出遅れた中国のウイスキー業界、しかし今では蒸留所の開設も大幅増
Record China / 2024年12月30日 23時50分
中国は長きにわたって「ウイスキー後進国」だった。しかし今や、若い世代を中心に「ウイスキー文化」を受け入れるようになり、今後の市場拡大を期待できるという。写真は中国の国産ウイスキー。
中国は長きにわたって「ウイスキー後進国」だった。初めて製造されたのは、1914年だった。同じく20世紀初頭に生産が始まったビールが大いに普及したのとは対照的な状況だ。しかし中国も今や、若い世代を中心に「ウイスキー文化」を受け入れるようになり、これまであまり普及していなかっただけに、今後の市場拡大を期待できるという。本稿は、上海に拠点を置いて市場分析や総合コンサルティングを営む上海嘉世営銷諮詢有限公司(MCR)による「中国ウイスキー市場分析報告」の業界の動向を紹介した部分に焦点を絞り、一部で日本人読者のために若干の情報を追加して再構成したものだ。
中国のウイスキー市場は今も輸入ブランドが主流
MCRの推計によると、2017年には46億5000万元(約1010億円)だった中国におけるウイスキー業界の売上高は、23年には80億2000万元(約1730億円)に達した。6年間の年平均成長率は9.5%で、順調に発展したことになる。しかし1人当たり消費では、先進国と比べた場合に今も極めて少ない。
中国の目だった状況として、輸入ウイスキーのシェアが高いことがある。中国税関総署によると、23年のウイスキーの輸入額は国内消費の約75%だった。中国のウイスキー市場は、現状で「本土化」が限定的な状態だ。
また中国にはウイスキー製造業界が未発達であるために、逆に市場が一部企業の寡占状態になっている。市場において上位5社が占める売上高の合計のシェアであるCR5は70.9%で、シェア24.2%のペルノ・リカールと、シェア24.1%のディアジオが二大巨頭だ。
ビールの先行普及がウイスキー業界を後押しする可能性
20世紀になってから外国から本格的にもたらされた酒類の中でも、ビールは中国に完全に定着した。23年には中国でのビール生産量は3789万キロリットルに達した。ウイスキーとビールはいずれも大麦や小麦、あるいはその他の穀物を原料とする。そのため、生産技術には多くの共通点がある。大きな違いはウイスキーには蒸留と熟成処理が必要なことで、ウイスキーは「蒸留後のビール」と見なすこともできる。そのためビールとウイスキーの風味には似た部分もある。ビールが中国でしっかりとした消費者基盤を持っていることを考えれば、ビールが先行して普及したことは、消費者のウイスキー受け入れにある程度役立つだろう。
「ドリンクス・インターナショナル」が発表した23年版の「最も人気があるウイスキーブランドランキング」によれば、上位に入ったブランドの生産地はスコットランド、アイルランド、米国が多く、カナダ、オーストラリア、インドなどの主要消費国からも現地ブランドがランクインした。
中国と文化が似ており地理環境も近い日本では、山崎、一甲、響、白州などのウイスキーの有力ブランドが登場して、世界市場で一定の影響力を持っているが、中国のウイスキーブランドはまだ頭角を現していない。
最近ではウイスキー造りに注力する動きも
しかし中国でも最近では、ウイスキー市場に乗り出そうという動きが顕在化している。中国酒業協会ウイスキー専門委員会が発表した「2023中国ウイスキー業界発展調査研究報告」によると、23年時点で、中国大陸部の企業42社がウイスキー蒸留所の建設に取り組んでいた。うち26社が正式生産を開始し、1社は試験運営中だった。
23年の中国大陸部でのウイスキーの蒸留生産能力は4万5000トンに達し、本土での生産能力が初めて輸入量を上回った。設備をフル稼働した場合の総設計生産能力規模は8万トンに増加し、かつ長期計画における生産能力は25万トンで、中国でのウイスキー生産は大幅に増える状況だ。
ただし中国には、規模が大きなウイスキー蒸留所が極めて少ない状況もある。MCRの調べによれば、中国でウイスキーの年産量が1万トンを超える酒造企業は2社だけで、残りはいずれの年産量が数百トンから数千トンの中小企業だ。
ウイスキー業界の発展のために克服せねばならない課題
中国のウイスキー市場には、いくつかの特有の問題点もある。まず、消費者のウイスキーに対する認識が不足していることだ。映画やテレビ作品などを通して、多くの人が西洋風のバーやナイトクラブ、パーティーのシーンを見て、そこではウイスキーがよく飲まれていることも知ったが、ウイスキーについての知識が増えたとは、必ずしも言えない状態で、単に「洋酒の一種」としか思われていない場合もある。
さらに、中国では伝統的に「白酒(バイジウ)」と呼ばれる蒸留酒が飲まれてきた。代表的なブランドである茅台(マオタイ)酒や五糧液は、誰もが認める「名酒」であり、ブランドにまつわる「文化」も成立している。ウイスキーが中国伝統の白酒と競争するには、出発点からして、容易には埋められない差が存在する。
また、ウイスキーの生産では産業チェーンがまだ成立していないことも、不利な点だ。例えばウイスキーづくりに欠かせないオーク樽を輸入していることが、海外のメーカーと比べて生産コストが高いという結果を招いている。またウイスキーづくりの技術と経験を持つ専門人材が不足していることが、業界の発展速度や品質向上の制約になっている。
また、業界における基準作りが遅れている問題もある。中国におけるウイスキー業界の標準の最近の改訂は08年で、すでに16年以上も前だ。古い業界標準と日増しに発展する新たな技術との間の矛盾はますます目立つようになっている。
中国に存在するウイスキー業界の追い風要因
もちろん、中国でのウイスキー市場を後押しする要因もある。まず外国あるいは外国人との交流が増えていることだ。酒類とは社会文化の一部とみなすことができる。留学やビジネス、観光などで、中国人が海外に行くことが増えている。海外で知った西洋式のライフスタイルを持ち帰ることは、中国でウイスキーが普及する追い風になる。
また、若い世代にとっては、ウイスキーがワインに次いで「社交ツール」になりつつある。パーティーやビジネス絡みの宴会などの場で、ウイスキーは品格と雰囲気を高め、彼らの社交ニーズを満たすことができる。また、ネット通販などで購入のチャンネルが増えていることも、若い世代にとっては特に、ウイスキーの購入を手軽にしている。これらの若い消費者はより強い購買力と消費意欲を持ち、今後もウイスキー市場に新たな活力を注ぎ込み続けるだろう。
中国のウイスキー生産者は、自国の消費者の好みに合わせるため、原料、発酵技術、蒸留設備、熟成用オーク樽、ブレンドなどでの「現地化革新」を進めている。日本と比べてずいぶん遅くはなったが、中国も独特のアジアの風味と文化要素によって、世界のウイスキー地図での重要な地位を得つつある。中国は食文化の面で日本よりも多彩なので、中国産ウイスキーの現地化は、より徹底したものになると予測できる。(翻訳・編集/如月隼人)
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