【メルセデスベンツ EQB 新型試乗】よく言えば「能ある鷹は爪を隠す」である…中村孝仁
レスポンス / 2022年10月11日 20時30分
私にとって9月は電気自動車月間であった。3週間にわたり3台の電気自動車(EV)を連チャンで試乗したからだ。そのトリを飾ったのがメルセデス『EQB』である。
見た目にはガソリンエンジン搭載の『GLB』とほとんど変わることはないようにも感じられる、まあ仔細に眺めれば違いを発見できるわけだが、EQBはかなり空力性能に拘りを見せている。
何でも本来なら同じ部品を使えばコスト削減になるはずのドアミラーあたりまで空力を考慮したものに変えている。さらにルーフスポイラーやリアコンビランプの整流エッジ等々。腹下をのぞき込んで見ても、ほぼフラットなパネルに覆われて、まるでレーシングカーのようである。
そんなわけだから、遮音に関しても相当に気を使っているということのようだが、こと静粛性に関しては直前に乗ったボルボ『C40』の方が静かだった。理由はモーターの発する音である。
ICE搭載モデルとの違和感を感じさせない
加減速の際にモーター音は確実に室内に届くし、走行中もモーターの唸りは顕著に聞こえる。メルセデスは前後に異なるモーターを搭載して基本後輪駆動のようにリアモーターが主役となり、フロントモーターはそれをアシストする形で働くようにしこまれているという。これの影響かどうかは定かではないが、こと高速の直進安定性は同じ4WDのボルボを確実に凌ぐ。とにかく直進安定性は抜群。申し分なしである。
EVの走りはとにかく威勢が良い。アクセルを強く踏み込むだけで途方もない加速感が得られる。これは今月一番最初のEVとして乗った日産『サクラ』にも共通して言えることで、アクセルをベタに踏み込めばたとえ軽自動車と言えども恐ろしいほどの加速を示す。正直言うとボルボC40やメルセデスEQBのレベルになるとベタに踏むことはほぼ不可能。それほどの加速感を持つ。静止からだけでなくパーシャルからも同様で、こと速さに関してはICE(内燃機関)搭載のモデルよりも確実に速いと言えよう。
そんな中でEQBの良さは普通に走る、あるいは流れに乗るようなケースで全くと言ってよいほどICE搭載モデルとの違和感を感じさせないことだ。ボルボの場合はこちらが意図して理性を持ったアクセルの踏み方をしないとすぐさま野獣の本性を表したが、EQBはこちらが意図して野獣を呼び出す必要があるため、滅多なことで怖いほどの加速を味わうことはない。まあ、よく言えば「能ある鷹は爪を隠す」である。
あくまでリアが主役というメルセデスの哲学
3列7人乗りがこのクルマの特徴だろうが、やはり3列目は決して広くないし、3列目は身長165cm以下という制限もあるから使い方は限定的。一方で2列目も3列目もISOFIXのチャイルドシートが付けられるから、子沢山のファミリーには良いかもしれない。
冒頭前後に異なるモーターを搭載している話を書いた。モーターの種類をいちいち細かく説明するつもりはないが、驚いたのは毎秒100回の頻度で前後アクスルのパワーバランスを調整しているという点。あくまでリアが主役というメルセデスの哲学に基づいたものだろうが、このおかげで運動性能というか前述した抜群の直進安定性をもたらしているのだと思う。
回生ブレーキのレベルはパドルによって4段階に調整可能。ただしワンペダルドライブはできない。この辺りも各メーカーの哲学の違いが出ている。個人的に日産が初めて使い始めたワンペダルドライブは、確かに当初はゲーム感覚で楽しめて面白いと感じたが、特定の減速Gがかかるとブレーキランプがつき、特にアクセルのオン/オフを頻繁に繰り返すようなドライバーの場合、頻繁にブレーキランプを点滅させることに繋がり、今はその効能は理解しているものの、個人的にはあまり使いたくないアイテムになってしまった。
「やはりEVはダメ」という烙印を押されないために
航続距離はWLTCで468kmだそうである。しかし、満充電で引き渡されたクルマの可能走行距離は400kmに届いていなかったから、走り方にもよるだろうがおおよそ400kmほどと見るのが良い。
EVはあらゆるケースでICE搭載モデルよりもスムーズで快適である。一方で今回借用したモデルには200Vの充電ソケットが搭載されておらず、勢い充電を街中のディーラーに頼ることになったのだが、返却のために近場のメルセデスディーラーを2件回ったが、いずれも急速充電器が故障中とのことで対応してもらえなかった。
“EV Quick”と書かれた看板は充電器を設置しているところならどこでも使えることは承知しているが、やはりメルセデスでトヨタや日産のディーラーに乗り付けるのは恐らくユーザーも抵抗があると思う。まあ、最悪のケースは恥を忍んでお願いに行くということになるだろうが、充電器のメンテナンスはしっかりとやっておいてもらいたいものだ。そうでないと「やはりEVはダメだよね」という烙印を押されかねない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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