【日産 サクラ 新型試乗】EVの「納得の部分」と「納得のいかない部分」…中村孝仁
レスポンス / 2022年10月2日 12時0分
EVの「納得のいく部分」と「納得のいかない部分」
このところ電気自動車(EV)の試乗が多い。やはり時代を感じさせるが、納得のいく部分と納得のいかない部分があって選択は悩ましい。「納得のいく部分」とは、電気自動車ならではの静粛性と力強い走りである。一方で「納得のいかない部分」はやはり充電にかかる不必要ともいえる時間と航続距離だ。
航続距離についてはバッテリーをたくさん積めばそれで解決なのだが、クルマの値段はそれに比例して高くなる(つまりバッテリーが高価だということ)からここでもせめぎ合いが発生するし、やはり充電のための時間はスローライフを徹底している人は気にならないかもしれないが、せっかちな私的には途中で30分以上ロスタイムが発生するのは正直嫌だ。
そんなわけだから、我が家には来る時代を見越して(そんなに大袈裟ではないけれど)充電器を設置してあるので、夜中に充電して満タンで帰ってこられる(つまり外では充電をしない)範囲でしか移動しようと思わない。
ただ、こうなると自動車本来が持つ行動の自由はかなり束縛される。多くのメーカーがPHEVなどの宣伝において、「自社調べによれば1日の走行距離は60km以下の人がほとんど」だとかいうけれど、どうもそれは眉唾としか思えない。たまのお休みに遠出したら間違いなくそれを上回るだろうし、帰省する場所のある人はそうした時は公共交通機関を使えば?と言われているようで自動車の楽しさや自由さの半分は失われる感じがする。
「軽自動車の使い方」を考えれば
ではそれが軽自動車だったら?という設問に対し、実は軽自動車というジャンルのクルマを所有したことがないのでなんとも答えようがないのだが、確かに普通乗用車に比べたら行動範囲は狭いのではないかと感じている。
日産『サクラ』の航続距離はWLTC測定で180kmだそうである。もっともあくまでも特定のテストサイクルにおける値である。昔のJC08よりは多少現実味があるが、そうは言っても理想条件でメーカーのプロフェッショナルが測定するドライブだから、こちらはそんなにうまく走れない。まあだいたい80%行けばよい方だと思う。そんなわけで日産から借り出した時のサクラの残存航続距離は149kmと出ていた。勿論ほぼ100%の充電状態だ。ここから3泊4日借りた。
参ったのは日産本社から我が家までおよそ20数km。まあ普通にいけばマイナス20数kmだから多めに見て30kmとしても119kmの航続距離が残っても良いはずだが、そうは問屋が卸さず、我が家に行きついたら残りの距離は80km台まで落ちていた。この残走行距離はガソリン車でいえばほとんどEmpty、即ちEを指して赤いランプがついてもおかしくない距離である。
以前にもお話ししたと思うが、電気自動車に乗ろうと思ったらそれ相応の心の準備が必要で、私などはこの状態になると結構ソワソワしてしまう。そんなわけだから、電気自動車を試乗する時はどうしても最低1回以上の充電機会を味わってみないと実態はよくつかめないと思う。
今回一番の長旅をしたのは片道35kmほどの距離。つまり往復70km程度なわけだが、99%充電状態で出て行って帰宅した時は残走行可能距離が40km台後半に落ち(48km)、電池残存量も54%ほどに落ちていた。それでも半分以上の電池残量である。ガソリンの燃料半分とはわけが違うということを、このあたりからも察していただけると思う。
軽自動車の値段とは言い難いが
サクラの走りは素晴らしいと思った。とにかくスムーズだし重いとはいえ十分なパフォーマンスを確保している。軽自動車にありがちなアンダーパワーを騒音と唸りを伴う加速で悲哀を味わうこともない。それに随分とコジャレて如何にも女性が喜びそうな質感を伴っている。
しかし、静かだからその反動もある。つまりメカニカルな音源は小さくなっているのだが、外から侵入する風や路面からの入力は無防備。だから、そちらの音は却って誇張されてしまう。
例によって日産お得意のeペダルの用意もあるし、ドライブモードもエコ、ノーマル、スポーツをドライバーが任意にチョイスできる。ただしそのモード切替はシフトレバー横にあるわけではなく、何とステアリングコラム右のダッシュボード下にあって、ステアリングの陰に隠れたブラインドの位置。
あれこれと試しては見るものの、たぶん一般のドライバーではほとんど気付かないレベルの変化でしかないから、端からあまり操作をしない想定なのだろうか?と思ってしまった。
そしてお値段であるが、車両本体価格は294万0300円(税込み)だが、これに24万2000円のメーカーオプションと17万1115円のディーラーオプションが載った試乗車は335万3415円也。まあ軽自動車の値段とは言い難く、仮に補助金が出たとしても結構なお値段である。それでもこのクルマ、抜群に売れているのである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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