年7月豪雨では多くの命が失われ、残された住民も本当につらい思いをした。折あしく新型コロナウイルス感染症の関係があってボランティアを受け入れられず、復旧はまず自らに頼るしかなかった。10月にはボランティアに来てもらえるようになったが、球磨村には飲食ができる場所がなくて、水害により閉店していた幸盛亭(こうもりてい)という店の再開にこぎつけるまで「ボランティアの皆さんには苦労をさせてしまった」という。

手伝いが一段落して引き上げたボランティアとは今も交流が続いている。イベントなどの折には今も遊びに来てくれるという。球磨村森林組合の犬童参事は、「万一、ボランティアの皆さんの居住地が災害に見舞われたら、今度はこちらが駆けつけます」と断言した。双方は固い心の絆で結ばれている。

球磨村村内を流れる球磨川。令和2年7月豪雨の際の大増水では多くの人の命を奪ったが、普段はエメラルド色の、見とれてしまうような美しい川だ

村には中国大陸部や台湾、韓国からの観光客も来るようになった。言葉が通じないことも多い。しかし犬童参事は「真心を込めて笑顔で対応すれば、何とかなります。実際になっています」と説明した。球磨村の人々には、今までなかった状況に遭遇しても、最善を尽くせばきっとよい結果を得られるといった考え方が定着しているようだ。(取材・構成/如月隼人)

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